鈴科先輩の話   作:ヌンチャクッパス

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       百合子     五条達

1日目    七話      護衛任務開始
2日目    飛ばします   沖縄
3日目    八話      高専到着


百合子の2日目の話はまた後でやります




八話

 

 

 

「皆、お疲れ様。高専の結界内だ」

 

「これで一安心じゃな‼︎」

 

 

この3日間でいろいろあった

呪詛師集団『Q』と戦い、黒井さんが拉致され、沖縄で観光して高専に帰って来た

 

結局鈴科先輩が何かをすることはなかったがもう理子ちゃんの懸賞金は取り下げられている。悟には苦労をかけてしまったが、黒井さんの拉致が私の気の緩みが原因であることを加味すればこの任務自体の難易度はそこまでのものではなかったと言える

 

黒井さんも無事に帰って来たし理子ちゃんに最後の思い出を作ることができたとポジティブに考えても良いほどだ

 

ただ… この少女を本当に天元様と同化させるべきか、迷いが生まれている。

 

もちろん同化できず進化した天元様が人類の敵となった場合、日本という国自体が危機に晒されることは十分承知している

 

本人は気丈に振る舞っているが、私はやはりこの同化というものが全のために個を犠牲にするような行為に思えてならない

 

私は、私達は、どうするべきな……

 

 

 

 

ズガァァン‼︎

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

なんだかんだ昼まで滞在してしまった。同化は日が落ちてからだが、懸賞金はもう取り下げられている。となればいつ襲撃されても不思議ではない

 

 

高専の森を走っていると異常を感じた

完全な呪力の空白領域があるのだ。

 

路肩の石にすら呪力が宿っているこの世界ではありえないそれはオレの約100m右を並走、いや徐々に近づいている。交差するのは五条達が居るあたり

 

木が遮蔽物になり肉眼では見えないが形からして人間だろう。術式によりオレの呪力や音が漏れることはないため相手はこちらに気づいていないようだ

 

ヤツが星漿体を視認し、周囲の警戒が疎かになった瞬間横から一撃で行動不能にする

 

 

 

 

ヤツの視界に入らないように斜め後ろに位置取り、直前で前に出る。この速度でいきなり正面に現れる敵に対処はできないはずだ

 

 

……

 

 

今回使うのは電撃。左手の掌底で胸を打ち、一撃で心臓を止める。情報を聞き出すとしても手足の腱を切ってから心肺蘇生をすれば間に合うだろう

 

 

………

 

 

今!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百合子の奇襲は完璧なタイミングだった

 

襲撃者が五条に狙いを定め、成功を確信し油断が生まれるその瞬間に放たれた一撃は、しかし敵を打ち倒すことはなかった

 

襲撃者は疾走の前傾姿勢から異次元の反応速度で仰け反り、百合子の神速の一撃を回避したのだ。額に小指が掠ったものの意識を奪うには至らない

 

 

(ハァ⁉︎ あそこから避けンのかよ。バケモンか‼︎)

 

 

どの口が…というツッコミをする客観性は百合子の中にはなかったがその思考が止まることもなかった

 

 

(だが呪力がねェのは事実。上に飛ばしてから撃ち抜く)

 

 

ズガァァン‼︎

 

 

百合子は地面を爆発させ、地面スレスレまで仰け反った襲撃者の背中を打ち上げる

この爆発音で五条達も2人の存在に気づいた

 

 

(もう身動き取れねェよなァ!)

 

 

百合子が蹴り上げ射出した石片が四方八方から襲撃者に襲いかかる。呪力がないと言うことは術式もないと言うことであり、呪術的な回避や迎撃ができないと言うこと。どれほど反射神経が優れていても空中であらゆる方向から同時着弾する石片を刀一本で捌ききることはできない

 

 

「チェックメイトだァ」

 

 

が、またもや予想を裏切られることとなる

 

 

ゴファァ‼︎

 

 

襲撃者は腕を横薙ぎに振るい、その風圧で弾かれるような突発的な空中機動を実現し回避したのだ

 

 

(オイオイ冗談じゃねェぞ)

 

 

百合子は内心の動揺を意識的に押し隠し星漿体を守る位置取りをする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、襲撃者-伏黒甚爾-も内心は驚愕に満ちていた

 

 

(なんだコイツ。隠密重視だったとは言え俺を抜き去るスピード、掠っただけで俺の意識が持ってかれそうになる程の電撃、地面の爆発と明らかに軌道が操作された石弾)

 

 

一見関係ない現象を天与呪縛の自身に確実にダメージを与える出力で、さらに連続的に起こす百合子の存在は甚爾の計画に入っていなかった

 

