鈴科先輩の話   作:写像

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どうせ百合子が天内護衛してても特にやることがないのでオリジナル過去話です

きっと最後に砂糖を吐き散らかすことでしょう


あのーまだ小説書き始めて日が浅いものでして間の取り方?的なのが分からんのです

だからあまりスピードを上げすぎずゆっくりじっくり読んで頂けるとより楽しめるかと




七話

 

 

 

あの電話の後百合子がしたことと言えば休暇の申請だった。なんか厄介ごとに巻き込まれたんじゃないの?それでいいのか最強術師…

 

どうやら今日から三日ほど休むらしい。まぁアイツはなんだかんだで自分のことを疎かにしがちだから自主的に休んでくれるのはいい傾向とも言える

 

だが三日も休んで何をするのか

アイツの趣味と言えばコーヒーくらいしか無い。移動時間には本を読むこともあると聞いたことがあるがそれはアイツにとって休んでまでやることではないハズだ

 

無意識のうちにアイツのことばかり考え高専の敷地内をウロウロしていると見慣れた白が視界をよぎった

 

そちらへ行ってみると開けた場所に出た

広く青々とした芝生の中央に一本だけ聳え立つ大きな木、その根元にはテーブルとイスがあったが私の目を惹いたのはやはりと言うか地面に転がっている百合子だった

 

眠っているのだろうか。

コイツがここに来てから1分も経ってないだろうに、それほど疲れているのだろうか… とか、

なにげにコイツが眠っているのを見るのは初めてだな… とか、

風に揺れる白髪がとても絵になるな… とか色々考えているうちにこれまた無意識に、いつのまにか百合子の隣に寝そべっていた。触れてはいない。そうすると術式が発動して起こしてしまうだろうから

 

真夏であることを忘れてしまうような涼しいそよ風と暖かい木漏れ日が気持ちいい

 

夢の世界に旅立つのにそう時間はかからなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

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「鈴科、はい」

 

「? コレ間違ってねェか?」

 

 

百合子は歌姫から渡された任務書に疑問を持った。と言うのも百合子に渡された任務書には3級との表記が

 

 

「あ、間違えた 貴方のはこっちね」

 

 

歌姫はそう言って焦った様子で1級のものと取り替える

どうやら自身と百合子の任務書を取り違えていたようだ

 

 

「ククッ 命拾いしたなァ」

 

「うぐっ わざわざ言わなくていいでしょ‼︎」

 

 

確かに歌姫が単独で1級任務に赴けば無事では済まないだろうがそれを口に出すことに躊躇いのない百合子は確かに性格が悪いのだろう

 

 

「ついてってやるよ」

 

「え?」

 

「どうせ同じ方向だろ」

 

「別にいいわよ」

 

「遠慮すンなって」

 

 

歌姫の任務は群馬、百合子の任務は新潟

呪術師最高位の百合子ならば1級任務であってもすぐにこなしてしまえるので気まぐれに他人の任務についていっても何も問題は無いのだが、人を心配するなんてこととは無縁なこの男に限って私を心配して… なんてことはあり得ないと歌姫は分かっていた。むしろ3級任務で心配されたならそれはそれでムカつくことは間違いない

 

 

「何が狙いなの?」

 

「ヒトの善意を蔑ろにするモンじゃねェよ クククッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツ、楽しんでいる

 

3級程度の呪霊に梃子摺る私をからかってやろうと言うことか。舐められたものだ

 

恐らく任務書を取り替える時の私の焦りを見抜いたのだ。そう、確かに私はコイツに間違って3級の書類を渡してしまったとき焦った…

 

1級任務を任されるコイツと3級止まりの私

 

実力的に仕方ないことなのだが彼我の差を思い出してしまい少し恥ずかしくなってしまったのだ。どうせコイツは私に興味なんかないだろうに…

 

だからと言うわけでもないのだがコイツが私をからかっていると分かったとき少し嬉しかった。どんな形であれコイツの視界に私が入ってることが

 

Mではない。ただもう末期なのかも知れないとは感じざるを得ない

 

え?何?もしかして私ってチョロい?

