ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
このときの、陸谷の心境はというと。
……今回のゲームは非常に楽そうで助かります。
なんてものだった。
自分は4リンクでもう長いですが……このゲームは初めてです。ペナルティは実に銀行賭博らしいとは思いますが……とはいえ、ハンマーを受けるのが一回であれば治療可能ということですし、問題ないでしょう。
むしろ、幸運が続けば無傷のまま勝利することも可能という点では、かなりマシな部類ではないでしょうか。
何度か当たったゲームで……まず間違いなく手の平に穴が空くなんてルールもありました。あれはひどかったです。
しかし……今回のゲームが楽そうだというのは、ルールというよりも……
陸谷は目の前のピアノに座っている男を冷静に観察する。
さっきから、視線はずっとさっき指を折られた男の場所に釘付けです。発汗も多い。瞳孔も開いている。こんな……素人のようなギャンブラーは少しばかり珍しい。
陸谷は口角を吊り上げた。
しかし……このような人間を、指導してやることこそ自分のやるべきことだ。
国に身を捧ぐ自分には、ギャンブラーのようなクズに敗北などあり得ないのだから。
「それでは……第一ラウンド。今ラウンドの譜面はこちらになります!」
行員の声と共に、ピアノの譜面立ての部分に画面が浮かび上がった。
第一ラウンド 譜面
「ド」 「ミ」 「ファ」 「ソ」 「ラ」 「シ」 「シ」
「それでは、両プレイヤーには1ターン目に演奏したい鍵盤に指を置いて頂きます! また、第一ターンにダーツを投げて頂くのは安楽様となります」
……ひとまず。
度胸試しに、やってみてやりますか、と。
陸谷は鍵盤に指を置く。
対して安楽。
今の彼を一言で言うと……混乱していた。
何、何をするのが最適解だ!?
単純に考えれば、このターンでダーツを投げるのは自分だ。出来るだけ鍵盤を抑えておいて、譜面をなるべくこなしておいて、それでいて自分が指を置いたハンマー以外の枠を狙えばいい。
だけど……正直。
安楽はダーツ盤までの距離を見る。2メートルと少しで、ダーツには詳しくない故そこまでは分からないが、ボードも通常より大きい。ある程度の狙いはつけられそうだ。
しかし……しかし、安楽は素人。
ダーツなんて経験してきたことがなかった。むしろ、安楽がダーツを経験したことがないからこそ、ダーツを使う競技が初戦に選ばれてしまったのではないかと思うぐらいに、安楽は運がない。
なら……とりあえず、こうするか……
安楽は、利き手の左手はダーツのために温存し。右手を使うことに決め、鍵盤に右手を置く。
「それでは、両プレイヤーが1ターン目に演奏する鍵盤を選択しましたので……拘束具が作動いたします!」
かしゃ、という音と共に、安楽の右手「薬指と小指」が、バンドに固定された。
「安楽様が選択された鍵盤は……「ラ」と「シ」になります!」
安楽は、薬指で「ラ」子指で「シ」に指を置いていた。
……これでいい。今回の譜面は「ド」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」「シ」。
ルール上、このゲームは1ラウンドに対してどうやったって2ターンかかることになる。その上、その2ターンの両方で抑えなくてはならない「シ」は早急に弾いておきたい。そしてあと、「ラ」。ダーツボードで隣接している、ラとシ。その範囲さえ避けて投げれば、自分はダメージを負わない。
そんな理由での選択だった。
対して、陸谷は――
「それでは。陸谷が選択された鍵盤は……「ド」「ミ」「ファ」「ソ」「シ」となります!」
「……うっそだろ」
「自分はよく、この賭場で思うのですよ……
イカサマだとか絡め手だとか。そんな小賢しい真似をして、勝利を得ようという不届き者が多すぎる。
だからこそギャンブルなどという行為に手を染めるのかもしれませんが……しかし、自分はそうではない。自分は軍人として! 正々堂々勝負を行うつもりです」
陸谷は。気色の悪い笑みを浮かべて。
親指人差し指中指薬指小指……の。左手のすべての指で、五つの鍵盤を抑えていた。