――・・・
安藤「押田くん」
押田「!」
安藤「今、時間あるかい?」
押田「・・・いいや、あんまり」
安藤「すぐすむから、少し話があるんだ」ガチャ
押田「・・・わかった・・・一分だけなら・・・」キイ・・・ パタン
押田「それで、話って?」
安藤「これ、我々外部生を主軸にした新しい作戦案だ」ペラ
押田「・・・」パサ・・・
安藤「この練習メニューを訓練に取り組んでも構わないか?今週はキミが訓練内容を組み立てる番だろう」
押田「・・・わかった。悪くない作戦じゃないか」
安藤「!・・・ほ、ほんとに?」
押田「キミにしては頭が冴えてるじゃないか。名案だよ」
安藤「そうだろうそうだろう!この作戦なら我々の持ち味が発揮されるし――」
押田「だが承服しかねる」バサッ
安藤「え”っ」
押田「この作戦を実行するほどの技術がキミ達にあるとは思えない」
押田「なによりこの戦法には両陣営に信頼感と連帯感が無ければ成立しない」
押田「よって我々にはこの作戦を実行することは不可能。よって練習をする必要は無い。よって却下だ。失礼する」ガチャ
安藤「ま、待てよおいっ!話がちがうぞ!・・・ひ、一晩考えてくれてもいいから!」
押田「授業に遅れるなよ安藤クン」バタン
安藤「・・・なんだよ」
――・・・
押田「――続きはどう書けばよろしいでしょうか?」
マリー「そうねぇ・・・『お気持ちは大変ありがたいのですが、今回のお話は両親が決めた事でして――』」
安藤「なあ、アレなにやってるんだ?」
砂辺「押田様のお手紙の執筆にマリー様がお力添えをされているんです」
安藤「手紙?」
砂辺「ご両親が縁談を持ちかけてこられたので、相手の方にお断りの手紙を書かれているのです」
安藤「・・・えんだん」
砂辺「・・・・・・お見合いのことです」
安藤「!・・・そ、それくらい知ってるさ。なんだ、押田のやつ女子高生なのにもうお見合いをするのか」
砂辺「ご両親が無理矢理設けた話だそうです。押田様はお優しいので、相手の方を傷つけないように断りたいようで」
安藤「それでゴテーネーに手紙かい。やることが面倒くさいな」
砂辺「品位を保つのも大切なことですよ」
安藤「それにしてもやるねぇ、縁談か」
砂部「何度かお断りの手紙を返しているのに相手の殿方がどうしても話がしたいと食い下がっているそうで」
安藤「まあアイツ顔はいいし、男は放っておかないだろうからな」
砂部(無自覚で言っているのでしょうか・・・)
・
・
・
――夜
安藤「・・・・・・ん・・・」ゴロン
安藤「っ・・・妙な時間に目が冴えちゃったな・・・」ムクリ
安藤「・・・お水飲みたい」ポテポテ
安藤「ぷはぁ~っ・・・あ~、深夜に飲む清涼水サイコー」
<・・・・・・
安藤「・・・ん?」
<・・・ッ・・・ハァ・・・ハァ・・・
安藤「・・・誰かいるのか?」ヒョイ
押田「っはァ・・・はァ・・・はァ・・・」ブルブル
安藤「押田・・・?・・・どうした?なんで廊下で寝てるんだ?」
押田「っ・・・はァ・・・っ・・・身体っ・・・はァ・・・しびれて・・・」ブルブル
安藤「あ?なに?」
押田「身体がッ・・・はァ・・・はァ・・・動かないッ・・・はァ・・・」ブルブル
安藤「!・・・こりゃ熱中症か。身体の末端がしびれてるんだな」
押田「ぅあ・・・はァ・・・はァ・・・うぅ・・・」ブルブル
安藤「ほら、水だ。ゆっくり飲め」スッ
押田「はァッ・・・はァッ・・・・・・ゥ・・・く・・・」ゴクゴク
安藤「落ち着いて。ゆっくりでいいから・・・ゆっくり飲むんだ」
押田「ゴク・・・・・・ゥー・・・ハァー・・・ハァー・・・」
安藤「大丈夫。大丈夫だ」
押田「スゥー・・・ハァー・・・」
安藤「落ち着いたか?」
押田「・・・・・・礼を言う・・・助かった」
安藤「こりゃ驚いた。エリート貴族のアンタが頭を下げるとは」
押田「・・・」
安藤「しかしなんだってこんなトコで熱中症に?」
押田「~~~っ・・・ああそうさ!夜中に一人で練習していたんだよ!こそこそとな!」
安藤「!」
押田「笑うがいいさ!私は普通以上に努力しないと皆に着いていけない凡才なのさ!」
押田「マリー様のお側に居続けるために隠れて練習しているんだ!・・・軟弱者とけなすがいいさ!」
安藤「・・・いや、そうはならんだろ」
押田「えっ?」