甚爾は今の一連の攻撃で自身が討ち取られていないことが偶然の産物であることを理解していた

 

自身の腕が鈍っていて、最警戒対象であるはずの五条に集中しきれていなかったからこそ認識外からの電撃に対応できた

 

空中では意識が朦朧としていたから迎撃を即座に諦めがむしゃらに避けたが、意識がはっきりしていて一瞬でも迎撃を考えていたら回避は間に合わなかっただろう

 

だから曖昧な意識を覚醒させる時間を稼ぐと言う意味で、百合子達の会話は渡りに船だった

 

 

「百合子! なんでここに?」

 

「星漿体の護衛しかねェだろ?」

 

「でも先輩は外されてたはずでは?」

 

「なンでオレがヤツらの指図を受けなきゃいけねェンだよ」

 

 

最初は護衛させたくない上層部としたくない百合子の考えが一致していたが、自分が参加したいと思った以上上層部の意向を気にする必要はないと言うのが百合子の主張である

 

 

「でもなんで今更来たんだよ」

 

「まさかあの男が来ることが分かってたんですか?」

 

 

そう、高専の結界に入れば護衛は終わり。まず安全であり襲撃などあり得ないと言うのが普通の思考であり、高専に到着してから助太刀に来るのは文字通り今更なのである

 

 

「懸賞金だ。制限時間が今日だっつうことは依頼者は同化の条件が満月の日だってことを知ってるハズだ。そしたら逆に午前で時間が切れンのは不自然だろ。だから本命は時間切れの後に来ると踏んだ」

 

「でもあくまでも推測だろ?」

 

「うっせェ。実際来たしテメェは油断して術式解いただろ。いいからテメェらはさっさと行けよ」

 

「…分かりました、ここは頼みます。行こう皆」

 

 

しかし天内と黒井はいきなり現れた百合子のことを信じられないようで

 

 

「すみませんが彼は?」

 

「大丈夫だよ。アイツ最強だから」

 

「アイツ怪我してるみたいだが本当に大丈夫なのか?」

 

「怪我?」

 

「ほら‼︎ 首に痣があるのじゃ‼︎」

 

「……お嬢様、アレは怪我ではありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人が先に行った後、甚爾はもう少し会話を引き伸ばそうと試みる

 

 

「だからオマエは今日懸賞金が取り下げられるまで悠々と女遊びしてたってか?こんなヤツがいるなんてきいてねぇぞ」

 

「入念に準備した計画が一瞬で潰された気分はどォだ?」

 

「逆に奇襲を完全に躱された気分を聞きてぇな」

 

 

しかし百合子がこの挑発に乗ることはなかった。肉眼では追えないスピードで動かれても音や空気の揺らぎで対象を感知できる百合子にとってはそこまでの脅威ではなく、さらに呪力を伴わない純粋な物理攻撃は全て反射することができる

 

既に百合子の動揺は消えていた

 

 

「やせ我慢すンなよ。頭クラクラしちまってンだろ?」

 

 

だが甚爾の動揺は収まらない。最初の電撃がこちらにダメージを与えたと分かっているのなら止まらずに畳み掛ければよかったのだから

 

考えても分からないためそのまま疑問をぶつけてみる

 

 

「………それが事実だとしてどうして俺に時間を与える? そのまま畳み掛けりゃあいいだろ」

 

「もうテメェの底は見えてンだよ。だから遠慮せずに休め。お元気ンなったら遊ンでやる」

 

「…後悔すんなよ」

 

 

そのセリフを最後に戦闘が再開される

 

目にも留まらぬ速度で距離を詰める甚爾と鎌鼬を放ち近寄らせない百合子。はたから見れば百合子がただ周囲を破壊しているようにしか見えないだろうがその攻撃は確かに甚爾を押し返していた

 

 

(なんでこっちの位置がわかる? 目じゃ追えてねぇハズだ。呪力もない…なら)

 

 

呪力以外で位置を捕捉されていることを理解した甚爾は撹乱を諦め呪具の剣で強引に鎌鼬を突破する

 

多少の切り傷を負ったが戦闘には支障がないレベル。その果てに振るわれた刃は少なくとも百合子の腕を一本は切り落とそうかと言うものだったが…

 

 

ガギィィン‼︎

 

 

(っ‼︎ クソ硬え マジでなんの術式だよ)

 

「おいおい何個術式持ってんだよ。一個くらいわけてくんねぇかねぇ」

 

 

甚爾は生家で蔑まれた過去を思い出しつつ割と真剣にそう口にしたが百合子には関係のないことで

 

 

「足ンねェ頭で考えろ」

 

 

と一蹴される。しかし甚爾には奥の手があった

 

