ジャンケットバンク ——The Beginner——   作:上伊

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少額

「では、第5ラウンド。お二人間での契約により……BETは40万円です。猫崎様、カードをお選びください」

 

 猫崎は、配布されたカードを確認する。

 

猫崎「チョキ」「チョキ」「パー」

 

(っつーことは、だ)

 

 真経津&安楽「パー」「グー」「グー」

 

(と、こうなってるわけだ)

 

 やっと放心状態から帰ってきたらしい安楽が、マフツと小声で会話している。

 どうやら策を練っているらしいが……どうも、マフツという男は安楽に選択を任せたがっているようだ。

 これこそ興ざめだな、と猫崎は思う。

 マフツという男がどう出るかを観察したかったのだが……そうでないなら、そこまで迷う必要もない。

 そもそも、三枚の中から一枚選ぶ、という考えが間違いなのだ。

 手札に二種類しか札が来なかったときは……シンプルに、二つの札から何を選ぶかという戦い。

 

俺が出せる札は「チョキ」「パー」

相手が出せる札が「パー」「グー」 なのだ。

 

 

 俺も奴も片方の手は相手の片方の手に勝てる。もしパーで引き分けたとしたら、残ってる札がチョキVSグーで俺の負けだ。だから俺は引き分けを避けて、1ターン目で勝負を決めなきゃならねえわけだが……。

 しかし、それを読まれる可能性は充分あり得る。「あいこ」狙い読みなんてのは、それこそさっき安楽に読ませて自爆させたのと同じ戦法でしかない。

 故に、俺が選ぶべきは……

 

「おい、選んだぞ。安楽」

 

 俺は「チョキ」のカードを出して伏せると、安楽に声をかける。

 

「早く選べよ? 今更遅延なんてしょうもねえからな」

 

 と。煽ったというのに。

 安楽は……

 何故、こいつは最後の、逆転の手を手にしたかのように、正面から俺を睨みつけている?

 

「俺は……これまで、ずっと運が悪かった」

 

 安楽は、カードを全て裏にする。

 

「だから、ここで試す。一体「どうなるか」を」

 

 そしてそれを切った後、奴はランダムで一枚を引いた。

 俺は当然それを白けた目で見る。

 

「……おいおい。俺の契約を忘れたのか? マフツは選んだカードを」

「マフツは、選んだカードを知っている」

 

 安楽は、選んだカードをぴっと、自分は確認せず、マフツだけに見せた。

 

「うん、オッケーだよ。カードは確認した」

 

「お前との契約は、マフツは選んだカードを必ず見る、だったよな。なら、これでいい」

「はあー……好きにしろよ。まあ、どっちにしろお前側が何選ぼうと、俺はもうカードを決めてんだ。今更変わらねえよ」

 

 

 とは言ったものの……

 俺は少し焦っていた。

 

 まさかこいつらが——またランダムなんて、さっき負けた手法を使ってくると思ってもいなかったから、俺は完全にこいつらの出す手を読むつもりだった。

 しかし……ランダムで一枚を引いて出されたということは。

 俺が「チョキ」で確定したというのに、

 安楽は「パー」「グー」「グー」の三枚の中から、ランダムで一枚を選んだということだ。

 さっき、「意味があるのは二種類の手があるということだけ」と言ったが……それは、「ある条件」のときだけ覆る。

 三枚から、ランダムに一枚を選んだ時だ。

 こいつが、本当にランダムに選んだとしたら、「グー」である確率は2/3……! 俺は三分の二で負けることになってしまう……!

 賭けているのははした金だ。しかし、こいつら相手に一度でも敗けたという事実は、俺の4リンク行きに暗雲をもたらすのは間違いない。

 しかしどれだけ祈れど運命は変わらず。

 

「両者の選んだカードが公開されます」

 

 猫崎は、おそるおそるそれを細目で見る。

 その結果は——

 

【猫崎】「チョキ」

【安楽&真経津】「パー」

 

「ひ、ひゃはははははは!」

 

 笑いが。堪えられない。

 

「なんだテメエ! 起死回生の手でも思いついたのかと思ったらよ……まさかの、わざわざ1/3を引いて負けてやんの!」

「これは……フフッ」

 

 ギャラリーからも、嘲笑の声が漏れる。

 それも当然だ、2ラウンド続けて運ゲーという暴挙に出たにも関わらず……こいつらは、猫崎が「チョキ」を選んでいた以上、有利だった条件にも関わらず、1/3を引いて負けたのだ。

 まさに、負けるためにいる存在。

 運というステータスを、神から剥奪された男。

 

「はー、面白すぎて涙が出そうになったわ。それじゃ、お前の40万もありがたく戴いとくぜ。結局、何も変わんなかったな——」

「まだ、6ラウンド目が残ってる」

 

 口を開いた安楽に、ぽかんと口を開けたのは猫崎だけでなくギャラリーもだった。

 猫崎が、頭を掻きながら、現実教えてやる、と、ガキに説明をするかのように話し始めた。。

 

「あのなあ……横のマフツとやらに何吹き込まれたかは知らねえがよ……テメーは今! 完璧に敗けたんだよ! 勝負にも、運にも……?」

 

 と、横のマフツが銀に光るものを持っているのを見て、なんだ……? と、猫崎は目を細める。

 

「すっかり忘れてたんだけど……ボク、ゲームの順番決めるときとかにコインを使ったりするんだ。だから、持ち歩いてたのさ」

 

 マフツはそれを指でピイン……と弾くと、手でぱしりと受け止めた。

 

「100円玉を持ってた。これをまだ賭けるから、安楽くんはまだゲームを続行できるよ」

 

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