実力至上主義教室の13人 作:もうすぐ死にます
「次の発車だ!」って言うネタを挟むべきかと、今更悩む作者です。
櫛田と共に教室に入ると、黒板には席順表であろう物が掲示されていた。
「私は結構前の席だね……江間君は?」
「……ここだ。」
「そっか。結構離れているね。残念。」
私が掲示板にある自分の名を指差すと、櫛田は残念そうに肩を竦めた。どうにもあざとい。一瞬可憐と思ってしまったが、不安分子である以上あまり深くは想わない。
櫛田と別れた後、席に着き。辺りを暫く見渡す。やはり入学式まで時間がある為か、人は少ない様だ。取り敢えず、今の内に近くの席の者に話し掛けてみよう。
私はすぐ隣の席で本を読んでいる女子に話し掛けてみる事にした。
「あの……」
「…………」
反応がない。
「あの、君。」
今度は少し語気を強めて、はっきりと聞こえる様な発生で呼び掛ける。すると女子の方は静かに本を閉じ、鬱陶しそうに此方を見上げる。
「………誰?」
「――――!」
だが女子の顔を見た瞬間、私はバスで櫛田と出会った時の比ではない衝撃を受け、人と人との間を繋ぐ『縁』の深さに戦慄した。
(姉…上……)
そう、彼女に感じたのは生前の頃の懐かしき面影。私の実の姉であり、頼朝様の正室となって生前の私と共に苦楽を共にした家族。北条政子の物と同じだったのだ。確かに前世とは顔つきも違う、だが彼女から醸し出される雰囲気や、何より彼女の『瞳』は正に瓜二つ。外見は違えど、彼女の面影は姉上そのものと言っても過言では無い程であった。
「何かしら、用が無いなら話し掛けないで頂戴。」
「あ、いや……その……隣の席だし、挨拶をと。……私は江間小四郎。貴方は?」
「拒否させてもらっても良いかしら。」
しかし直後、姉上の面影は一瞬にして消え、女子は再び手に持っている本へ目を移し始めてしまった。妙だ……先程まで感じていた姉上の雰囲気は微塵も感じない。むしろ今は彼女に対する僅かな怒りを覚えているくらいだ。だが先程一瞬だけ感じた姉上の気配…‥‥一体アレは何だったのだろうか。
内心困惑しつつも席に着き、窓に映し出される空を見上げる。思えば随分と雲の数が多くなったものだ。前世では工場も煙突も無かったから、それも関係あのだろうか。そんな事を考えていると、ふと何処からか視線を感じ、思わずそちらに振り返る。視線の先には先程会話を交わした女子が本を机に置き、此方を目を細めながら見ていた。
「‥‥あの…私の顔に何か?」
「貴方……前に何処かで会っていない?」
瞬間、背筋に冷汗が一筋流れる。この女子、やはり記憶が無いだけで姉上の……いや、私の事を
「いえ……人違いかと……」
「そう……」
何はともあれ、今はこれからの学園生活について考えよう。心なしか教室に居る生徒の数が増えて来た。どうやらそろそろ入学式も近いらしい。
すると、黒いスーツを着た女性教師が入って来た。どうやらこのクラスの担任の様だ。
「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う、よろしく。今から一時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校のルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布してあるがな。」
茶柱佐枝。どうやらこの女子が私達のクラスの担任らしい。
だが正直、私はこの時代の『教師』に関する事で良い思い出が余りない。勿論教え子を導こうとする素晴らしい教師も居るだろうが、私が会った者は皆そのような事は考えておらず、私欲に走ってばかり。くれぐれも中学の頃の二の足は踏みたくないのだが…この女はどうなるか。
あまり思い出したくない中学時代を思い返す中、茶柱先生は淡々と説明を進めていく。
「施設内では機械にこのカードを通すか、提示することで使用可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろう。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員に平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。これ以上の説明は不要だろう。」
