ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
「この家に住むのも今日が最後だ……」
安楽希は、自らが借金地獄に陥ってから数年の間、苦楽を共にした(主に苦) ボロアパートを前に決意を固めていた。
今日は、前来た銀行員がゲームの日として指定してきていた日。
自分が「4リンク」で初めてのゲームに参加する日だ。
「俺は……勝ってやる」
安楽希は、この時、自分の人生の中で一番「流れ」が来ていると感じていた。
それもそうだ。勝負事で勝つことなどもちろんなく、100万を超える金が自分の口座に入っていることなど見たこともなかった彼が、
たった一晩で5000万を手にしたのだから。
しかも、これまでの団からの借金はチャラだという。これを幸運と呼ばずしてなんというか。
つまるところ……安楽は、これまでの「不運」がようやく報われる、などと思っていた。
「運」というものは誰にでも平等で、そして極端に不平等であり……
アンラッキーな安楽希は、ずっとツイていないままだというのに。
自分の気持ちなど、勝利とは無関係であるというのに。
ちょうどそのころ。
場面は変わって、豪奢な装飾が施された、洋室然とした部屋。
壁には大きく国旗やトロフィー、記章なんかが飾られていて、
「……自分が悲しいのはね」
その部屋の中央に、一人の男が立っていた。
「最近、世の中に余裕が「ありすぎる」ことなのですよ」
彼はそのすらりとした躰に纏った、立派かつ豪奢な軍服の裾を翻して窓に近付き、そこから下を見下ろす。
「あれをご覧ください。幸福そうな親子。健康的にランニングをしている青年。楽しそうに道を歩いている少女たち。……実に素晴らしい「余裕」です。生活に余裕を持ち、幸福を享受するに相応しい。自分の愛すべき、守護するに相応しい国民です」
彼は、今日も国民たちは平和ですね、と満足そうに頷く。
「しかし……、ギャンブル。賭博などという、この国の武士道に反する不道徳的な行い」
「勝てるかどうかも分からないものに、労働の結果得た金銭を、「余裕があるから」と賭博に興じる」
「そしてさらには、「運」などという不確かなものを信仰する」
「そんなものは弱者がやることなのですよ……あまりにも程度が低すぎます」
そして彼は、ぷいと振り向いて、部屋の中で……
「軍服」を身に纏わさせ、腕立て伏せをさせ続けている男8人に叫んだ。
「あなたたちゴミクズのことですよおおおおおお!!!??」
「「「「「「はぁい!!!!」」」」」」
「声が小さいです! 復唱! 「自分たちはギャンブラーというゴミクズでした!」」
「「「「「「自分たちはギャンブラーというゴミクズでした!!」」」」」」
「もっと声を張り上げなさい! 復唱! 「買って頂けた上に、更生までさせて頂けて幸せです!」」
「「「「「「「買って頂けた上に、更生までさせて頂けて幸せです!」」」」」」
「腕立てを止めずに復唱! 「本日も、ノルマである勉学12時間運動8時間を達成します!」」
「「「「「「本日も、ノルマである勉学12時間運動8時間を達成します!」」」」」
「復唱! 「自分たちはゴミクズです!」」
「「「「「「自分たちはゴミクズです!!」」」」」」
「復唱! 「ご指導いただけて嬉しいです!」」
「「「「「「「ご指導いただけてう゛れ゛しいでず!!!!」」」」」」
「よろしい、休め」
ぜーぜー、と息切れをしながら、20分ぶりに腕立てを止めることを許された彼らが床に手をつく中。
彼は満足そうに、その八人からつい、と目を逸らして。
天に向かって、満面の笑みを浮かべた。
「それでは今日も! 「ギャンブラー」などというゴミを粛清し! この国家をより美しく! 綺麗にする活動へと!」
「陸軍少佐『
「「「「「「陸軍少佐、「陸谷 葬一郎」 今日もお国のため出陣します!」」」」」」