 

 

「私、自分の仕事が終わったら帰るからね。アンタにはついてかないわよ」

 

「逆について来るつもりだったンか?」

 

「っ! もう知らない‼︎」

 

 

つい言い返してしまったがそもそも私は1級の任務に同行できない

 

また恥をかいた

 

 

 

 

 

 

 

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結局鈴科は宿に置いてきた

 

アイツ自身がどう思っているかは置いておいても、この程度で心配されるような女ではありたくなかったのだ

 

性格は悪いが本気で嫌がっていることはしないくらいの分別はあったらしい

 

 

 

 

 

この強がりを後悔するのは数分後のことだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅い、あまりにも遅い。何かあったのか、それともただアイツが本当に3級に梃子摺るほど弱かったか… 日頃のポンコツ具合から後者の可能性を捨てきれないところが怖いところだ

 

恐らく相手は3級ではないのだろう

何となく分かっていたがもし本当に3級だった時アイツの意思を無視して付いていくのはどうなのかと思ってしまったのだ

 

オレが他人の評価を気にするとは…

実はかなりアイツのことを気に入っていたらしい

 

今回アイツの任務では呪霊の発生要因は台風とされていた。死者0、怪我人4という数字に騙されたのだろうが自然災害では人的被害そのものが問題なのではなく、人的被害が出るほどの規模であることが問題なのだ

 

どの程度の規模にせよ自然災害なら3級で収まるとは思えない。3級のアイツに自然災害の呪霊は馴染みがなかったか

 

オレは考えながらも飛び出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現場は集落の裏の山を少し登ったところだったが気になることが一つ

 

土砂崩れの形跡があるのだ。書類にこのことは書いていなかった。集落とは離れた所で建物への被害はないからか、いやあり得ない。台風の時同時に起きた土砂崩れを無視するなんて普通ではない

 

もうおおよそ予想はできているが一応山の麓にいる補助監督に話を聞くことにする

 

 

「オイ、庵は?」

 

「帰りが遅いようでしたので応援を要請しています」

 

「なンでオレに声かけなかった?」

 

「特級術師の鈴科様の手を煩わせることではないかと」

 

「チッ クソが」

 

 

見え透いた嘘だ。コイツが上の回し者なのは分かりきっている。笑顔が隠しきれていない。ご丁寧に特級のところを強調したことからも術師として大成しなかった自分がオレを出し抜いているこの状況に酔っているのが丸分かりだ。すぐにでもコイツを潰したいと思ったが今は一秒が惜しいので無視して先に進む

 

 

 

 

 

 

帳に入った瞬間、暴風雨が発生した。呪霊の結界の中だ。さらに何らかの強制的な縛りが反射膜に弾かれるのを察知した

 

縛りの内容を解析しつつ庵を探そうとしたオレの元に現れたのは100m程の高さの雨雲から逆さ吊りになった人間の上半身が飛び出した形の呪霊だった

 

サイズはかなり大きく呪力量は並の特級より多い。初めて戦った炎人を含めてもオレが見た呪霊の中で最も強いことが分かる

 

さっき自然災害の呪霊は3級に収まらないと言ったが逆にこの規模の台風にしてはコイツは強すぎる

 

互いに竜巻を発生させ射出するが一瞬の拮抗の後オレの風は突き破られた

 

 

(並の呪霊なら今ので破裂してたンだがな)

 

 

オレの術式の性質上オレの手を離れた攻撃は呪力は乗っているもののただの物理攻撃になる。そこで風では分が悪いと思い土砂による質量攻撃に踏み切ろうとしたオレだったが縛りの解析結果によりそれはできなくなった。その内容は

 

『直接攻撃をしない代わりに結界の影響を遮断できないようにする』

 

というもの。結界の影響というのがこの暴風雨のことだとすると、今庵は呪力での強化ができない一般人と同じ状態でこの嵐の中、山を彷徨っていることになる

 

 

だが他者に強制的に課す縛りはかなりの実力差がいる。例えば『自分の指を一本折る代わりに相手を絶命させる』といった理不尽な内容の縛りが成立するほど実力差があれば、そもそも直接戦闘で擦り傷すら負わずに一瞬で殺せるだろう。だから対人戦ではまず取られない手法だ

 

人間の生存時間は猛熱・極寒など過酷な環境なら3時間と言われていることを考えれば庵が縛りに抵抗できなかったことで3時間の猶予が生まれたと言えるのだ

 

