昔、女子だと思って結婚の約束までした子が転校してきたけど実は男だと発覚した(泣) 作:匿名
「今日でお別れだね」
「そうだね」
二人の子供が互いに向き合っている。
「嫌だよ。まっくんと離れるなんて‥…」
そう言って一人の子供が泣きそうになる。
泣きそうになる子供を見てもう片方の子供が何を思ったのかポケットから缶バッチを取り出す。
「ねぇ。僕たちお揃いの缶バッジを買ったよね。今持ってる?」
「…‥‥‥うん。持ってるよ」
「じゃあ今日からこの缶バッジが僕達が繋がってるアカシにしよう」
「アカシ?」
「うん!そう。アカシ!僕達がこの缶バッジを互いに持ってる限り、僕達は強い絆で結ばれるんだ」
「じゃあまっくんと離れていても、ずっと一緒ってこと?」
「そうだよ。だから、もし、もしだよ。また会えたら『けっこん』しよう」
「けっこんってパパとママが一緒にしてる物でしょ。千尋とまっくんで出来るものなの?」
「パパが言ってたんだ。とっても仲が良かったらけっこん出来るって」
「そっか。そうなんだね。じゃあ千尋達もとっても仲がいいからけっこん出来るね!」
「でもけっこんって大人になってからじゃないと無理だって。だから大きくなって絶対‥‥絶対また会おうね!千尋!」
「うん!約束ね!」
「うん約束!」
2人は互いに泣きたいのを一生懸命堪えてはち切れんばかりの笑顔をつくった。
◇
俺はキョロキョロと教室を見渡し教室内に俺と千尋しかいないことを確認して自分を指差す。
「もしかして俺に話しかけてる?」
なんで俺に千尋が話しかけてくるのか本当に謎だった。
千尋が自分の事を昔約束まで交わした幼馴染だと気づいているとは思わない。
なぜなら僕はこれといった特徴がないからだ。分かりやすい特徴のある人間や千尋のような美貌を持った人間なら子供から成長してもある程度の面影を残してわからなくもない。だが俺みたいな人間は美貌もないし分かりやすい特徴もないので成長すればするほどわからなくなる。
昔、写真なんて撮ったり渡したりしていないと思うから、自分の中にある記憶だけが判断材料になる。だが永い年月が経っているのでその記憶もあまり当てにはならない。いくら忘れないようにしていても永い月日が経てば忘れたくなくても忘れてしまうものだ。昔の小さい頃の俺の顔もろくに覚えていないはずなのに今の俺と結びつけるのはほぼ無理ゲーだと言える。
それ以外の方法でも結びつけるのは不可能だと思ってる。
千尋のように目印になる缶バッジを見える形でつけたりしているわけでもない。俺はいつも肌身離さず持っていたが、これを服装とかにつける勇気はなかったので胸ポケットに入れていた。バリバリ子供向けのキャラが印刷されてある缶バッジなのでこれを付けている千尋の方がおかしい。
あとは名前で幼少期の僕と今の僕を結びつけるという方法がある。だが俺はその当時両親や周りの人からまっくんと言われていたので千尋にもまっくんと言わせていた気がする。上の名字も名乗った記憶はないし、まっくんから本名を特定するのも難しいと思われる。
よって俺を昔結婚の約束までした幼馴染と特定するのは非常に難しいと言える。
逆に転校生が昔結婚の約束までした幼馴染みだと特定するのは簡単だ。
成長してもあまりある美貌が面影を残してくれるし、俺とお揃いの缶バッジを見える形で付けてくれる。名前も俺みたいにひねってないぶん、そのままなので分かりやすい。
「そうですよ。まっくんに言いました。お久しぶりです」
だが予想はどこまで行っても予想な訳で、現実の千尋は俺を昔の幼馴染だと見破っていた。
「ひ、人違いだと思う」
俺はその事実に動揺しまくり反射的にシラを切ってしまう。
子どもの時とはいえ、男なのに女の子だと思って求婚というのは死ねるくらい恥ずかしいので昔の俺がやった事なんて認めたくなかったのだ。
「いいや。間違いないです。君は間違いなくまっくんです。名前も本田真城で同姓同名だし、面影もそれなりに残ってると思います。なにより、あなたは気付いてないかもですけど動揺したり慌てたりすると片耳をさわる癖も全く代わってないですし。」
言われて初めて自分が片耳を触っていたのに気付く。俺にそんな癖があったなんて気付かなかった。
俺は千尋に透き通ったまっすぐな目で見つめられ嘘を付くのが馬鹿らしくなった。
