ジャンケットバンク ——The Beginner——   作:上伊

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ラウンド終了

「――それでは、第一ラウンドは2ターン目に入ります! 両プレイヤーは鍵盤と賭ける指を選択していただき、また今ターンダーツ側のプレイヤーである陸谷様はダーツをお持ちください!」

 

 激痛の中。

 なんとか、次のターンのため椅子に座り直し。

 現状のディスプレイを見た彼を襲ったのは。

 ――絶望、だった。

 

未演奏→【安楽】「ド」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」

    【陸谷】「ラ」「シ」

 

 ……最悪だ、と。安楽は、今になって「指の数」の罠に気付く。

 1ターンに所得できるのは、片手の指の数である、最大「五音」。

 そして自分は薬指を既に負傷してしまったから……これから賭けられるのは、1ターンにつき「四本」、最大「四音」なのだ。

 つまり、残ってしまった「六音」を演奏しきるには、どう足掻いてもあと2ターン必要……!

 それに対して、陸谷の残り譜面はたったの「二音」。そして負傷は、無し。奴はこれからも指を五本賭け続けることができる……!

 なんのことはない。指を負傷すればするだけ、賭けられる指の数は減ってしまうのだから、1ターン目には負傷を覚悟でも、賭けられる最大の数、「五音」に指をかけておくべきだった――!

 安楽は、汗まみれになりながら目の前の男、陸谷を見る。彼は、どうしようかな、などと薄笑いを浮かべながら軽やかに鍵盤の上に指を躍らせている。五指とも健康そうな、その指で……!

 

 安楽は唇を噛む。

 1ターン目で、完璧な局面を作られた……!

 そして、次にダーツを投げるのは陸谷なのだ。

 このラウンドは、確実に、取られる。

 ならば……自分にできるのは、「次善」の策しかない。

 と、そう考えて、安楽は指を配置する。

 ……「痛いのはもう嫌だ」なんて、本音を隠して。

 

 

「それでは、両プレイヤーが鍵盤を選択されました!」

 

 かしゃり、という音と共にお互いの指が固定された音を聞き届け、陸谷はダーツを持ち上げる。

 

「今ターン……陸谷様は「ラ」「シ」を選択されました!」

 

 ……まあ、当然だった。自分がダーツ側プレイヤーで、ある程度操作できるのだから……奴としては、このターンで、勝負を決めるべきだ。

 対して安楽。この男は――

 

「そして安楽様が選択された鍵盤は……「ラ」のみです!」

 

 ほう、と陸谷は意外そうな顔をする。

 対して安楽は……苦汁を吞んだような顔をしながら、そのディスプレイを見つめていた。

 

「それでは陸谷様、矢をお投げください!」

 

 その言葉を聞きながら、陸谷は安楽に問いかける。

 

「安楽殿、でしたね? 貴君、これはどういうことなのでしょう?」

 

 それも当然の質問だ。安楽の残り譜面は「6」音。もしこのターン、1音しか演奏が成功しなかった場合、次のターンには「5」音が残る。

しかし、それに対して彼が安全に賭けられる指は残り「4」本だ。つまり、次のターンですら勝負を決めきれなくなってしまう。

しかも、無駄なターンをかけている間に、陸谷に残りたった2音を演奏しきられたら敗北。

この状況で、たった一音しか押さえないというのはかなりの悪手に見えるが……

 

「……俺はクソほどツイてなくてよ。このままお前と運勝負を続けたら、俺はすぐに指の五本を負傷して、もう指を賭けられなくなっちまう」

「んなことになるぐらいなら……! このラウンドはテメーに勝たせてやる! 一度ミスはしたが、もう繰り返しはしねえ……! 次のラウンドは俺が勝つ!」

 

 その安楽の叫びを。

 失望したかのように、陸谷は見つめていた。

 

 ……このゲームにおいて。

 1ラウンドを先取されるということは……残り2ラウンド、連勝しなくてはならないということなのだ。

 目の前の男にそれが出来るようにはとても思えず……自分は無傷、次ラウンドでも指五本を安全に賭けられるというのに、目の前の男は既に、残り指本数が4本になっている。しかも、自滅という、このゲームにおいては想定されていないであろうつまらないムーブで。

 

 興ざめだった。陸谷は勝負に楽しみを求めるタイプではないが……それでも、武士の魂を持った者として、イカサマなし、堂々と勝負がしたいというのは本心だったし、正面から打ち負かそうとしてこのゲームには挑んでいた。

 

 だというのに……わざわざ相手に勝ちを譲る。敗けそうだから、このラウンドは傷を増やさないために捨てる。スポーツマンシップの欠片もない行動だと、陸谷は判断し。

 早急に勝負を終わらせようと溜息をついた。

 

「……了解しました。このラウンドは頂戴いたします」

 

 陸谷は、心内の失望を押し殺して、精神を集中させる。

 ダーツを構える指がブレないように、慎重に重心を捉え……矢を放った。

 

 トスッ

 

綿密に狙われた矢は、「ミ」の中央に突き刺さった。

 

          ▼

【安楽】              「ラ」

【陸谷】             「ラ」「シ」

 

 

「それでは、「ミ」ハンマーが作動いたします!」

 

 行員の音と共に、バヂン! と大きな音を立て、腕をスレスレに掠めて、ハンマーが鍵盤をぶっ叩く。

 

「今ターンでは、演奏を失敗されたプレイヤーは存在しません! そのため、押さえていた鍵盤は全て演奏されます!」

 

 バー室内に、「ラ」と「シ」のいびつな音階が、不協和音として響き渡った。

 

「……また、これにて陸谷様は、第一ラウンドの譜面を完奏されました! おめでとうございます、なんと陸谷様、無傷にて1ラウンド先取です!」

 

 安楽が耐えかねるというように、まだ健康な左手で鍵盤をダンと叩いた。

 

「ッくそ……! 痛えんだからとっとと次行けや……!」

 

 陸谷はそんな様子を冷たい目で見ていた。

 行員はゆっくりと台本を持ち替えると、再びゲーム進行に戻る。

 

「……では、第二ラウンドに移らせていただきます」

 

 

 進行状況

 

 第一ラウンド、陸谷 先取

 

 負傷 【陸谷】なし

    【安楽】薬指

 

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