「ここがブラックマーケット……」
「わあ☆すっごい賑わってますね?」
「本当に。小さな市場を想像していたけど、街ひとつくらいの規模だなんて。連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるとは思わなかった。」
「うへ~普段私たちはアビドスにばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所が多いんだよー。」
「あぁ、実のところシャーレにもここの鎮圧の依頼が舞い込んで来てたりする。まぁ今は事を起こさないがな。あくまで俺たちは偵察にきただけ。」
『皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起こるか分からないんですよ。』
『それに進化シールドも逆探知される可能性があるから外してる、気を付けろ……っておいでなすったか!?』
と先生が警告した瞬時に銃声が迸る。やはり治安の悪い場所か。道の向こうから、ベージュの髪の女の子が走ってくる。
「あれか?」
『あれ……あの制服は……』
「わわわっ、そこどいてくださいー!」
「ととっ、アブねぇな。大丈夫……な訳ねぇか。追われてるみてぇだし。」
「なんだお前らは。どけ!アタシたちはそこのトリニティの生徒に用がある。」
「あ、あうう……わ、私の方は特に要はないのですけれど……」
『あ……思い出しました!その制服……キヴォトスのマンモス校のひとつ、トリニティ総合学園です!』
「そう、そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある!だから拉致って身代金をたんまり頂こうって訳さ!」
「拉致って交渉!なかなかの財テクだろう?くくくくっ。」
「ほーほー、計画を人の目の前で話すとは三下も良いところだな。財テク以前に悪だくみのやり方を幼稚園児から教わったらどうだ?」
「んだとこの……うぎゃあっ!」
背後からシロコとノノミが一発でチンピラを沈める。うん、まぁ……隙を見せる方が悪い。ヘルメット団以下。
「悪人は懲らしめないとです☆」
「うん。」
「あっ……えっ、えっ?」
「あ、ありがとうございました。皆さんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……。それに、こっそり抜け出して来たので、何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも……」
「えっとー、ヒフミちゃんだっけ?それにしても、トリニティのお嬢様がなんでこんなに危ない場所に来たの?」
「あ、あはは……それはですね……実は、探し物がありまして……。もう販売されてないので買う事も出来ないものなのですが、ブラックマーケットでは密かに取引されているらしくて……」
「もしかして……戦車?」
「違法な火器?」
「化学武器とかですか?」
「いや流石にそれはねぇだろお前たち……」
「えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです。」
「ペロロ?」
「スパゲッティ?」
「違います!これです、ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!限定生産で100体しか作られてないグッズなんですよ。ね?可愛いでしょう?」
ノノミ以外が押し黙る。何と言うか、口にアイス突っ込まれた奇妙なトリの写真見せられたらこうもなる。というかこれが可愛い……?
「先生、どう思う?」
『えっ?ま、まぁ好みは人それぞれだし……いいんじゃないかな……?』
「……ふむ、最近の若いやつにはついていけん。」
「歳の差、ほぼないじゃん……」
「というわけで、グッズを買いに来たのですが、先ほどの人たちに絡まれて……みなさんが居なかったら今頃どうなっていたことやら。……ところで、アビドスのみなさんは、なぜこちらへ?」
「私たちも似たようなもんだよ。探し物があるんだー。」
「そう、今は生産されていなくて手に入れにくいものなんだけど、ここにあるって話を聞いて。」
「そうなんですか。似たような感じなんですね。」
まぁ嘘っちゃ嘘だが、探し物があるのは本当の事だ。咄嗟の嘘で具体的な事は言えないが、間も良くアヤネから警告が入った。
