ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
安楽希を一言で表すなら、「ツイてない奴」だ。
この社会でどうしても、外れくじばかりを引き続ける奴がいる。安楽に関してはそれが途方もなく顕著だった。
中学校ではやってもいない暴行事件の犯人にされ、高校でたまたま自転車でぶつかった相手が地元の暴力団の車で、そのまま薬の運搬係にされたかと思えばすぐに検挙され、前科ありのまま社会に放り出されてそのままずるずると暴力団との縁も切れなかった男。
その果て、運も悪いのにパチンコや競馬にどっぷりとハマり、団から借りた借金のカタに地下でのギャンブルに挑まされることになった結果が、ここだった。
人生で、最悪の選択を取り続け、最悪の運勢を引き続けた男。
最高にアンラッキーな男、安楽希。
もうすぐに死神の鎌が迫っているこの状況でも、運がない故に、彼はつい先ほどの自分を後悔して、時間を浪費する。
「——ようこそお越しくださいました、安楽様」
「ここは……どこなんだよ!?」
彼が、(実質的には)連行されてきた賭場で。
安楽は吠える。
「落ち着いて下さい、安楽様。あなたは本銀行でのギャンブルを希望されました。第二支店地下——ここがゲームの会場となります」
肩までの黒髪を振り乱し、銀行員に向かって無様に吠える、ジャージ姿の男。
その姿になんだなんだと周囲の人間も目をやる。
それを気にもせずに、彼は懸命に弁解を続ける。
「俺、俺は……!? 気付いたら車に乗せられて、ここに連れてこられて……」
「で? こっから出てどうすんだ?」
「うぼわああ!??」
突然かけられた声に、情けなく怯える安楽。
入れ墨を首まで入れた大男が、銀行員と安楽の間に立っていた。
「ったく、安楽テメェ……古くからのよしみでウチから金借り続けて、今なんぼだと思ってんだ」
「い、いや……金は必ず」
「俺もよ、お前見て理解したことがあるぜ」
大男は腰を抜かした安楽を見下しながら続ける。
「どうしようもない、「運に見放された」人間ってのは存在するってな」
「……安楽様が、この銀行賭博に参加するにあたって「元金」が必要です。しかし、彼はそれを持っているようには」
「ああ。それはお前さん達のアレを頼むよ。「特別融資」ってやつだ」
大男と銀行員が会話する。その内容に、安楽は顔を引きつらせながら横槍を入れる。
「あ、あの……それって」
「いつまで経っても金返さねえどころか、持ち前の悪運で邪魔なことばっかりはしあがる。俺らの方でお前を処分してもいいが……お前の悪運は嫌と言うほど見て来た。ここは銀行に任せることにしたよ」
安楽は考える。暴力団でこき使われていたときに聞いた話——カラス銀行には、独自の人身販売ルートがあり、金を失くしたギャンブラーが売られているとか——
「ひ……! 俺、俺は嫌だぜ、地下には行きたくねえ……!」
「舐めてんのか。言っとくが、のうのうと勝ちも敗けもせず出てきたら今度こそバラすからな」
大男はにやつきながら安楽に言う。
「ま、せいぜい頑張れよ」