ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
「毎ラウンド、両プレイヤーには全七音の「譜面」をお渡しします。どちらのプレイヤーも同じものとなっておりますので公平さはご安心ください。また譜面とは言ったものの、どの音階を演奏するかの順番は問いません。それらの七音を、上のハンマーに潰されることなく完奏することが目的となり、先に演奏を終えた方がラウンド勝者です」
「ハンマーが作動してしまった場合、もしその鍵盤に指を置いていてもその音階は奏でることができなかったこととなり、別ターンで再度演奏する必要が——」
「また、お互いが同時に演奏を完了した場合、その時点でペナルティを受けた回数の多い方のプレイヤーの勝利とさせて頂きます——」
「全ラウンドを通して、使用できるのは片手のみです。また、鍵盤を抑えない方の指でダーツを投げて頂くことになるのでご注意ください」
「ダーツを投げるのは各プレイヤーが交互で——」
陸谷が、頷きながらルールを聞く中。
安楽の心の中は一つだった。
なんだ!? ルールが全然ピンと来ねえんだが!!!??
要するに、あのハンマーに指叩かれずに、指定された七音をなんとか鳴らせってことだろ……? しかし1億が賭かってる、ルールは隅まで覚えておきてえけど……多い上によく分からん! とにかく、勝敗に関わりそうなルールだけ覚えて、あとは成り行きでなんとかするしかねえ!
どうしようもなく、ただ「運が悪いだけ」の凡人は、長いルールを覚えるだけの容量もなく、しかし途方もない大勝負になんとなくで参戦してしまった。
一つ一つの小さなルールに足をすくわれることなど、この地下賭博場には無限にあるというのに、だ。
安楽が、ひどくちっぽけで下らない「決意」のために時間を費やしている間に、行員はルール説明を終える。
不安そうにする安楽に、陸谷が声をかけた。
「安楽さん、でしたか?」
「あ、ああ」
「なかなか楽しそうなゲームですね! お互い全力を尽くしましょう!」
「お、そうだな……」
それを見終えて、行員はそうだ、一つ忘れていましたと口を開いた。
「これはルールではなく忠告になりますが……先ほど見て頂いた「ハンマー」によるペナルティに関して、一つ。「受けられるのは一本の指につき一回まで」です。一回までなら、骨は砕けこそするものの、まだなんとか元の形に治療は可能ですが……」
「もし二回目。「既に負傷した指」をハンマーが叩こうものなら」
「その指は切断するしかなくなるほど、骨と肉が粉砕されることが予想されます!」
「つまり、このゲームにおいて。指を失いたくなければ演奏を失敗できるのは「五回」までですのでご注意を」
「それでは……『ケンバンメイズ』、ゲームスタートです!」