『おはようございます、先生!スレイヴさん!ここ数日の仕事により、シャーレに関する噂もたくさん広まったみたいですし、他の生徒たちから助けを求める手紙も届いています。』
「その噂話の殆どがスレイヴに関するものだけどな。」
『それでもいい兆候です!私たちの活躍が始まるということですから!』
「で、次の任務は何だ?」
『結論、手紙の中に不穏なものがあります。一度目を通う事を推奨。』
『うーん、アビドス高等学校ですか……』
『ログを確認、過去は巨大な自治区でしたが砂嵐など気候の変化により厳しい状況になっています。』
「確かとんでもなく広すぎて、遭難する奴が居たんだったか?」
『はい、ですが私のマッピングシステムにより誘導が可能です。その可能性は低いかと。』
『それより、学校が暴力組織に攻撃されているなんて……ただ事ではなさそうですが……』
「何があるかは、俺たちが出張して確かめよう。スレイヴさん、用意を。」
「出来てるよ。」
『さすが、大人の行動力!かしこまりました、すぐに出発しましょう!』
「……広いな。」
「これDE君のナビケーションなければ確実に遭難してたな……」
『ここを右に。この先がアビドス高等学校です。』
「……あれ、誰?」
声がする。ロードバイクの走る音が聞こえていたので気付いてはいたが、別段警戒する程でもないと判断していた。生身の人間一人程度、たとえ5人がかりでも俺は素手で制圧出来る自信はある。振り返れば銀髪蒼眼、そして……えーっとなんかの動物の耳が生えた女子が立っていた。
「おっと、クライアントのご登場か。」
「見た感じ、連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど……お疲れ様。ここに用があって来たの?」
「そうだね。僕らに手紙が来てね、緊急事態みたいだったから。」
「……そう。すぐそこだけど……良く迷わなかったね。」
「俺には頼れる相棒が居るからな。」
銀髪の子が明らかに相棒とは先生の事を指していない事を疑問に思っている様だ。
「……ま、いいか。すぐそこだから、一緒に行く?」
「そうだな、一緒の方が警戒されんし……頼む。」
「ただいま。」
「おかえり、シロコ先ぱ……い?うわっ、何っ!?その2人は誰!?」
「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
「拉致!?シロコ先輩がついに犯罪に手を……!」
「いや落ち着けよ。」
ついつい突っ込んでしまったが、このシロコという少女、どう思われてんだろうか。
「……うちの学校に用があるんだって。」
「拉致したんじゃなくて、お客さん?」
「そうみたい……」
「わぁ、びっくりしました。お客様がいらっしゃるなんてとっても久しぶりですね。」
「それもそうですね……でも来客の予定ってありましたっけ……?」
「シャーレの顧問だ。で……」
「俺が副顧問及び戦闘員のスレイヴだ。よろしく。」
一拍置いて、状況を理解したのだろうか、皆が一様に驚きに口をあんぐりと開けた。
「……ええっ!?連邦捜査部『シャーレ』の先生!?」
「わあ、支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい!これで……弾薬や補給品の援助が受けられます。早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ、ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋で寝てるよ、起こしてくる。」
と、不意の出来事。外から銃声が聞こえてくる。直ぐに彼女らも反応した事から日常的な事は確定した。
「あれが学校を占領しようとしてる奴らか。確か名前は……」
「カタカタヘルメット団のようですね!」
「あいつら……性懲りもなく!」
「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩、寝ぼけてないで起きて!」
「……まだ起きる時間じゃないよー。」
「ホシノ先輩!ヘルメット団が襲撃を!こちらの方は」
「寝かせといて良い、俺が全部片づけて来る。」
「はい?」
腰に提げていたヘルメットを被り、仕事モードへと集中する。腰のウィングマンに弾が入ってる事を確認し、Lスターを背中から取る。
「ジャンプキット動作OK、Lスター始動。DE、敵の総数は?」
『およそ20程度。』
「スレイヴなら楽勝だ……が、一応だ。装備は持っておこう。」
「ふぁあー……おちおち昼寝もできないじゃないかー。ヘルメット団めー。」
「あぁそうそう、先生にはコイツを渡しとく。」
そう言って、腰のスマートピストルを渡す。
「これ……良いのか?」
