鈴科先輩の話 作:写像
あと善悪の判断は夏油を基準にしていたようですし
なんていうか意思力的なものが"幼い“イメージ
なのでこんな感じになってしまったが解釈違いかもしれない
高専最下層。薨星宮、参道。入口からエレベーターに乗って降りた所にあるこの場所が、黒井さんと天内が一緒に居られる最後の場所だ。ここから先は余所者の存在を許さない。だから黒井さんはここから先には行けないのだ
一緒に付いてきていた黒井さんはすぐに立ち止まり、涙を浮かべている。今まで一緒に過ごしてきた家族のような子にもう会えなくなることが哀しいのだろう
「理子様……私はここまでです。理子様……どうか……」
「黒井……黒井、大好きだよ……っ。ずっと……これからもずっと……っ」
「私も……っ!!大好きです……っ」
涙を流しながら付いてくる天内を連れて、黒井さんから離れていった。時々後ろを振り返っている天内を見ながらもトンネルの中を歩き続けて少し、到着した。古い建物が円状に連なり、中央に巨大な縄に巻かれた大樹が立っている空間
「ここが…」
「天元様の膝下。国内主要結界の基底。薨星宮、本殿」
「階段を降りたら門をくぐって…」
傑が天内に説明している間俺は別のことが気になっていた
「…それか引き返して黒井さんと一緒に家に帰ろう」
この提案は既に2人で話し合っていたことで、気になるのはこの後だ
「私達は最強…とはまだ言えないけど、いずれ最強になる。理子ちゃんがどんな選択をしようと君の未来は私達が保障する」
「私は…もっと皆と…一緒にいたい。もっと皆と色んな所に行って、色んな物を見て…もっと‼︎」
「帰ろう、理子ちゃん」
「…うん‼︎」
この展開は予想できていた…だけど
「悟もいいね? …悟?」
「…傑、それでどうすんだ?」
「何がだい?」
「百合子だよ」
「あっ…」
「百合子って…さっきの白髪の…」
そう、俺達がまだ最強じゃない原因。天内の同化をやめるならアイツとぶつかるしかないが、2人がかりでも勝てるビジョンが浮かばない
「いや、そこまで思い詰める必要はないかもしれない。だって先輩は最初この任務に興味がなかったんだろ?」
確かにそうだ。何か他の用事があったのか、それともいつもの面倒臭がりか、どちらにせよ百合子にとって星漿体の『同化』はそこまで重要ではなかったハズ。しかし何らかの事情により星漿体の『護衛』に興味を持った
「そうだとしても百合子の前にノコノコ出てく訳にはいかねぇだろ。間違ってたら一発アウトだ」
天内が不安そうに見上げて来る。生きる希望を見出した直後に現実的じゃないなんて言われればそうなるか。傑もその視線に気がついたのだろう
「じゃあ黒井さんも連れて逃げよう。明日の朝まで逃げ切れば同化はなくなる」
「百合子は無駄なことしねぇし、同化がなくなったからっつって天内を殺したりはしない…十分現実的なんじゃねぇの」
「そうと決まれば時間との勝負だ。理子ちゃん、掴まって」
そう言って傑は天内を抱えて走り出す。トンネルを通過すると黒井さんが見えた。傑に抱えられた天内を見て驚いている
「理子様⁉︎ なんで⁉︎」
しかし今は一分一秒が惜しい。百合子が襲撃者に負けることはあり得ない。全てはあの男がどれだけ百合子を足止めしてくれるかにかかっている
「話は後だ‼︎ 掴まれ‼︎」
黒井さんは俺が抱えて走る
エレベーターを降りて外に出ると
「よォ、夏油、何持ってンだ?」
終わった
百合子の足元には襲撃者の男。全身に裂傷を負い、両腕は青く変色するほどボロボロだが気絶しているだけでまだ生きているようだ。さっきも見たが恐らく天与呪縛のフィジカルギフテッド、生命力も並ではないらしい
「っ…先輩の方こそいつの間に髪を染めたんですか?」
だが今気になるのは男の容態より百合子の方。赤く染まった髪は百合子自身の血による物だろう。首の痣がないことからも首を斬られた後反転術式で治したと言うことが伺える
百合子が反転術式を使えるのは別段驚くことではなかったが、にわかには信じがたいのがあの男はどうにかして百合子に攻撃を通したと言う事実
「あァ、そりゃコイツのせェだな。術式を強制解除するらしい」
そんな俺の現実逃避を百合子は許してくれなかった
「ンなこたァどォでもいいンだよ、星漿体をどうすンのかって話だ」
逃げ切る方針を立てたにも関わらず一瞬で頓挫してしまった。ここはどうにか躱して……
「ふぅ……同化は中止しました。理子ちゃんはこのまま連れて行きます」
「おい‼︎ 傑‼︎」
傑は一度深呼吸をした後、そう啖呵を切った
「悟、今こそ自分の意思で決める時なんじゃないかな?」
それはつい先日の話
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「そもそもさぁ 帳ってそこまで必要?」
「別に
三人は教室で話していた─家入は五条のサングラスで遊んでいるだけだったが。かわいい─五条は帳の必要性に懐疑的なようだ
「駄目に決まってるだろ」
「呪霊の発生を抑制するのは人々の心の平穏だ」
それに対して夏油は帳の重要性を説く
「弱い奴等に気を遣うのは疲れるよ」
「"弱者生存”それがあるべき社会の姿さ」
「呪術は非術師を守るためにある」
「それ、正論?」
「俺、正論嫌いなんだよね」
雲行きが怪しくなってきた
只人には想像すらできないほど強大な力を持つ二人だがその力を得るに至った過程は違う
産まれた時から力を持ち周囲の人間が無条件にひれ伏すような環境で育った五条と、特異な術式を持つものの入学当初、つまり手持ちの呪霊が殆どいなかった頃は一人の学生でしかなかった夏油との間にはどうしようもなく巨大な壁があった
