ウマ娘~プロキオンの軌跡~   作:カニ漁船

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担当と駆け抜けた日々。担当の海外遠征から帰ってきたトレーナーに告げられた言葉とは。


~プロローグ~
理事長からの指令


 ──思えば、トレーナーになってから色々なことがあった。

 元々興味がなかったウマ娘のレース。ただ取りたかっただけという理由で死ぬ気で努力して取ったトレーナーのライセンス。ひょんなことからトレーナーとして働くことになった俺、神藤誠司。用務員との兼業は、それなりに楽しかった。

 初めての選抜レースでとあるウマ娘に一目惚れし、奇跡的な縁でその子をスカウトすることができた。これが、俺にとってのトレーナーとしての全ての始まりだった。

 本当にいろんなことがあった。連勝に次ぐ連勝で最優秀ジュニア級ウマ娘に輝くぐらいに絶好調だったジュニア級。様々な苦難を味わい、強大なライバル達相手に勝てない、悔しい思いをさせてしまったクラシック級。悲願のビックタイトルを獲得したシニア級春の天皇賞、大きな挫折をした宝塚記念、リベンジに燃えて戦法を変えるために鍛えた夏合宿。そして、伝説のマッチレースと称された有マ記念。それを受けての満票での年度代表ウマ娘の選出。お互いに喜び合ったのを覚えている。

 だが、年明け。海外挑戦を間近に控え、ファンの願いに応える形で出走した壮行レースで脚を骨折。俺の担当ウマ娘は、復帰するには絶望的な大怪我を負ってしまった。それでも、俺達は絶対に諦めなかった。辛いリハビリに耐えて、努力を続けた。その努力が実ったのか、海外のウマ娘を招待してのレースで、見事1着に輝いたのだ。

 その後俺達は満を持して海外遠征を決行した。この海外遠征でもいろんなことがあった。キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスでの死闘、凱旋門賞のレースは特に忘れられないものとなった。そしてつい最近、俺達は日本へと帰ってきた。担当ウマ娘であるテンポイントは、きっとトウショウボーイ達のところへと行っているだろう。

 俺は理事長室に呼ばれたので今は理事長室へと入った。扉に入って開口一番、トレセン学園の理事長、秋川理事長が労いの言葉をくれる。

 

 

「謝罪ッ!海外遠征から帰ってきたばかりですまないな、神藤トレーナー!」

 

 

「いえ、大丈夫です。秋川理事長。本日は私にどういったご用件でしょうか?」

 

 

「そうだな!手短に済ませようッ!」

 

 

 そういって秋川理事長はとても嬉しそうな声で続けた。

 

 

「指令ッ!神藤トレーナー!今までの実績、周りからの評価、他のトレーナーからの推薦もあり君にチームを作ってもらうこととなった!」

 

 

「えっ?」

 

 

「つきましては、チーム名の決定とチームのメンバーとなるウマ娘のスカウト、及び書類の提出をお願いします。こちら特に期限などはありませんが、できる限り早めにお願いしますね?」

 

 

「これからも君の活躍!大いに期待しているぞッ!」

 

 

 理事長からそう告げられる。急なことに事態を呑み込めないでいる俺は、ただ一言呟く。

 

 

「嘘やん」

 

 

 そう、呟くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着きましたか?神藤さん」

 

 

「……はい、何とか。ありがとうございますたづなさん」

 

 

 急なことに驚いて少し固まってしまっていた。俺は理事長に尋ねる。

 

 

「あの、秋川理事長。私にチームを作れ、というのは?」

 

 

「言葉通りの意味だッ!君の実績を鑑みても、チームを作っても問題はないと判断したッ!」

 

 

「後は、沖野トレーナーや東条トレーナーをはじめとしたトレーナーの方々からも推薦がありましたので。神藤さんにはぜひチームを作ってもらおうと」

 

 

「用務員の人数不足問題も、解消しましたしね」

 

 

 チームを作るための問題はないといってもいいだろう。ただ、チームか……。

 正直、この話は遅かれ早かれ来るとは思っていた。トレーナーは万年人手不足なので、少しでも多くの担当を持ってほしい気持ちは分かる。ただ……。

 

 

(テンポイントにも一言断り入れねぇとなぁ。後、スカウト受けてくれる子はいるんだろうか?)

