ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
【安楽】「チョキ」
【猫崎】「グー」
「よ……おっしゃあああああ!!!!?」
【猫崎】62,000,000 +5,000,000
猫崎が、ぐっとガッツポーズを作る。
ギャラリーからも、運ゲーおめ、などと野次が飛ぶ。
マフツも、あちゃー、という顔で、手を頬に当てている。
「はあ??? え はあ???」
唯一。俺だけが、口をあんぐりと大きく開けて、流れる汗を拭きとりもできずに停止していた。
目の前がくらくらする。読まれた、いや……そんなわけ……つまり……マジで、三分の一に負けた??
「っくく……はははは! お前、最後の最後でそんなつまんねえ運ゲーするからそうなんだよカスが!!」
猫崎が喚く。
俺は、ぎぎぎ、と音をたてて首をまげ、自分の残高を見た。
【安楽】0 -5,000,000
「しっかし、これでてめえの残高もぴったり0か。マフツ、だったか? お前からもぶんどってやりたかったが仕方ねえ。これでお前は地下行き決定……」
「銀行員さん。後からお金足すのってルール違反?」
固まる俺をよそに、マフツが、口を開いた。
「いえ。そうではありませんが」
「なら、ボクの分も足してまだゲームしたいな。ベットできる金額っていくらだっけ?」
「下限が100万円、上限が4999万円となります」
その様子に、猫崎はにやついたまま話しかけてくる。
「おーいおい、兄ちゃんまだ俺に金貢いでくれんのか? 太っ腹だなあ」
「そういきたい所だったんだけど……ダメだ。40万しかないや」
マフツは、ポケットから乱雑に札束を取り出す。
彼の服装は軽装で、事実それ以上の札束は持っていないようだった。
「100万以上じゃないとベットできないってルール、なんとかならない?」
「……銀行側の、5スロットでの規定でして」
「おいおい、銀行員さん。硬い事言うなって!」
その言葉を聞いた猫崎は調子づいたように言葉を重ねた。
(取れるなら……「4リンク」行きよりも前に軍資金を稼いでおきてえ)
(俺は一度上がったから知ってるが、ここの「4リンク」以上の通帳は、「賭け」以外で入金できねえ)
(資金が多くて困ることはねえんだ!)
「そうだな……これは銀行を介さない個人的な契約だ! 俺とマフツで、100万以下のベットもできるようにしようや」
「ホント!? ありがとう、ネコザキさん! じゃあ銀行員さん、100万より下の数でも、BET金額にできるってことでいい?」
「……了承しました。本ゲームにおいてのみ、両者の同意のもと「100万」未満のBETも受け付けます」
「いいね……まあ、40万なんて小遣いにガチんなったって意味ねえが……その代わり。次のラウンドは、マフツ。てめえはしっかりと何を選んだか見てろよ」
「そんなことでいいなら、もちろん!」
はしゃぐマフツ。それに、俺は助かったのか……? となんとか生気を取り戻した安楽が、何が起こっていたか確認しようとマフツに話しかける。
「だ、ダメだったじゃねえかよマフツてめえ……!」
「ダメだったねえ……まさか、またキミが三分の一引いちゃうとは思ってもなかった」
「お、おおお前、俺の命がかかってんだぞ……!??」
「大丈夫」
マフツは、そんな俺をものともせず。
トントントントントンと、頭を指で小突き始めた。
「……? 何やってるんだ、マフツ?」
その様子を……じっと、猫崎は見つめる。
猫崎には、すでに安楽など目に入っていなかった。
あの「マフツ」という男……あれを見た途端、銀行員共の雰囲気が変わった。
金はろくにもってないみたいだが……あの男は強い。少なくとも4リンクに登った経験、ないしそれに相応する実力はあるだろうと猫崎は踏んだ。
なら、こいつと一戦交えるのも必要だと。
後学のためと、猫崎はマフツとの5ラウンド目を開始する。
「それじゃ……遊ぼう。2ラウンドだけね」
マフツは笑う。
「おう。はやく戦ろうぜ、マフツとやら」
真のギャンブラーとの戦いに飢えていた猫崎は——それを、吞んでしまった。