鈴科先輩の話   作:写像

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単純に私が初めて物を書くというのと、原作キャラとの絡みがないという理由で薄い内容になってると思う

許して


一話

 

 

 

「なンだァ? ありャ?」

 

午後4時ごろ、学校から帰宅中の彼の目に映っているのは黒い半球だった。

 

遠目で見ても明らかに巨大なことがわかるそれは、まだ明るい時間帯であるにも関わらず周囲の人間には全く認識されていないようだった。しかし彼はそれを知っていた。正確には黒い半球そのものではなくそれが纏う暗く重い気配をだ、それは彼の視界にだけ映る異形のものたちと同質のものだった。

 

拳大のものから大型トラックほどの大きさのものまで様々だが、特に害を及ぼすこともなく、仮に近づいてきても振り払えば簡単に消え去る異形にあまり興味は無かった。しかし鬱陶しいことに変わりはないため、正体を知りたいと思っていた。また、退屈凌ぎと言う意味でも彼にあの半球を無視すると言う選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

半球のもとに着くとそこには四台の車と4人の黒服の男たちがいた

 

 

(4人程度なら一台で済むハズだが、車が明らかに多い。あの4人は運転手で中に他のヤツらがいると見てイイか)

 

 

そんなことを考えつつも特に気負うこともなく足を踏み出した。

 

半球に触れる直前、黒服の1人が慌てた様子で彼を止めに入った。

 

 

「き、君? こんなところに何のようかな?」

 

 

黒服と半球が関係していることを確信している彼は太々しく返す

 

 

「用がなきャ街を歩くこともできないンですかァ〜?」

 

「いや、そう言うわけではないんだがこんなただの更地に来る理由が気になったんだよ」

 

 

そう、ここは去年火災が起き建物が解体され更地になっている場所であった

恐らく黒服もこんなところに学生が1人で来ている時点で薄々気づいているのだろうが、それでも煙に巻こうとするので彼は核心を突く

 

 

「そンなのこの黒いのしかねェだろ」

 

「君、やはり帳が見えるんだね。でもここは危ないから、これは見なかったことにして帰りなさい」

 

 

忠告が耳に入ることはなかった

彼は今、柄にも無く興奮していた。たった15年と少しではあるが人生最大と言っても過言ではないほどだった

 

 

 

鈴科百合子は己の特異性を自覚していた。

白い髪に赤い眼と言う特徴的すぎる容姿すらどうでもよくなるほど目と頭が良かった。いや、良すぎた。普通の人間ならコンピュータを使うような計算すら一瞬でできてしまう情報処理能力と容量を持つ脳は彼の人生から熱を奪った。

 

学生の本分たる勉学は言わずもがな、テストでは一問も落としたことはなかった。では運動はどうかと言われるとこちらも、全ての物体の運動を知り尽くしたかのような圧倒的な空間認識能力による未来予知じみたスポーツ勘に彼の素の身体能力も相まって負けなしだった。

 

彼は全力を尽くすことが出来る何かが欲しかった。敗北の悔しさを知りたかった。それを打倒する喜びを知りたかった。

 

遠くから半球を見ている時はまだ心の中ではその存在を信じていなかった、しかし黒服の反応から確信した。この先に己が求めるものがあると。この先に人の命など容易く奪いうるものがあることは直感的に理解していたが迷いはなかった。彼は雑音を無視して飛び込んだ。

 

 


 

 

とある一級術師

 

 

       こんなはずじゃなかった

 

 

自分がこんなことを考えるとはつゆ程も思っていなかった。こんな台詞を吐くのは力もないのに調子に乗って先を見ずに動くようなヤツだけだと思っていた。

 

 

 

 

今回の任務は特級相当。一年前までこの地には国内最大級のリゾートホテルがあったが大火災が発生し、三桁以上の死傷者が出た。ホテルの内部構造上の問題、利益優先主義に基づく経営や杜撰な防火管理体制など色々あったようだがそこは問題ではない。常識だが呪霊とは呪力量、つまり負の感情の大きさが大きいほど強くなる。今回の場合は『火災』という要因が呪力量を跳ね上げた。

 

火災は交通事故などとは違い、事が起きてから死亡するまでの時間が長い。それは被害者がより長い時間恐怖を感じることを意味する。被害者の多さと相まって呪霊の強さは想像を絶するだろう

 

上層部も危険性を正しく認識しているのだろう。一級・準一級合わせ10人もの術師が派遣されることになった。更に俺の術式は水を生成し操るというもの。他にも土を操る術式持ちなど炎に強い者が多い。万年人手不足の呪術界で質や相性の良い術師をこれだけ集めたことからも上の本気度が窺える

 

相手は特級、誰も油断などしていなかった。現状に理由を求めたなら、ただ、理不尽というものは只人ではどうすることもできないからこそ理不尽と呼ばれるのだ、という答えしか返ってこないだろう

 

 

 

 

