ジャンケットバンク ——The Beginner——   作:上伊

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『ジャンケン&バンク』
『ジャンケン&バンク』


「では、猫崎様。行うゲームはこちらで間違いないですね?」

「ああ。兄ちゃんも構わねえだろ?」

「は、はい」

 

 安楽がそう言うと同時に、モニターにスコアボードが映し出される。

 安楽希。見慣れた名前と——

 

「俺は猫崎真一だ。よろしくな?」

 

 眼前の男がにこりと微笑んで、手を差し出す。

 

「安楽、希です。よ、よろしくお願いします」

 

 安楽も手を差し出すと、彼は多少乱暴に安楽の手を掴んで上下させた。

 

「それでは、親交も深まった所で……5スロット。『ジャンケン()バンク』の説明をさせていただきます」

 

 安楽希はギャンブラーではない。また一般人らしく楽観的だ。

 故に——気付かない。

 もしかして——なる? なんとか。と。

 運の悪さも相まって、彼はそう思ってしまうのだ。

 

「ルールを説明します。今回のゲームは、基本的にはジャンケンで進めていきます」

 

 じゃんけん。

 そう聞いた瞬間、安楽は血の気が引く。

 

 ただの一般人。何の取り柄もない安楽という男には、それでも一つ、ちょっとした特技がある——

 「じゃんけんに勝ったことがない。」

 完全な運勝負になるじゃんけんというゲームにおいて、彼はあいこ、あるいは負け。その結果しか得たことがない。おそらく人類で最も運に恵まれない安楽は圧倒的に不利だった。

 

 冷や汗を流す安楽をよそ目に、銀行員は説明を続ける。

 

「しかし、ただ運勝負のジャンケンと一線を画す要素が——この「バンク」です」

 

 銀行員が、20センチ四方ほどの箱を取り出した。

 

「この箱には、「グー」「チョキ」「パー」のカードが、それぞれ2枚ずつ、計6枚。「グー」「グー」「チョキ」「チョキ」「パー」「パー」が入っています」

「そして毎ラウンド、この中から両名に、三枚のカードを融資させていただきます」

「説明がてら、1ラウンドプレイしていただきましょう」

 

 彼はそう言うと、おもむろに箱からカードを3枚引き、猫崎という男に配る。

 そして残った三枚を、安楽に配った。

 

「まだ金もかかってねえし、分かりやすくいってやるよ兄ちゃん。俺に配られた手札はこうだ」

 

 安楽は自分のカードを確認する。

 

 「グー」「グー」「パー」。

 

 つまり……と、安楽は猫崎の手札に目をやる。

 当然のように、存在する6枚から選ばれなかったカードが握られていた。

 

 「パー」「チョキ」「チョキ」

 

「まあ簡単な話だ。計6枚のカードが三枚ずつ配られんだから、相手に行くのは自分に来てない三枚だわな」

「簡潔な説明、ありがとうございます猫崎様。与えられた三枚のカードのうち、1枚を選んで勝負する……あいこならば残ったカードからもう一度勝負していただきます。そしてまた、それに勝利すれば1ラウンド勝利となり、そのラウンドの賭け金を獲得できます」

 

 安楽は、頭は悪い方ではないと自負している。(普段はそれが全て悪い方に向かうのだが)

 故に……このゲームの全貌は、かなり分かりかけてきていた。

 

「んじゃルール説明を進めるか。そーだな……」

 

 猫崎は、手元に三枚を戻すと、1枚を抜き出して裏のまま前に放り出した。

 

「俺はこれを選ぶぜ。兄ちゃんはどうすんだ?」

「そ、そうですね。俺は……どうしよう……」

 

 ——確率上考えるなら。猫崎の手札は「パー」「チョキ」「チョキ」で、チョキは三分の二だ。なら、「グー」を出せばいい。しかし、それは出来ない。何故ならそれを読んだ「パー」なら自分の負けになってしまう。もし、猫崎がパーを出すなら、自分の取れる手はひとつしかない——

 

「……これでいきます」

「おお、いいだろう。じゃあ勝負だ」

 

 中央の台座にカードがセットされて、自動的に捲られる。そこには——

 

【猫崎】パー

【安楽】パー

 

「クッソー! あいこになっちまったよぉ。やるなあ兄ちゃん」

「あ、ありがとうございます……」

 

 あれ?

 安楽は思う。これって……

 

「では、2ターン目に入ります。カードをセットしてください」

 

 残り札はこうなってるはずだ。

 

猫崎 「チョキ」「チョキ」

安楽 「グー」「グー」

 

 機械が動いて、俺と猫崎が出したカードが表になる。

 結果は当然……

 

【猫崎】チョキ

【安楽】グー

 

「……グーを出した、安楽様の勝利となります」

「あちゃー! 敗けちまったよ。兄ちゃんやるじゃないの」

 

 あれ? 勝った。

 安楽はあいこと敗けしか人生で経験していない。故に混乱するが……すぐに、その理由に気付く。

 今のターンは、残り札の関係上必ず「勝ち」のターンだった。

 必ず勝てることがあるこの変則じゃんけんなら、安楽にも勝ち目が残っている。

 敗けて敗けて運に負けまくったこの場所で、やっと勝利のチャンスが巡ってきたのだ……と。安楽は柄にもなく「希望」を持ってしまった。

「希望」が人を殺すということを、この時の彼は全く知りもしない。

 




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