「あぁ、今の俺には必要ない。だが覚えとけ、それは弾のコストが半端じゃない。補給できない事は確定だ。」
「君主危うきに近寄らず、って事か。分かった。」
「もう一つのサイドアームならこの前ドロップシップから取って来たしな、大丈夫だ。」
と窓から飛び降りようとしたが、それに待ったをかけるのが普通である。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!流石に一人で行くのは無茶よ!?確かに一人は弱いけど、相手は十数人居るのよ!」
「敵総数、判明しました。24人です。防衛側が有利なのはそうですが、それでも一人だけでは」
「守るんじゃ弾薬の消費が激しい、攻める。」
「……意味が分からない。」
「けど、確かに守るだけじゃ牽制射撃で弾薬を多く消費しますものね。ですがやはり一人では厳しいと思いますよ?」
「……なら、君たちは奴らをあそこにくぎ付けにしてくれればいい。狙われてる、という事で隠れざるを得ない状況にしよう。後は、スレイヴがやってくれる。」
「……分かりました、私がオペレーターをします。くれぐれもご注意を!」
「分かってる。さて、行くとするか!!」
俺はそうして窓から飛び降り、壁を駆け抜けた。
「あの、先生。一つ良いですか?」
「何かな?」
「スレイヴさんに全幅の信頼を置いているのは分かるのですが……何故あんな数の中に一人だけで突撃させるのを許可したんですか?」
アヤネの疑問は無理もない、というか当たり前のことである。昔の戦闘ではそうではないが、銃火器の発達した戦闘だと多数を一人で相手取る事は無理なのである。防衛と侵攻の差だったり、相手との実力差が酷いレベルで開いていればその限りでもないが。
「スレイヴは、後者に当てはまるんだ。シャーレの戦闘実績、信じられないかもしれないが……全部スレイヴのものだ。」
「……は?」
「言葉通りだよ。シャーレ所属は俺とスレイヴしか居ないからな。見ての通り、俺は銃も握れないからね。」
「……聞いてて頭痛くなってきましたが、そろそろ衝突です。牽制射撃を加えて下さい!」
「よし、チェックメイトだ!」
「はい?」
「だから、もう終わった。外見たら分かるよ。」
言われてアヤネは窓から外の状況を見やる。
「……空、飛んでる?」
「尋常じゃない身体能力と持つ武装の技術。どうも彼はとても遠い宇宙でワープ事故に遭ったみたいでね。路頭に迷ってた所をシャーレに引き入れたんだ。」
「……すごい。」
シロコがたった1人で多勢の武装兵を倒すスレイヴをたった一言、しかし確かな一言で賞賛する。
「その時は戦車に単騎突撃して無傷鹵獲。何と言うか……規格外だよ。」
「ちょ、それ嘘よね流石に!?いくら私たちでも戦車の主砲は痛いわよ!」
「いや普通痛いで済むもんじゃないが……考えるだけ無駄か。あの時、爆風を至近距離で食らっても全く身体がぶれてなかった。今考えたら、あれはホログラムの類いなんだろう。」
「おーう、終わったぞ!」
全くの無傷である。校門を見れば死屍累々の有様。圧倒的と言う他ない。そんな状態で歩いてくるもんだから死神とかそれに類するものにしか見えない。
「いやぁ〜まさか本当に一人で勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど。」
「動きが人外染みてた。それに、先生の指揮も万が一のバックアップを意識してて良かったね。これが大人の力…」
「今まで寂しかったんだね、シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたおかげで、ママはぐっすり眠れまちゅ。」
「寝坊助さんの冗談は置いといて、だ。これが日常って事はもっと根本的に色々解決せにゃならんな。」
「そうですね……少し遅れちゃいましたけど、改めてご挨拶します、先生方。」
そう言うと、オペ子……黒髪眼鏡の女子が礼をしながら言葉を続ける。
「私たちは、アビドス対策委員会です。私は、委員会で書記とオペレーターを担当している一年のアヤネ。こちらは同じく一年のセリカ。」
「どうも。」
猫耳ツインテの女子が素っ気なく挨拶をする。
「二年のノノミ先輩とシロコ先輩。」
「よろしくお願いします、先生〜。」
「さっき、道端で最初に会ったのが、私。……あ、別にマウントを取ってる訳じゃない。」
間伸びした、と言うより朗らかな挨拶だったのがノノミ、最初に会った子がシロコと言う名前の様だ。
「そして、こちらは委員長の3年のホシノ先輩です。」
「いやぁ〜よろしく、先生ー。」
「ご覧になった通り我が校は現在危機に晒されています。その為『シャーレ』に支援を要請し、先生方がいらしてくれたことでその危機を乗り越える事が出来ました。先生が居なかったら、さっきの人たちに学校を乗っ取られてしまったかもしれませんし、感謝してもしきれません……」
