実力至上主義教室の13人   作:もうすぐ死にます

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鎌倉殿ロスの余り書いてしまいました人気が有れば続けたいと思います。


報いの時

 

 時は元仁元年六月十三日

 

 日ノ本の政の中心地、鎌倉に聳える北条の館にて一人の男がその命を終えようとしていた。

 

 男の名は北条義時。

 

 伊豆の豪族の次男坊から鎌倉幕府の執権にまで上り詰めた人物であり、承久の乱に勝利し、後鳥羽上皇を島流しにした歴史上初の人物である。だがそれも今は昔。かつて冷静に物事を映していた瞳は今や真っ赤に血走り、全身に纏っていた静かな覇気も無く、ただ床に這い蹲って零れた毒消しの薬に縋っている。

 

 思えば義時の身体に異変が起きたのはつい最近、最初は少し眩暈を感じるだけであり、義時もそれほど深く考えていなかった。だが僧に造らせた仏像の不出来さに憤慨し、破壊しようとした途端強い眩暈に襲われて昏倒したのだ。

 

 医者の診断の結果、義時は毒を盛られていたらしく、彼はそれを聞いた瞬間何が元凶で、誰が自分に毒を持ったのか合点が行った。

 

そう、自分の三番目の妻となる女性、のえ。

彼女は老齢の域に入った義時の滋養の為に毎日のように自分に薬を飲ませていた。思えばあの時から体の不調を感じた事も有り、毒と聞いた瞬間に義時は全てを悟ったのだ。

 

執権が毒を盛られたとなれば北条の名に傷が付く。のえとは離縁はできない。義時はのえの本性をもっと早く見抜くべきであった事を後悔しつつ、『二度と自分の前に現れるな』と口にし、彼女と決別したのだった。

 

それから数日後。

義時はこの日、特に調子が優れなかった。

 

 そんな中、とある人物が義時の元に訪ねて来る。義時の姉であり鎌倉幕府の最高権力者である尼将軍、北条政子だ。政子と義時は縁側に座り、静かにこの先の鎌倉について言葉を交わす。

 

 上皇を島流しにした大悪人と身内を追いやって尼将軍にまで昇り詰めた稀代の悪女。だがここでは真摯にこれからの世の事、鎌倉の未来の事を語り合う『姉弟』そのものであり、何より互いが認める『家族』であった。

 

 平穏な団欒の中、義時は昔の事をしみじみと振り返る。

 

 「それにしても……血が流れ過ぎました。頼朝様が亡くなってから何人が死んでいったか……梶原殿……全成殿…比企殿……仁田殿‥‥頼家様‥‥畠山重忠……稲毛殿‥‥平賀殿‥‥和田殿‥‥仲章殿…‥実朝様…公暁殿……時元殿…これだけで十三……」

 

 激動の中に散っていった命達。それも自分が奪っていった命達。多すぎる犠牲に自嘲しながらも汚れた己の手を見る義時。

 

「待って――――」

 

 だが政子は何かに気付いたのか、突如弟の言葉を遮った。

 

「頼家がどうして入っているの?」

 

「はい?」

 

「だっておかしいじゃない。あの子は病で死んだって、貴方が……」

 

 源頼家―――源頼朝の長男であり、政子の実の息子。彼は頼朝の死後に2代目鎌倉殿となった後、後鳥羽上皇と手を組んだ事で義時に暗殺された人物。義時は当時彼女には酷であると考えてか、政子に頼家は病で死んだと嘘を吐いていたが、完全に全てが終わった今、体が弱っていた事もあってか口を滑らせてしまったのだ。

 

「ダメよ…嘘つきなら、最後まで嘘を覚えていないと。」

 

 政子は義時に詰め寄った。自分の息子はどんな最期だったのかを。政子は前々から頼家がどの様な結末を迎えていたか察していた、だがこれまで義時にそれを聞くのが怖かった。しかし今、彼女は母親として息子の死に様を知る決意を固めたのだ。

 

 これには義時も折れ、静かに自分が隠してきた罪を明かす。頼家が敵方である上皇と手を組み、鎌倉を滅ぼそうとした事、それを止める為に彼を義時自身が放った刺客に暗殺させた事。全てを政子に打ち明けた。

 

「頼家様は自ら太刀を取って最後まで生き延びようとされた。見事な御最期だったと聞いています。」

 

「あの子は……そう言う子です。 有難う、教えてくれて。」

 

 政子は瞼に涙を浮かべつつも、悠然とした姿をみせる政子。それを尻目に義時は、漸く重い肩荷が降りた様に溜め息を吐く。

 

これで全て一安心……いや、まだそれは出来ない。義時はやり残した事を為すために、政子に些細な頼み事を申し付けた。

 

「姉上……今日の私は……酷く調子が悪い。 あそこに薬があります。取って頂けませんか。」

 

それを聞くと、政子は静かに頷き薬の元へと向かって行く。そう、義時にはまだやるべき事がある。これからの世の為、平穏の為に。

 

