ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
「それでは……第4ラウンド。安楽様、真経津様ペアの親からスタートです」
「安楽くん、今回のカードは?」
「ああ、えっと……「グー」「チョキ」「パー」の、三種類だ」
「うん。となると、相手も同じカードだね」
マフツは、俺に対してまるで説明するかのように話を進める。
「だけど、見てて思ったんだけどさ、安楽くん。きみ、『勝てない』の?」
「え……?」
突然、俺を覗き込むように、その笑顔を見せるマフツ。
「最初から見てたんだけど……きみ、ビックリするくらいに読みを外すよね。もちろん、君がカードを選んだ後に、向こうの人に読まれちゃうのは仕方ないかもだけど……君が選べばいいだけのときでも、君は必ずと言っていいほど二択とか三択を、一番悪い結果で外してる。それはどうして?」
「いや……それはちょっと……わかんねえよ……」
突然詰めてくるマフツに俺はたじろぐ。
「ああでも、強いていうなら……」
「強いて言うなら?」
「昔から。運が、とんでもなく悪いんだ。特にじゃんけんでは……勝ったことなんて、ほとんどない」
「へえ……。じゃんけんで、勝てないの?」
マフツの笑顔の、色が変わった気がした。
けれど、それはすぐに立ち消えて、「まあでも、このターンはきみがカードを選ぶといいよ」と続けた。
「いやっ、俺が選んだらダメなんだよ! 俺は……」
「まだ分からないさ。そうだな……カードを裏返して、ランダムなのを一枚引いちゃう、とかは特に禁止されてないんでしょ?」
マフツは銀行員に尋ねる。銀行員は、渋い顔もしながらも、構いません、と続けた。
「あ。そうだ。それと」
マフツが、忘れてたや、とでもいうように無邪気に続ける。
「残り500万円……この4ラウンドに、全部賭けよう!」
「……は?」
俺は思わず拍子抜けする声が出た。
この男。土壇場で、てんぱっていた俺を落ち着かせてくれたから味方なのかと思っていたら……ここで、500万だと……!?
自分のスコアボードにちらりと目をやる。
【安楽】5,000,000
500万でもし負けたら……! そのときは、俺の残金が0円になって、俺は地下行きじゃあねえか……!
「大丈夫。もし負けても、ぼくもちょっとはお金あるから。貸したげるよ」
しかし。俺はどこまでも悪運の持ち主で……
金を、貸してあげる。
その言葉に弱かった。
「な、なに……? ほんとか……?」
「あと、カードを自分で選ぶのは辞めた方がいい。ちょっとした動きからも読まれるから、注意すべきだね。極端な話、君が自分でカードを選んだ場合、向こうは一枚ずつこれを出すぞ? これを出すぞ? なんてやって、反応を見てくるかもしれない」
「チッ……」
マフツの言葉を聞いた猫崎が舌打ちをする。
もしかすると……この男。マフツは正しいのかもしれない。
俺は確かに運が悪いけど……自分が関与しないように、ランダムで一枚を引いて、それが相手に、勝てもしないしあいこでもない、その唯一のカードさえ引かなきゃ勝てるんだ。
俺が戦う上で、一番勝率が高いのは確かにこれかもしれない。
俺は——マフツを、信用することにした。
「……賭け金を、500万にする……! そして、カードはこれだ……!」
俺は、残高を全て注ぎ込み、引いた一枚に賭ける。
「クっ……ソ……!」
猫崎は。流石にここから俺の手を読めるわけもなく。ゲームが始まって、初めて焦りのような表情を出した。
「三択のときしかできねえ、完全なクソ運ゲに頼りあがって……! てめえに入れ知恵をさせたのは余計だったぜ……!」
「褒められたととるべきかな? ありがとう」
猫崎は。これまでで一番悩んだ末、一枚のカードを置いた。
銀行員が、台座の上に出てくるカードを待つ。
猫崎も、俺も、ギャラリーも固唾をのんで見守っていた。
唯一……マフツだけが。ひどく楽しそうに、にやけづいていた。
そして、上がってきた結果は——
【安楽】「チョキ」
【猫崎】「グー」