ジャンケットバンク ——The Beginner—— 作:上伊
3ラウンド。猫崎は、賭け金に500万を設定し、カードを確認する。
猫崎「グー」「チョキ」「パー」
「……興覚めだな」
猫崎は、眼前でうなだれるだけの安楽に向かって声を発した。
「……ぇ?」
「興覚めだよなあ。三種が揃うこの手札。結局のところは運ゲーになっちまう」
「ああ……そうですね」
そうは言いつつも、安楽は必死にこちらのカードを見つめている。
視線でバレバレだが、おそらくはふとしたことで、どれかのカードの裏でも見えないかと考えているのだろう。
……つくづく。レベルが低い。
猫崎は、5スロットの低レベルなゲームに飽き飽きしていた。
しかし——と、猫崎は、無意識で左手の平を撫でる。
その中央に刻まれた、いびつな傷跡を。
これは4リンクのゲーム「気まぐれルーシー」で付けた傷だ。
あの男。獅子神の手によって。
猫崎は、その男のせせら笑うような目を思い出すと、未だに苛立ちで脳が沸騰する。
しかし——あのゲームは、どれだけ読みに冴えた人間だろうと、一度も手に鍵を突き刺さないことなど不可能なのだ。そして実際、獅子神も幾度ならず手にソレを受けていた。
だというのに……
奴は笑って見せたのだ。
(あのときの俺に足りなかったのは……)
苦痛に耐える、能力だった。
辛酸をなめさせられることへの耐性。敗北することへの恐怖。
自分の手が、読まれていくことへの焦燥。
しかし、今は違う。
俺は、「戦い方」を必死で学んだ。
猫崎は、一枚のカードを伏せる。
「それでは、安楽様もカードをお選び下さ——」
「おい、安楽」
猫崎は獰猛に笑う。
全てが、分かっているかのように。
そして、彼は、手に残っているカードのうち一枚を表に返した。
「な……!」
「何やってんだあいつ」
ギャラリーの中でもどよめきが走る。
猫崎が表にしたのは……「パー」のカードだった。
「おーい、兄ちゃんよ」
意図が分からないかのように固まっている安楽が、びくりとその肩を震わせる。
「お前さんも一応アホじゃあないと踏んでるが。一応解説しといてやるよ、伝わってなくても面倒だしな。
俺は手札の二枚のうち一枚、「パー」を公開した。そんで、俺の手札はお前と同じ「グー」「チョキ」「パー」の三種類だ。
つまり俺が伏せてんのは……「チョキ」か「グー」。この二択しかあり得なくなったよなあ?」
「な……なぜこんなことを! まさか、イカサマ……?」
「……そりゃあ銀行員さんに聞いてみろよ。なあ、アンタ?」
銀行員は、動揺することもなく淡々と答える。
「我々は、絶対に公平に皆さまにギャンブルを楽しんでいただくため、ルールとして明言したことは絶対に遵守します。「バンク」に入っている六枚のカードの内訳は、「グー」「チョキ」「パー」それぞれ二枚ずつで、その数に増減はありません」
「だってよ。つまり俺が伏せたのは「チョキ」「グー」。この二択しかないぜ」
……猫崎だって、一度は4リンクに昇格したプレイヤーだ。冷静に考えて、自分の手札を一枚でも公開することが不利益であることは分かっている。
「チョキ」「グー」。この二択しかないなら、安楽は「グー」を出しておけば、絶対に負けることはない。しかも今回は先延ばしでもなく、2ラウンドでも敗北は確定しない。
しかし。猫崎は他人の感情を利用するのに長けていた。
猫崎の策にうまく敵がハマったことは……札をずっと凝視して、選ぶことができない安楽からも、明らかだった。