『皆さん、大変です!四方から武装した人たちが向かって来ています!』
「何っ!?」
『さっき撃退したチンピラの仲間みたいだな、完全に敵対してやがる。スレイヴ、戦えるか?』
「パイロットスーツやらジャンプキット、DEは潜入だからバイクに置いて来た……俺はコイツで後方支援だな。」
「というかそろそろツッコんでいい?何そのごっつい対物ライフル?」
「クレーバー。どんな相手だろうと一撃で持ってくやべぇやつだ。ミレニアムのエンジニア部から昨日届いた。」
「それ死なない?死なないよね?」
「Flak41に耐えられるから平気だろ。行くぞ!」
と、言うが俺はここから動けない。普段はその機動力で弾が当たらないだけであって普通に痛いもんは痛いし血は流れる。だから後方支援と言う訳だ。
「ま、あの重装甲兵と親玉らしき奴をぶち抜けばいいだろ。」
ライオットシールドを貫通するこのクレーバー、マジで何食ってこんなやつ作ったんだ。コイツとパイロットが居るせいでライオットシールドが廃れたというフロンティアの噂は間違いではなかったみたいだ。
『スレイヴ、敵の頭の位置をデータリンクする。狙撃出来るか?』
「任せろ、400m先くらい初弾命中させられる。」
敵のリーダーがロケランを持った奴だと伝えられる。この距離はフロンティアの戦闘では基本的に撃ち合わない距離だが、撃てて損はないので普段から訓練を積んでいる。再び、ドカンという大砲の様な銃声が響き渡り、狙い過たずリーダーのどてっぱらに食い込む。流石に顔は可哀想だったんでな。過剰威力だし、死なれたら困る。
『流石、頼もしいぜ!』
『敵、後退しています!でもこのままでは……』
「仲間を呼ぶつもり?いくらでも相手してあげる。」
「ま、待ってください!それ以上戦っちゃダメです!」
「ん?どうして?」
「一応ブラックマーケットにも管理している治安機関がある。見つかったら面倒だ。」
「そうなったら本当に大事です……まずはこの場から離れ……」
「いや、俺が行くか。」
「え?で、でも……」
「あー、そう言えばシャーレに鎮圧の依頼が来てたって言ってたね。因みにそれはどこから?」
「ブラックマーケットの治安機関。正直グレーな機関だったから突っぱねる予定だったが……こりゃ使えるな。」
『そうだな、ここは俺たち大人に任せとけ。流石にこれを見逃したらな?』
「シャーレ……ってあの、シャーレですか!?」
「まぁな。ってなわけでお前たち、ここから別行動だ。俺はバイクの所に戻る。」
そう言うと、俺はアビドスの面々と離れて行動を開始する。
「さて、と。まずは連絡だな。先生、ブラックマーケットの機関と連絡取れるか?」
『取れる、には取れるが……大丈夫なのか?』
「アロナも言ってたろ?シャーレは超法規的組織だって。ブラックマーケットにもそれは適応されるってだけだ。もしくは……」
『もしくは?』
「俺をシャーレから独立……もとい子会社化させて連邦生徒会管轄区域以外からの依頼も承る便利屋にするか、だ。」
『……そうか!シャーレが超法規的組織で、その子会社にも適応されるなら子会社の暴走って事で足切りが出来る!』
「あぁ、幸い俺は偽名も使用している。シャーレの俺が“スレイヴ”、子会社の俺は“リッパー”。どうだ?」
『それならオーケー……だけど一応それ、応対俺じゃない方が良くね?』
「あ……」
独立させて子会社の暴走とするなら当然先生を通してという事は出来ない。言い訳が出来なくなるのだから。
「……DE、今の聞いてたな?ブラックマーケットの治安機関との応対、出来るか?」
『了解。音声を合成しますので少し時間を。』
「オーライ、ヘルメットと迷彩も変えて……これで良いか。」
元々は真っ白なパイロットスーツだったのが、一瞬にして真っ黒に染め上がった。何気にパイロットスーツも迷彩を即時に変えられるので高性能である。ヘルメットは、サブで持ってきていたものに切り替える。当然改造がされていないのでDEの援護は受けられなくなるが、身バレするよかマシだ。
『パイロット、通信が繋がりました。応対中です。』
「おうよ、作戦区域はどこだ?」
『まずは一番地に向かってください。』
バイクを走らせると、一気にギアを上げた。時速およそ80km、市街地を駆けるにはちと速いが無問題。早さを重視するためだ。一番地の路地裏にバイクを止めると、DEが俺に結果を伝える。
『商談が成立しました。パイロット、交戦を許可します。』
