ジャンケットバンク ——The Beginner——   作:上伊

9 / 33
真経津 晨という男

「それでは4ラウンドを開始いたします。親の安楽様、賭け金の設定をお願いします」

 

 安楽は、ぼんやりと前を見る。

 いつの間にか配られていたカードを、全身から血が抜けたような挙動でなんとか手にする。

 

「か、かかかけ金は……ひゃ、百万で……」

 

 毒にも薬にもならない、ただ「延命」の百万。猫崎は、あきれた様に肩をすくめる。それも目にはいっていないかのように、安楽は配られたカードを取り落とさないように震える手で持ち上げる。

 

安楽「グー」「チョキ」「パー」

 

(また……! 運ゲーのラウンドだ……!)

 

 この時点で……安楽 希は限界だった。

 どうすれば勝てるのかも分からない。勝てる自信もない。何より……安楽は、このゲームが始まって以降。一度も勝てていない。

 だというのに、残った金は500万。猫崎がこれまで通りいくとしたら……次のラウンドで、俺の軍資金は尽きる。

 

 わなわなと……安楽は。脳死で、さっき猫崎が成功した戦法を取ろうと試みた。

 

「おっおっ俺の手札を! 一枚! こっ公開する——!!」

 

「やめときなよ」

 

その静かな声は、動悸と息切れで目を充血させていた俺の耳にも、はっきりと届いた。

 

「……ああ? 誰だテメエ」

 

 にやにやと笑いながらその様を見ていた猫崎が、邪魔された、とでもいうように、口を挟んだギャラリーのうちの一人を詰める。

 

「おっと。プレイに関する口出しは厳禁、だったかな」

「……明言はされておりませんが、ギャラリーの方の干渉はお控えいただけると」

「そっか。でもボクは、ここで他の人の組んだイカサマされたけどね」

「何者だ? テメぇ……」

 

 猫崎が睨む。俺もその先を見やる。と——

 

「ボク? ボクは真経津 晨。22歳魚座、AB型だよ」

 

青年が。立っていた。

けっこうな美貌に、すらりとした体躯。髪は天然気味に丸く跳ねていて。

そして、とてもこんな賭場に来るような人間には思えないと。安楽 希はそう感じた。

 

「……なんで邪魔した?」

「待ってくれ。ボクは他の人の楽しみを邪魔するつもりはないんだ。だけど」

 

 彼は、俺の目を真っすぐ見据える。

 その先にある、俺の全てが見透かされるようで、居心地が悪くて身じろぎをした。

 

「……キミは、絶対に勝てないよ。このままだと、そのまま負けるだけだ」

 

「ぐだぐだうるせえな。他人のプレイングに口出すなら……おい、出てこい。マフツとやら」

 

 猫崎が、堪忍袋の緒が切れたかのように、マフツという男を呼ぶ。

 それを受けて、ギャラリーの輪から、彼が一歩進み出た。

 

「そこまで言うなら、テメェもこれ終わったら俺とやれよ?」

「本当? それは嬉しいよ! 丁度、暇してて遊び相手が欲しかった所なんだ。だけど……」

 

 マフツは、くるりと、本当に楽しそうに俺と猫崎を一周見渡して。

 

「でも。ボクは今からの途中参加でも大歓迎だよ?」

「「は?」」

 

 その声は。俺と、猫崎が同時に発した言葉だった。

 

 しかし、先に反応したのは猫崎だった。

 

「……いいだろう。俺の楽しみを邪魔した埋め合わせをしてもらおう。で、お前はソイツに何を賭けんだ? 兄ちゃんとはお友達なのか?」

 

からかうような声に、マフツは応える。

 

「いや。全然知らない人だよ。でも、どうしても楽しそうだから声をかけちゃった」

「は。……じゃあ。お前ももちろん賭けろよ」

「うん。それで構わないよ」

「……銀行的にはどうなんだ?」

 

 初めて表情を浮かべている銀行員に向かって、猫崎は尋ねる。

 

「……ルールとして、途中参加は禁止されておりませんが……しかし……」

 

 と、彼に新しく駆け寄ってくる銀行員の姿があった。

 彼らは、ゲームの進行をよそになにやら話し合っている。

 

「……あの男……「デギズ…ン」……」

「まさか………まだ4リンク……手続き……」

「…しかし……「装う者」なら……」

 

 しばらくの会話の後——

 

「……いいでしょう。マフツ様の途中参加を認めます。しかし、プレイヤーとしての参入はルールに反しますので認められません。あくまで、安楽様への助言、という形のみになります。猫崎様も、よろしいですか?」

「それで賭け金が増えんなら大助かりだよ。勿論——テメエも構わねえよな?」

「ボクはもちろん、最初からそのつもりだよ」

 

 自分抜きで進む話に……安楽希は困惑する、が。

 

「キミ、安楽くんって言うの?」

「お……おう。お前は、なんて呼べばいいんだ……?」

「ボク? ボクのことは」

 

 気軽にマフツくんでいいよ。と。

 目の前の男は笑って、それじゃ、ゲームに戻ろうか。と言った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。