孤独なドラムと蒼い惑星   作:なんJお嬢様部

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ぼざろのアニメが終わったので、書き始めてみました。10話くらいで終わる見通しです。

オリ主は根暗なので、会話少なく地の文多めです。


モーニンググローリー

小さい頃から、ドラムが好きだった。

 

将来は絶対、ドラムを仕事にして生きていけると信じていた。

 

でも、現実は甘くなくて。

 

それでも、ドラムが好きで好きでたまらなくて。

 

好きなだけじゃ、駄目なのか。

 

愛だけでは、生きていけないのか。

 

 

◇◇◇

 

 

「――あ」

 

どうやら、椅子に座ったまま少し微睡んでいたらしい。風に揺れるカーテンの隙間から差す光で、僕は覚醒した。

 

HR前の朝の教室は、騒々しさと少しの気だるさを孕んでいる。クラスメイト達は、珊瑚の間を巡る熱帯魚のように、机の間をすり抜けて仲間の元へ向かう。同じ制服に身を包んで、身体を寄せ合う彼らは本当に魚の群れみたいだ。

その姿を横目で眺めながら、場違いな深海魚である僕は細やかな息を1つ吐いた。

 

いわゆる「高校デビュー」というやつに失敗した、というよりはする気が無かった僕に、話しかけるクラスメイトはいない。教室の窓際、最後列の片隅で、息を潜めるように座るのが入学してからの僕のルーティンワークになっていた。恐らく、月ごとの席替えで別の席に移動したとしても、全く同じことをやっているだろう。

 

でも、そんなことはどうでもよかった。別に同じ教室にいるから友達にならなければいけないなんてことはない。僕たちは偶然同じ年に生まれて、同じ高校を選んで、同じ教室に押し込められているだけだ。

友情を結ぶのは、本当に心を通わせあった人だけでいい。友達百人できなくても、たったひとりだけでも心で通じ合える友がいればいい。それが僕のスタンスだった。

 

そんなわけで、教室に友達のいない僕は、机に開いたままだった本に目を落とす。本の内容は、ドラムのフィルイン辞典。もう5年以上読み込んだその本は、カバーが擦り切れ、表紙も少し千切れている。ドッグイヤーや書き込みだらけのページは、もう何度見たか分からない。

それでも僕は、まだ吸い取れる情報は無いかと食い入るようにページを眺めて、脳内でイメージしたドラムを叩く。ドラムを叩くことだけが、僕の生きがいだ。

 

3歳の頃、父に買ってもらったドラムを叩くサルの玩具。それが僕をドラムの世界へと誘った。4歳でサンタクロースに玩具のドラムセットをねだってから、ドラムを叩かなかった日は数えるほどしかない。この年でこれだけのキャリアを積んだドラマーは、日本広しといえども数えるほどしかいないと自負している。

 

そんな僕の夢は「ドラマーとしてのプロデビュー」。

数年前から同じような思いを持つ仲間とバンドを組んで、夢に向かってずっとひた走っている。

厳密に言うと違うのだが、僕に傍目から「友達」に見える人間がいるとするなら、多分彼らのことなのだろう。

彼らの顔を思い浮かべると、彼らに恥ずかしくない自分になろうと、イメージトレーニングにも熱が入る。プロデビューのためには、一分一秒を疎かにすることはできない。

 

再びイメージトレーニングに戻ろうとした僕の耳に、教室のドアが開く音が届く。刹那、室内がしんと静まり、入り込んできた者が群れの仲間か否か、見定めるための視線がそこに集まる。

友人がいるわけではない僕も、音に釣られるように自然に入り口へと目を向けていた。

 

視線の先にいたのは一人の少女。制服の上に、目を引くピンク色のジャージを着たその少女は、みんなの視線に怯えるように、猫背気味の姿勢で俯きながら教室へと滑り込んだ。

どうやら、教室内の群れに彼女の居場所は無かったらしい。彼女に注がれた視線は一瞬で霧散し、教室にはまた朝の喧噪が戻り始める。

 

でも、そんな中で彼女に注がれ続ける視線が一つだけ残っていた。

 

それは、僕の視線だ。

 

クラスメイトが興味を失ってなお、僕の興味は依然として彼女に注がれていた。

もっと正確に言えば、彼女の背負うギターケースに、である。

 

(……ギターだ。ケースの厚みからしてエレキっぽい。前まで持ってきてなかったのに)

 

この学校でギターをしている人間を、僕は一通り知っている。なぜなら、入学後に軽音部に入るか迷って、一度だけ顔を出したことがあるからだ(結局、入ることはなかった)。

 

(でも、その時に彼女は絶対にいなかった。だって、あれだけ特徴的なピンク色のジャージ、一度見たら忘れるはずがないから)

 

そんなわけで、突如として僕の前に現れた謎のギタリスト。彼女の名前は――

 

(…………何だっけ?)

 

――分からなかった。入学直後のクラス開きで、自己紹介は一通りしたはずなのだが、記憶に残っていない。あれだけ派手な格好をして、それでいてここまで印象に残らないということは僕と同じ、根っこの部分で余程の日陰者なのだろう。

 

(なんだろう、何かすごく特徴的な名前だったような……)

 

頭の中でぐるぐる回る考えは、いつまで経っても答えを導き出せないでいた。

でも、その答えは思わぬところから舞い降りてきた。

 

「あ、後藤さん。今日、日直だからチョーク補充しといたほうがいいよ〜」

「ひゅっ!? あ、ありがとうございます……」

 

思いがけないことだったのだろう。声をかけられたピンク色の少女は、声を出す前に驚きながら息を吸い込んだ。

僕にもよく分かる。あまり声をかけられることがないと、言葉を発する前に一呼吸入れないと声が出ないのだ。

 

声をかけてくれた少女に対して、ピンク色の少女は視線を合わさずに、ぺこぺこと頭を下げながら黒板に向かう。相変わらず猫背気味なその背中を追いかける僕の目に、黒板の脇にチョークで書かれた日直の名前が留まった。

 

(……後藤、ひとり。そうだ、彼女は後藤ひとりさんだ)

 

その瞬間、僕はようやく彼女の名前を思い出したのである。

 

これは、僕と彼女――後藤ひとり――を巡る細やかな一つの物語だ。

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