ジャンケットバンク ——The Beginner——   作:上伊

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第二ラウンド

「それでは気を取り直して! 『ケンバンメイズ』、第二ラウンドに移らせて頂きます!」

 

 行員の声と共に、ディスプレイには第二の譜面が映し出された。

 

第二ラウンド譜面

 

「ド」「ド」「ド」「ミ」「ミ」「ソ」「ソ」

 

「それでは、第一ターン! ダーツ投手役は陸谷様です」

 

 陸谷は、ディスプレイを見ながら考える。

 ……このラウンドは、最低「3ターン」かかることになるはずです、と。

 

 簡単な話、この譜面だとプレイヤーは「ド」を三ターンに渡って演奏する必要がある。

 しかも、「ミ」と「ソ」の鍵盤も。結局二回は叩かなければならない。

 となると……このラウンドは、「ド」に指を置くことは確定として。「ミ」と「ソ」のどちらを、いつ完奏するかの読み合いになるわけだが。

 特に先手の今なら、「それ以外」も考える余地はありますか、と。

 ちらりと陸谷は目の前の男を見た。

 ……安楽はその茶けた髪を首筋に貼り付かせている。発汗が凄まじい。脂汗を滲ませ、唇を噛んで、指の痛みから正気を保ちながら、なんとか思考している。

 ……この相手に。特に「負ける」ビジョンは浮かばないが。

 ここは真っ当に。

 「最善手」を打っておこう。

 

「それでは……両プレイヤーが選択を終了されました。両プレイヤーとも、選択されたのは「ド」「ミ」「ソ」です! では陸谷様は矢をお投げください」

 

 まあ、当然だった。

 陸谷は自分が矢を投げるターンでなるべく音符を稼いでおきたい。そう考えるなら、陸谷が狙うのはそこ以外だ。

 とはいえ、それを読まれることを考え、あえて無関係の鍵盤、「シ」なんかを抑え、その上で「ド」「ミ」「ソ」なり、安楽の選んだ鍵盤を撃ちぬくことも考えたが……

 懸念はひとつだった。

次ターンに、奴の矢がどういう挙動を描くか、読めない。

 

 陸谷は他人に対しての「読み」は中級者だと自負している。

 一般人相手のゲームなら、大抵はうまくやれる自信はあるが。

 こいつは、よりにもよって矢をろくに狙いもせずはずしてしまうような大バカ者なのだ。

 

 ……俗に言う、「ビギナーズラック」。それは、初心者が、初心者である故に何をしていいのか分からず、その上たまたま行った結果が豪運を引くというものであり、

 そしてそれ故に。「上級者」には、「初心者」の非合理的な思考は理解できない。

 それが、ビギナーズラックの正体である。

 つまるところ。どれだけ賢い奴でも……「バカ」がどれだけバカげたことをするか、まで読み切るのは難しいのだ。

 

 よって、陸谷は。「バカ」だと判断した安楽相手にリスクを負いたくない。

 最速で、勝ちに行く。

 陸谷は合理的にそう選択し。

 合理的に、至極冷静にダーツを放つ。

 

「……陸谷様、ダーツ盤の「シ」を射抜かれました!」

 

                   ▼

【陸谷】「ド」  「ミ」  「ソ」

【安楽】「ド」  「ミ」  「ソ」

 

 お互いの指をかすめ、「シ」の鍵盤が叩かれる。

 

「第一ターンは、両プレイヤー共に負傷なしで演奏を進めました! それでは、第二ターンへまいります!」

 

 カシャ、と拘束が外れる音と共に。

 陸谷は冷静に指を引き抜くが、

 安楽はばばっ、と勢いよく指を引き抜いて、ぜえぜえと息をきらしながら指を抑える。

 ……先ほどの痛みを思い出してしまったらしい。顔色が悪い。

 この調子なら、次ターンも楽そうだな、と考え陸谷は口角を上げた。

 

 

 第二ラウンド、残り譜面

 両者ともに「ド」「ド」「レ」「ミ」

 

 陸谷。負傷無し

 安楽。薬指を負傷。

 

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