心優しいヒットマン   作:田舎の異音

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第1話『小柄な黒鹿毛』

たづな「トレーナーさん、お客様がお見えですよ」

T「ん?誰だろう...誰かと会う約束してたかなぁ...」

 

ドアを開けて応接室に入ると、中年の男性と幼いウマ娘が座っていた。

 

父「やぁ、久しぶりだね」

T「飯田さん!ご無沙汰してます」

 

飯田さんは元トレーナーで、担当だったウマ娘と結婚し、現在は幸せな暮らしを送っている。

私がトレセンに入ったばかりの頃、3人の先輩トレーナーに大変お世話になった。彼はその1人である。

 

T「今日はどうしたんですか?それにその娘は...」

父「実は娘がここへ入学することになってね。担当をキミに頼もうと思って来たんだ。」

ライス「ら、ライスシャワーです、よろしくお願いします...」

 

ライスシャワーと名乗るその子は、同年代と比べかなり小柄で、気弱そうな雰囲気があった。

 

T「僕は淀場。よろしくね、ライスシャワー」

父「引き受けてくれるのか?ありがとうな、一人前にしてあげてくれ」

T「僕の仕事はウマ娘を育てることですから。精一杯頑張らせてもらいます」

ライス「こちらこそ、よ、よろしくお願いしましゅ...!」

 

これが、ライスと僕の出会いだった。正直言って、その時は特段優れたモノを感じられなかった。普通のウマ娘。ただ、帰っていく背中を見た時、身体のバランスがとてもいいな、と思ったことは覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

~1年後 8月10日 新潟レース場~

 

T「ライス、今日は初めてのレースだけど心配する事はないよ。楽しんでおいで」

ライス「うん...!ライス、楽しんでくるね!」

 

今日の出走メンバーなら、恐らくライスが勝つだろう。でも今後、レースのグレードが上がっていけばどうだろうか。入学してからの4か月間トレーニングをしてみたが、未だにこれといって光るモノは感じられない。

 

T「(とにかくケガだけはさせないように、大事に育てていこう)」

 

パドックから控えめに手を振るライスを見ながらそう思った。

 

同じ頃、トレセン学園はあるアイドルウマ娘の話題で持ちきりとなっていた。

名前はミホノブルボン。ライスとは同期入学だ。感情を顔に出さないことや、まるで機械のように正確なタイムで走ることから、サイボーグとも呼ばれているらしい。

僕は、彼女のことを坂路の申し子とも呼んでいる。理由は...まぁ、いつも坂路にいるからだ。

坂路トレーニングは、スタミナ強化の効果がある。元々ブルボンは長距離をこなせるウマ娘ではない。しかし周りの制止を振り切って黒沼トレーナーはトレーニングを断行した。そのおかげか長距離適性はBくらいへ成長したのだ。

そして僕とライスは彼女の強さを、G2のスプリングS、G1の皐月賞で見せつけられた。ミホノブルボンは優勝し、ライスは着外。

ライス曰く、彼女の肉体はエゲつないほど筋骨隆々で、とても同じウマ娘とは思えなかったらしい。まさに、サイボーグだ。

 

ライス「ごめんなさい、お兄さま...」

T「いいんだよ、よく走り切ったね。さぁ、帰ろうか」

ライス「ごめんなさい...」

 

 

無敗の皐月賞ウマ娘と、5戦2勝のウマ娘。同期で入学したはずの2人の間には、いつの間にか大きな差が開いていた。僕自身も、ミホノブルボンとライスが競り合って勝負ができるとは思えなかった。

 

ならばと、次はG2のNHK杯へ出走させてみようと考える。このレースには、ミホノブルボンは出てこない。ライスを、勝たせてあげられるかもしれない!

 

ライス「このレースには、ブルボンさんいないんだね」

T「そうだよ。ずっとブルボンの背中を追い続けるのは辛いよね」

ライス「う、うん...」

T「今日のレースはこの前の皐月賞と同じ距離なんだ。だから、『もしブルボンがいなかったら』っていうのを目標に走ってみよっか」

ライス「分かったよ、お兄さま!」

 

しかし、レースはまたも8着に終わってしまった。前回の皐月賞と同じ着順だ。

これは、とてもまずい。ブルボンがいなければいい勝負ができるという自信をつけて欲しかったのに、ブルボンがいてもいなくても競り合えないと勘違いさせてしまうかもしれないのだ!

 

僕はレース後、急いでライスのところへ向かった。ライスはまだ精神的に弱いので、今回のことは確実に響くと思ったからだ。

 

T「ライス、ごめんな。今日のは苦手な展開で苦しかったよな。レースを読めなかった僕の責任だから、落ち込む必要はないぞ!」

ライス「ううん、お兄さまは悪くないよ。それより、新しい課題が見つかったから、学校に帰ってトレーニングしよ!」

T「あ、あぁ。分かったよ」

 

ライスは落ち込むどころか、前を向いていた。

少しだけ成長してくれたライスを見て、僕は嬉しかった。

 

 

 

数日後、たづなさんがトレーナー室に尋ねてきた。なんだがとても嬉しそうだ。

 

たづな「トレーナーさん!!」

T「ど、どうしたんですか?」

たづな「ダービーですっ!ダービーに出られるようになりましたっ!!」

T「えぇっ!?ホントですか?!」

たづな「はいっ!!」

T「たづなさんってウマ娘だったんですか?!」

 

目の前でたづなさんがズッコケる。

 

たづな「ライスさんが、です!!まぁ私もあれですけど...

T「あ、うちのライスがですか?よかった、ライスもきっと喜んでくれます」

 

恐らく応援バ券の数が、出走資格に足りたんだろう。そうなれば、この前のNHK杯も意味があったというものだ。

僕は早速ライスにこのことを話した。ライスの表情は険しい。なぜ素直に喜べないのか?僕にはライスの気持ちがよく分かる。

 

「「ブルボン(さん)も出る(んだよね)...」」

 

正直言って、勝負は厳しいだろうなと思っている。頑張って掲示板に載れれば...満足だ。

 

ライス「どうすればブルボンさんに勝てるのかなぁ...」

 

T「!!...ライスは、ブルボンに勝ちたいと思うか?」

 

ライス「うん...だって、もう一回あの景色を見たいから...!」

 

ライスの目はとても力強かった。ブルボンに本気で勝負を仕掛けるつもりだ。

本気でレースに勝ちたいと思うことは、必ず本人を成長させる。トレーナーとして、そんな気持ちは最大限尊重してあげたい。

だとすれば、トレーナーとして僕ができることは何だろうと考える。

 

T「(ブルボンが苦手な展開へ...ライスが有利な展開になるように作戦を練るしかないな...)」

 

ライス「お兄さま?どうかしたの?」

 

T「いや、ブルボンに勝てる方法はないかな~って考えてたんだよ」

 

ライス「ほんとに?!」

 

T「ああ、一緒にブルボンを倒そう!」

 

ライス「うん!がんばるぞ~おぉ~!」

 

こうして僕らは来る日本ダービーに向けてトレーニングを開始した。

 

 

 

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