心優しいヒットマン   作:田舎の異音

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第6話『大丈夫だから』

日本ダービーも終わり、季節は夏へと移り変わった。

気温もかなり上がる。夏場のトレーニングは熱中症対策が大切だ。

ライスシャワーの次レースは9月下旬を予定している。この夏は、ケガしないための体づくりにあてるつもりだ。

じっくり、こつこつ、ゆっくりと。あまり派手さのないトレーニングだけれど、ライスは一生懸命に取り組んでくれている。

 

そしてライスのトレーニングと並行して、僕は他のウマ娘の面倒もみている。

彼女たちのほとんどは中等部に入ったばかりで、まだ担当トレーナーがいない。実はライスやドクタースパートのように、すでに仮契約を結んだ状態で入学してくる子の方が珍しかったりするのだ。

そういった新米ウマ娘たちがしっかりレースでアピールしてスカウトされるように、ライスのトレーニングの合間を縫って手伝っている。

 

ライス「お兄さま、メニュー終わったよ」

T「お疲れさま。それじゃちょっと向こうで休もうか」

ライス「うん!」

 

僕たちは学園の中庭にある、木陰のベンチに腰掛けた。

 

ライス「.....」

T「.....」

ライス「.....」モジモジ

T「.....(風が気持ちいいな~)」

ライス「お、お兄さま...今日、何の日か覚えてる?」

T「えっ?8月10日....」

ライス「....///」モジモジ

 

たぶんライスに関係あることだから、僕は去年の今頃を思い返してみる。

 

T「(確かライスがかき氷をドカ食いしてたような...いや待てよ、なんで僕はかき氷を食べさせてあげたんだっけ?そういや何かのレースで勝ったご褒美で...)」

 

T「....あっ!ライスのデビュー戦の日っ!」

ライス「やっぱりお兄さま覚えてくれてたんだ!」パァ

T「そっかそっか、もうあれから1年経ったんだな~。ホントに大きくなってくれたよ」

ライス「ライス、背は伸びてないよ?」

T「ははは、言葉の綾だよ」

ライス「も、もう~...それでね、1つわがままを聞いて欲しいの...///」

T「できる範囲でなら、いくらでも聞くよ」

ライス「この後、お兄さまとお出かけしたい、な///」

T「!」

 

僕は恐ろしく早い手つきでスケジュール帳を確認した。

 

T「ごめん、実はこの後夜まで予定があるんだ。明日はどうかな?」

ライス「え、あっ...いい、よ?でも、何の予定なの?」

T「インターマイウェイって子のトレーニングを見てあげなくちゃいけないんだ」

ライス「インター...マイウェイ?」

T「そそ!函館で昨日デビューした子なんだけど、まだ担当が見つかってないみたいなんだ。だから今は僕が付いて教えてるんだよ」

ライス「どうして...?

T「ライス?何か言ったか?」

ライス「うんうん、何でもないよ....そろそろ続き、行ってくるね」

T「お、おう」

 

そう言うとライスは足早に走り去っていった。僕も荷物をまとめてライスの後を駆けていく。

 

T「(もう1年か。まさかライスが、自分のわがままを言えるようになるなんて...僕は本当に嬉しいよ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月24日。厳しい夏の暑さも和らぎ、秋の訪れを感じられるようになった。

ライスシャワーは中山のセントライト記念(G2)へ、インターマイウェイは函館ジュニアステークス(G3)へ向けて最終調整をする予定だ。そして2人のレースは、同じ9月27日に開催される。

 

しかし学園関係の仕事でどうしてもスケジュールとの折り合いがつかなくなり、ライスとマイウェイの練習時間が被ってしまった!

 

T「う~ん、どうしよっかなー...」

勝秋「あれ?淀場さんじゃないですか。どうしたんですか」

 

僕が食堂でスケジュール帳とにらめっこしていると、後輩の田中勝秋が声をかけてきた。いいタイミングだ!今相談できるのは彼しかいない!