いつもなら危険を察知すれば撤退する家入であったが今回はもう一人の強大な力を持つ存在、百合子のことが気になっていた
「センパイに聞いてみれば?」
五条と夏油の脳内には同じ人物が浮かんでいた
もちろん歌姫ではない。コイツらの頭に歌姫に相談すると言う選択肢はなかった
哀れ歌姫
「力を持つ人間の責任っつう話なら…… 確かにある。」
二人から先ほどの会話の内容を聞いた百合子が一言目に発したのがこれである
「はぁ? 結局百合子もポジショントークかよ」
「ほら悟、弱きを助け、強きをくじ「一個だ」…え?」
「責任っつう話なら… 一個だけある」
だが百合子の話はまだ終わっていなかったようだ
「自分の意思のみによって力を振るうことが絶対にして唯一の責任だ」
五条は目を丸くしていた。確かに力に理由や責任を求めるような人間から飛び出す発言としては意外だろう。だがそれは夏油にも言えること
「待ってください‼︎ それは責任ではない、ただの我儘だ‼︎」
「ちげェよ、正確には自分の決定を他人の意思に委ねねェことだ」
ここで自分の意思というものに対する認識の齟齬に気づいた二人
「力が強くなればその分与える影響もデカくなる。どうにかしてオレらの力を使いてェ連中は掃いて捨てるほど居ンだよ。
他人のために力を貸してやるのも悪くはねェがどンな結果になンのかは把握しとけ
間違っても老害共の言いなりにはなンなよ」
彼の言う老害とやらは誰のことなのか、とにかく憎んでいることだけは分かるような口振りだった
「でもその考え方は力を持たない者を守ることとは矛盾しませんよね」
「弱者生存が本当にオマエの意思ならな」
「それはどう言う…」
「五条もだ。弱ェヤツらに気ィ使う必要はねェが、死んでもいい弱ェヤツと死なせたくねェ弱ェヤツはちゃんと分けとけ」
「どンな選択をしようとテメェで選ンだンなら誰にも正否を問われる筋合いはねェ。邪魔するヤツらは全員黙らせろ。雑魚どもに踊らされるよりマシだろ…」
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「悟、私は戦うよ」
「いいンか? 天元が同化できなきゃオマエの大好きな弱者どもが大量に死ンじまうぞ?」
そうだ、天元様が同化できず呪術界が停滞すれば一般人の被害も増える。それは傑の本意ではないハズだ
「どうでもいい…とは言いませんが、死なせたくない弱者がいるので、まぁこの子は十分強いですが。その後のことはおいおい考えます」
やめろよ、百合子と戦うのは現実的じゃねぇから急いでたんだろ
「どちらにしろコレは私が決めたことなので、あなたを黙らせてから行きます……たとえ一人でも」
一人って…なんでだよ…一人で成ったって意味ねぇだろ
「別にやらねぇなんて言ってねぇだろ」
「悟?」
「どうせ越えなきゃいけねぇんだ。それが早まっただけだ」
最強になるならこれは避けては通れない道。さっきまでは勝ち筋が見つからなかったが今は違う。どうにかしてあの呪具を奪えれば勝機が見出せる。アレには実際に百合子に傷を負わせた実績がある。天内と黒井さんを背に庇い二人で呪力を高める
しかし
「いいンじゃねェか?」
「「は?」」
「星漿体は連れてけよ。むしろテメェらが置いて来ンならオレが回収してた」
思わぬ百合子の発言に出鼻を挫かれる。確かに百合子は星漿体の同化自体には興味がないと言うのは予想の一つとしてあったが
「ちょ、ちょっと待って下さい。じゃあ先輩はなんで今回の任務を…」
「クソ女にガキのおもりやらされてンだよ」
百合子は本当に面倒臭そうにそう吐き捨てる。まさか百合子が自分の意思を曲げてまで誰かに力を貸すとは…
星漿体のことを知り得る程度には立場のある─つまり上の─人間が百合子を頼ったこと、そして百合子がそれを承諾したことは意外だった
しかし直後にそんなことがどうでもよくなるレベルの爆弾を落とされた
「つーか回収ってなんだよ。百合子は結局何がしたかったんだよ?」
「あくまで推測だが、そもそも天元に同化の必要性はねェ」
「はぁ⁉︎ どう言うことだよ‼︎」
これには俺を含め皆が驚愕した様子を見せたが生まれた時から星漿体として生きて来たのに無意味だったと言われた天内の胸中は察するに余りあるだろう
どうやら百合子の見立てでは、天元様の結界が精神にも作用するものであり、簡単に言うと"自分と自分以外“を区別することが出来れば自我を失うことはないだろうと言うことだった
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黒井家は代々星漿体に仕えることになっていたようだがその役目もなくなった。しかし黒井さんと理子ちゃんはこれまで通り二人で暮らすことにしたようだ。星漿体という制度自体がなくなったことで理子ちゃんには呪術的な価値もなくなる。もう狙われることもないだろう
本人には伝えなかったがもう私たちが会うことはないだろう
あの子はこれまで通りの生活に戻る。いや、死ぬ為に生きていた頃よりもずっと鮮やかに色づいた世界だ
まごう事なきハッピーエンド。否定するつもりもないし否定されてはいけないものだが、私が居なくともこの結末が約束されていたという事実が重くのしかかった
別に前世の記憶が〜とか言うつもりはないけど絶対能力者進化計画と第三次世界大戦を経験したアクセラレータなら他人に委ねることはないだろうなと
五条も覚醒してない…
夏油はなんかナーバスになってる…
自分で書いといてなんだけどマジでどうしよ