ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
「では、お二人にはピアノの椅子に座っていただきます」
その声とともに、安楽は右側、陸谷は左側のピアノに座る。
「……俺、ピアノなんて弾けねえんだけど」
「自分も楽器の修練は詰んでおりません!」
そう言う安楽、陸谷両方に、銀行員はにこやかに微笑む。
「いえ、構いませんよ。……別に、奏でて頂くのはピアノではございませんので」
その言葉と共に、ピアノの蓋が自動的に開いた。
中には、見たことのあるような鍵盤が並んでいたが……一か所。おかしな点があった。
ある一部分の「ド」から「シ」の鍵盤の上。弦を叩くためのハンマーが、何故か外側向きに突き出ていたのだ。
そしてそこには、指を拘束するための穴も存在した。
それを見て安楽は嫌なものを見るような目でそれを見下ろし、陸谷は笑みを顔に貼り付けたまま話を聞き続ける。
「『ケンバンメイズ』は3ラウンド中2ラウンド先取のターン制ゲームとなります。各ラウンド、提示された「譜面」を相手より先に演奏しきることが勝利条件となりますが、それを困難にしますのが——あちらをご覧ください——」
行員が手を振ると、ピアノ奥に存在するカーテンが左右に開いていく。
そこには。ダーツ台と、妙なダーツボードが存在した。
「あちらにございますダーツボードには、ご覧いただいている通り「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」の七音がそれぞれ等間隔で配置されています。察しの良い方はお気づき頂けたかもしれませんが……あちらのボードが連動していますのは、こちらの鍵盤の上に配置された「ハンマー」です」
安楽は、おそるおそる目の前にそびえる七本のハンマーを見やる。これ……置かれてる場所といい……下の鍵盤の拘束具といい……まさか……
「毎ターン、両プレイヤーは演奏のため、鍵盤の上に最低一本、最大五本の「指」を置いて演奏の準備をして頂きますが……プレイヤーには交互に、あちらのダーツボードにダーツを一本投げていただき、そのダーツが刺さった音階は。いえ、そうですね。これに関しては見て頂いた方が早い」
行員は、入口の方に向かってどうぞー、と叫ぶ。
と、バーの内装めいた部屋には似つかわしくない薄汚れた男が、行員二人に連れられて歩いてきた。
「へ、へへ……どうも……」
「あ、どうも……」
安楽がぼけっとしながら挨拶を返すと、再び行員がマイクを握る。
「こちらは50万で、演奏が失敗してしまった際の実演を請け負って頂いた下居様となります。それでは下居様、鍵盤に指を置いてください」
下居と呼ばれた男は、行員にされるまま、「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」の上に、それぞれ親指、人差し指、中指、薬指、小指を置かされる。と、それらの指を自動でかしゃりとリングが固定した。
「では、下居様。ダーツをお投げ下さい」
下居は、握ったダーツの矢を、かたく握りしめる。
安楽は、ビビりながらそれを見る。おいおいまさか……やめてくれよ、そんな悪趣味なことがあるわけねえよなあ……
下居は、ダーツボードに向かってダーツをおもむろに放った。
その矢は吸い込まれるように……「ファ」と書かれたエリアに刺さってしまう。
「あ」
「では、下居様が薬指を置かれている……「ファ」ハンマーが作動いたします」
行員の声と共に。
ばぢん、と。
ネズミ捕り器が作動したときのような、何かが弾ける音と、何か……嫌なものが潰れる音がした。
「ご……ごぎゃあぁああああばばばばばああああ!!!!!!」
下居の叫び声と共に、指の拘束具ががちゃりと外れる。
しかし……もはや致命的に、彼の薬指は、骨が砕けていることが明白な状態になっていた。
「このように……ペナルティを受けると、ハンマーが代わりに鍵盤を叩くことになり、指はそれに巻き込まれてしまいます」
う……ああ……と、必死に指を抑える下居と、大体同じような反応をしながら後ずさりをする安楽に。
陸谷は特に動じず、痛そうですねえ、と呑気な面だった。