ウマ娘~プロキオンの軌跡~   作:カニ漁船

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オマタセシマシタ


キングスのこれから

 キングスがようやく未勝利戦を抜けて結構な時間が経った。世間では現在日本ダービーのことで大盛り上がりである。もうそんな時期になったのかと感じた。

 ……まぁ、今の俺に日本ダービーは眼中にない、というか、目に入れる余裕なんてものはない。現在阪神レース場。俺はキングスのレースを見ている……の、だが。

 

 

 

 

《……が今1着でゴールイン!見事な走りを決めました!各ウマ娘が次々とゴールしていきますが……2番人気キングスポイントは7着!キングスポイントは7着に沈みました!これでレースは3連敗!そろそろ勝ち星が欲しいところだキングスポイント!》

 

 

 

 

 キングスは7着で大敗。そして、このレースは……条件戦だ。

 

 

「こっからどうするかねぇ……」

 

 

 ひとまずはアイツを宥めることを最優先に考えるんだが……それから後のことだ。周りの会話が嫌でも耳に入ってくる。

 

 

「あ~あ、キングスポイントはまた負けか」

 

 

「ホント、お姉さんのテンポイント様とは大違いね」

 

 

「勝ちきれないよなぁ、キングスポイントは。あぶなかっしいというか」

 

 

「……」

 

 

 ファンの言葉は事実だ。キングスは未勝利戦をようやく勝ってからまた勝ちが遠のいている。いい加減何とかしてやりたいところだが。

 

 

「作戦もハマらない、秀でた武器があるわけでもない、暴走を繰り返す……どうすればいいんだ?」

 

 

 何とか知恵を振り絞って俺はこれからのことを考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阪神レース場の条件戦から数日。トレーナー室で仕事をしながら新聞や雑誌の記事を確認する。内容は主にキングスのことについてだ。

 

 

「【キングスポイント条件戦7着大敗】……【姉とは天と地の差】……【ワガママ娘に神藤トレーナーも見放すか?】……あ?んな訳ねぇだろ。どこの雑誌だオイこら」

 

 

「おーっす誠司……なんや荒れとるけどどうしたん?」

 

 

 テンポイントが部屋に入ってきたので急いで雑誌と新聞を片付ける。キングスのことを溺愛しているテンポイントの目にこの記事が目に入ったら子のトレーナー室が氷点下を下回ること間違いなしである。

 

 

「ちょっと、な。キングスのこれからについて考えていたら友達から変なメッセージが来てな。少し苛ついてたところだ」

 

 

「……半分嘘やな。本当のこと言いや」

 

 

「……なんで分かった?」

 

 

 テンポイントは溜息を吐きながら答える。

 

 

「誠司とは長い付き合いや。ホンマのことか嘘のことかなんて分かるで」

 

 

「マジかよ。……まぁお互い様ってとこか」

 

 

 俺は観念して記事を取り出してテンポイントに渡す。

 

 

「最近のキングスのことについて書かれた記事だ。分かっちゃいたが……まぁよろしくない評価だな」

 

 

「……まぁ、しゃあないとはボクも思うてる。キングスは勝ちきれんレースが続いとるし、未勝利以降勝てへんのもまた事実やからな」

 

 

 テンポイントは俺が渡した雑誌と新聞をこちらに返してきた。……微妙に跡がついているのでテンポイント自身もかなり怒っているのだろう。だが、事実は事実なので何も言えない……そんなところだ。

 

 

「キングスは何しとるん?」

 

 

「今日は練習休みだ。休みの日は毎回友達とどこかに行ってるみたいだが……詳しくは分からん」

 

 

 いくら担当といえど、無断でプライベートに干渉するのはご法度なので詳しくは聞いていない。ただ、キングスの友達が一緒なので特に心配はしていないのだが。それはテンポイントも同じのようだ。

 

 

「まぁ、あん子達がついとるなら大丈夫やな。何しとるかは気になるけど……ボクにも教えてくれへんし……」

 

 