 

 

 いくらテンポイントの実績があるとはいえ、俺はまだまだ新人だ。そんな新人のスカウトを受けてくれるだろうかという不安を抱えずにはいられない。1人はまぁ、心当たりがあるのだが。

 ただ、別に不満があるわけじゃないし断る理由もない。俺は秋川理事長の言葉に答える。

 

 

「分かりました。チーム、頑張って作ろうと思います」

 

 

「歓喜ッ!頑張ってくれ、神藤トレーナー!重ねてになるが、期待しているぞッ!」

 

 

 俺は一礼して理事長室を後にする。1つ伸びをして、呟く。

 

 

「とりあえず、テンポイントにこのことを報告しとくか」

 

 

 俺は練習場近くにあるプレハブ小屋、自分のトレーナー室へと歩を進めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はトレーナー室へと入る。中にはすでに俺の担当ウマ娘であるテンポイントがいた。

 

 

「おー、お帰り誠司。理事長さんなんて言うとったん?」

 

 

「ただいまテンポイント。そうだな、その話をするか」

 

 

「なんや?ボクにも関係ある話なんか?」

 

 

「直接的な関係はない。ただ、間接的な関係はある、ってやつだな」

 

 

「ふーん。まぁええわ。詳しく教えてもらおうやないか」

 

 

 腰まで伸ばした金色の髪と、彼女のトレードマークともいえる白い髪の流星。そして何よりも、街中を歩けば10人が10人とも振り返るような美少女だ。美少女揃いのウマ娘の中でも一際目立つほどの。加えて中性的な容姿から女性のファンも多い。そんな彼女はデビュー前から注目されていたウマ娘だ。ベテランのトレーナーがスカウトしに来るほどに。

 

 

(本当、よく俺がスカウトできたよな)

 

 

 2人分の飲み物を用意しながらそんなことを考える。テンポイントはソファでテレビを見ていた。

 

 

「はいよテンポイント。いつもの牛乳な」

 

 

「ありがとさん誠司。で?理事長さんなんて言うとったんや?」

 

 

 俺もソファに座りながらテンポイントの質問に答える。

 

 

「チームを作れ、って指令が下ったよ」

 

 

 俺の言葉に、テンポイントは特に驚いたような表情はしなかった。

 

 

「チームかぁ。ま、実績的に当然ちゃうか?」

 

 

「別に文句があるわけじゃないさ。ただ……」

 

 

「ただ?」

 

 

「スカウトする子をどうしようかなぁ……ッて」

 

 

 俺の言葉にテンポイントは難しい表情をしていた。

 

 

「う~ん……難しい問題やな。誠司言うても新人やし。忘れそうになるけど」

 

 

「そうなんだよなぁ……。あんま無責任なことできないし、そこが難しいところだ。ただ1人は心当たりあるんだよ」

 

 

「へぇ?誰なん?」

 

 

 テンポイントの疑問に俺は即座に答える。

 

 

「キングスポイント」

 

 

「……ほぼ確実に入るっちゅうか、入れんと逆になんか言われそうやな。ボクも真っ先に思い付いたから除外しとったけど」

 

 

 テンポイント大好きなキングスならば確実に入るだろう。むしろ入れなかった場合、俺が大変な目に合う。元より入れるつもりだったから心配はしていないが。

 

 

「だから1人は心当たりはあるんだよ。問題はそれ以外なんだよな」

 

 

「残り3人……。少ないようで多いやんな」

 

 

 ……まぁ、それを今考えても仕方がないだろう。ひとまずは選抜レース、それを見に行って気になった子に片っ端から声をかける気概で行こう。

 そう考えていると、テンポイントが俺の方をジッと見ていた。俺は彼女に尋ねる。

 