「さぁて、ちゃちゃっと制圧しちまいますか!」
オルタネーターを構えて、敵の群れへと一気に飛び込んだ。対空射撃も、俺の前では無意味。ホログラムを一気に二つ生成して、混乱させる。
「どこを見ている、俺はここだぜ?」
一発のリボルバーが、重装甲を貫いた。
『流石です、パイロット。あと一区画のみです。』
「あぁ……だがちと休憩だな。数時間も戦闘しっぱなしで俺も中々キツイ。」
一応指定された区画はブラックマーケットの中でも特に治安が悪く、手が回り切らない場所。皆が居る場所では特に騒ぎは起きていないはずだ。
『パイロット、先生から通信が入りました。』
「繋げ。」
『よぉスレイヴ。どうだ、何か見つかったか?』
「いいや、戦車も何も見つからん。ここまで調べても何も見つからんのはおかしい。」
『ですよね……いくらここを牛耳っている企業でも、ここまで徹底してブラックマーケットを統制するのは不可能なはず……』
ヒフミがそう呟く。あれから結局一緒に行動しているらしい。確か先生も合流しているとか言ってたっけ。
『そんなに異常な事なの?』
「いや、普通ブラックマーケットなら開き直ってるのさ。だからここまで徹底的に隠し事をするはずがないんだよ。」
『そうですね。例えば、あそこのビル。あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です。』
「闇銀行……ん?待てよ……」
『ブラックマーケットで最も大きな銀行の一つです。聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているそうで』
「おいおいDE。確かあそこって、アビドスが借金してるとこじゃねぇか?」
沈黙。そして何より猛烈な嫌な予感が俺を襲い始める。発言を訂正しようと次の句をどうにかつないだ。
「……あー、どうだったかな。そこじゃなかったかも」
『あ!あいつは毎月うちに来て利息を受け取ってる銀行員!』
「うっわやっべ、マジかよ!?」
その予感が的中してしまうのはもうクソッタレと言う他ない。戦場は予想不可能とは言うが、社会も予想不可能である。もうどうにでもなれ、だ。
『カイザーグループ自体は犯罪を起こしてはいません……。しかし合法と違法の間のグレーゾーンで上手く振舞っている多角化企業で……。カイザーは私たちトリニティの区域にもかなり進出しているのですが、生徒たちへの悪影響を考慮し、「ティーパーティー」でも目を光らせています。』
「トリニティの生徒会が、か。それよりも、だな。」
『あの銀行員がカイザーグループの一員なのは確定したしな。』
『ところでみなさんの借金とはもしかして……アビドスはカイザーローンから融資を……?』
『借りたのは私たちじゃないんですけどね……』
『話すと長くなるんだよねー。アヤネちゃん、さっき入ってった現金輸送車の走行ルート、調べられる?』
『ダメですね。すべてのデータをオフラインで管理しているようです。全然ヒットしません。』
「DEと裏でハックしても無理だったんだ、しゃーねぇ。」
『そういえば、いつも返済は現金だけでしたよね。それはつまり……』
『私たちが支払った現金が、ブラックマーケットの闇銀行に流れていた……?』
「そうなるよなぁ……DE、返済金が流れていた事、確率的にはどのくらいだ?」
『リソース不足です。情報があれば確定しますが、管理システムがオフラインのためハッキング不可能。』
『……あ!さっきサインしてた集金確認の書類……それを見れば証拠になりませんか?』
「おい馬鹿やめろ!!」
『え?』
胃がキリキリと痛む。ぶっちゃけ戦場の方が考える事が少なくて良い……帰りてぇよフロンティアに。それかタイタン持ってこい。
『銀行を襲う。』
『はいっ!?』
「
『お、おう……』
「アヤネ!そいつらのサポートしっかり頼む!!マジでよぉ……!!!!」
オルタネーターとありったけのグレネードとC4、ショットガンに一般的なグレネードランチャーを持って俺は感情を爆発させる。次の指定区域は何の因果か皆が居る場所の隣だ。ネズミを追い出して騒ぎを拡大させるにはピッタリだ。
「……俺、ひと暴れして騒動を起こす。銀行
『やっべ、おいどうするマジで。スレイヴガチで発狂してる……』
「説教は後。やるんなら徹底的にやれ、塵芥も残すなよ、良いな?」
『……説教怖いけど、こうなったらやるとしますか!!銀行を襲うぞ、皆!!』