「私にはまだやるべきことが有る。沖の上皇様の血を引く帝が返り咲こうとしている‥‥何とかしなくては。」

 

だが彼女は薬を手にした途端、ぽつりと零れるように言葉を漏らした。

 

「まだ手を汚すつもりですか。」

 

「この世の怒りと呪いを全てを抱えて……私は地獄へ持っていく……太郎の為です。私の名が汚れるだけ、北条泰時の名が輝く……」

 

毒による息苦しさを感じながら義時は気力を振り絞って、政子にそう返す。全ては自分の愛する息子の為、近い内に自分に続いて執権となるだろう泰時が自分の手を血で汚さない様にする為。だが政子は目を潤ませながら毒消し薬の瓶を握りしめる。

 

「そんな事しなくても……太郎は新しい鎌倉を作ってくれますよ。……私達も長く生き過ぎたのかもしれない。」

 

 血を吐くように、辛そうに政子はそう告げる。そして毒消し薬の瓶の蓋を取ると静かに逆さに傾けた。

 

「……姉上?」

 

「寂しい思いはさせません。私もそう遠くない間にそちらに行きます。」

 

 床に零れ広がっていく薬を見ながら、既に動かなくなった体を必死に操ろうとする義時。だが無情にも毒による苦しみは強まっていく。

 

「私は……まだ死ねん! ‥‥まだ!」

 

 冠が取れ、髻が晒されても尚、義時は苦しみながらも這いつくばり、言う事を聞か無くなった体を必死に動かして、床に零れた薬を舐めようと今自分が出せる渾身の力で腕を動かし、前へ進む。

 

 這って、ただ這って。毒に蝕まれ、既に呼吸すら出来なくなった体で必死に生へと縋りつく。だが義時と薬との距離が目と鼻の先にまで迫った瞬間―――

 

「………!」

 

ひらりと政子の袖が義時の前を遮り、一瞬で薬を拭き取ってしまった。

 

「太郎は賢い子……頼朝様やあなたが出来なかった事をきっと成し遂げてくれる……北条泰時を信じましょう。賢い八重さんの息子を……」

 

「確かに……アレを見ていると…八重を、思い出す事が…有る……」

 

 呼吸も出来ず、目が霞み、心の臓が動きを止めようとする中、かつて自分が愛した妻を回想し、義時の瞼には自然と涙が溢れていく。小さい頃妻に先立たれ、男手一人で育てた自分の愛する息子。彼は優しい子だ、彼ならきっと新しい時代を創り、誰も汚れる事無い世界を作ってくれるだろう。

 

「でもね……もっと似ている人が居ます。……貴方よ。」

 

 瞬間、義時の頬に涙が流れる。既に視界すら失われつつある義時には今ここに居る家族の顔を見る事は叶わない。だが政子の声を聴いて、彼女が涙を流していると言う事は直感的に理解できていた。

 

身体が苦しい。息もできない。徐々に迫って来る『死』だが不思議と恐怖は無かった。義時は報いの時を受け入れる事を決意したのだ。

 

 だが最期に、たった一つだけ我儘を聞いて欲しい。義時は命の灯が消えゆく中政子に最初で最後の頼みを申し付ける。

 

「姉上…! あれを……太郎に……!」

 

 義時が指を差し、息子に預ける様に頼んだのは小指の大きさ程度の小さな観音像。かつて自分の師である源頼朝の物であり、彼の死後政子から授かった物だ。これは鎌倉を守った男達の魂の証。これを託すと言う事は此処鎌倉を託すという事だ。

 

「……必ず渡します。」

 

 義時はそれを聞いて静かに安堵する。これでもう何も思い残す事は無い。自分の役目はもう終わったのだ。これ以上心を裂く必要は無い。まだ心配な事も有るがそれも全て泰時に任せよう。

 

「姉上……」

 

もう目は完全に見えなくなり、体が徐々に冷たくなっていく。そろそろ時間の様だ。だが義時は最後の最後に、姉に礼を今までの礼を言いたかった。しかし無情にもそれも叶わない。義時には既に口を動かす気力も喉を震わせる体力も残っていない。

 

そして意識が完全に失われる直前。政子の涙で震えた最後の言葉が耳に入った。

 

「小四郎‥‥ご苦労様でした。」

 

―――元仁元年六月十三日 こうして小さな豪族の次男坊として生まれた鎌倉幕府2代目執権、北条江間小四郎義時はこの日、静かに息を引き取った。

 

 彼の死後、義時の子孫である北条家は十七代も続き、彼らが守った鎌倉幕府は百五十年もの歴史を刻み続け、時代と共に諸行無常に流されていく。

 

 されどそれはまた別の話。

 

 これより始まるは、一人の男の物語の続き。いや、人生のやり直しの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 




第1回『輪廻の悪戯』

この中で一番有りな展開は?

  • アサシン善児再び
  • 茶柱先生辞職√
  • Ⅾクラスのオーベルシュタイン爆誕
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