前日から障害レースの映像を見ていたせいで、今日はずっと眠い目を擦りながら仕事をしていた。だが、何とか仕事を終え、今はトレーナー室でゆっくりしている。とは言っても、もうすぐ放課後なのでゆっくりする時間はあまりないだろう。
「さて、と。今日の練習メニューは……っと」
俺は全員分の練習メニューに目を通して確認する。
「キングスはスタミナ強化、シービーは走り込み、ミラクルとオフトラは身体作り……まぁこの辺は変わらないな。テンポイントはサマードリームトロフィーに向けて練習量を増やしておくか」
そうして確認していると、扉を開けてテンポイント達が入ってきた。
「よう誠司……随分眠そうやな?なんかあったんか?」
テンポイントが心配するように声を掛けてくる。
「ようテンポイント。気にすんな、レースに熱中しすぎてな……気づいたら徹夜で見てただけだ」
「何のレースを観てたんですか?トレーナーさん」
オフトラの言葉に、俺は少し興奮気味に反応する。
「いやさ、実は障害レースを観てたんだよ!これがまた面白くてな!」
「障害レース?障害レースって……あの?」
「そう!その障害レースだ!」
ミラクルの言葉に俺は興奮を隠し切れずに答える。俺のテンションの高さにみんなはちょっと引き気味だったのが見えた。俺は急に恥ずかしくなって咳払いをしてごまかす。
「それにしても、障害レースなんて珍しいねミスター。どういう風の吹きまわし?」
「いやなに、この前の休日でたまたま障害レースを観てな。そん時にすっかりハマっちまったってわけよ」
「それで……神藤トレーナーは徹夜で見ていた、と」
「そういうことになるな。いやはや、我ながらここまで熱中するとは思わなかった」
ただ、俺の言葉に面白くなさそうな表情を浮かべているヤツがいる。テンポイントだ。誰がどう見ても私不機嫌です、といった感じで頬を膨らませている。
「ど、どうした……ッ!?」
何かあったのか、と言いかけて気づく。自分の言葉に。テンポイントは面白くなさそうに俺を睨んでいる。
「……フーン。まぁええんやないか?何を好きになろうが自由やし?誠司がおもろかったらそれでええんちゃうか?」
……すっげぇ不機嫌になってる!耳絞ってるし!
俺は自分の失言に気づいて、慌ててテンポイントに対して弁明する。
「ち、違う!確かに障害レースは面白いが……ッ!俺にとっての一番はお前だ!それに変わりはない!」
「浮気をして言い訳してるみたいだねミスター」
「うるせぇ!俺もそう思ったよ!」
でも、こう言うしかないから仕方がない!
そこから何とかテンポイントのご機嫌を取りつつ、最終的には許してもらえた。俺がテンポイントに必死に言い訳している様子をこの場にいる全員苦笑いで見ていたが。キングスだけは興味なさそうにテレビを見ていた。
そこから気を取り直して。改めて本題に戻ることにした。
「でも、障害レースを観てるってことは……誰か障害レースで走ることになるんですか?」
ミラクルの言葉に、俺は首を横に振る。
「いや。それに関しては適性の問題だからまだ分からない。面白いって感じるのと、実際に走らせてみたいって気持ちは違うからな。それが、障害レースならなおさらだ」
「た、ただでさえ危険と隣り合わせですもんね、障害レース」
オフトラは少し怖いのか、身を震わせた。俺は同意するように頷く。
「まぁそんなわけだから、別に誰かを障害レースに転向させるかっていうのは現状考えていない。適性があれば別の話だがな。とりあえず今日の練習内容の確認から行くぞ」
それから一人ずつ今日の練習内容の確認をして外に出る。
「おーしっ!やったら今日も、しっかり練習頑張るでー、みんなー!」
「「「おー(だし)!」」」
「さっきの不機嫌さ無くなったねテンポイントさん。嫉妬はもういいの?」
「じゃかあしいシービー!お前もさっさと練習せんかい!」
「はいはーい」
テンポイントもチームリーダーとしてみんなをまとめてくれている。頼もしい限りだ。
俺はキングスを重点的に見る。ここでデビューしているのはキングスだけだし、何より……。
「キングス。次のレースを決めたぞ」
「……いつだし?」
キングスは仏頂面で反応する。俺は気にせずに続けた。
「来月頭の小倉レース場第2Rだ。距離は1800。これから調整していくぞ」
「ふん。分かってるし」
言いながらキングスはトレーニングに戻っていく。怪我をしないように入念にストレッチをして、タイム走を行う。
「フッ!」
キングスの走りを見ているのだが……。
「いい走りはするんだがなぁ……いかんせん、本番がな」
「後は、スタートダッシュやな。キングスの反応、ちょい遅れとるで」
俺の言葉に、テンポイントが反応する。
「キングスもええとこはあるんやけどなぁ……いまいち勝ちきれんなぁ」
「……そうだな。だが、さすがにこれ以上負けてはいられない。今度の未勝利戦は絶対にアイツを勝たせる。キングスポイントのトレーナーとしてな」
「その意気やで誠司」
そう会話をしながらもキングスの練習を重点的に見ていく。次のレースでどういった作戦を立てるかを考えながら。
(……まぁ、アイツが作戦を聞いてくれるかはまた別の話なんだが)
それでも、考えておいて損はない。
キングスは何回かのタイム走を終えた後、筋力トレーニングに移行していた。パートナーはシービーである。
