ウマ娘~プロキオンの軌跡~   作:カニ漁船

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勝っても世間の評価は厳しく。


フリー・スタイルレース

 先日行われた未勝利戦。あたしはやっと勝つことができた。それ自体は嬉しい。もう凄く嬉しい。お姉も褒めてくれたし、チームのみんなも祝福してくれたし。……まぁ、一応アイツも。

 だけど、今日出た見出しであたしの有頂天だった気持ちは一気に下降していった。

 

 

【流星の貴公子の妹、ようやく初勝利】

 

 

【キングスポイント辛勝。皐月賞には間に合わず】

 

 

【賢姉愚妹の評価変わらず?キングスポイントに立ち込める暗雲】

 

 

 ……これだから記者連中は嫌いだ。勝手に期待して持て囃しといて、自分達の思うような結果じゃなかったら勝手に見放して貶していく。お姉の時もそうだった。お姉は弱いだの、大事なレースで勝ちきれないウマ娘だの散々バカにされてきた。そのせいで、お姉も記者連中には良い思いをしていない。

 でも、アイツは大事なことだから最低限は受けてくれという。断固拒否するけど。

 

 

「やっぱり記者の奴ら嫌いだし……うん?」

 

 

「おっはよー!キングスちゃん!」

 

 

「あり?今日はナイーブな感じ?」

 

 

「どしたん?話聞こか?」

 

 

「なんでもウチらに話してみな!」

 

 

 あたしに元気よく挨拶しに来てくれたのは、あたしの友人達だ。お姉の大ファンで、学園に非公式のお姉の親衛隊を作ってるみんな。人見知りで、こんなあたしとも仲良くしてくれる優しい人達。

 あたしはみんなに雑誌を手渡す。

 

 

「これ。今日出た雑誌だし」

 

 

「どれどれ~?……うわ、なんだコイツら」

 

 

 記事の見出しを見た瞬間、全員が一斉に顔をしかめた。そして、次いで見せたのは怒りの表情。

 

 

「【立派なのは体格だけ】……しっつれいな記者だね!キングスちゃんの魅力をなんも分かってないじゃん!」

 

 

「ホントホント!記者なんて辞めちまえ!」

 

 

「こんなの気にする必要ないよ!」

 

 

 そして、あたしを励ましてくれる。ちょっと照れくさくなってあたしは頬を掻く。

 

 

「だ、大丈夫だし。元からあんま気にしてないから」

 

 

「そうなん?でもさ~……やっぱ気に食わないよね。テンポイント様の妹だからって持ち上げるだけ持ち上げといてさ~」

 

 

「いざとなったらポイーだもん!何様のつもりだっての!」

 

 

(でも……正直勝ちきれないあたしも悪いと思う……)

 

 

 アイツからも常日頃から言われていることだ。もっと我慢することを覚えれば、あたしはもっと上を目指せる逸材だって。勝つために必要なことだってのは分かってる。でも、あたしはどうしても我慢ができない。

 

 

(昔っからだけど、本当に嫌になるし……)

 

 

 勝手に自己嫌悪に浸っていると、それに気づいた友人の1人が不安そうにあたしの顔を覗き込んできた。

 

 

「ホントに大丈夫?キングスちゃん」

 

 

「う、うん。大丈夫……」

 

 

 全然大丈夫じゃないけど。でも、これ以上心配かけさせるのも良くないから嘘をついた。そんなあたしの様子にいち早く気づいたのか、明るい表情であたしを見てきた。

 

 

「ねぇキングスちゃん!今度の日曜って空いてる?」

 

 

「今度の日曜?……確か、空いてる……と、思う」

 

 

 あたしがそういうと、さらに顔を輝かせた。

 

 

「じゃあさじゃあさ!面白いとこ連れてってあげるよ!」

 

 

「面白い……とこ?」

 

 

 あたしはよく分からず、ぽかんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで次の日曜日。アイツから許可を貰ってあたしは友達みんなに連れられるままとある場所へと来ていた。ここは……?