 

T「おお勝秋!ちょうどいいところに来てくれた!実は各云々で.....」

勝秋「なるほど...僕は時間があるので平気ですよ!それじゃ、僕はインターマイウェイのとこに行ってきますねー」

T「勝秋、キミはライスの面倒をみてあげてくれ」

勝秋「え、えぇ?!でもライスちゃんとダービー2着になったんですよね?いいんですか?見てあげなくても」

T「ライスはもう、僕がいなくても大丈夫だよ。だから、頼む」

勝秋「....分かりました!淀場さんの頼みです!」

T「本当にありがとう。そろそろ時間だ、行こうか」

 

 

 

 

 

トレーニング後、インターマイウェイと雑談をしているとライスがやってきた。

 

ライス「お兄さま、ライスもトレーニング終わったよ...!」

T「お疲れさま。勝秋トレーナーとはうまくいったかい?」

ライス「...!う、うん。調子もいい感じだよ...」

T「それならよかった。2人とも、一週間後のレースに向けて頑張っていこうな!」

ライス「.....お、お兄さまは、ちゃんと見ててくれるよね?ライスのこと」

T「セントライト記念か?ちゃんと(テレビで)見ておくよ」

ライス「!!...や、約束だよッ!絶対!!」

T「もちろん!」

ライス「えへへ///それじゃ、楽しみにしてるね!」

 

ライスは耳と尻尾を可愛らしくぴょんぴょんさせながら帰っていった。

 

マイウェイ「あの~...」

T「あ、ごめん、話に入れなかったね」

マイウェイ「あ、お気になさらずに。それで淀場さんはどっちを見に行かれるんですか?」

T「僕はキミについていくよ」

マイウェイ「(なんかごめんなさい、ライスさん...)」

T「どうかした?」

マイウェイ「い、いえ、何も。ただ、もう少し勝ちにこだわってもいいのにな~...と」

T「ははは、今の僕の目標はマイウェイがレースを楽しんでくれるようになることだよ」

マイウェイ「はぁ~、ホントに変わったお方です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月27日、函館レース場にて

 

T「(マイウェイは9着か。はじめての重賞で実力が出し切れなかったみたいだ。でも無事に走り切ってくれたし、雰囲気も分かってくれただろう。今日はそれで十分だ)」

北井「おーい淀場、ライスちゃんのレーステレビでやってるぞ~」

 

先輩トレーナーの北井さんが教えてくれる。北井さんは、怪物と名高いナリタブライアンのトレーナーもやっている。

 

T「ほんとだ!ライスはどこだろう...?」

『さぁ間もなく第4コーナー、残り400mの標識にかかる!......レガシワールド依然として先頭!さぁ直線に向いたッ!ライスシャワーだ!ダービー2着のライスシャワーがきているッ!!』

T「(頑張っている姿を見ているぞ、ライス...)」

『ライスシャワーが先頭に立った!ライスシャワーが先頭に立った!!内のほうでレガシーワールドがまだ粘る!!2人並んだところで今、ゴールインッッ!!!』

T「(おお!仕掛けるタイミングや走るコースがずいぶんよくなったな)」

 

ライスは惜しくも2着だったが、そのレースぶりにはかなりの成長が感じられた。

 

T「(帰ったら沢山ほめてあげなくちゃな!)」

 

 

 

 

 

函館から帰宅後、トレセン学園にて

 

バァンッ!!

 

勝秋「淀場さん!淀場さんいますかっ?!」

 

晩ご飯を食べていると、かなり焦った表情の勝秋が部屋を訪ねてきた。

 

T「びっくりした!どうしたんだ?」

勝秋「どうしたもこうしたもないですよッ!ライスちゃん滅茶苦茶キレてますよ!!」

T「なんだって?勝てなかったのがそんなに悔しかったのか...」

勝秋「あーもうとにかく早く来てください!!ほら!!」

T「お、おう」

 

食べかけのご飯にラップをかける暇もなく、僕は部屋から連れ出された。

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