人道に乗っ取る清く正しい研究者(笑)   作:発表

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耽溺の咎人へ:事切れた女の遺言

 ──お人形さんみたい。

 

 それが、私が彼女に対して抱いた感情だった。

 

『さて、初めまして。私はセフィー……と言っても、分からないだろうがね。

 端的に言うと君達の要請で派遣された医者だ。これから短い間だろうが、よろしく頼んだよ』

 

 淡々と告げれられる言葉に驚いたのは私だけではなく周りの皆もだった。魔女様の屋敷で働いていた最中に、首都から現れた謎の少女。

 

『ほ、ほんとに……?』

 

『そうとも。私は■■■■という慈善医療の団体の……リーダーのようなことをやらせて貰っていてね。他の肩書きに教授、ドクトル、ドクターなんて物もあるが、こっちの方が分かり易いだろう?』

 

『ええ……でも、本当? こんな辺鄙な場所にはお医者様なんて絶対来ないと思っていたのだけど……』

 

 今思えばこれはとんでもない無礼だったのでは、と思う。だけどそれを聞き、セフィーは無表情で頷くだけで反応した。

 

『その疑いも当然だ。私もこれが初めてではないからね。ただ、私は全ての人に手を差し伸べたいと考えている。私の持ちうる最新の技術を、治療を、出来うる限りの人で行いたい。それが私のためでもあるしね』

 

『へえ、そうなの……その、失礼だとは思うのだけど……ちょっと、考えさせてもらってもいいかしら』

 

『勿論だ。強制はしない。もしだめなら次へ行くだけだからね』

 

 正直このとき私はセフィーのことを信じていなかった。信じていなかったのに、その差し出された手を掴んでしまったのだ。

 

『……分かったわ。魔女様を、お願いしても良いかしら』

 

 そして、このとき初めて浮かべられた笑顔に、私は騙されてしまった。この人はいい人だ、なんて妄想を心の奥底に貼り付けてしまっていた。

 

『承知した。私にやれることは全てやろう』

 

 晴れやかな笑みだった。当時の私は、これを裏表のない感情の発露だと思っていた。思わされていた。

 いや、魔女様が助かるという微かな希望を差し出されて、その希望を振り払えるわけが無かったのだ。

 

 だけど、私がもう少し注意深く、もう少し疑い深かったらきっと気付いていただろう。というよりも、そう思わずにはいられない。

 

『ただ、本当の意味で最新の技術を使う。どうしても失敗の可能性が潜んでいることは承知して欲しい』

 

『……了解よ。魔女様は今、意識を取り戻すことすら稀だもの……起きても、頭が回ってないみたいだし……。

 可能性があるなら、貴女に賭けるわ。それに、そういうことを先に言ってくれる人ほど信じられるしね──それじゃあ、これからよろしくね』

 

『──ああ、勿論だ』

 

 差し出された手──その手袋の下が、血に染まっているということに。

 

 

◆◇

 

 

 そして、今私は胸を貫かれ地面に伏していた。どくどくと垂れらながされる血から、もう私が助からないであろうことだけが分かった。

 恐らくこの屋敷で生きているのは、魔女様が残した使い魔だけだろう。

 

 既にセフィーはいない。行ってしまった。

 

『……妹のためさ』

 

 ぼんやりとした頭の中、忌々しい声が聞こえた。夜な夜な治療室にこもるセフィーを見て、なんでそこまで頑張れるのか、そう聞いたときだった。

 

『私があの子に姉として出来ることなんて、このくらいだからね』

 

 このときの私は、私が途中で諦めた魔女様の治療を命を削って行うセフィーに嫉妬していた。だから、こんなことを聞いたのだ。

 『でも……治らない可能性もあるんじゃない?』『貴女程の人がこれだけ時間をかけて治療法が見つからないなんて……言いづらいけどもしかしたら一生かけても難しいかもしれないでしょ?』

 

 そして、私のそんな台詞を聞いたセフィーは仄かに笑った。

 

 

『──愛しているんだ。妹を』

 

 

 あんまりにも綺麗な笑顔だった。このときの私は自分が余りにも汚く思えてしまい、部屋から出て行った。考える余裕なんてなかった。

 だけど今だからこそ、このときの、これまでの会話の違和感に気付ける。

 

『妹は天才でね』『感謝しているんだ、妹には』『愛しているよ』『君のそれと同じものかもしれないね』『──最愛の妹を、助けたいんだ』

 

 沸き溢れる回想。その全てに共通する違和感──それは。

 

 

「セフィー……貴女、妹を愛して、なんか……いないわよ……だって──なんで、これまで……その、『最愛の妹』さんの……名前すら、言わなかったの?」

 

 

 それが私の最後の悪あがきだった。ゆらゆらと視界が揺れる。白く染まる。

 

 そしてやがて、全てが消えた。

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