鈴科先輩の話   作:ヌンチャクッパス

3 / 11
ヤリ過ぎたかも知れない

だけど皆には思い出して欲しかったんだ

『優しい不良男子の手で弄ばれる真面目女子』

と言う概念を


三話

 

 

〜彼の趣味〜

 

 

アイツが来てから寮の食堂には香ばしい香りが漂うようになった。何を考えているのかよく分からないアイツはコーヒーが大好物らしい。缶コーヒーを飲んでいる姿をよく見かけるし、休日の食堂ではいつものアイツからは想像もできない穏やかな表情で、何処からか取り寄せた豆を挽いている姿を見かけることもある。

 

いつも一緒にいる私とは違い、先輩たちからすればアイツは『目つきの悪い、しかもチョー強い後輩』な訳で、遠巻きに見られることが殆どだった。しかし、あの穏やかな表情を見た先輩たちから話しかけられることが増え、今では仲良くコーヒーを飲んでいる

 

何だかあの輪には入りにくくて、平日は私としか話さないだろうしとか

 

嫉妬…なんだろうか、私しか知らないアイツが紐解かれていくことへの

 

こう言う時にアイツは私を見つけ出し決まってこう言うのだ

 

 

「庵、飲ンでかねェのか?」

 

「……ミルクと砂糖はないの?」

 

 

ほんとにズルいと思う。コレがギャップというやつか。辞めてよ、意識しちゃうでしょ?

 

白い髪と黒いコーヒーと、いつの間にか目が離せなくなってしまっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜呪力操作訓練〜

 

 

アイツの術式はエネルギーのベクトルを操作するというものらしかった。術式で膜を展開すれば敵の攻撃は全て弾かれ、自身の攻撃はエネルギーをロスすることなく常に最高率で叩き込むことができ、さらに術式で呪力というエネルギーを操作し、操作された呪力を使って呪術を効率よく回すというサイクルを作れば半永久的に規模、精度、燃費が向上し続けるというチート仕様。

 

そんな訳で呪力操作の練習をする時はアイツの力を借りると効率良くできるのではと常々思っていたのだが

 

 

「無理だっつってんだろォが」

 

 

の一点張り。効率を重視するアイツが自分の努力で身につけなければ〜なんていうタマではないことなど分かりきっていたので理由が気になってつい挑発してしまった

 

 

「まさか できないのかしら?」

 

「オマエ頼ンでる立場だよなァ?」

 

「それで? できるの? できないの?」

 

 

私がアイツの珍しい気遣いを踏み躙ってしまったと気づいた時にはもう遅かった

 

 

「ハァ 庵、オレがどォやって呪霊祓ってンのか知ってて言ってンだよな?」

 

「し、知らないけど」

 

「こォ 呪霊に触れンだよ」

 

 

そう言ってアイツは私の頭に手を置く、そして(あっ、ポンポンされてるみたいで良い)

なんて呑気な事を考えている私を絶望に叩き落とす一言を放った

 

 

「そンで中の呪力をかき混ぜると」

 

「混ぜると?」

 

「バァン!」

 

「きゃっ」

 

「って 吹っ飛ぶンだよ」

 

「……ち、ちなみに〜 それ人間にやるとどうなるの?」

 

「まず増幅した生体電流が全身の筋繊維と脳を焼き切った後、逆流した血液が血管をぶち抜くだろォな。特に足と心臓は派手にいくぜ、弁があるからなァ?」

 

「ひっ! あ、あ〜やっぱり自分の力で「でもやるンだろォ? トコトン付き合ってやるからよォ ガンバろォなァ?」

 

「いやぁ〜〜〜‼︎」

 

 

 

 

なんてやり取りをしたものの訓練自体はとても平和だった。そう、訓練自体は。

 

 

「んぅ んっ!」

 

「身体全体も意識すンだよ」

 

 

