「先輩? 歌姫センパイじゃなくて?」
「そう、もっと強い人が居るらしいよ」
「てか俺からすれば庵って誰だよ?ってカンジだったけどな。ねぇ歌姫」
「五条、夏油、それ本人の前で言うか普通?」
「いやでも、東京校っつったら鈴科百合子だろ。俺たち差し置いて最強名乗ってるらしいぜ、傑。ムカつかね?」
2005年、東京都立呪術高等専門学校の新一年生は3人だった。
五条家の奇跡の申し子、五条悟。術式を看破し、呪力を可視化する六眼と、五条家相伝の無下限術式の抱き合わせ。コイツが産まれてから日本の呪霊が強くなったとか、世界の均衡を崩したとか言われるヤベーやつである。
一般家庭出身で在りながら、世にも珍しい呪霊を操る術式を持つ夏油傑。コイツの呪霊操術は取り込めば階級の制限無く自由に呪霊を扱うことが出来るのだという。バッジを持ってなくても100レベに言う事を聞かせられるということか
紅一点の家入硝子。稀少な反転術式の使い手で、更にはその反転術式を他人に施せるという呪術界きっての超稀少なヒーラーである。唯一の癒し。
そんなこんなで今日は、九州で手がつけられず放置されていた一級以上の全ての呪霊を一月掛けて駆逐しに行った百合子が帰ってくる日なので後輩に紹介しようということになったのだ
呪力どころか全てのエネルギーを可視化し、後にも先にも一人しか使い手がいないであろう特異な術式を使い、術式の応用で反転術式もお手のものなアイツなら、後輩たち、特にこのクズ二人を"わからせて“くれるだろうという打算もある
ちなみに私はわからされた側だ… 先輩ヅラはするなという教訓が活かされることはなかった
(紅一点って何人から言うのかしら?百合子と私しか居ないから私も紅一点って言っていいのかしら?)
今からアイツがこのクズどもをわからせてくれると思えばこんなくだらない疑問が頭を駆け巡るくらいには心に余裕を持てた
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「イタイ!イタイ! やめて下さい!」
「何だよ、ただの雑魚じゃねえか」
五条が補助監督の関節をキメている。
え?何で? と、とにかく辞めさせなきゃ!
どうしてこうなった…
つい数分前のこと
百合子と補助監督さんが歩いてきた。アイツの両手には土産袋が握られている。アイツがお土産を買って来るなんてイメージはないが逆に一月も遠出して手ぶらで帰るのもおかしな話か
「百合子! おか「オマエが鈴科か?」…なさい」
私の言葉を遮った五条は典型的なヤンキーのようなセリフで補助監督さんに詰め寄る。女性だ。どうやら五条は補助監督さんのことを百合子だと勘違いしているようだ。まぁ百合子って女性的な名前だし初めての人は間違うわよね。彼女はビクビクと怯えているようだった。女性があの大男に詰め寄られるのは怖いだろうし誤解を解いてあげ……女性?は?
やめだ、誤解は解かない。
だってそうでしょ?あの女は百合子と二人で一か月掛けて九州を周っていたわけなんだから。うら…羨ましい。あんな女は大男に詰め寄られる恐怖をもっと味わえばいいのよ
こうしてあの状況ができたわけだ
流石にここまでやるとは思わなかった。このクズどもは元来の性格と硝子の反転術式のせいで遠慮という物を知らないのだ。そろそろ止めなければ。って言うか何で百合子は何もしないのよ。という私の非難の視線を感じたのか、それとも女の悲鳴を聞いてかようやくアイツが声を出す
「百合子さぁ〜ん! 助けて下さぁ〜い!」
(名前呼び⁉︎)
「は?」
「オレだ」
「は?」
「オレが鈴科百合子だっつってンだろ? 耳ついてねェンか」
ここでやっと意味を理解したのか五条は女を雑に放り投げる
「ぐへっ 何ですぐ助けてくれなかったんですかぁ〜⁉︎」
うわー 猫撫で声 あー いるわー こうゆー女 自分に自信があるタイプだ
かっるー 尻軽な雰囲気が滲み出てる こんな女百合子には絶対似合わないわ
「オマエいじめられンの好きなンだろ?」
「『それ』とこれとは話が別です!」
え?いじめられるって何よ⁉︎『それ』ってナニ⁉︎
嘘よ…嘘だと言って……
「歌姫センパイ?」
「はっ! アイツらは?」
「グラウンドに行きましたよ」
私が絶望に打ちひしがれている間にアイツらは模擬戦をすることになったようだ。急いで追いかけるとグラウンドでは百合子と五条が向かい合っていた。夏油は今回は参加を見送るらしい
いけっ! 百合子! わからせてやれー!