「なぁに、あれくらいどうって事ないさ。」
「スレイヴが殆どやってくれたしな。で、対策委員会って?」
「そうですよね、ご説明いたします。対策委員会とは……このアビドスを蘇らせる為に有志が集まった部活です。」
「うんうん!全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです!全校生徒と言っても、私たち5人だけなんですけどね。」
「他の生徒は転校したり、退学したりして街を出て行った。学校がこの有様だから、住民も殆どいなくなってカタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末なの。現状、私たちだけじゃ学校を守り切るのが難しい。在校生としては恥ずかしい限りだけど……」
「いいや、助けを求めるのも重要な事さ。人のできることは限られている。」
「シャーレの支援がなかったら……今度こそ、万事休すってところでしたね。」
「補給品も底をついてたし、流石に覚悟したね。なかなか良いタイミングで来てくれたよ、先生。」
「もうヘルメット団なんてへっちゃらですね。大人の力ってすごいです☆」
とは言え、攻撃を止めるような奴らではないことは確かだ。長期的なスパンで襲撃している以上、しつこい消耗戦を仕掛けているのは確実である。
『パイロット、本部への奇襲はいかがでしょうか?』
「いや、本部奇襲はダメだな。いくら俺でも規模が分からん限りは無理だ。」
「先生、誰とお話ししてるんですか?」
「ん……あぁそういや紹介してなかったな。えーっとスピーカーは……これ使って良いか?」
許諾を得てから、無線通信によってDEの音声を再生する。
『対策委員会の皆様こんにちは。私はDE-1911、パイロットの相棒のタイタンです。』
「……AIなの?」
「DEの事も知ってもらいたいし、そうだな……DE、お前が質問に答えてみせろ。」
『了解。私は学習型人工知能です。パイロットとは849日前にリンク、以降ずっとともに活動しています。』
「パイロットって何?ヘリの操縦士って訳じゃなさそうだけど……」
『パイロットとは、端的に言えば上級兵士です。通常よりも過酷な訓練を乗り越え、戦場において相棒であるタイタンと共に一騎当千の活躍を求められる存在です。』
「タイタン……ロボットって認識でいいんですかね?」
『はい。かつては私もシャーシ……タイタンの姿を持っていましたが、戦場から離脱する際に喪失しました。よって現在は情報収集、セキュリティー解錠などの情報屋をしています。』
「運がいい奴だ。」
『皮肉を検知。』
「あはは……けどジョークも分かるって凄いですね!」
「自慢の相棒だよ。俺もコイツが居たから色んな危機を乗り越えられた。」
これは何も誇張ではない。最悪の事態を常に計算してくれていたおかげで突っ込んでいたら死んでいた、なんて状況を回避したのは四肢の指でも数えきれない。
「ま、とにかくだが色々と問題がありそうだな。」
「そういうわけで、ちょっと計画を練ってみたんだ~」
「えっ!?ホシノ先輩が!?」
「うそっ……!?」
「いやぁ~その反応はいくら私でもちょーっと傷付いちゃうかなー。」
「普段の態度ってやつだな。」
「……で、どんな計画なんだ?」
先生が次の句を促す。無論ここの事情に精通している彼女の意見も聞いた方がいいものだ。
「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルが続いているからねー。だから、このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らが一番消耗しているだろうからさー。」
「い、今ですか?」
「そう。今なら先生たちもいるし、補給とか面倒な事も解決できるし。」
「前哨基地はここから何kmだ?」
「ここから30kmくらい、今から出発しよっか。」
「良いと思います。あちらも、まさか今から反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし。」
「そ、それはそうですが……先生方はいかがですか?」
「俺は同意見だな。スレイヴは?」
「DEの奴、さっき本部奇襲ってのを提案してきたからな。流石にそれは無理だろと思ったが、前哨基地程度ならやれそうだ。」
『重戦車程度でしたらパイロットにお任せを。』
どうやら意見が一致した様だ。ホシノがそれに頷くと、号令をかけた。
「よっしゃ、先生のお墨付きももらった事だし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー。」
「善は急げ、って事だね。」
「はい~それでは、しゅっぱーつ!」