しかし土砂崩れなどに巻き込まれ生き埋めになれば生存時間は一気に3分程度に縮まるだろう

 

いまだに庵の位置が掴めない状況で不必要に地面を揺らすのはリスキーだと判断し、呪霊の除伐から庵の捜索に方針をシフトする

 

 

「オイ‼︎ 庵‼︎ どこだ‼︎」

 

 

柄にもなく大声で呼びかけるが返事はない。結界内に吹き乱れる呪力の中、アイツの残穢を決して見逃さないよう目を凝らす

 

ここで呪霊もオレの目的に気付いたのか反射膜への無駄な攻撃をやめ土砂崩れを誘発し始めた。その際オレに庵の位置を悟らせないようにランダムに複数箇所を攻撃したところからヤツの知能の高さが窺える

 

その時馴染み深い呪力と見慣れた赤い巫女服が視界をよぎる

 

駆け出したオレは間違いなく人生最高のスピードだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寒い、息が苦しい、怖い…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たすけて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現場に到着して数分もしないうちに大雨が降り始め、同時に呪力が使えなくなっていることに気づいた

 

異変に気づき一度戻ろうとした私だったがそこはすでに呪霊の結界の中であり道が分からなくなっていたため断念した。この結界が複数のブロックがランダムに位置を入れ替える物だと知ったのは後にアイツに教えられた時だった

 

長い間戻らなければ補助監督さんが応援を呼んでくれるだろうし、その時に真っ先に来るのはアイツであろうと思えば恐怖心も薄れた

 

ならば私がやるべきことは体力を温存すること。雨風を凌げる場所を探したが、ブロックが入れ替わる仕様により同じ場所を回り続けてしまっていたことには気づけなかった

 

 

 

 

 

 

 

山に入ってからもう何時間経ったか分からなかった。安全地帯はないと判断してからは木の根元で体を丸めていたがそれも限界だった

 

もちろん突然の土砂崩れに対応できるはずもなく土に埋もれた私の手足は可笑しな方向に曲がっていたが、寒さで感覚のなくなった状態では痛みもほとんど感じなかった

 

 

 

 

 

 

 

土の中って案外あったかいんだな…

 

もっと早く気づければよかった…

 

 

 

 

 

 

短い間だったけど2人での学校生活は楽しかったな…

 

夜蛾先生は呪術師に後悔のない死はないって言ってたけど、結構満足して…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満足して………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無い!

 

 

 

 

まだ名前も呼べてないの!

好きなの!

もっといろんなこと知りたい!

抱き締めて欲しい!

 

その先だって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

死にたくない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死なせねェよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土の中から掘り出した庵はまさに瀕死の状態だった。雨風に体力を奪われ、両手足はグチャグチャに曲がり、巫女服は上半身も真っ赤に染まっていた。あと1分も持たないだろう

 

ここから命を繋ぐには反転術式しかない。それも圧倒的な呪力量による一瞬での完全回復

 

 

 

 

 

 

 

 

幼少からさまざまなことができたオレだが、できることが増える度、できるハズだったことの存在を意識せずにはいられなくなった。

 

目の前で交通事故を見た時、オレが走れば間に合ったハズだとお門違いな罪悪感に苛まれることがあった。そして心の底では失敗を恐れるようになった

 

今まで大きな失敗をせずにいられたのは、降りかかる困難がこの体にとって簡単に振り払うことができるものだったからという、つまり運が良かっただけの話なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、かつて無い人生の大一番で他者への反転術式という初めての困難が降りかかった

 

できないことはないだろう。しかしあの特級の妨害の中、間に合わせることができるかと言われると不安が残った……

 

 

が、

 

 

 

 

 

「死にたく無ぃ!」

 

 

 

 

 

そんな不安は一瞬で消し飛んだ

 

 

 

 

「死なせねェよ」

 

 

 

 

10秒でヤツを消し、10秒で他者への反転術式を会得、10秒で完全回復

 

 

 

この黒い翼をもってすれば造作もないことだという確信だけがあった

 

 

 

ヤツの竜巻を一撃で粉砕し翼の乱打で完全にヤツを消滅させる

 

ここまで4秒

 