安藤「才能にかまけず努力するなんて格好良いじゃないか。正直ちょっと見直したぞ」
押田「なっ・・・なにを・・・」カァ~ッ
安藤「だが熱中症になるまで追い込むな。命に関わるんだぞ。こまめに水分補給。無理をするのは絶対ダメだ。いいな」
押田「っ・・・!」
安藤「いいな?」ズイ
押田「・・・・・・わかった」
安藤「ったく・・・身体のしびれは消えたか?」
押田「まだ腕がビリビリする」
安藤「しばらくこのまま休憩して、こまめに水飲んで、治まらないようなら救急車呼ぶぞ」
押田「っ・・・情けないっ・・・マリー様の片腕である私が・・・」
安藤「救急車を呼ぶのは情けなくない。むしろ呼ばずに重体化する方がダメだろ」
押田「いや野蛮人に看病される自分が情けないのだ・・・!」ギリギリ
安藤「いつもの調子に戻りつつあるな」
押田「・・・このことはマリー様には内密にしてくれ。ご心配をおかけしたくない」
安藤「わかったよ。隊長思いなこった」
押田「マリー様のご期待に応えるために練習しているのに、倒れたなど言えるわけがないだろう」
安藤「どうしてそこまで隊長に忠実なんだ?」
押田「・・・幼稚園の頃、初めてお会いした日から私はマリー様に全てを捧げると心に決めたのだ」
押田「マリー様のためなら鉄格子に身を投げ出すこともいとわない。一目見たその瞬間・・・幼心にそう決意したのだ」
安藤「・・・やばいカルトの狂信者みたいだ」
押田「マリー様に仕えれば肩こりは治るし寝不足も治るし毎日が健康的で健やかに過ごせるぞ」
安藤「怖い」
押田「マリー様は偉大な方だ。なんとしてでも、全国の舞台で勝利を捧げたい。そのためだけに私は努力している」
安藤「・・・」
押田「安藤くん・・・君がマリー様にお仕えして一ヶ月経つな」
安藤「そう言われれば・・・たしかに」
押田「試用期間は終わりということだ」
安藤「そうか、そうだったな。ということは正式にBC自由学園の副隊長に就任ってわけか」
押田「マリー様のことを思う同胞として・・・君のことを信用していいか?」
安藤「・・・ああ、いいさ」
押田「・・・・・・だったら・・・安藤くん」
安藤「あ?」
押田「戦車道から身を退いてくれないか」
安藤「!」
押田「君達外部生が居ては我が校の戦車道は乱れる。外部生と内部生の統一など不可能だ」
押田「合同練習でも一度として上手くできなかったじゃないか。試合なぞマトモに出来るわけがない」
押田「君が言えば外部生は揃ってチームから外れてくれるハズだ。マリー様に勝利を捧げるために・・・脱退してくれ」
安藤「なにを――」
押田「これは冗談ではない。君達がいない方が上手くチームが回る。君もわかっているはずだ」
安藤「っ・・・!」
押田「・・・そろそろ部屋に戻る。体調も回復した。今夜は世話になったな安藤くん。さっきの話・・・真剣に考えておいてくれ」ザッ
安藤「・・・」
・
・
・
――・・・
マリー「似合う似合う~」キャッキャ
押田「そ、そうですか?買ってよかったです」
マリー「いいバッグね~。私も何か隊長らしいカッコイイ小道具が欲しいわ~」
安藤「マリー」
マリー「あら、安藤」
安藤「話があるから来てくれって言われたけど・・・」チラ
押田「・・・」
安藤「話って?」
マリー「あなたが私に仕えてひと月が経つわね」
安藤「ああ」
マリー「試用期間はおしまい。あなたを正式に副隊長に任命するわ」
安藤「・・・」
マリー「うれしくない?」
安藤「うれしいよ。うれしいけど・・・今の私じゃ、アンタの右腕としてやっていける気がしないんだ。だから・・・」
マリー「だから?」
安藤「もうしばらくの間、このままアンタの傍にいてもいいか?」
押田「!」
マリー「これからも私の身の回りの世話を手伝ってくれるのね」
安藤「・・・不本意だが、あんたを理解するにはそれしかないな」
マリー「んっ、いいわよ。これからもよろしくね♪安藤」
押田「・・・」
――・・・
押田「本日の合同訓練はこれまで。解散!」
\\\ありがとうございました!///
安藤「ふー・・・」
外部生A「お疲れ安藤。そろそろこっちに戻ってくるんだろ?」
外部生A「お嬢様隊長の付き人になって一ヶ月・・・いい加減元の生活に戻りたいだろう」
安藤「その件なんだが・・・もうしばらく隊長の世話係を続けようと思うんだ」
外部生A「え?・・・なぜだ?」
