「ということで! 第一回"結束バンドメンバーミーティング"開催しまーす! 拍手っ!」
放課後。声をかけてくれた後藤さんと二人でやってきた
ちなみに後藤さんとは肩を並べて、とはいかず。先導する私の背後を彼女が
さて、ミーティングです。今朝ネットで得た情報を参考に、皆さんと信頼関係を築くべく、積極的に発言していきたいと思います。ノリよくとはいかないでしょうが、まずは口を開くところから始めなければ慣れも何もありませんからね。頑張りましょう。
「それじゃあえぇと──思えば全然仲良くないから何話せばいいか分かんないや……」
そう言って
「身も蓋もない……!」
「バンド活動というものに、お互いが求めているものを話し合うのが良いのでは無いでしょうか? それぞれの熱量と言うか、どれだけ真剣に取り組むかの判断材料になるでしょうし。そのうえで、将来的にどういった形で活動していくかの理想像を擦り合わせるというのが円満な関係につながると思うのですが」
「真面目すぎるっ!? いやまずはね? 雑談してお互いを知りつつ、仲良くなってからそういう所を話したいと思うんだよね。ほら、ある程度親しくないと、本当に大事なことってちゃんと言葉で伝えられないし」
とりあえず思いついたことを言ってみましたが、
例えばメジャーデビューしたいといったメンバーが居たとして、それがどれほど本気なのかだなんて、結局のところお互いのことを深く知らなければ判断できませんし。難しいですね、ミーティングというものは。
「そんな時のために、こんなものを……」
テーブルの下に手を伸ばして山田さんが取り出したのは──なるほど、雑談のテーマが書かれたサイコロのようです。……なにやら"バンジージャンプ"なる文字が見えますが無視しましょう。あくまで話題であって実際にそれをするというような趣旨ではないでしょうし。……しませんよね?
「ほいっ。何が出るかな? 何が出るかな~?」
「学校の話っ。略してガコバナ~!」
「が、ガコバナ~」
「はいぼっち、どうぞ」
「えっ、えぇ……?」
「えぇと……あっ。そういえば、ふたりとも同じ学校……」
後藤さんにもあらかじめ聞きたいことはあったのか、こちらはすんなりと質問が出てきました。
「そう!
「ふたりとも家が近いから選んだ」
「あぁ、下北沢にお住まいで……」
続く山田さんに、私もなるほどと頷きます。しかし口ぶりからするに、お二人は高校で意気投合したというより元々幼馴染だったのでしょうか? だとしたら少し羨ましいですね。
「あれ?
「私はこの
私も応じつつ後藤さんに視線を向けると。
「あっいや県外で片道2時間です……」
「2時間……?」
「なんでっ!?」
山田さんが
「高校は誰も自分の過去を知らないところに行きたくて……」
「はいガコバナ終了ーっ!!」
一人納得していると後藤さんが闇を垣間見せていました。瞬時に話題を打ち切った
「すっ、すみません。高校でも基本ひとりなもので、そのっ。楽しい浮かれたお話の一つもてっ、提供できなくて……」
しかし後藤さんから噴出したネガティブなオーラを
「だっ、だいじょぶだいじょぶ。りょ、リョウもねっ。そんな友達居ないし……」
「ん……
となれば私も乗らないわけにはいきませんね。後藤さんの言葉には共感できる部分もありますし。
「私も恥ずかしながらお友達と呼べる存在が居ませんので、後藤さんと同じですね」
「えっ──」
親しい相手が少ないとカミングアウトした私と山田さんに、少しだけ後藤さんの表情が明るくなりました。気持ちは痛いほどわかります。バンドメンバーで自分だけ孤立していて、他の仲間は友達がたくさんいるだなんて凄まじく劣等感を刺激されるでしょうから。というか過去の私がそうでした。今思い返せばの話で、当時はそれほど気にしていないつもりだったんですけどね。
「リョウはね~。休みの日は一人で廃墟探索したり、古着屋さん巡ったりしてるんだよ~」
「信じられるのは
「ぼっちちゃん、会話を楽しもうよ……?」
少し目を離したところで、何故かというか、やはりというか。後藤さんが打ちひしがれたようにプルプルと震えていました。どうやら山田さんの休日の過ごし方を聞いて心の距離が広がってしまったようです。そのおかげか、私に対する印象は良くなったようですが。いや良くなったと言えるのでしょうか? これは。
