ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
「ま、待てよ……賭け金が100万より下の数って……いや、んなアホな」
「一応補足だけれど。ボクと安楽くんは、ハッキリこう言ってるよ。『100万よりも下の数字をBET額にしてもいいか?』ってね。
もちろん、100万より下の数字には、40万も、100も、
――負の数も。含まれるだろ?」
「いや……だからって、んなマイナスでの額が通るわけ……」
「実際今通ってるだろーがよ。画面見ろ」
「それがおかしいって言ってんだよ! 行員ん、てめえ舐めた仕事してんじゃあねえぞ!」
銀行員に食ってかかる猫崎だったが、
「確かに、猫崎様は、「100万より下の数」をBET額にするという契約を、ご自身の責任において承知いたしました。ですので、これは銀行賭博として……」
「おかしいって言ってんだよ! こうなってることが……」
『親の安楽&真経津ペアが、カードを選択されました』
「あぇ?」
「続いて、猫崎様。カードを選択してください。なお――こちらは銀行のシステム上警告いたしますが。
もしこのラウンドにて、猫崎様が敗北し、軍資金がマイナスになった場合、
猫崎様ご本人を、取り立てさせて頂きます」
しばしの間。
俯いたままだった猫崎は、ふと顔をあげた。
視線の先――安楽などは目に入っていない。いたのは、真経津 晨。
(なんだ?)
今、彼の目に映っていたのは……鏡だった。
「これで、ようやく君にとってもこのゲームは遊びじゃなくなった」
鏡の中に映るのは。
「『負けるが勝ち』の反則じゃんけんなら、きみはどこまで本気になってくれるの?」
巨大な屏風の虎。そんな虎に、体躯を食われている——そして。掲げた両足で、無様にチョキとパーを作っている。
無様な、小っちゃい「猫」が映っていた。
その開かれた左手の中央には――鍵の刺さった、いびつな、傷跡が――
「ッツッああ!?」
俺は鏡から目を逸らす。
どうしてこんな、ふざけたことがまかり通ったのか。
そんなことはどうでもいい。
やることは……同じだ。
金額がデカくなったからって、惑わされるんじゃねえ。
『金額がマイナスってことは、負ければいい』だけだ。
これまでは勝った側に配当されてきた金額が、マイナスなんだから今度は逆になってるだけ。
そう考えりゃ……これは、6600万を無傷で手に入れる、でけえチャンスなんだ。
俺は手元に配られていた三枚のカードを見る。
猫崎「パー」「パー」「チョキ」
……つまり、安楽は「グー」「グー」「チョキ」を持っていることになる。
そもそも、運に頼らずとも。俺は読み合いに勝ってきた。
こんな5スロットとかいうカス共相手じゃなく、4リンクの猛者相手でも、俺は順調に勝ち進めていたんだ。
しかも今回は、相手が先にカードを選んでいる。
俺は決心して、安楽に、「パー」を表にして突き付けた。
「俺がパーを出せば……お前は勝っちまうのか?」
反応はない。俺はチョキに持ち替えて安楽に突き付ける。
「なら、俺がチョキを出せば、引き分けで俺が2ターン目で勝っちまうのか?」
反応は、ない。
「俺がパーを出せば! お前は勝つのか!?」
慌てて聞き直すも、目の前の、これまであれほどバカのように思考を晒していた新参者は、表情を変えない。
まさか……こいつ……まさか……!!?
「そう。安楽くんは、また「三枚からランダムで」選んで伏せてる」
「んな……んなわけねえだろ!?!? てめえ、今の今は、ガチで命かかってんだぞ!? つか……6600万だぞ!? んでそんな……! バカみてえな運任せで……!」
「だからいいんだよ」
安楽は、ようやく口を開いた。
「俺がもし見ちまうと、お前にカードを読まれるかもしれねからな。――そうだ。一応マフツさんは選んだ札を確認してるぜ……まあ、意味ねえかもしれねえけど」