ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
1ラウンド目。結果から言うと、安楽希は敗けた。
ただランダムに札を出すだけであるのに、安楽は三分も熟考し、そして彼が震える手で差し出した「パー」の札は、猫崎の出していた「チョキ」に叩き割られた。
唖然とする安楽の前で、賭け金が移動する。
【安楽】11,000,000 -5,000,000
【猫崎】51,000,000 +5,000,000
「……1ラウンド目から勝てるとはなあ。ラッキーだぜ」
猫崎は、舐るように安楽を見続けている。
安楽は、画面を見つめたまま……失った、500万円を認められないまま微動だにできない。
「2ラウンド目を開始します。「親」である安楽様、賭け金をお決め下さい」
安楽は、震える手でカードを確認した。
安楽「パー」「パー」「グー」
ということは……と、安楽はまとまらない頭で考える。
安楽「パー」「パー」「グー」
猫崎「グー」「チョキ」「チョキ」
お互いのカードの内訳はこうなっているはずだ。
「賭け金は、とりあえず……す、少なめで……」
「……ここ、「5スロット」では最小額100万円からのベットとなっております」
「じゃ、じゃあそれでお願いします」
このとき。安楽の頭にあったのは、勝利への執念でも、それでいて敗北への焦りでもなかった。
ただ、怖い。死ぬのが怖い。その一心で、カードを選んでしまう。
最悪の運勢を、自ら呼び寄せてしまう。
彼が選んだのは……どう転ぶにしろ、1ターンだけは助かるカードだった。
安楽がカードを伏せたのを見て、猫崎はその獰猛な本性を隠しもせずににたりと笑う。
——怖さに負けて、「先延ばしたな」、と。
迷うことなく猫崎が出したカードが、安楽のカードと同時に公開される。
【安楽】「グー」
【猫崎】「グー」
「1ターン目は、あいことなります」
「ッあっ? ああ?」
……猫崎は、目の前で腑抜けた声を出す男を白々しく眺めた。
最初に見たとき。少し、異様な男だと思ったのだ。
まるで。運命の神に守られているか……そうでないなら。「憎まれて」いるような。異様な雰囲気を感じたが。
こいつも同じ。これまで狩ってきた単なる雑魚と同じだったと、猫崎はほくそ笑む。
猫崎には、安楽の思考が手に取るように分かった。
このターン。「バンク」に入っている6枚のカードの内訳からして、猫崎の手札は、「グー」と「チョキ」しかない。つまり、このターンで安楽は「グー」さえ出しておけば、負けることだけは絶対になかったのだ。
しかし。1ターンを耐え凌ごうという、そのいわば「後退的」な気持ちが引き寄せた結果。2ターン目にて、残った手札は——
安楽「パー」「パー」
猫崎「チョキ」「チョキ」
【安楽】「パー」
【猫崎】「チョキ」
「……チョキにて、猫崎様の勝利です。100万円が移動いたします」
買いかぶり過ぎたな。
猫崎は、眼前で完全に静止した安楽を見てそう確信する。
完全に、カモであることは理解した。
であれば、もはや敵は眼前のこの安楽とかいうアホではない。
……同じ餌に群がろうとする、周囲のハイエナだ。
猫崎は抜け目なく周囲を見渡す。
おそらくこれで安楽を生かして放てば、他のギャンブラーたちがこぞって安楽をカモろうとするだろう。
ひひ、と猫崎は引き笑った。
お前らに渡すものか。
このカモは俺が絞りつくして、俺が5スロットの一段上の賭場……「4リンク」に登るための手土産にする……!
そうだ。俺はなんとしても、4リンクに上がらなくてはならない。
「それでは、3ラウンド目に入ります。カードを確認し、猫崎様は賭け金を設定し——」
「『500万』だ」
目の前のカモの喉が、再びひゅっっと鳴る音が聞こえる。
俺はこいつの金をぶんどって、4リンクにもう一度戻る。
獅子神敬一を、今度こそ叩きのめすために——!!
獅子神さんやっぱ好きです。かっこいいですね。