──あたしだって、努力はしている。
「ハァ……ハァ……!も、もう、一本……!」
強くなるために必死に頑張ってる。お姉みたいな強いウマ娘になる為に……お姉みたいにみんなが凄いって言うウマ娘になれるように。
でも、いつだって上手くいかなくて……。
《……が今1着でゴールイン!期待のキングスポイントはデビュー戦は3着に沈みました!》
負けたことが悔しくて。
「キングス、今回は仕掛けどころが悪かったな。次はもう少し……」
「……うっさいし!早く次のレース決めろし!」
「……分かった」
お姉の妹だからって理由でチームに入れてくれたアイツにも、強く当たっちゃって。その度に……申し訳なく思って。
《1着はウラカワサミット!〈流星の貴公子〉の妹キングスポイントは2着!期待のキングスポイントは2着です!次こそは頑張れキングスポイント!》
「また……勝てなかった……!」
「へへ、テンポイントさんに妹さんに勝っちゃうなんて……!私実はすごかったり!?」
「……ッ!」
私が負けることで、お姉の評価にも繋がっちゃって。だから勝ちたくて。一生懸命頑張って……!
「キングス!レース明けだぞ!?それ以上の練習は……!」
「黙れし!口出しすんなし!」
「……分かった。口出しはしない。代わりに、お前が満足するまで俺はここでお前の練習を見させてもらうぞ」
「勝手にしろし!」
あたしの身体は丈夫だったから、それだけは幸いだった。必死にあがいて、もがいて……。
《未勝利戦、キングスポイントは大敗6着!これはどうしたことか!?姉とは大違いだ!キングスポイントは姉であるテンポイントのようにはいかないのか!?》
でも、勝てなくて……!
「ねぇねぇキングスポイントさんってさ~」
「ッ!?」
(と、咄嗟に隠れちゃった……)
「本当にテンポイントさんの妹?なんていうか、全然強くなくない?」
「ホントホント。あれじゃあその内地方に行っちゃったりして?」
「ありえそ~。ま、テンポイントさんの顔に泥を塗るのは止めて欲しいよね~」
「「分かる~!」」
「……」
お姉にも迷惑を掛けることが悔しくて……!でも、あたしが強くないのは事実だから……何も言い返せなくて……!
「大丈夫やキングス!キングスは強い子や、きっとこれから勝てるようになる!お姉はいつでもキングスを応援しとるで!」
「……うん、ありがとうお姉。あたし頑張る」
「その意気やキングス!」
お姉は負けたあたしを励ましてくれる。その励ましが申し訳なくて……お姉の強さに、嫉妬しちゃって。嫉妬する自分が嫌で、情けなくて……!
《そして今!2番のキングスポイントが1着でゴールイン!6度目のレースでようやくキングスポイントが1着で走り抜けました!中団から突き刺すような末脚で見事勝利を掴み取った!》
「や、やった……!」
ようやく勝利を掴んでも……。
「テンポイントの妹、ようやく未勝利戦抜け出せたんだってな」
「あ~……名前なんだっけ?忘れたわ」
「キングスポイントだよキングスポイント」
「そういやそうだったな。つっても、あのテンポイントの妹なのに5回目の未勝利戦でようやく初勝利って」
「期待外れだよな~。テンポイントはあんなに強いのに」
どこまでいっても、あたしはお姉の妹としてしか、見られてなくて……それが、辛くて。余計に頑張って、レースで勝って見返してやろうと思っても……。
《露草賞を制したのはゼロイバア!ゼロイバアが勝ちました!キングスポイントは惜しくも2着!》
あたしは、勝てなかった……。
あたしだって努力はしてる。でも、結果に結びつかない努力なんて……何の意味もない。そのことは、あたし自身……身に沁みて分かっていた。
でも、これからも頑張っていこう。そうすれば、いつか勝てる日が来る。そう、信じていた──
「……今、なんて言ったし?もっぺん言ってみろし」
「聞こえなかったか?キングス。ならもう一度言おう……俺はお前を、障害レースに転向させるつもりでいる」
──でも、神様は待ってはくれなかった。
今、我がプロキオンの部室には全メンバーが集まっている。そして部室内は……一触即発の空気に包まれていた。テンポイントとシービーは静観、オフトラとミラクルはオロオロしている。一触即発の空気を作っている発生源は言うまでもない……俺と、キングスの2人だ。
怒り心頭といった様子のキングスとは対称的に、俺は極めて冷静だ。
「あたしが……勝てないから……?だから障害レースに転向しろって!?」
「……それもある」
「じ、じゃあ勝てば!」
「それに」
俺はキングスの言葉にかぶせるように告げる。何も今すぐに転向させるわけではないということを。
「あくまでつもりだ。勿論勝てばそのまま平地のレースで走り続けさせるつもりでいる。そうだな……これから先のレース、年内に2勝、いや1勝できたら平地のレースで走り続けさせることを約束してやる」
「あたしには……それすらもできないって言いたいの!?」
「そんなことはない。これは……」
「うっさい!……とにかく、勝てばいいんでしょ!?」
キングスの言葉に俺は頷く。