説明を聞くなりクラスのほぼ全員が喜びの声を上げる。説明が正しければ自分達は入学早々10万円という大金を支給されたのだ。燥ぎたくなるのも無理もない。だが私は前世の経験から妙な違和感を感じていた。
好機と捉えれば間髪入れずにそれに飛びつく事も大切だ。だが此方側に都合の良すぎる話は何処かに落とし穴があり、下手に鵜呑みにすれば痛い目に遭う。良くある話だ。
しかしクラス一人に10万か‥‥もしこの学校の生徒一人一人に毎月10万もの大金を支給しているとなると、日ノ本も随分富んだ物だ。しかし、こう言った物は基本的に税で賄っているものだろうが、少々財政が不安に思えて来る。
「ポイントの支給額が多いことに驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちにはそれだけの価値と可能性があると言うことだ。だが無理矢理カツアゲするような真似だけはするなよ。学校はいじめ問題にだけは敏感だからな。こちらからは以上だ、質問があれば受け付けるが何かあるか?」
最後の確認事項として、質問を受け付ける茶柱先生。丁度いい、少しポイントについて気になっていた所が有った。この際聞いて見る事にしよう。
『実力で測る』という言葉、少々不審だ。彼女の言う通りこの学校を受験し、その実力を評価してこの10万ポイントを支給したとなれば、その後の事はどうなる? 瘦せ細った剣士でも実際に手合わせしてみれば意外に手強い事も有る。その逆もまた然りだ。もし入学した後に『実力無し。』と判断された場合、ポイントはどうなる?
「あの…よろしいでしょうか。」
「ん、江間か。何だ?」
「今回10万と言うポイントを自分達は頂きましたが、来月はどうなるのです?」
「ポイントは毎月1日に支給される。安心しろ。」
再び教室の生徒達はざわつく。当然だ、毎月大金を貰えるとなれば、誰しもがそうなる。だが……
「失礼、もう1つ宜しいでしょうか?」
「何だ? 言って見ろ。」
「先生は先程『この学校は生徒を実力で測る』と仰っていましたが、もし実力が無い者と判断した場合、このポイントは貰えなくなるのでしょうか?」
瞬間、茶柱先生の眉が一瞬ピクリと動くが、直ぐに腕を組んで返答した。
「‥‥時と場合による。」
何とも漠然な。しかしこれで僅かに答えが見えた。彼女が否定をしなかったと言う事は、実際この学校の教師、あるいはそれに準ずる機関が生徒の実力を判断し、『実力なし』と判断すればポイントの支給が無くなる可能性が有ると言う事だ。
もしそれが正しければ何とも極端な政策か。確かに国全体の出費を抑える事は出来るやもしれんが、これでは富める者と貧しい物が極端に別れてしまい、財政を制御できても人は制御できず、国が潰れるぞ。
私はこの政策を考えた物に警告したい気持ちを必死に押し殺しながら、最後に一つ気になった懸念を問う。
「最後に……他の先生に先程の質問しても、答えは同じでしょうか。」
「……それも時と場合による。質問は以上か?」
「はい、それさえ解れば。」
茶柱先生は質問がないと知ると、そそくさと教室を去ってしまった。
どうやら決まりの様だ。仮に私の懸念が正しければ、ポイントに関する事には教師の間で箝口令が敷かれており、このクラスの生徒以外もこの不明瞭な説明を受けている事になる。
そして仮に皆同じ説明を受けているとなれば、それは教師の独断の意図ではなく、学校全体の意図という事だ。
これだけでも随分と情報を集められた。だが実証する余地がない為、不安分子が多すぎる。確証に至るには少し骨を折る必要が有りそうだ。
他の生徒も私の質問や、茶柱先生の回答に対して思う所が有るらしく、小さくそれに関して相談の声が聞こえる。だが、そんな空気を明るく変える様に、一人の男子生徒が立ち上がった。
「みんな色々思う所も有るだろうけど、折角同じクラスになったんだ。これから自己紹介をしないかい? 僕は平田洋介。基本的に運動が好きでサッカー部に入ろうと思ってるよ。これから宜しく」