「分かった。そうだよ。俺がそのまっくんとやらだよ。でもちょっと気になることが幾つかある。質問をさせて欲しい」
そう言って俺は肩をすくめてみせる。
「いいよですよ。いくらでも質問してください。どんと来いです」
「じゃあ遠慮なく聞いてくけど、さっき君は、僕の名前が本田真城で同姓同名って言ったよね?」
「言いましたね。」
「でもそもそも昔千尋に本名を教えてなかったと思うけど何で知ってたんだ?」
「あぁ確かにまっくんは自分の名前はまっくんって呼べってしか言われてませんでしたから、本名は教えて貰ってませんでしたね。
ですがあなたの私物にあなたの本名がマジックで書かれていました。おそらくあなたのお母さんが書いていたのでしょう。それを見てあなたの本名は知りました。」
「…そうか」
そういえば小さい頃お母さんが失くし物をしない様にと名前を書いてくれてたっけ。
………俺が同姓同名だと分かるには高校の俺の名前も分からない事には確認出来ない。多分だけど、そこらへんは各机に貼ってある生徒の名前を見て俺の名前を確認したんだと思う。
「じゃあ面影が残ってるってのは?俺自分から見ても特徴ないから面影なんて分からないと思うんだけど」
「そのままの意味ですよ。案外そういうのは自分より他人の方が分かっているものです。僕からしてみればちゃんと面影があると思いますよ」
「そういうものなのか?まぁ…うん。だいたいは納得した。最後なんだけど、どうして俺を放課後待たせたのか教えて欲しい」
そう言って机に入っていた紙切れを見せる
千尋は、軽く微笑む。微笑むだけでも千尋は絵になるのだからおかしい。
「それはいたって簡単です。あなたに頼みたい事があったんです。だから待ってもらってました。」
「頼み事?」
「はい。そうです。頼み事です。僕この学校に来たばかりでまだ分からない事が多いんです」
「そりゃあ、そうだよな。今日からこの学校に来はじめた訳だし。逆に分かってたら怖いわ」
「それでどこにどの教室があるとか把握しといた方がいいと思うんです。特に図書室、食堂、保健室あたりの場所は確実に分かっときたいですし」
「はぁ」
「それであなたに学校案内を頼みたいなと思まして」
「はぁ?なんでそうなる!?だいたいなんで俺なんだよ!」
「僕の幼馴染だから……これ以上理由いります?」
そう言って可愛らしく小首を傾ける。なんだよなんで男のくせにそんなに可愛いんだよ!俺はノーマルなんだ!絶対こいつ分かってやってる!自分が可愛いって分かってやってる!
「……ッ いるに決まってるだろ!だいたい俺らが仲良くしてたのも十数年前の話だろ!!今の俺らはほぼ赤の他人と行ってもいい!だから俺がこれを受ける義理なんてない……とにかくそんな理由なら悪いけど俺は帰らせてもらう」
危ない。千尋に呑まれるところだった。その時俺はこの頼み事を断ろうと強く決心していた。自分でも筋違いだと分かってはいても自分が信じていた理想を壊され少なからず恨んでいた。
そんな状態ではちゃんと学校案内を完遂させられるか心配だったし、なによりこれを受けてしまえば今後自分の何かが大きく変わってしまうような予感がしていたからだ。
俺は変化という物をとてつもなく恐れていた。
それがいい結果であれ悪い結果であれ自分の何かが変わるということは自分じゃなくなる気がして不安でどうしようもなく怖かったからだ。
それなら何事も現状維持の方が不安にならずにすむので楽だ。今までもそうしてきたし、これからもそうして生きていく。
次こそ帰ろう……だがこのまま帰るのも後味が悪いので助言のひとつしとく事にした。
「今日千尋の席に休み時間とか人だかりできてただろ。その連中に頼んだらどうだ。そいつらだったら多分簡単にいいよって言ってくれると思うぞ。俺なんかと回るよりよっぽど楽しいと思うしな」
言いたいことは言ったので帰ろうとしたのに千尋は引き下がろうとしなかった。
「そう言われてももう皆さん家に帰ったり部活に行ったりで今頼めそうな人はいませんし」
「なら明日頼めばいいだろ。別に今日無理に周らないと行けないわけじゃないんだから」
「それはそうですけど……ですが」
「ですが?」
「もう先生に、まっくんに学校案内をして貰うと言っちゃいましたし」
すいません。訳あって3話再投稿です。