放課後を迎え。私は高校デビューに失敗したと思しき後藤さんには目もくれず、メンバー募集の張り紙をさせてもらったライブハウスの一つ、"
出迎えてくれたのは、私のビラを見て連絡をくれた張本人である
談笑と言ってもほとんどが私への質問タイムだったのですが……さて、そんな中でテーブルの隅に置かれていた
「どぇええーーっ!!??」
立ち上がって叫びました。
「
「えぇ……?」
ライブ当日に届けられた脱退メッセージの無責任さに私が引いていると。
「なんで? 死んだ?」
山田さんが無表情にそんなことを言っていました。彼女の中で、バンドを辞めるというのは死と同義なのでしょうか。なかなかロックな生き様ですね。冷静に考えて、メッセージが届いた以上
「どっ、どうしよう……!? 最悪三人で……あっ、あたしギター弾ける人探してくるーー!!」
私や山田さんが言葉を続ける暇もなく、頭の中で何かしらの答えを出したらしい
「……見つかるとは思えませんが」
「まるで猪のようだ」
言外にこれからどうするのかと視線を向ければ、我ながら良い例えだと満足げに頷く山田さん。……二度あることは三度ある。このバンドももしかしたら外れだったかも知れません。
「オイ、バカ騒ぎしてるバカはどいつだ」
私が内心で「今回もダメだったか」と
「
「はぁ!? もうすぐ
見るからに不機嫌な顔で、肩を怒らせつつ去っていく店長さん。ステージで演奏する段階になって、私がとばっちりを食らわないよう願うばかりです。ちなみに
「……
「? 何がですか?」
突然に疑問符を投げかけられ、私は戸惑いつつ聞き返しました。ところで山田さんも、出て行ってしまった
「ギター死んじゃったけど。抜けたりしないのかなって」
なぜそんなに死んだことにしたがるんでしょうか。それはともかく、聞かれたことには答えましょう。
「まだ一緒に演奏すらしていませんから。当初予定していたメンバーが揃わなくとも。最悪、
顔も知らず、壁を隔てての演奏だったとしても、私がキーボードに何よりの楽しさを見出したように。お隣さんへ深い親愛を感じたように。もしかしたら、
「──そっか。まぁ、期待してくれるといいよ。私、ベース上手いから」
「それは……楽しみですね。手前味噌ですが、私もキーボードに関しては、同年代で頭一つ抜けている自信がありますので」
「ふっ、抜かしおる」
「そちらこそ」
山田さんは薄っすらと口元に笑みを浮かべていました。私は──どうでしょう。多分、そこまで愉快な表情はしていないでしょう。けれど、そこから暫くの間私たち二人に流れた沈黙の時間は、決して嫌なものではありませんでした。
「──む。
数分後、またも突然に山田さん。言うやいなや、スタスタと店の外へ歩いて行きます。もちろん私はついていきません。一緒に過ごした時間は決して長くありませんが、それでもなんとなく山田さんの生態はわかった気がします。つまり、まともに相手をするだけ疲れそうだな、ということ。
なんちゃって、とか言いながらUターンしてくる場合も大いに考えられましたので。釣られたと思われないようテーブルで水をすすって待機です。
「勝手に抜け出して店長怒ってたよ」
「ひぃっ。も~早く言ってよ……」
と、思いきや本当に帰ってきました。あれが野生の勘というやつでしょうか、山田さんは計り知れない人ですね……いやただの偶然でしょうけど。
しかし、私が山田さんと
「ひとりちゃんもっ。ほら!」
「アッ……ハィ」
先導する山田さんと続く
「げぇ」
思わず声が漏れたのは許してください。今朝関わるまいと誓ったばかりの同級生──隣の席の後藤ひとりさんが、ギターを担いで現れたのですから。