庵の元へ戻り反転術式を改めて解析し直すと、翼が白く変化した

 

ここまで12秒

 

白い翼とオレの腕で庵を包むといつの間にか庵の体には傷一つ無くなっていた

 

ここまで15秒

 

 

 

終わってみれば想定の半分の時間しかかからなかった。気づけば白い翼と空を覆う雨雲は無くなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

庵を抱えて山を降りるとそこにはまだ補助監督が残っていた。オレの方を見てニヤニヤしていたがオレが抱えているのが死体ではないと気づくと途端に表情が恐怖で歪み腰を抜かしてしまった

 

 

「テメェに興味はねェよ。さっさと失せろ」

 

 

オレのその一言で補助監督は逃げるように車に乗り込み走り去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…」

 

「起きたか?」

 

 

目を覚ますと目の前には鈴科が

 

 

「私、生きてる?」

 

「死にたくねェっつったのテメェだろうが」

 

「……っ、私、生きで、る゛……っ!」

 

 

気づけば鈴科の胸に飛び込み涙を流していた。叫びはしなかった。鈴科は私が泣き止むまでただただ抱き締めてくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、百合子?」

 

「ン? なンだ?」

 

「えーっと… 名前、呼ばれるの…嫌じゃない?」

 

「あ? 別にかまわねェが」

 

 

女性的な名前だからもしかしたらコンプレックスがあるのかもと心配していたが杞憂だったようだ

 

 

「じゃあ百合子も、私のこと名前で呼んで?」

 

「なンで?」

 

「なんでもっ」

 

「ハァ… 歌姫」

 

「うんっ」

 

 

抱き締めて貰えて、名前で呼び合えて…

もう二つも叶っちゃった…

 

ほんとは勢いで好きって言いたいけど私はまだまだ弱いから、今は……

 

 

「ねぇ百合子」

 

「ン?」

 

「ありがとっ」

 

 

って、とびっきりの笑顔で

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい夢を見た

 

思えば今のところ明確に『守るための戦い』をしたと言い切れるのはあの一回だけだ

 

結局白い翼はあれ以降一度も出たことがない。他者への反転術式は時間をかければできるがあの時ほどのスピードで完全回復とはいかないだろう

 

 

 

 

 

いつのまにか日が沈みかけていた

見慣れた紅白が腕に抱きついている

真夏と言えど夜は冷え込むもので、歌姫は寒そうに縮こまっている

 

 

「ハァ さみィなら起きろアホ」

 

 

そう言いながらも頭の下に腕を差し込み、コイツも膜に入るように調整しているオレはもう手遅れなほどコイツに染まっているらしい

 

もう少しだけこの寝顔を眺めてもバチは当たらないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと目の前には見慣れた赤い瞳が

 

 

「起きたか?」

 

「うん」

 

 

寝ぼけた頭で情報を整理する

この快適な寝心地は布団ではなくコイツの術式によるものらしい、つまり私は百合子に抱きしめられながら寝ていたと

 

 

 

 

 

恥っず‼︎

 

 

 

 

もしかして大して可愛くもない寝顔マジマジと見られてた?嘘よね……

 

そんな私の内心の絶望をよそに百合子がいきなり特大の爆弾を投げ込む

 

 

「オマエ明日なンかあるか?」

 

「いや、なんにもないけど…」

 

「じゃあどっか行きてェとこあるか?」

 

「へ?」

 

 

これはもしかしなくてもデートのお誘い⁉︎

なんで⁉︎いや確かに珍しい夢を見てコイツへの想いが溢れそうになっていたことは事実だけど‼︎

 

 

「どうなンだ?」

 

「えーっと、えーっとね」

 

 

唐突に想い人とのデートが舞い込んで来た女の気持ちを100字で答えよ

 

 

 





ハイ! 次回も2人の話です

もっとイチャイチャさせたい


ところで気づきましたか?

歌姫は最初百合子の術式が発動しないよう距離をとって眠りました

しかし

百合子寝る→歌姫寝る→歌姫くっ付く
→百合子起きる→歌姫起きる

つまり最初から百合子は歌姫を反射の対象外にしていたんですねぇ‼︎


ちなみに今回の呪霊は宿難の指をもっていました
2人のラブパワーの前にはなす術がなかったようですが
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