安藤「上手く言えないが・・・副官としてやっていくには、もう少し隊長の考えがわかるようにならないとな」
外部生A「!・・・そうか、ふふふ、わかったぞ。いずれ革命を起こす時のためにエスカレーター組の内情を探ろうということだな」
安藤「え、いやそうじゃなくて――」
外部生A「大丈夫だ。皆、君の考えは理解している。がんばってくれ」
安藤「・・・あ、ああ・・・」
――・・・
マリー「じゃ、今教えた通りに書いてみなさい」
押田「は、はい。エート・・・『お気持ちは大変嬉しいのですが、私は若干16歳の青二才で――』」
安藤「つまんねーな~」
押田「っ・・・『淑女としてまだまだ若輩者であるため、今は勉学と戦車道に勤しむ――』」
安藤「なあ、もういいだろう?いつまでやってんだよ」
押田「~~っ・・・君は黙っていてくれないか。手紙を書いているのがわからないのか」
安藤「マリーに小難しい書き方教わって書くよりも、ハッキリ『NO』って言えばすむ話じゃないか」
押田「手紙なら気品があるし、誠意を込めてお断りが出来るんだ!」
マリー「押田は恥ずかしがり屋だからね~」ヤレヤレ~
安藤「相手の年齢は?」
押田「・・・37だ」
安藤「37!?めちゃめちゃ年上じゃないか!大金持ちじゃないと割に合わないぞ!」
押田「んなっ・・・失礼なことを言うな!」
安藤「手紙の最後に『ところで貯金はいくらですか?』って書いときなよ」
マリー「それはいい考えかもしれないわね」
押田「マリー様まで・・・」
安藤「大体37にもなって女子高生とお見合いなんて普通じゃないぞ。スッパリ直接断ったほうがお互いのためだって」
押田「あーわかったわかった!とても素晴らしい意見だ。参考にさせてもらうよ。はいはい」
押田「まったく、なんて奴だ。マリー様、続きをご指導いただけますか」
安藤「ふーん、そうかい。だったら代わりに私がハッキリ断ってやるよ」バッ
押田「あっ!なにをする!それは手紙の宛先が書いてあるメモ――」
安藤「なんだ、電話番号も載ってるじゃないか。直接電話してやれ」デンワ ポチポチ
押田「ま、待て!なにをするだー!」
安藤「手紙で遠回しに断るなんていい迷惑だ。電話で直接断る方が相手にとってもいいって」ポチポチ
マリー「まあ、おもしろそう♪」
押田「や、やめてくれ!私は出ないぞ!」
安藤「ただいま呼び出し中~」プルルル・・・
押田「さっさと電話を切れ!おいやめろって!」
電話【はい、もしもし】
安藤「あーもしもし?押田くんのお見合い相手?彼女が言いたいことがあるんだとさ」
押田「なっ!?」
電話【押田さんが・・・?】
安藤「今代わるよ。はい、押田くん」スッ
押田「い、いやだ!絶対出ないぞ!男の人と話すなんて・・・」
安藤「今まで何度も断ってんだろ。いい加減キッパリ言ってやれって」
押田「っ・・・」
安藤「つながってますよ~」フリフリ
押田「・・・~っ!・・・ええい!覚えておけよ安藤!」バッ
マリー「ワクワク♪」
押田「・・・・・・も・・・もしもし?・・・押田です・・・」
電話【!押田さん!・・・ああ、やっと声が聞けた・・・あなたの声が聞きたくてどれほど眠れぬ夜を過ごしたか・・・】
押田「突然のお電話申し訳ありません・・・ご迷惑ですよね・・・」
電話【そんなことありません!あなたとお話しが出来るならいつでも大歓迎です!】
押田「今回電話したのは・・・実はその・・・私にお見合いはまだ早いといいますか・・・」シドロモドロ
安藤「ハッキリ言ってやれよ」
押田「ええい黙れ!・・・・・・そ、その・・・今回の縁談は・・・出来れば無かったことにしていただけないかと・・・」
電話【ああ、かまいませんよ】
押田「え”っ」
電話【あなたが望まないのなら無理にお見合いをする必要はありません。私は押田さんの声が聞けただけで幸せです】
押田「あっ・・・・・・そ、そうですか・・・」
電話【こうしてあなたとお話しできただけで私は大満足です。本当にありがとうございます】
押田「い、いえ・・・それはよかった・・・」アハハ・・・
マリー「あら、ずいぶんアッサリ退いたわね」
安藤「一応年収も訊いとけ」
押田「んなっ・・・!」
電話【え?なにか言いましたか?】
押田「い、いいえなにも!なんでもありません!ハハハ・・・」アセアセ
マリー「ふふ」