 

「どうしたんだ?テンポイント。何かあったか?」

 

 

「ん~……今までキミと二人三脚やったから、担当増えるってなるとちょい寂しいと思うてな」

 

 

「寂しい?そりゃなんでだ?」

 

 

 むしろ賑やかになると思うのだが。そう思っているとテンポイントは照れ臭そうに頬を掻いた。

 

 

「ボクを見てくれる時間は減るやろ?そう考えたら、寂しいっちゅう気持ちが湧いてくるんよ」

 

 

「……そういうことか」

 

 

 確かに今まではテンポイントに付きっきりだったから見る時間は減るだろう。ただ、俺にとっての1番は変わらずテンポイントだ。それは変わらない。

 

 

「安心しろ、俺にとっての1番はお前だ。どこに安心していいかはわからんけどな」

 

 

 少し照れ臭いが、俺はテンポイントにそう伝える。すると、彼女の耳と尻尾がとても機嫌良さそうに動いていた。

 

 

「……ッ!ふふーん!しゃあないなぁ!誠司はボクん事大好きやもんな!」

 

 

(……なんか致命的に間違えた気がするが、ツッコんだら拗ねるから止めとこう)

 

 

 こういうのは下手なこと言うと拗れると小説や漫画で学んだ。なので何も言わないでおく。

 

 

「にしてもまぁ、キングスは確定として後3人をどうするかなんだよな。とにかく選抜レースを見てこようと思う」

 

 

「ま、それが無難なんやないか?ええ子が見つかるよう、祈っといたるわ」

 

 

 ただ、選抜レースの開催は少し先だ。今できることは有力なこのリストを見るぐらいだろう。俺はそれをまとめることにした。

 そんな時、トレーナー室の扉を乱暴に開けられた。そちらへ視線を向けると……。

 

 

「って、キングスか。どうした?」

 

 

 茶髪のショートヘアに勝気な印象を抱かせる顔つき。テンポイントの妹であるキングスポイントが立っていた。余談だが、最近テンポイントよりも身長が高くなっており、テンポイント本人がちょっと嘆いていたことを思い出す。

 一体何の用だろうか?そう思っていると、俺の方へと歩み寄ってきた。

 

 

「話、聞いたし。アンタチーム持つんでしょ?」

 

 

「……どっから聞いたんだ?それ」

 

 

 今日話を聞いたばかりだから誰も知らないはずだが。そう思っていると、後ろでテンポイントが携帯をチラつかせていた。

 

 

(あぁ、テンポイントが教えたのか)

 

 

 納得していると、キングスは俺へと詰め寄る。

 

 

「アタシをチームに入れろし。言っとくけど、アンタに拒否権はないし」

 

 

 彼女の言葉に、俺は答える。

 

 

「安心しろ。拒否する気はないし、なんなら呼びに行く手間が省けたぐらいだ。歓迎するぜ、キングス」

 

 

「フン。物分かりがいいし。さっさと入部の紙をよこせし」

 

 

 そう言った彼女に俺はチーム入部の紙を渡す。キングスはそれを乱暴にぶんどると、さっさと自分の名前を記入して俺に渡してきた。そのままテンポイントの方へと向かう。

 

 

「お姉!これからは一緒のチームだし!」

 

 

「そうやな。これからもよろしくな、キングス~」

 

 

「えへへ~」

 

 

 テンポイントは横になっているキングスの頭を撫でている。相変わらずの仲良し姉妹だ。思わず笑みが零れる。

 ただ、微笑ましく思っている場合じゃない。次の選抜レースのための資料を見なければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資料とにらめっこすること数時間。テンポイント達は寮へとすでに帰っている。

 

 

(……ある程度まとめ終わったが、後は実際にレースを見てみないことにはわからんな)

 

 

 そういいつつも資料を眺め続けている。この行為は、日付が変わるまで続いた。




プロローグだけ年内投稿。ただ、資料が集まってから本格的に執筆を始めようと思います。
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