呪力は腹で廻す、初心を思い出すためアイツは私のお腹に手を置いて微弱な呪力を流し続けた。いくら訓練とはいえ男性にお腹を触られ、あまつさえ刺激を与えられ続ける。しかも耳元で囁かれるおまけ付きだ。それが少なからず意識している相手ともなればもう気をやってしまいそうだった。まぁ好きでもない男にこんな事をされれば別の意味で気をやってしまうであろうことは想像に難くないのでそういう意味では私は幸運だったのだろう

 

 

「んっ んあっ‼︎ ハァ、ハァ」

 

「オイ 集中しろよ」

 

 

私の心の中は平和とはかけ離れていた。とにかく一度辞めさせなければ取り返しがつかないことになると思ったが、アイツは私が息を荒げているのはいつもと違う呪力の流し方をしているためだと考えたらしい。つまり凝り固まった身体をほぐす際に痛みを感じるようなものだと。私ってそんなに呪力操作が下手なのだろうか……予期せぬところでダメージを受けた。

 

状況は好転しない。いや、お腹を触られているのは恥ずかしいが今問題なのは呪力の方だ。私がかんじ…感じているのは微弱な刺激で焦らされているからだ。考えてみれば特級術師が三級術師の呪力操作を手伝うというのは大釜の水をコップに一滴だけ注ぐような繊細な作業だと言える。未だ私の身体が爆散していないのはこの男の気遣いのおかげという事、ぶっきらぼうに見えてとても気遣いの出来る男なのだ、信じてたわよ。そうだ、この際もっと強くヤッて貰えば良いのだ、そうしよう。流石に身体が弾け飛ぶほどの呪力は込めないだろう。

 

私はアホだ。この時はコレが最善策だと思ったのだ。反省してます

 

 

「んっ も、もっと‼︎ もっとシて‼︎」

 

「耐えられねェだろ? 無理すんな」

 

「いいから‼︎ めちゃくちゃにしていいから‼︎」

 

 

今思い返せばコレはもう誘っていると言っても過言ではないだろう。しかしかれこれ30分以上焦らされていた私は震える脚を必死に絡ませて、指先が白くなるほど強くアイツの胸元を握りしめてほぼ悲鳴のような声で懇願していた

 

するとアイツは私の後ろに回り込み両手をお腹と胸に回す

 

 

「な! なんでぇ⁉︎」

 

「テメェのクソ雑魚フィジカルじゃァ腹痛めかねねェからだよ」

 

 

どうやらこの男は私のお腹一点では耐えられないほどの呪力を身体全体の広い面積を使う事で注入しようとしているらしい。やはり私はアホだ。焦らされている状態から楽になろうとするなら方法は一つしかない。一度昇り詰めなければいけないのだ

 

先ほどとは比べ物にならない刺激が全身を襲う。数秒も持たなかった

 

 

 

 

い゛っ………ぁぁ…っぁ………あああ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ…ひぐっ……うぅ」

 

「オイ 生きてっか?」

 

 

前言撤回だ。この男に気遣いなどかけらもない。あの後腰が抜けてしまった私は胡座をかいた男の胸に背を預け身体を休めていた。大量の汗をかいてしまったことが気になるがつい数分前に特大のやらかしをした私にもう恥ずかしいことはない

 

張り付いた髪を払うと、昼下がりの風が気持ちいい。……ん?風?

 

一つ重要な事を思い出した。ここは外だ。外、屋外である。一連の出来事が全て屋外で起きたものであるなど信じたくなかった。またもや前言撤回、まだ恥ずかしいことはあった。

 

 

「おォ〜 上手く行ったじゃねェか」

 

「イッ! ナニ言ってんのよ!」

 

「あ? 上手く呪力が廻ってるつってンだよ」

 

「た、確かに なんか楽かも」

 

 

楽なのは呪力操作が上手くなったからだ。決してスッキリしたからではない

 

 

「明日もやンぞ」

 

「やらない!」

 

 

外でなんて……クセになったらどうすんのよ

 

 

 




いきなり赤バーになるとは思わんかった

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。