ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
「それでは第二ラウンド、第二ターンに入ります!」
その言葉と共に、ディスプレイは移り変わり、第二ターンと残り譜面を示す。
「ド」「ド」「レ」「ミ」
この譜面を見て。
安楽の選択肢は……1つだった。
少なくとも、このターンは自分で的を狙うことができる。
……不慣れな自分には厳しくはあるが、それでも、自分で指を選択して、陸谷に上から矢を投げられる方が厳しい。
なら、当然……!
安楽は……まだ健康な指三本を、鍵盤に置く。
「それでは、両者が今ターンに演奏する鍵盤を選択されました!
安楽様は「ド」「ミ」「ソ」
陸谷様は「ソ」のみとなります!」
まあ……そうなるか、と。
安楽は、しばらく押し黙っている陸谷を見て、思う。
敵に矢を投げられるのだから、自分の指を晒す危険はなるべく少ない方がいい。
その上、次ターンは自分が的を狙えるのだから、あえて敵のターンでリスクを冒す必要はない。
……このターンは素直に、「ド」「ミ」「ソ」から最も遠い「ラ」か「シ」を狙おう、と安楽はゆっくりと矢を持ち上げる。
しかし……右手小指の鋭い痛みが、集中しようとする彼の邪魔をする。ずきり、という痛みは未だ指先に残っていて、確かに。もう一度あの力で叩かれてしまえば、繊維はずたずたになってしまう、そのギリギリだ。
それでも、先ほどと同じ失敗はしない、と。
精神を集中させ、息をゆっくり吐いて。
安楽は……矢に力を込め、一気に「ラ」と「シ」の中央を目掛けて投げ……
「『『『復!!!!!! 唱オオオォォォォ!!!!!!』』』」
その瞬間。鼓膜を揺るがす爆音に、安楽は慄いた。
「な、なんだァ!? うるせえなあ!?」
取り乱す安楽に。
そう叫んだ、陸谷は打って変わって人のよさそうな笑みを浮かべた。
「いえ! 本官の最も「慣れた」大声量がこの単語だったものでして……申し訳ありません!」
「や、なんで今そんなクソうるせえ……ぇあ?」
混乱していた、安楽は。
あるべきものがないことに気付いて、一気に顔色を青くする。
「……あ? 俺が握ってた、ダーツは?」
安楽は。
ぎしり、ぎしりと首をかしげてボードを見る。
そこには。
『ミ』に、矢が深々と刺さっていた。
「……ちょ、ちょっと待ってくれよ。おいおい、行員。今の見てたろ!? 投矢を「妨害」された! 無効だ、無効だろこれはァ!?」
「……安楽殿!」
やれやれ、と陸谷はわざとらしく首を振った。
「「ルール」では、「相手プレイヤーの投矢を妨害」した際のペナルティは明示されておりません! お聞きではありませんでしたか?」
「ふっふざけんなああ!!!! おい、銀行員!? テメエ何喰わねえ顔してんだ!」
「では……「ミ」ハンマーが作動いたします」
「おい、ちょっと……待ってくれよ!? バカか! てめ――」
ダン。
銀行員は――泣きわめく子供の相手など出来ないとでもいうかのように、冷静にハンマーを作動させて。
その結果は――
「いっ――」
安楽。
薬指に続いて……二本目、中指を負傷した。
「いてええええええ!!!!」
拘束具が外れ、安楽は再び椅子から転げ落ちる。
しかし……今度の安楽は、血走った目で、陸谷を睨みつける。
こいつの……こいつが邪魔したせいで、俺はこんな目に……!
「てめえ……! いい加減にしろやボケが!!!」
陸谷に詰め寄ろうとする安楽、だったが。
陸谷は、未だ負傷のない両手を上げて、飄々と笑う。
「おや、安楽殿! 残念ですが……「対戦相手の投矢」の規定はありませんが。「対戦相手への暴力行為」は銀行賭博においては、即失格と規定されております!」
「……ッおい銀行員! どうなってんだ!??」
「再三申し上げることになりますが」
銀行員は、据えた目で続ける。
「我々の提示したルールは絶対です。しかし――それ以外は、基本的に何をやっても構いません」
「どれだけ卑怯に見えたとしても、我々が止めぬ限り正攻法なのですよ」
……安楽は。ようやく理解して。
後悔した。
自分にここは、分不相応だったかもしれない、と。
何をするにしても今更だが。
既に指は二本激痛の中にあるというのに、ここで負ければ……残高はマイナス。何をされるか分からない。
……安楽は、どうしようもなく椅子につかされ。
第3ターンが始まる。
激痛と、恐怖と、
彼は完全に囚われてしまった。