そうして所々に後藤さんの闇を発露させつつも、サイコロに従って私たちはミーティングを続けました。お互いの好きな音楽ジャンルを知れたのが一番大きな収穫だったかも知れませんね、そこが食い違えばバンド活動を続けるのは困難でしょうから。後藤さんの"青春コンプレックスを刺激しない歌"はなかなか理解が難しいところでしたが。その時の彼女の百面相はかなり心配になりましたし。
その後は、いよいよ明確にバンドとしての問題点が話題に上がりました。ボーカルをどうするか、という点ですね。
「初ライブはインストだったけど、次はボーカル入れたいんだ。ホントは逃げたギターの子が歌うはずだったんだけど……あの子どこ行ったんだろう?」
私も
「ボーカルまた探さなきゃ──」
自分は歌が下手だし、と。そう言って
「フロントマンまでしたら、私のワンマンになってバンドを潰してしまう……」
とのことでした。さすがに冗談でしょうけどね、演奏中はベースに集中したいというのが本意でしょう。おそらく。もし本音なら狂人過ぎてどうしようもありません。
ひとまずボーカルの話を横において、作詞・作曲の話に。作曲は山田さん、作詞は後藤さんがそれぞれ担当されることになりました。私はどちらも経験がありますが、過去にバンドメンバーの要望を形にしていただけでそこに拘りがあった訳では無いので辞退しました。と言っても、それぞれをそれぞれが主立って担当するというだけなので、私もお二人のサポートとして関わらせてもらいます。
「次はノルマの
次いで振られた
「つまり売れるまで滅茶苦茶お金いる」
と山田さんがざっくりまとめてくれました。先日のライブは
「ライブのノルマ代稼ぐためにバイトしよう!」
ということになったのでした。
「バイト!?」
叫んだのは後藤さんです。間違いなく今までで一番大きな声でしたね。そんなに嫌なのでしょうか? ……とっても嫌そうですね、両目が大きく開いて口はわぐわぐと声にならない苦悶を漏らしています。
そして消沈した様子で、後藤さんは鞄から何かを取り出して
「なにこれ?」
「おっ、お母さんが、私の結婚費用に貯めてくれててぇ……ぐすっ。こっ、これでどうか、バイトだけはぁ……」
「あたし達を鬼にする気!?」
「ありがとう、大事に使わせて──」
「いただかないいただかないっ! そんな大事なお金使えないから~っ」
涙ながらに豚の貯金箱を見せた後藤さんを、
「あうぅ……でもぉ……だってぇ……」
ガクガクと震える姿に、さすがに後藤さんが可哀想で見ていられなくなってきました。他人に言えた口ではありませんが、私の知る限り、学校でも誰とも会話をしない後藤さんです。急にバイトだなんて言われても、困るを通り越して死刑宣告に等しいのではないでしょうか。
「一口にバイトと言っても難しいのでは? 仮に今から探したとして、お仕事できるのは来月初め、早くて週明けですよね。そこからお給料をいただけるのはさらに先です。次のライブをいつまでにと想定しているか分かりませんが、それまでにバイトでお金を貯めておくようにと言われても簡単にお約束できません」
同意を求めるように後藤さんを見やると。
「──! ──!!」
さながらヘッドバンギングの如く頭を上下にブンブン振っていました。と、そこで考えが足りなかったことに気づき、そのまま口にしました。
「というか、もしかしなくともお二人はバイトされてるってことですよね? そこにご紹介いただけるとか、そういうお話ですか?」
「ふっふっふ、そのとーり! ぼっちちゃんも
「私も
「なんだ、そうだったんですね。すみません、先走ってしまって」
「いやこちらこそ、不安にさせちゃってごめんね~?」
そういうことらしかったです。
「だそうですよ、後藤さん。見知った顔ばかりであれば初めてのバイトでも多少やりやすい筈です。私も初めてですから、こちらのほうが足を引っ張ってしまう可能性がありますが……一緒に、がんばりましょうね」
ライブのノルマということですから、それはメンバー内で均等に振り分けられるものでしょう。そのお金を同じ場所でみんな稼げるのであれば、それほど都合の良い話もありません。この期に及んで断る選択肢はなく、私はバイトという単語に恐怖していた後藤さんに語りかけました。さすがに後藤さんも、ここまで好条件であれば納得するだろうなと思ったのです。
「……がんばりましゅ……」
蚊の鳴くような声に、私は頑張ってサポートしようと決意したのでした。