 

 

「ねぇ。ここってなんだし?一応、レース場?っぽいのは分かるんだけど……」

 

 

 あたしが尋ねると、みんなが楽しそうな表情を浮かべて答えた。

 

 

「よくぞ聞いてくれました!」

 

 

「ここなるはアスレチック・レース場!いろんなレースが体験できるレース場だよ!」

 

 

「平地もアリ!障害物もアリ!まさに何でもござれ!」

 

 

「そして特筆すべきは~……!ここで行われているフリー・スタイルレース!」

 

 

 聞き覚えのない言葉に、あたしは目を丸くする。

 

 

「フリー・スタイル……レース?」

 

 

「そそ!簡単に言っちゃえば、走者の妨害さえしなければ自由に走っていいの!」

 

 

「いつも通り考えながら走っても良し!頭空っぽにしてバカになるのも良し!まさにフリースタイル!」

 

 

「学園のレースでは味わえない快感に、キングスちゃんも病みつきになっちゃおうぜ~?」

 

 

「何その怪しい勧誘。もうちょっと考えなって~」

 

 

 そんな友達の会話に耳を傾けながら、あたしはレース場を見る。丁度今レースをしている所だった。

 

 

「おりゃおりゃおりゃー!」

 

 

「負けるかー!」

 

 

(ものすごく気合入ってるし。レース終盤なのかな?)

 

 

「ねぇ。あれってもうレース終盤?どこがゴールだし?」

 

 

「へ?え~っとねぇ……まだ序盤だね。丁度200過ぎたぐらい」

 

 

「に、200!?全然序盤だし!?」

 

 

「なんなら距離は2400だね」

 

 

「~~……ッ」

 

 

 なんというか、頭が痛くなってきた。頭空っぽにして走るっていうけど……いくら何でも考えなさすぎじゃないかって思う。

 そしてレース終盤。案の定というか前の2人は完全にバテていた。後続も追いついてきている。でも……。表情は笑顔だった。

 

 

(……なんで、笑ってられるんだろう?負けそうなのに)

 

 

 そして、前の2人は失速して最終的には負けてしまった。でも、凄く楽しそうに笑っているのが印象的だった。その姿が……少し、羨ましく見えた。

 

 

(あたしも、あんな風に走れたら……)

 

 

 でも、あたしには合ってない。ズブいし、考えなしだし。また勝手に自己嫌悪に浸りそうになっていると。

 

 

「というわけで……フリー・スタイルレースに1名様ごあんな~い!」

 

 

「え?ちょ、ちょっと……ッ!」

 

 

 みんなに押されるままあたしはレースへの出走を決められてしまった。い、いつの間に!?

 

 

「まーまー。とにかく走ってみなって!」

 

 

「そうそう!気持ちいいよ~?なんてったって、ここにはうるさく言う人達はいないんだからね!」

 

 

「自分の気持ちの赴くままに走る!それがフリー・スタイルレースの楽しみ方!」

 

 

 結局断ることもできずに、あたしはフリー・スタイルレースの障害レース部門に参加することになった。何でも、こっちの方がスリルがあって楽しいらしい。枠番、というかスタート位置はくじ引きで決めるらしい。この辺もフリーっぽさが出てる。

 あたしは……ちょうど真ん中だった。スタートの態勢をとる。

 

 

「「「頑張れ~!キングスちゃ~ん!」」」

 

 

 と、とりあえずどう走ろう?

 

 

(自由にって言われても……よく分かんないし。と、とりあえずいつも通りに……)

 

 

 そんなことを考えていると、いつの間にかスタートしていて……ッ!?で、出遅れたし!?

 

 

「や、やっちゃった!?」

 

 

 慌ててあたしは飛び出す!え、え~っとこんな時は……こんな時は……ど、どうすればいいんだっけ!?

 

 

(た、確かお姉は……お姉出遅れたことないじゃん!?じゃあアイツは!アイツはなんて言ってたっけ!?)

