ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
今更ですが、ルール説明あたりの章に追加投稿しておきます、すみません!
「――それでは、第二ラウンド。第3ターンを開始いたします!」
行員の声共に、ディスプレイはまた更新される。
残り譜面
【安楽】「ド」「ミ」
【陸谷】「ド」「ミ」「ソ」
……このターンで、決着は付く。
安楽は、二つに増えた痛みの中でなんとか堂々巡りの思考を走らせる。
俺は親指と人差し指で「ド」「ミ」を押す。そして陸谷が「ド」「ミ」「ソ」をどう選ぼうと……もし、陸谷がその全てを、安楽と同時に完奏したとしても。
既に二本の指を負傷している安楽が先に勝ち、このラウンドを手に入れることができる!
しかし、考えなければならないのは……
安楽はちらりと陸谷を見た。
このターン。陸谷はダーツの投手権を持っている。
もしかすると……勝利を捨てて、「シ」なんて関係ない鍵盤を自分で抑えておいて、その上で安楽の「ド」「ミ」鍵盤に指して、安楽の負傷を狙ってくるかもしれない。
どうしようもなく、陸谷を見つめ続ける安楽に対して。
陸谷はふ、と顔を上げた。
視線がぶつかる。
「――安楽殿! 先ほども言いましたが」
まるで勝利宣言かのように。陸谷は不気味に宣告する。
「――自分は、正々堂々と勝負を行うつもりです! 故に、自分だけ傷を免れて、貴殿のみに傷を押し付けるなどという姑息な行為を行おうとは思いません!」
陸谷は――。「ド」「ミ」「ソ」に、指を置いて。
「これで確定、させて頂きます!」
「……え、なんで?」
陸谷の要望を聞き届け、行員が陸谷の指を「ド」「ミ」「ソ」で確定したのを見届けて。
安楽は理解ができなかった。
当然だ。その行為には「意味がない」。
もちろん安楽は、これで「ド」「ソ」を選べばよくなった。陸谷はどうやらダーツ盤をある程度狙えるようだから、手が滑るなんてこともないだろう。となると、自分の指を傷つけないため、奴は「ド」「ミ」「ソ」に矢を撃つことはない。
となると。安楽は「ド」「ソ」を選択すれば。
同時に演奏終了で、負傷の多い安楽の勝ちだ。
「……どういうつもりなんだ、陸谷?」
汗ばんだ額で尋ねる安楽に、陸谷は表情を変えない。
「只今請願した通りでございます! 自分は正々堂々勝負をしたい……故に。このターンは、お互い同時に演奏を完了しようではありませんか!」
「あ? いや……」
待てよ。
安楽は、死地に活路を見出したかのように考える。
こいつ。同時に演奏を完了した場合、「負傷した指の多い方がラウンド勝利となる」ってルール。
ああまで多く、一気にルールを説明されたんだ。俺も、今やりながら大体は分かったけど、細かい部分は聞き落とすなんてこと、あるかもしれない。
もしかして、こいつ――この陸谷とかいう男。
同時に完奏したときのルール――忘れてるのか?
そんな懸念を持った安楽に、陸谷は構わず宣言する。
「只今請願した通りでございます! 自分は正々堂々勝負をしたい……故に。このターンは、お互い同時に演奏を完了しようではありませんか!」
その言葉に。
安楽は、心中ほくそ笑んで応えた。
「おう……お望みどおり、そうしようぜ」
当然安楽は「ド」「ミ」に親指と人差し指を置いた。
「それでは、両プレイヤーの選択が公開されます!」
ディスプレイに映し出されたのは、もちろん。
【陸谷】「ド」「ミ」「ソ」
【安楽】「ド」「ミ」
「それでは陸谷様。ダーツをお投げ下さい!」
行員の声に。
勝った! と、安楽は健康な左手の方で、隠れて拳を握った。
陸谷は、どうも狙ったダーツ盤を外したりしないだろう。
なら、俺はこのターンで確実に「ド」「ミ」を演奏できる。
これでなんとか、俺も1ラウンド取れた。
あとはもう1ラウンドを取るだけだ……!
安楽は、既に次のラウンドについて考えていた。
――捕らぬ狸の皮算用、という慣用句を知っているだろうか。
まだ得ていないものに対して。それについて色々と思いを馳せることだ。
そういったことをしたときは――大抵――
そいつは手に入らなくなる。
「――安楽殿!」
陸谷は、矢を持って。
ごきり、と首を曲げて安楽の方を向いた。
「こんなことわざをご存じですか?」
「……あ? なんだ」
「『二度あることは三度ある』というものです!」
「そういえば安楽殿は――現在は、小指と薬指で、「
「……は? 陸谷? 何、やる気だお前?」
「自分が「ド」「ミ」「ソ」の選択を先に公開したため……貴殿は、その甘味にすぐに飛びついてしまった!」
「冷静に考えれば――敵が舗装した勝利への道など。絶対に、進んではならないことなど、分かったでしょうに!」
陸谷は。
再びごきり、とダーツ盤に目を戻し。
特にためらわずに、矢を放った。
タンッ
狙われたその矢は……寸分たがわず。陸谷が
▼
【陸谷】「ド」 「ミ」 「ソ」
【安楽】「ド」 「ミ」
「……ん?」
安楽は、見間違いかと、目をこすって画面を見る。
結果は変わらず。「ド」だ。
陸谷、安楽の、両方が負傷する、「ド」。
「お……おまえ、陸谷お前……まさか、「ド」狙ったのか……?」
「はい! ダーツは初めてでしたので不安でしたが! 照準を合わせる感覚と大して変わりはありませんでしたね! 冷静でいさえすれば……
勝利は。引き寄せられるのです!」
安楽は。
今から三本目の指を傷つけてしまうことよりも。
目の前の男の胆力に、血の気が引いた。
つまるところ……安楽の負傷を増やし、より追い詰めるためだけに。
こいつは自分から指を折りに来たのだ……!
負傷ゼロという優位性を捨ててまで……!
「い……イカレてんのか」
その言葉に、陸谷は微笑む。
「いえ……自分はただ。勝利に向かって邁進させていただくのみであります」
「つかよ!!? 正々堂々ってなんだったんだよ! 自爆覚悟の特攻とか、じゃあさっきの「お互い勝利しましょう」はクソみてえな嘘かよ……!? 卑怯じゃねえか!?」
陸谷は、まるでそれが、本当に理解できないかのような困り顔を浮かべる。
「……安楽殿は、先ほどからずっと、何か勘違いをしていると自分は考えます」
「いいですか? このゲームは性質上……当然、「ブラフ」「発想」が必要になってきます」
「この場合の勝負とは、「嘘」と「実」を見抜き、次々と策を弄することであり。つまり、偽るという「スキル」を、正々堂々ぶつけ合うことにあるのです」
「自分の宣言は嘘ではありません! 自分は、イカサマ等のゲーム性を損なうと自分が判断した行為は一切行っておりません」
「しかし……ギャンブルにおいて。正々堂々真正面から、策を弄してブラフを交え、勝利をひたすらに求めることを、「卑怯」だというのなら」
「……子供向けのゲームでも! ……素直に、じゃんけんでもやっていればよろしいのではないかと! 不肖、陸谷は考えますね!」