ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
「……説明に戻ります。ゲームは全6ラウンド制です。毎ラウンド交代でどちらかのプレイヤーが「親」となり、賭け金を選択し、かつ先にカードを選択して頂きます。それでは。ゲームを開始しても構いませんか?」
「おう。始めようぜ」
「これなら……はい」
……安楽は、覚悟を決めた。
笑うことなかれ。齢22にして、安楽は、ここで勝つという覚悟を決めたのだ。
彼は運が悪いということからも分かるように、負け続けた人間だ。しかし、そこまで敗けてこようとも、最後に敗者復活戦の余地が与えられた。
これを、非常に不運なことに、「幸運だ」と。彼は思ってしまっている。
それは、更なる地獄へと彼を送り込むだけだと言うのに。
「とりあえず遊ぶか。一回だけな」
その瞬間、安楽が身の毛が立つ思いがした。
ゆっくりと、ぎしりぎしりと顔を上げる。
猫——など。生易しい。猛獣のような目で、猫崎は安楽を見据えていた。
「……あれ? 猫崎さん?」
気付けば、卓の周りにはギャラリーが何人か集まっていた。
「猫崎の奴、あともうちょいで4リンク昇格なんだろ?」
「らしいな。こりゃあ昇格戦に、楽そうなカモ引っ掛けてきたんだろうよ」
「クソ……あんな「初心者バッヂ」着けてアホ面晒してる奴、俺がカモりたかったぜ」
「え? なに、これ? なんですか?」
「両名にカードをお配りします。それでは、親である猫崎様。レートを選択して下さい」
「『500万』」
スコアボードに、両名の賭け金が表示される。
【安楽】16,000,000
安楽はその数字をぼんやりと見る。1600万。自分の命の値段だ。
そして。
【猫崎】46,000,000
【賭け金】5,000,000
「え? 猫崎さん? 500万って……あれ? そんな高額なんですか? ちょっと、高くないですか……?」
「ほら。俺はもう選んだぜ。カードを選べよ、兄ちゃん」
安楽がスコアボードを眺めている間に——
猫崎は。既にカードを一枚伏せていた。
「なっなっ……なああっ……」
……ハメられた、と。
気付いたときにはもう遅かった。
安楽希という男。いつも、事が悪い方向に向かっているときは気付かない。
そして。
いつも、そうなってから気付く。全て、運が悪い方向に進んでいたと。
「500万なんて聞いてないですよ!? 俺は、1600万しか手持ちがなくて……!」
「……安楽様。ゲームは開始されました。カードをお選びください」
「は、は、はあー――!?」
安楽はおそるおそる手札を見る。
「グー」「チョキ」「パー」
……相手も、同じものを引いているはず……ってことは……
この回は、ただの、じゃんけんだ。