 

 

 癪だけど、アイツの言葉に頼るしかない!……でも、思い出せない。完全に記憶から飛んでしまった。というか、こうやって考えている間にも先頭との差はグングン開いていく。

 

 

(~~ッ!う~ッ!どうせ考えてもアレだし、だったら……!)

 

 

 みんなが言ったように、頭を空っぽにして走ってやる!それにここにはうるさく言う記者もいなければあれこれ指示を出すアイツもいない!ぶっちゃけた話、あたしが負けても文句を言う奴は誰もいない!

 

 

「ちくしょー!どうにでもなれしー!」

 

 

 あたしは後先考えないでぶっ飛ばす!でも……ッ!?

 

 

「わっ!?っとと!」

 

 

 そ、そういえばこれ障害物レースだった。目の前にハードルがあったので凄くビックリした。あたしは何とか飛び越えることに成功する。けど、我ながらかなり不格好だった。

 

 

(しょーがないし!障害レースなんて走ったことないんだから!)

 

 

 でも、ちょっと楽しいかも……?いや、そんなことよりも!早く追いつかないと!先頭は……あんなに先!?

 

 

(くっそー!絶対に追いついてやるし!)

 

 

 そうやって走っていくのだが……。

 

 

「わっ、わっ、わっ!?」

 

 

 ただでさえ不慣れな障害レースで勝てるわけもなく。あたしは10人中5着で終わってしまった。

 

 

「ハァ……ッ、ハァ……ッ」

 

 

 正直、負けて凄く悔しい。けど、それ以上に……!

 

 

「結構、楽しいかも……ッ!」

 

 

 久しぶりに、凄く久しぶりになんも考えないで走った気がする。それが、凄く気持ちよかった!

 みんながあたしのとこに集まってくる。

 

 

「お疲れー!キングスちゃん!」

 

 

「どうだった?初のフリー・スタイルレースは!」

 

 

 友達の言葉に、あたしははにかみながら答える。

 

 

「ちょっと、楽しいかな、って……」

 

 

 あたしの言葉に、みんなは満面の笑みを浮かべる。

 

 

「でしょでしょ!?キングスちゃんならきっと気に入ってくれると思ってたんだ!」

 

 

「ここって定期的にレース開催してるからさ!またなんか嫌なことあったらここに来なよ!」

 

 

「ウチらも付き合うからさ!」

 

 

 そうやって話していると、知らないウマ娘の子達が近づいてくる。あたしは、みんなの背に隠れた。や、やっぱり知らない人と話すのは慣れないし。

 

 

「いやーお疲れ新入りちゃん!良いレース……あり?なんかあったん?」

 

 

「あ~すいません。キングスちゃん人見知りなんです」

 

 

「へ~そうなんだ。んじゃ、手短に済ませようか」

 

 

 一呼吸置いた後、その人はあたしに告げた。

 

 

「また来なよ?ここはあんたのことについて詮索するような無粋な奴はいない。気が向いた時はいつでも来な!フリー・スタイルレースは、アンタを……キングスポイントを歓迎するよ!」

 

 

「ッ!」

 

 

 あたしを、歓迎する。お姉の、テンポイントの妹としてのあたしじゃない、キングスポイント個人を歓迎してくれる。そう、言ってるように感じた。

 あたしは、前に出る。そして、指を突きつけて宣誓した。

 

 

「今度は負けないし!次はあたしが1着だし!」

 

 

「……へぇ。いいね!活きのいい奴は好きだよ!まだ挑戦していくかい?」

 

 

「勿論だし!また障害レースでリベンジだし!」

 

 

「いいねいいね!よし、早速エントリーだ!」

 

 

 あたしはもう一度障害レース部門でエントリーする。結局その日は1日中フリー・スタイルレースに明け暮れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日一日フリー・スタイルレースで走って。とても気分の良い状態で一日を終えることができた。結構、というかかなり久しぶりかもしれない。こんなに良い気持ちのまま一日を終えることができたのは。

 

 

(フリー・スタイルレース……また、行ってみようかな)

 

 

 そんな思いを胸に抱きながら、あたしは眠りについた。




新しい道を模索するキングス。
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