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「ンで? ルールは?」
目の前にいるこの男-男であることはさっき知った-は何の気負いもなくそう問いかけてきた
「もちろん無制限でしょ」
俺のこの言葉にも動揺した素振りを見せない。俺の術式について少しでも知っていればこのルールで戦おうとは思わないはずだが、何か策があるのだろう
もちろん負けるつもりなどないが、コイツを見る前ほどの自信は無くなっていたし、油断するようなこともなかった。というのも
"視えない“のだ
特級の名を冠するに値する呪力量を備えていることは分かるが術式が分からない。術式を持たない者とは違う。持っていることはわかるがモヤがかかったように不鮮明な情報だけしか得られない。それはコイツの呪力操作の練度が六眼をも欺くほどのものであることを意味していた
「そっちからいいよ」
だが無下限の防御性能は本物だ。ここは先手を譲って術式で防御しつつ、何らかの方法でブチ抜かれた時のために身体強化も全開まで高める
その瞬間、世界が赫く染まった
コレは炎だ。でも明らかに広がる速度がおかしかった。炎を出す術式ではなく空間そのものを燃やす術式?それなら確かに無下限の内側、俺の体を直接燃やせると思い込んでも仕方がない。だが御三家の相伝はそんなに甘いものではない
炎の壁が消え去る。ヤツが目を見開く。動揺が伝わって来る。自身の必殺技が完封されてビビっているのだろう。脳に負荷を掛けすぎないように術式を解いて歩みを進める
「なんだよ、大したことね…ぇ……」
突然意識が持ってかれそうになる。そうだよ、術式はわかっても呪力操作の謎は解けてねぇだろ!油断してねぇっつったの誰だよ!
身体強化を解除していないのは偶然か、それとも無意識下では警戒を解いていなかったのか。身体強化なしだったら一瞬で終わっていただろう
「ガッ!」
衝撃、途切れ掛けた意識でもアイツの脚が腹にめり込むのがわかった。グラウンド端の土手に突っ込む
「ゲホッ ゲホッ」
「ムカつくセンパイ完封してキモチ良くなっちまったンかァ?」
「なンだよ、ただのアホじゃねェか」
まだ動ける、アイツの蹴りは身体強化じゃ説明できないほど重かったがまだ負けてねぇ
こんな気持ちは初めてだった。ここまで感情が昂ったことは今までなかった。傑との喧嘩とはまた違う、明確な格上に挑むのは初めてだった。
見下ろされることがこんなに腹立たしいとは思わなかった、絶対にヤツを這いつくばらせようと誓った。
とは言ったものの術式の謎は振り出しに戻った。意識が持ってかれそうになったのは恐らく窒息、となると最初の炎、そこで発生した二酸化炭素を俺の周囲に誘導した風か何か、さらに異常な威力の蹴り。少なくとも三種類の能力を使ったことになる。術式の複数持ち?聞いたことがない。傑なら擬似的に似たようなことができるだろうがアイツが呪霊を出してる様子は確認できなかった
相手の手札が読めない以上完全防御は諦めて攻撃を優先すべきだ
俺は再び呪力を整え飛び出した
「ハァ ハァ」
「悟、こっぴどくやられたね」
「腕出せ、治すから」
結局一度もアイツに攻撃を当てることができなかった。術式を解いていないのにも関わらず息ができなくなり、術式が維持できなくなった瞬間に瞬間移動じみた速さで蹴りをブチ込まれる。謎が増えるばかりである
「傑、俺全然最強じゃなかったわ」
「そうだね。私と二人がかりでも結果は変わらなかっただろう」
「そうよ! アンタ達は反省して、先輩を敬う気持ちを…イタッ!何すんのよ百合子!」
「テメェなンもしてねェだろ。その自信はどっからきた?」
「それで、センパイの術式は何なんですか?」
硝子が珍しく他人に興味を示した。俺は自分の力で解き明かしたいと思わないでもなかったが、気になっていたのは事実だ
「百合子の術式はベ…イタッ!何すんのよ百合子!」
「だからなンでオマエがそンな自信満々なンだよ…… 教えるつもりはねェぞ?」
「えー けちー」
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結局鈴科センパイの術式は教えて貰えなかった。クズ共は謎解きのように楽しんでいたが私は彼の戦闘を見る機会は少ないだろうし、そもそもこう言うのはすぐに答えが知りたくなってしまう質なのだ
少し心苦しいが他の人に聞いてしまおう
「炎を出す術式ですよね」
「電撃が…」「氷が…」「空中浮遊して…」
属性攻撃のオンパレードだな
だが皆この四種類の能力しか挙げないのだ。対象の意識を奪う力や瞬間移動などについて言及する者はいない。センパイが意図的に使う能力を制限していると言うことだろうか。つまり誰も彼の本当の術式を知らないことになる。だがそれはおかしい。本当に誰も知らないならあの時歌姫センパイを止める必要はなかったはずだ
あーコレはそう言うことだと思っていいのだろうか
アクセラレータは最初に地面を踏み鳴らしたりしてエネルギーを作らないといけないけど、百合子には呪力があるので自由度は高いです
百合子は負けず嫌いなので一発目は一度自分がやられかけた「炎+窒息」のコンボで行きました
オレは対処できたがテメェはどォかなァ?
って感じ
二発目以降は紫外線を使いました
酸素に紫外線を当てるとオゾンになるので
自動識別ができない五条が紫外線なんか気づけるハズ無いよなと言うことで納得してください
自動識別を会得すると効かなくなる
まぁその頃には百合子も新しい攻撃手段を開発してるだろうけど