なんとなくは察していたが、まさかまだ部員が一人もいなかったとは。
たった二人の生徒会執行部…あの狭い部屋にたった二人、加えてあの目に良いデザインの制服、果たして俺は理性を何分保てるのか。保つべきなのか、いやそれともここはもしかして野生に戻るべきなのか?自らのワイルドを解き放ち、本能のままにしたいことをすべてやり遂げるべきなのだろうか。
いや待て、こういうのは段階を踏むのが大事だと誰かが言っていたような気がする。軽い男に見られては困るからな。まずここは告白して、おっけーを貰ってからその場であつぅ~いキスを…
「めだかぁ…俺達よぉ…」
「む?どうした?」
「…」
振り返ると彼女はなんと衣服を脱いで下着姿になっていた。
思わず涙が目からあふれ出る。ああ神様、ありがとうございます。本当に…
「流石だ黒神めだか…3年のブランクがあろとも俺たちの間に言葉は必要ないってことだな…」
「…善吉、わかってくれるのか」
「どれだけ文明が発展しようと結局俺たちは
俺は見誤っていたよ。この3年間、想いを溜めていたのは俺だけではなかったらしい。「女の子だって性欲はある」そんな言葉を聞いた時は未熟故信じ切ることはできなかった。今はただ感謝しかない。
「?カーニバルはよくわからないが着替えたらさっさと武道場に向かうぞ、記念すべき第一号の投書を解決せねばならん」
「俺は別にここでおっぱじめても構わな…は?」
もう既に制服を脱ぎ始めていた俺はぴたりと手を止める。
もう一度めだかちゃんの方を見ると彼女はいそいそと剣道着に着替えていた。俺はこのどこに向かうこともできないやるせない気持ちをこぶしを握り締めることで諫めようとした。
「どうした善吉、何故泣く、久しぶりの再会がそんなにも嬉しいか」
「はい久しぶりの再会に涙が止まりません」
剣道着を着ためだかちゃんの隣を歩く俺、きっと世界で一番不幸な人間の顔をしていると思う。
大体なんだってんだ。「使われていない剣道場に溜まってる不良生徒をどうにかしてくれ」ってどういうことだよ。使われてない剣道場なんだからたむろさせてやれよ。というか教師に頼めよそんなものはよ。こちとら便利屋じゃねえんだぞチクショウ。
「貴様は昔から変わらんな」
「お前にだけは言われたかねえよ」
…いや、俺が少しおかしくなっていたのかもしれないな。健全な青少年、いや生徒会執行部としてめだかちゃんの隣にいる以上、立場を考えて身の丈以上のことは望まないようにしよう。
「…私もお前を待っていたぞ、3年間ずっとな」
やっぱりキスくらいならもしかして大丈夫なんじゃないだろうか。
そんなことを考えているとあっという間に武道場についてしまった。もう少しこの甘酸っぱい雰囲気を感じていたかったが、それは仕事が終わった後にしよう。
「あ?なんだお前ら」
扉を開けるとゴミ屋敷のように散らかった武道場で8人程度の不良がヤニを吹かしたり漫画を読んだりで好き放題していた。
なるほど、確かに見たところしっかり不良って身なりだが、こんな奴らでもしっかり毎日健気に学校に来てるんだなって思うと可愛く思えてくる。
「夫婦漫才コンビです、俺がボケでこっちがツッコミね」
「生徒会執行部会長黒神めだかだ、」
俺の渾身のボケが簡単に捌かれてしまった。流石は黒神めだかだ。
「黒神めだかぁ?ああ、アレか…一年の癖に生徒会長になったとか言う女だろ?」
先頭に立っているリーダーと思わしき男が木刀を片手に立ち上がる。
「ワリーけど俺達忙しいんで帰ってもらっていーかぁ?」
木刀の先端がめだかちゃんに向けられる。いかにもチンピラといった雰囲気だな。俺が動かなくてもめだかちゃんならおそらく1人でなんとかするだろう。コイツは幼稚園児の頃から大人を脅すような奴だからな。
だけど今回は俺の成長具合を見てもらわなくちゃ困る。
「先輩、俺らアンタの妹について少し聞きたいことがあるんだけど」
「…あぁ?」
木刀の先端を軽く掴みながら話しかける。話題はなんでもいい、相手が数秒、いや数コンマでも興味を持つような適当な話題をぶつける。
そして相手が静止したら即座に木刀を握る親指の関節へと中高一本拳を思い切り打ち付ける。ゴリ、と鈍い音がして固い木刀と俺の拳の間で先輩の親指がすりつぶされた。
「「「「!!??」」」」
「ぃいいッ!!??ぎぁあああああッ!!!!」
細い骨が潰されるのはさぞかし痛いだろう。しかし休む暇を与えてはいけない。俺は木刀を離した先輩のコメカミにハイキックを打ち込んだ。
ふわりと彼の身体は浮き上がり俺から見て左側へと身体を半回転させながら吹き飛ぶ。
「こてあり、ってとこかな」
軽く背中を伸ばす。
「て、テメェ!!なにすんだぁ!!」
「出刃でもないなら凶器は両手で握れ、それと…」
地面に落ちた木刀を拾い上げる。
「今みたいなことをされたい奴は並べ、一人ずつ俺が教育してやる」
「「「「ッ!!」」」」
両手でしっかりと握った刀を振りかぶる。
振り下ろされて当たったら痛い、上段はこれを相手に伝えるのに適した構えだ。その証拠に多人数で圧倒的有利であるはずの相手はじりじりと後退りし始めている。
一人ずつ、という言葉選びも重要だ。次は自分かもしれない、という心理的な影響を与えることができる。
「…善吉もう十分だ、」
そこでめだかちゃんの声がかかった。横に吹き飛ばされた先輩の元へと一歩ずつ近づくとそっと手を差し伸べる。
「此方の庶務が血気盛んで悪かったな、まったくコイツは昔から私のことが大好きで、少しばかり過剰に反応してしまったようだ、許してやってくれ」
「…ッ…!ざけんな!ここまでされて引き下がれるか!」
めだかちゃんの腕を振り払いフラフラと自分の足で立ち上がる先輩。しかしめだかちゃんはそんな風に言われてもニィ、と表情を緩めるばかりだった。
「引き下がらなくて結構、いや寧ろ
「!?」
「『負けたくない』は何よりの成長の糧となる、私が貴様たちを成長させてやろう、強くしてやろう、叩き直してやろう」
「え、ぁ…?」
ざわつき始める周囲。
「何が原因か、何処で狂ったか、元々は純粋だった貴様たちの性格…私が元通りに直してやろう、さあ、時間はたっぷりあるんだ、剣道の練習といこうじゃないか」
「い、いやおれた「大丈夫、私には頼れる部下もいるんだ、人手は十分だぞ」
軽く手を振る俺。周りにいる不良たちの額から血の気が引いていくのがわかる。
その日剣道場には男たちの何重もの悲鳴が響き渡った。