「ふぎぎ……ッ!」
「どうしたのキングス?もうへばっちゃった?」
「黙っ……てろ、し!まだまだ、いける……し!」
「そうそう。その意気だよキングス。後2セットね」
「ふぐぐ……ッ!」
キングスは順調にトレーニングをこなしている。ミラクルとオフトラは……。
「ミラクルー?また数超過しそうになっとるで。その辺で休憩しとき」
「テン、ポイント先輩……。だ、大丈夫です。まだ、やれます」
「ダメや。無理して身体壊すんはご法度やで?休める時はしっかり休む!気合入れる時は気合を入れる!これが強くなる秘訣や!」
「わ、分かりました!じゃあ私も休憩を……」
「オフトラはまだ数終わってないやろ。休憩はお預けや」
「ヒィン……」
テンポイントに諭されて、ミラクルは休憩を、オフトラは練習に戻っていった。正直、テンポイントにはかなり助けられている。
(チーム新設したばっかりでまだ不慣れだからかどうしても全員を見るのがキツい。本当、テンポイントがいて助かってるな)
今度お礼をしなければならないだろう。そう考えながら、今日のトレーニングも終わった。
そして月日は流れて。キングスの未勝利戦の日がやってきた。ここで負けたらかなりキツい。もうクラシックには間に合わないのでクラシックレースは眼中にないのだが、キングス自身のメンタルが怪しいところだ。
そんな不安な気持ちを抱えながら、プロキオンのメンバーと一緒にレースを観ていたのだが……。
《……そして今!2番のキングスポイントが1着でゴールイン!6度目のレースでようやくキングスポイントが1着で走り抜けました!中団から突き刺すような末脚で見事勝利を掴み取った!》
キングスは無事、未勝利戦を勝利で納めることができた。オフトラとミラクルが抱き合って喜んでいる。
「や、やったやった!キングス先輩勝ちましたよ!」
「うん、勝てたねキングス先輩!」
シービーは……いつものように飄々とした態度でいる。ただ心なしか嬉しそうだ。
「ま、キングスも大分フラストレーション溜まってたしね。肩の荷が下りたんじゃないかな?」
そしてこの場で一番喜んでいるのは……やはりというかテンポイントだ。滅茶苦茶テンションが上がっている。
「フッフーン!どうです?見ましたかあの2番の子!あの2番の子ボクの妹なんやで?」
「い、妹?もしかしてテンポイントさ……」
「あー!あー!いやー凄かったなーキングスー!うんうん!次が楽しみだなー!?」
俺は他の観客にウザ絡みしていたテンポイントを引っぺがす。
「お前なぁ!自分が変装していることを考えてくれ!」
「う゛、ご、ゴメン誠司。ついテンション上がってもうて……」
「嬉しいのは分かるが、お前がここにいるってことが分かったら絶対に面倒くさいことになるからな。今後は気をつけてくれよ?」
「わ、分かっとる分かっとる」
テンポイントを窘めて俺はキングスと合流するためにウィナーズサークルへと向かう。本来ならば、ここで記者のインタビューがあるのだが……まぁ、キングスはさっさと控室に戻ってしまった。なのでインタビューは俺だけで答える。
「あ~……と、とりあえずキングスポイントさんの初勝利おめでとうございます、神藤トレーナー」
「はい。ありがとうございます。ようやく掴んだ……って感じですけど」
「もう皐月賞には間に合いませんが、キングスポイントさんの今後の予定は?」
「ひとまずは……条件戦を積み重ねていこうかなと。後のことはそこからですね」
「キングスポイントさんの姉であるテンポイントさんと比べて、何か一言お願いします」
「キングスポイントはキングスポイント、テンポイントはテンポイントです。テンポイントはキングスポイントにないものを持っていますし、逆もまた然りです」
それからインタビューを続けて、終わった後はキングスの控室へと足を運ぶ。ノックをして入室した。
「お疲れさんキングス。ひとまずは……初勝利おめでとう」
「……フン」
ぶっきらぼうな態度を取っているが、耳と尻尾が忙しなく動いている。やはり勝てて嬉しいのだろう。思わず顔がほころぶ。
「とりあえずは、この後のライブ頑張れよ。練習はしっかりやって来たからそれを発揮するだけだ」
「分かってるし。どっしり構えてみてればいいし」
「そうか。ただどっしり構えるだけだとコールができないから無理な相談だな」
「勝手にしろし」
まぁキングスはいつも通りだ。俺は速めに退出し……誰もいないことを確認してからガッツポーズをする。
(よし……よしっ!何とか勝てたっ)
あまり表には出さなかったが、やはり担当の子が勝てると嬉しい!何度も何度も、嬉しさを噛みしめるようにガッツポーズをする。
だが、キングスはまだまだこれからだ。これから勝っていかなきゃ、ただ一度の勝利で浮かれてもいられない。アイツの適性をしっかりと見出して、導いていかなければ。
(とりあえず、次のレースはどうするか……だな)
今後の予定を確認しながら俺はライブ会場へと足を運んでいった。余談だが、キングスは緊張でギクシャクしていたものの、何とかライブを終えることができた。緊張している姿が好評だったらしく、キングスのファンも結構増えたのはここだけの話である。
この話書き終えるまでにシービーが実装されてしまった。