 なんでやキングスー!お姉の事嫌いになったんかー!?とか叫んでいるが俺は無視して仕事を続ける。しかし、キングスの休日の行動か……。

 

 

(気になるっちゃ気になる。だが、干渉したらアイツは絶対に良い顔をしないし機嫌を損ねるのだけは御免だ)

 

 

 遊んだ翌日の練習は気分良くしているから楽しいところに行ってるのは間違いないのだが。アイツが気分を良くするような場所……ねぇ。

 

 

「検討がつかねぇな。よくよく考えれば俺キングスの事テンポイントが好きなことしか知らねぇし」

 

 

「うん?何の話や?」

 

 

「キングスって遊んだ翌日は決まって機嫌がいいだろ?だから余程楽しいことをしてるんだと思うけど……それが予想つかねぇなって話」

 

 

「そうやなぁ……。キングスがあんな機嫌がええってことは走ってるんちゃうか?あん子達と」

 

 

「走ってる?」

 

 

「やな。キングスかて走るのは大好きやし。キングスがあれだけ機嫌がええっちゅうことは余程楽しく走れとるんちゃうか?これで外れとったらボクにも分からんわ」

 

 

 テンポイントはそう締める。走っている……か。世間の目を気にせずに走れる場所……そんなものがあるのだろうか?

 俺はチラリと時計を確認する。

 

 

「……ん?あ、やっべ!買い出しすんの忘れてた!」

 

 

「そうなん?今日はチーム練習休みやし、早いとこ行ってきたらどうや?その間ボクがここで留守番しとくで」

 

 

「スマンテンポイント!助かる!」

 

 

「ええよええよ。気にせんでいってきー」

 

 

 テンポイントの言葉に答えながら俺は部室を飛び出す。それにしても、早い段階で思い出せてよかった。これなら余裕で間に合いそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ショッピングモールで買い出しすること小一時間。目的のブツを買い揃えることができた。

 

 

「いや~危ない危ない。明日の仕事に支障が出るところだったぜ」

 

 

 俺が買いに来たものは竹箒をはじめとした用務員としての作業用具一式だ。これを買いに来た目的はただ1つ……。

 

 

「テスコガビーのヤツめ……何本も何本も竹箒を壊しやがって……。不器用にもほどがあるだろ」

 

 

 昔より多少マシになったものの、テスコガビーの不器用は治ってないままだ。時折備品を壊してしまうことがある。テスコガビーに悪気はないので怒る気はないのだが、さすがに自重して欲しいとは思う。

 

 

「ま、やる気があるのは良いことだ。最近は細かい作業も少しずつできるように……なってきたって言えるのか?アレは」

 

 

 言いながら、アイツがいまだに針の穴に糸を通すことすらできないことを思い出す。あのダブルティアラのテスコガビーがまさか針の穴に糸を通すことすらできないとは……世間様が知ったら驚くだろう。口外する気はないのだが。

 

 

「長い目で見ていくしかないな。俺はアイツの教育係だし……うん?これは……【フリー・スタイルレース】?」

 

 

 帰り道、なにやら面白そうな催し物を発見する。そこにはウマ娘が集まってレースをしている姿があった。ただ……トゥインクル・シリーズで走るレースとは明確に違うのを肌で感じる。

 まず、作戦も何もあったもんじゃない。自分の好きなように飛ばして走るのが目についた。

 

 

「おりゃおりゃおりゃー!」

 

 

「あたしがいただくよー!」

 

 

 勝利を目指して走るレースではない。だが……走っている全員が真剣に、勝利を目指して、なおかつ……楽しそうに走っているのが分かった。思わず笑みが零れる。

 

 

「へぇ……楽しそうなレースだな」

 

 

「お?お兄さん分かります?」

 

 

「うわぁ!?」

 

 

 背後から声を掛けられて思わず情けない声を出してしまう。背後には、笑みを浮かべているウマ娘がいた。手に持っているプラカードには【主催者】と書いてある。ということは……。