「勝てればいい……!勝てば平地のレースで走り続けられる!だったら……いいし、飲んでやるしその条件!」
「そうか。じゃあそういうことで頼むぞ」
「ふん!」
キングスは扉を乱暴に閉めて部屋を出ていった。おそらく練習に行ったのだろう。
「わ、私練習付き合ってきますね!」
キングスと仲の良いオフトラもついていくように部屋を出ていった。
「じゃ、アタシ達も行こうかミラクル」
「は、はい。でも……良いんでしょうか?」
「……ま、遅かれ早かれこうなるとは思ってたよ。それに、ミスターにはミスターの考えがある。それはきっと……キングスのためになることだよ」
「はぁ……」
ミラクルもシービーに連れられるまま練習に行った。俺とテンポイントだけが部屋に残る。
「……ハァ、アイツを焚きつけるためとはいえ、あんま酷いことは言いたかねぇんだけどなぁ」
「お疲れさん誠司……でも、キングスのため、やろ?」
「その通りだ」
俺はコーヒーを啜りながら答える。コーヒーはすでに冷めていた。
「キングスの評判は……最悪の一言に尽きる。このまま平地のレースで走り続ける限り、アイツはテンポイントの妹としか見られない。キングスポイント個人として見られることはないだろうな」
それが俺の出した結論だ。
「ファンってのは非情だ。結果を出せないウマ娘にはとことん厳しい。特にキングスはお前の妹だ。かかる期待も大きかった。それゆえに……どこまでもファンはキングスに厳しい」
「……今の自分の立場が憎くなるとは思わんかったわ。大事な妹を苦しめる立場になっとる、僕の立場が」
テンポイントは悔しそうに歯噛みしている。キングスを溺愛しているテンポイントからすれば……今のこの状況の一因となっている自分が許せないのだろう。
「……で?障害レースに転向させる本当の理由はなんや?」
「……」
「他にあるんやろ?やないと、いきなり転向なんて言わんやろ。それに、君の性格上条件なんてつけさせへん。キングスを焚きつけてまで、な」
「……全く敵わんなお前には」
「それほどでもないで」
俺はテンポイントに理由を話す。俺がキングスを障害レースに転向させることに決めた……本当の理由を。
「この前の練習休みの日、お前に留守番してもらったことがあったろ?その時の買い出しの帰り道にさ、キングスが走ってるとこを見たんだよ」
「あ、やっぱ走ってたんやなキングス」
「その時アイツはフリー・スタイルレースってのを走ってた。しかも障害レース部門でな」
俺の言葉にテンポイントは目を丸くする。それだけ意外だったらしい。
「障害レースの方走っとったんか。あ、やったら飛び越え凄い上手やったとか!?」
「いや、飛び越えはクッソへたくそだった」
「めっちゃ正直に言うやん君!?」
「けどな……アイツは、スゲェ楽しそうに走ってたんだよ。平地のレースでは、見られなかった笑顔だった。走ることを心から楽しんでる……そんな表情をしてたんだ」
あの時のことを思い出す。下手でも、不器用でも楽しそうに走る……キングスの姿を。
「このままいくと、アイツはレースを……走ること自体を嫌いになっちまう。それだけは、絶対に阻止しないといけない」
「……やから、障害レースに転向を?」
「……そうだな。それに、アイツは普通に言ったところで反発するだけだ。だったら、明確に条件を提示した方がアイツも素直に言うことを聞くだろう」
「ま、やろうな」
これがキングスを転向させようと思った本当の理由。障害レースなら……アイツなりの道を見つけることができるんじゃないか?それができなかったとしても、少なくともアイツは走ることを嫌いにならないはずだ。あんなに楽しそうに走るんだから、きっと。
「さて……と。ボクもミラクル達の練習見てくるわ」
「だったら俺も行く。一緒に行くか」
そうして、俺とテンポイントは練習へと向かって行った。
「やけど正直あまあまやと思うで?年内1勝て」
「……うっせぇ、俺だってアイツの思う通りに走らせてやりてぇんだよ」
「はいはい、分かっとるよ」
そんな軽口を言い合いながら。
……はぁ、また、やっちゃった。
(本当は分かってる……。アイツだって、本当はあたしを転向させたくないって)
だからこそ、年内に1勝でもできればなんて条件にしたんだと思う。あたしが平地で走りたいって思ってるから、だからあんなに簡単な条件を出したんだ。
レースだってアイツはあたしに決めさせてくれる。だからこの条件はあたしにとって相当有利な条件だ。
「キングスせんぱーい!もう一本ファイトでーす!」
「ッ!」
だから気合を入れる。お姉みたいに平地のレースで結果を出すためにも……!
……でも、本当にそれでいいんだろうか?
(平地で走り続けたところで……あたしはお姉と比べられるだけ。だったらいっそ……)
障害レースに転向した方が良いんじゃないだろうか?……でも、それを認めるのはなんだか癪だ。平地で勝てないから障害に逃げた、そう思われても仕方がない。そうなるとまた……お姉に迷惑が掛かる。もうこれ以上、お姉に迷惑を掛けたくない。
だからあたしは気合を入れる。
「お姉のために……!頑張るしッ!」
心にモヤモヤを残したまま──。
ヒトミミはホンマさぁ……。