 

(『アレ』を使えば術式はどうにかなる。だがそう何度も近づかせてはくれねぇだろうな……確実に一撃で仕留める)

 

 

その奥の手とは

 

特級呪具「天逆鉾」

効果は発動中の術式強制解除

 

甚爾は天逆鉾の異質な呪力を少しでも隠す為大量の蠅頭をばら撒き、ほぼ防御を捨て最短距離で特攻を仕掛ける

 

 

ザクッ

 

 

左腕の大きな裂傷と引き換えに百合子の首に鉾を突き刺すことに成功する

 

 

(刺さった! このまま引きちぎ……)

 

 

ドン‼︎

 

 

しかし百合子の呪力放出により弾き飛ばされる。ここで甚爾は最後のチャンスを逃した

 

が、甚爾はまだそのことに気が付かない

 

 

(喉を潰した、術式も無効化できる。数分耐えれば勝ち……は?)

 

「なンだよ…いいもン持ってンじゃねェか」

 

 

百合子は普通に喋っていた。百合子にとっては当たり前のこと、彼は既に反転術式を会得している

 

だが甚爾にとっては想定外もいいところ。片腕を犠牲にした決死の一撃で、齎した結果は幾つあるかも分からない残機を一つ潰しただけ

 

 

「反転術式‼︎」

 

 

この時点でほぼ甚爾の勝ち筋は無くなっていたが完全に潰えた訳ではない。首を切り落とすことができれば流石に再生はしないだろう。左腕も戦闘には耐えないが致命傷という訳でもない。今度は勝負を焦らず慎重に行こうと算段をする

 

 

「簡単には殺させてくれねぇか」

 

「テメェを殺すのは簡単そォだがな」

 

「だが術式はコイツで無効化できる。術式頼りのオマエの底は見えた」

 

 

拭いきれない不安に蓋をするため半ば自身に言い聞かせるようにそう嘯く

 

 

「そォかそォか、その呪具がありゃあオレが弱体化すっからまだ勝てるなンて夢見ちまってンのかァ………」

 

 

 

 

「でもよォ」

 

 

 

 

「オレが弱くなったところで、別にテメェが強くなった訳じゃァねェだろォがよォ‼︎

 

 

 

 

甚爾の自信は『それ』を見た瞬間掻き消された。

 

異常に発達した五感により呪力を持たないにも関わらず呪いを認識できる甚爾であるが、恐らく『それ』は一般人ですら認識できたハズだ

 

 

(翼?)

 

 

百合子の背後に付随するそれはそう呼ぶのが適切だろう。圧倒的な死の気配。超圧縮された呪力塊は見るもの全てに死を予感させる

 

 

ブゥン‼︎

 

 

甚爾は音速に迫る速さで振るわれた翼に難なく鉾を合わせるが

 

 

(なんで消えねぇ⁉︎)

 

 

天逆鉾の効果により無効化されるはずの翼は何事もなかったかのように甚爾を吹き飛ばした

 

 

「その呪具の効果は『術式の解除』であって『呪力の分解』じゃねェ‼︎」

 

 

百合子は追撃の手を緩めない。甚爾は怪我をした左手も使いどうにか押し留めようとするが踏ん張りきれず何度も吹き飛ばされる

 

 

「つまり莫大なエネルギーを伴う攻撃、エネルギーが永続的に供給される場合、もしくはその両方に対しては無力だァ‼︎」

 

 

1本の鉾に対し4本の翼。甚爾はついに衝撃に耐えきれず膝をついた

 

 

「まァ、猿に言っても分かンねェか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは禪院家では言われ慣れた言葉だった。しかし違っていたのはこの白髪の男が言ったと言う点。目の前にいるのはあの五条悟が最強だと断言した術師、間違いなく現代最強

 

否定したくなった、捩じ伏せてみたくなった

俺を否定した呪術界の頂点を

 

いつもの俺ならトンズラこいた

だがどうせ今から逃げ切ることはできない

ならば最後くらい自分を肯定してやってもいいんじゃないだろうか

 

そんな思いが俺を突き動かす。2秒あれば詰められる距離。翼は避ける、もしくは受け流す。まともにぶつかればさっきの焼き増しだ

 

鉾だけでは4本の翼に対処しきれない。呪いに耐性があるとは言え呪力を持たない自身がアレに触れることのリスクは承知していたが素手で受け流す。両腕がイカれた。鉾は口で咥える

 

もう直ぐ刃が届く

 

 

 

 

そこで俺の意識は途絶えた

 

 

 





終わらせ方分からない侍でござる


首を刺された瞬間キレる百合子であった
どうせ数日も経たずに治っちゃうのにね

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