ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
4リンク
「それでは――安楽希様。これにて、貴方は晴れて「4リンク」のプレイヤーとなります。またそれに応じ……安楽様には「次のゲーム」への参加が要請されます」
「安楽」と書かれた表札の前のドア。
それを開けたままの姿勢で、彼は固まっていた。
時は遡り、安楽がカラス銀行地下から奇跡の生還を果たした日。
彼を見た暴力団の男は、生きて出てきた安楽にあんぐりと口を開けた。
「お前……勝ったのか!?」
「なんとかですけど」
安楽は内心安堵しながら、これで借金を全額返せる、と男に伝えた。
しかし男はそう喜ぶ風も見せず、電話でどこかへと連絡を取り始めた。
何かまずったか……? と急に不安になる安楽をよそに、無愛想な顔で暴力団の男が伝えて来たのは、こういう旨だった。
――その額なら、もう一段上の賭場「4リンク」に昇格することになる
――そこで勝てば、借金を全額返済どころかおつりがくるような大金が動く
――金は返さなくていいから、そこで戦え
「……ってわけだ」
「いやいやいや! 嫌ですよ! 俺はこうやって金を耳揃えてんだから、それでいいじゃないですか――」
「……もしもこれで勝てるようなら「褒賞」も出るぞ」
その言葉に。安楽は止まった。
「褒賞?」
「そうだな。これは一例だが……暴力団同士での利権争いの時、お抱えの玄人に麻雀で争わせてたって話を知ってるか」
「まあ……話は」
「それも今時流に乗っててな。今は麻雀に限らず、多種のゲームで行われてるんだ。だがよ――」
うちお抱えだったプレイヤーが、ちょうど最近『本業』中におっ死んじまったんだ。
「ほ、「本業」って」
「アホか。ギャンブラーの本業なんざ、ギャンブルに決まってんだろ」
その言葉に、安楽は冷や汗を垂らす。
薄々感じてはいたけど……やっぱ、あそこの『ゲーム』って死ぬのかよ!?
「んで、丁度そのプレイヤーが「
「それって……」
「今のテメーの一個上だよ。団は同じランクのギャンブラーを早急に欲しがってる。安楽、お前が口座から俺たちに借金を返したら、お前はまた残高不足で5スロット落ちだ。2000万なんてはした金よりも、上は「4リンク」プレイヤーを選ぶらしい」
そんなこんなで。
安楽希は「4リンク」へ昇格し、そして次のゲームの参加をやすやすと承認してしまった。
「では、安楽様……当該日時、銀行地下にてお待ちしております」
銀行員が戻った後、安楽はへなへなと安アパートの床に座り込む。
『1億4000万』。
聞かされた次ゲームでの賭け金8000万と、『勝利した際暴力団から支払われる』6000万の祝金。
計、1億4000万円。
それだけの金があれば……と。安楽は愚かにも考える。
まずはこんなボロアパートを出る。そんで高級マンションにでも住んで……そんで部屋中に玩具でもばらまいてやろう。童心に帰った気分で面白いかもしれない。でも呼ぶ友達なんていねえな……まあ、毎回通達に来る銀行員でも捕まえりゃいいか。
取らぬ狸の皮算用とはまさにこのことだが、彼は無意識で薄ら笑いを浮かべながら、一億という金に酔っていた。
彼は、まだ自らの致命的なミスに気が付いていない。
不運故に迷い込んだこの賭場の。
……迷路からの出口を一つ逃したことに。
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『ケンバンメイズ』は小ネタとして、同作者様のとあるダーツ漫画のタイトルをもじりましたが、キャラクターなどは『ジャンケットバンク』に準拠して進めていきます。よろしくお願いします。