 

 

「君は、この催しの主催者かい?」

 

 

「そうだよ。ここ、フリー・スタイルレースの主催者さ」

 

 

 目の前の少女は自慢げに胸を張る。

 

 

「お兄さん、ここ初めてっしょ?あたしが一から説明してあげましょうか?」

 

 

「……そうだな。よろしく頼むよ」

 

 

「合点承知!」

 

 

 そこから、彼女の説明が始まった。

 まずここは色んなウマ娘が集まって各々自由にレースをするためにある場所であること。色んなウマ娘が集まるという都合上、余計な詮索はしない。例え元有名なウマ娘であってもどうしてここにいるとか、なんでこんなとこで走ってるの?とかはNG。でないと、フリー・スタイルレースとは言えないから……とのことだ。

 ここでのルールはただ1つ。妨害さえしなければほぼ全てのことがOKされているということ。細かい作戦もなし、自由気ままに走ってよし、何も考えないで走れる場所……それこそが、このフリー・スタイルレースという場所らしい。

 

 

「成程……まさに、自由なレースを楽しむための場所、ってことか」

 

 

「そゆことー。だから~、トゥインクル・シリーズでは味わえないようなレースも見れちゃうよ?」

 

 

 確かにそうかもしれない。みんながみんな楽しそうに走っている姿が目に付いた。その時ふと、俺にある考えが浮かぶ。テンポイントからの言葉……キングスは休みの日にどこかで走っているかもしれないという言葉だ。

 

 

(まさか……な)

 

 

「お兄さん、運が良いね~。今日はさらに面白いものが見れちゃうよ~?」

 

 

「さらに面白いもの?」

 

 

「そそ。今日は障害レース部門の開催の日なんだよね。善は急げ、早速見に行きましょ~!」

 

 

 俺は少女に手を引かれるままに進んでいく。そして、障害レースが開かれるであろう場所に案内された。そこで目にしたのは……。

 

 

「……おいおい、マジかよ」

 

 

 キングスの姿だった。出走者であることを示すように3番のゼッケンをつけている。まさか本当にいるとは……。

 

 

「あり?誰か知り合いでもいた?」

 

 

「……いや、他人の空似だ」

 

 

「そう?ま、余計な詮索はしないけどさ……お、始まるよ?」

 

 

 待っていると、レースが始まった。キングスは……なんというか、出遅れた。

 しかし、キングスが障害レースか……。

 

 

(アイツにそんなトレーニング積ませてないし、できるとは思えないんだが……)

 

 

 まもなく第一障害に入る。キングスは……ッ!

 

 

「……」

 

 

 そこから第二障害、第三障害へと入っていく。だが、俺の目は……アイツに、キングスに釘付けになっていた。

 

 

「お兄さん、目が釘付けになってるねぇ。いいでしょ?あの背の高い3番の子。ぶっちゃけ飛び越えはへったくそだけど……あの子はここからが強いんだ」

 

 

 隣からの言葉に俺は同意する。あぁ、確かにこれはすげぇ。何より……笑顔で楽しそうに走るアイツの姿が、目に焼きつけて離れない。

 

 

(成程……そういう、ことだったのか……)

 

 

「……ありがとう。おかげで良いもんが見れたよ」

 

 

「あり?もう帰っちゃうの?まだまだ続くのに」

 

 

「バレたら面倒な子がいるんでね。ここいらで退散させてもらうよ。楽しかった、機械があればまた来させてもらうよ」

 

 

「あいあ~い。じゃあね~中央のトレーナーさ~ん」

 

 

 主催者の子に手を振って別れる。帰る時の俺の足取りは……とても軽かった。

 

 

(方針は決まった。だが、後はどうやってアイツを納得させるか……だな)

 

 

 ……多少荒療治になるかもしれないが、それも覚悟しておこう。とにかく方針は決まった。キングスのために、頑張ろう。




キングスの適性を見出せたか?


これからはローテーションで書いていこうかなーと思ったりしています。
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