ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
猫崎は顔を歪める。……マフツという男、考えていることが異様に体に出ない。読み切れるわけがなかった。となると……
ランダムに選んでいる以上。確率が高いのは、三枚中二枚ある「グー」なのは間違いない。
だとすると、俺はチョキを選べば、じゃんけんには負け。「マイナス6300万」の賭け金を得ずに済む。
しかし……もし、三分の一……「チョキ」をこいつが引き当てていた場合……!
「チョキ」だとあいこになり、そしてその上残る手札は……!
猫崎 「パー」「パー」
安楽&真経津 「グー」「グー」
俺が勝っちまう! 俺が……マイナス6600万を「得る」ことに……!
「っく、クソッ」
思わず悪態が声に漏れる。それを見据えている、眼前の二人の男を睨んで……
「君は選べないよ」
マフツが、口を開いた。
「……は?」
「君は怖がりなんだ。さっきから見てたけど……この5スロットから、4リンクに上がりたいなら、ギャンブル好きの人たちとずっとゲームをしてればいいんだ。だけど、きみはわざわざ安全に勝てそうな安楽くんに声をかた。そういう「カモ」が来るまで待ってたんだよ」
それは。猫崎にとっては図星だった。
そしてそれ故に……彼の場合は。図星を当てられたが故に、結論を急いてしまう。
「うるせええええええええ!! 俺は選ぶ! 選んでやるぞ、カードを……!」
ぶるぶると震える手で、彼は、彼の信じる神である……「確率」に基づくカードを選択した。
猫崎は一気に老けたかのような表情で、スコアボードに目をやる。
【猫崎】62,400,000
【安楽&真経津】100
一瞬のような永遠が過ぎたあと、スコアボードから机に目を戻すと、既に手札は公開されようとしていた。
「それでは……両者の選んだカードを、公開いたします」
【猫崎】 チョキ
【安楽&真経津】 チョキ
「——————————んえ?」
猫崎は、目の前で、何が起こっているか理解できていない。
「「運」を、確率として捉えて処理するなら」
真経津晨は言葉を続ける。
「少ない確率だったとしても、起きちゃったことには責任を持たなきゃならないよ」
「なんっで……! 安楽! オメエは唯一……! 一番低い確率で、「負ける」ことになる札を、「たまたま」ピンポイントで選べてんだよ………!??」
その言葉に。安楽は。
内心クソビビりながらも、毅然と言葉を返す。
「理由なんざ俺が聞きたいぐらいだけど……運に関して、俺の『左』に出る奴はいねえ
……やっと俺の唯一の特技、「じゃんけんで勝ったことがない」が活きた」
「では、2ターン目に入ります。カードを一枚選択して下さい」
猫崎は、目を落とす。
「パー」「パー」。
と、安楽は手札の二枚を表にして猫崎に放り出した。
それは当然……「グー」「グー」である。
「……けどまあ、今回の俺は、珍しくツイてたな」
「このクソガキいいい! ちょっと他の奴の手えかりて、うまいことやれた気になってんじゃあねえぞおおお!!」
と……猫崎は、カードを放り投げて激高した。
が。カードは。机の中央に、裏向きになって落ちてしまう。
「あ」
「カードを公開します」
【猫崎】「パー」
【安楽&真経津】「グー」
「猫崎様の勝利により……猫崎様は、賭け金「マイナス6600万円」を獲得します」
猫崎は、どうしようもなく、ただ自らの命が削られていくスコアボードを見る。
【猫崎】-4,000,000 -66,000,000
【安楽&真経津】66,000,100 +66,000,000
茫然と立ち尽くす猫崎を前に。真経津は立ち上がりながら言った。
「猫崎さん。これで分かっただろ――?
鏡の中に、君を助ける答えはない」