初めは順調だった。2メートル程の燃える人型の呪霊から放たれる炎は特級らしく凄まじい威力を発揮し俺の水を全て蒸発させんとする勢いだったが、もとより厳しい戦いになることはわかっていた。こちらも一級のプライドがある、主体的に前衛に位置どり隙あらば術式を叩き込んだ

 

確実に敵は弱っていた。しかし戦線の崩壊は一瞬だった。唐突だが、火災での第一の死因は火傷だ。では二番目は?それは一酸化炭素中毒である

 

俺たちが戦っているのは自然現象では無く呪霊だ。発生原因が火災である以上、人間を窒息させるような能力も持っているはずで屋外だからなどという常識は通用しない。もちろん事前に予想はしていた、しかしそんな能力を使う素振りはなかった。そう、ヤツは追い詰められている振りをして俺たちを引きつけ、必殺の間合いに入った瞬間力を使ったのだ。

 

その後ヤツは倒れ臥す俺たちをいたぶった。それは明確な悪意だった。本来なら一撃で全員を消し炭に出来る力を持ちながら、一度俺たちに倒せると希望をもたせ、一瞬で刈り取る。

 

意思を持つ呪霊の話など聞いた事がなかった。十数年前に五条家である子供が産まれてから呪霊の質と量が増えたというのは有名な話だが呪霊が意思を持つのは別の話だ。これからの呪霊被害はより陰湿で凄惨なものになるだろう

 

もう皆生き絶えた、今だってほら、一番近くにいた俺を最後に残したのは

 

『仲間が死んだのはオマエが勇足で飛び出したからだ』

 

って、そういうことなんだろ?

 

俺はこの苦しみが少しでも早く終わる事を願って目を閉じた

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

帳とやらに飛び込んだ瞬間、爆炎の中彼は理解した。異形共の正体と自身の新たな可能性を

 

朧げながらもすでに使い方を理解し始めた力で全体の状況を把握する

 

(あの馬鹿デケェエネルギーの塊の周囲に10人。生存者は1人ってかァ?)

 

空気の流れから人数を割り出し、心臓の鼓動で生死を確認する。目視できない炎の中の状況を把握できてることに違和感はなかった

 

物理法則を無視した直線軌道で弾丸のように飛び出す。9人もの命を奪ったであろうあの火炎も己の脅威にはなり得ない事は分かっていた

 

正直そこに転がっている男の命などどうでも良かったが、黒服を無視して飛び込んできてしまったため状況が分からない。そのため男を生かすことに決め、ひとまず炎人を蹴り飛ばし距離をつくる

 

 

「オイ オッサン 起きてんだろ?」

 

「え? 君は… え?」

 

「状況は?」

 

 

男はいきなり子供が来たことに驚いている様子だったが、すぐに切り替え話し始める。朦朧とした意識の中では彼の学ランと呪術高専の制服は区別できなかったらしいが、そんなこと彼には知る由もない

 

 

「意思を持ってる! 油断させてから窒息させてくるぞ! 既に9人やられた!」

 

 

男の説明は炎人の危険性を端的に説明した最適なものだったが呪霊を知らない彼は(コイツらは意思がねェのが普通なのか)程度の感想しか抱かなかった。ともかく忠告に従い自身の周囲に酸素分子大の穴を開けた膜を展開し突貫する。

 

炎人の熱は全て反射し、掴み始めた負のエネルギーを乗せた拳を放つ。膜内の酸素濃度に注意していればダメージを受けることはなかった。

 

(ルールを理解し、最適解を模索し、実行する。結局なンも変わンねェか)

 

それは彼が今までやってきたことと変わりはなかった。だが、新たな世界に抱いた高揚は幻想だった……と言い切るのはまだ早かった

 

いきなり意識が途切れかける、呼吸困難に陥っていた。原因は一酸化炭素、酸素の分子量32に対し二酸化炭素の分子量は40、一酸化炭素の分子量は28。これは間違いなく『屋外』という状況から一酸化炭素中毒の可能性を排除した彼の、呪いに関する知識不足と判断ミスだった

 

突風を起こし周囲の空気を無理やり入れ替えると共に緊急離脱する。彼程の膜大な呪力での身体強化があれば一撃で行動不能になることはなかったようだ

 

 

「だが、酸素がなきャ力を発揮できねェのはテメェも同じなンだろォ?」

 

 

彼は距離を取りつつ空気の壁で炎人を包囲し内部の酸素を全て消費させようとした。炎人もこちらの狙いを察したのか酸素が足りなくなる前に大火力で壁をブチ抜こうとしたが熱量の反射の前になす術なく力を失っていった

 

危ない場面もあったが終わってみれば呆気なかった。今回の反省を活かすなら反射膜を、分子量などで選別する物理的な物から悪意あるものや有害なものを弾く呪術的な物にすることあたりか

 

自分が望んでいたほど心踊る物ではなかったが、未知への期待が消失したわけでもない

 

彼は初めて味わう不思議な感覚を確かに面白いと感じていた

 

 

 

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