心なしか辺りの女子達が騒がしい。大方この平田洋介なる男の見栄えが良い事も有るのだろう。だが…ふと彼の貌を見ていると、一瞬だけ過去の出来事が頭に過ぎった。
(……次郎……)
かつて謀反の濡れ衣を着せられ、父上の命で兵を上げて討ち取った人物であり、共に戦ってきた友の一人。畠山重忠。
思えば……あの時何故私に止めを刺さなかったのか、何となく解る気がする。彼と最後に酒を呑んだあの夜、彼は私に『本当の鎌倉の敵』を教えてくれた。いや、あの場合は催促と言った方が良いだろう。……あの時、もっと早く腹を括っていれば、どうなっていたのだろうか……
そんな風に前世での出来事を思い返していると、自己紹介も進んでいた様で、バスで出逢った櫛田桔梗、少し気弱そうでこう言った場か苦手そうな井の頭心、裕福な家庭に生まれ育った事が原因か、少々傲慢な物言いが目立つ高円寺六助、如何にもお調子者である事が解る池寛治、山内春樹が自己紹介を済ませる。だが気乗りしない者も少なからず居たらしく、赤髪の粗暴な男子生徒や、先程私が話し掛けた女子も教室を出て何処かへと去って行ってしまった。
私も余りこう言った場は気乗りしない。だがこれから学友としてやっていく以上、互いの事を知っておくのは重要だ。相手の事を知っているだけで人間関係とは大きく変わると前世では嫌という程学んだ。
「それじゃあ、次の君。お願できるかな。」
「あ、ああ……」
遂に出番がやって来たか……私は周りの自己紹介を聞きながら頭の中で執筆していた台本を相手に行き取りやすいように、はっきりとした口調で話し始める。
「江間小四郎と申します。趣味は弓道で、特技は数学と歴史です。色々これからお世話になると思いますが、よろしくお願いします。」
久しぶりに人前で話したが、どうやら特に問題無かったようだ。無事に話し終える事ができた。すると何処からか女子の黄色い声が上がる。
「結構カッコよくない?」
「ホント、俳優さんみたい。ってか名前忘れちゃったけど、何処かの俳優さんに似てない?」
「うんうん! その……ドラマの名前何だっけ……ナントカに団子で出ていた! 金髪だったらもうコレ本物だよ!」
女子達が盛り上がっている光景を見ると、少し面映ゆく思ってしまう。だが男子たちはそれが気に食わないらしく、何処か恨めしい視線を感じた。恨まれる事には慣れているが、まさかこんな事で嫌な目で見られるとは…‥
「それじゃあ、次の人お願い出来るかい?」
次は私の後ろの席の者の番らしい。後ろの席の男子生徒は気怠そうに立ち上がると、周りを見渡し、口を開き始めた。
「えー…えっと、綾小路清隆です。その、えー‥‥‥得意な事は特には有りませんが、皆と仲良くなれる様に頑張りますので…えー、よろしくお願いします。」
瞬間空気が凍るほどの沈黙。
「よろしくね、綾小路君。仲良くしたいのは僕達も同じだ。一緒に頑張ろう。」
平田は状況を察したのか明るい笑顔でそう言った。彼に倣ってか、周りの生徒達も便乗する様にパラパラと拍手が起こる、おそらく彼の失敗を見抜いてのフォローだろう。
しかし高校での学友か……随分癖の強い者達が多い様だが、これからどうなる事やら……
今生の人間関係について期待と不安を抱える中、私は入学式までの僅かな時間を過ごすのだった。
鎌倉殿の他にも、皆が知っているあの時代劇とのクロスオーバー小説の執筆しました
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よろしければご覧ください。
ご感想お待ちしております。
第三回『姉と弟』
この中で一番有りな展開は?
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アサシン善児再び
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茶柱先生辞職√
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Ⅾクラスのオーベルシュタイン爆誕