ウマ娘~プロキオンの軌跡~   作:カニ漁船

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未勝利戦を勝った後。


勝利とそれから

 障害レースの未勝利戦を勝つことができた。そのことは嬉しかったんだけど……どっちかというと周りの方が喜んでた。お姉なんかは泣いてたし。ちょっと恥ずかしいけど……まぁ、嬉しかった。

 アイツも我が事のように喜んでた。何となく気恥ずかしくなって、素っ気ない態度を取っちゃったけど。

 

 

「やったなキングス!これがお前の……新しい第一歩だ!」

 

 

「……ふん。まだまだこれからだし。あたしの、キングスポイントの走りを見せるためにも、次のレースをさっさと決めろし」

 

 

「ッ!あぁ、分かった。次のレースもなるべく早めに組んでおく!だが……さすがに年明けだな。年内いっぱいは休養だ」

 

 

「……ん。分かった」

 

 

 そんな話を聞いて。後はライブに出て解散になった。……久しぶりにセンターで踊ったけど、やっぱり良いものだった。

 レースに勝って、気分も良かったけど……それ以上にやらなきゃいけないことがある。

 

 

「お、お姉……」

 

 

「な、なんや?キングス」

 

 

 授業も終わった放課後。あたしは練習は休み。だけどこうして部室に来ている。その理由は……お姉に謝るため。

 お姉には酷いことを言っちゃった。そのことをまだ謝ってない。だから、謝らないと……!

 

 

「そ、その……この前は、ごめんなさい。お姉に、酷いこと言っちゃって……」

 

 

 お姉は目を見開いている。周りにいるオフトラ達は固唾を飲んで見守っていた。

 あたしは、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。お姉に対しての申し訳なさ、酷いことを言ったから謝罪を。悪いことをしたらゴメンなさいって、小さい頃から教えられてたから。

 

 

「お姉だって、あたしを心配してくれてたのに。あたし、酷いこと言っちゃって……だから、ごめんなさい!」

 

 

 勢いよく頭を下げる。お姉に対して、精一杯の謝罪の気持ちを届ける。

 ……ただ、お姉からの反応がない。やっぱり、許してくれないんだろうか?そんな風に考えていると……。

 

 

「……き、キ゛ン゛ク゛ス゛~!」

 

 

「うわっ!?どうしたしお姉!?」

 

 

 お姉が急に抱き着いてきた。目尻には涙を浮かべているし、あたしを離すまいとしっかりと抱きしめている。

 

 

「よ゛か゛った゛~!キングスに嫌われたらボクどないしようかと思うてた~!」

 

 

「そ、そんなに?」

 

 

「そんなにや~!ホンマに、ホンマに良かった~!」

 

 

 お姉は相変わらずあたしの胸で泣いている。それだけ、不安だったのだろう。そして、それだけ酷いことを言ってしまったんだって理解した。

 あたし達をみんなは微笑ましそうに見ている……って!

 

 

「み、見せもんじゃないし!見るんじゃないし!」

 

 

「いや~?そんなこと言われてもね~?」

 

 

「ニヤニヤすんなしシービー!」

 

 

「美しき姉妹愛だね、トラップ」

 

 

「そうだね、ミラクルさん。これで2人とも無事に仲直りです!」

 

 

「う、う~っ!」

 

 

 恥ずかしさで顔が真っ赤だし……!つーか!

 

 

「見てないでさっさと散れし!トレーナー!」

 

 

「いや、ここ俺のトレーナー室なんだけど?」

 

 

「知らないし!どっかいけし!」

 

 

「はいはい……全く、本当はテンポイントと仲直りできて嬉しい癖に」

 

 

 その言葉と主に、あたしはお姉の身体を放して……アイツを蹴りに行くッ!

 

 

「ふんっ!」

 

 

「止めろお前!?ウマ娘の脚力で蹴られたら洒落にならねぇんだよ!?」

 

 

「知らないしこのバカトレーナー!さっさと仕事しろし!」

 

 

「仕事してたけど!?」

 

 

 そんなの関係ない!あたしとトレーナーの室内での追いかけっこが始まる。その様子を……みんなは微笑ましそうに見ていた。

 

 

「キングス先輩、いつの間にかトレーナーさんのことをトレーナーって呼んでますね」

 

 

「そうだね。いつもはお前とかあんたって呼んでたのに。それに……なんだか楽しそう」

 

 

「ま、キングスなりに信頼してきたんじゃない?こうして言葉に出してきたってことは、さ」

 

 

「キングス~!お姉は嬉しいで~!」

 

 

 そんな声が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あたしの次のレースは年明け。それまでの間はトレーニングだ。今日も障害レースに向けたトレーニングをしているんだけど……

 

 

「せやっ!」

 

 

「いったぁ!?」

 

 

「グリーングラス、一本!」

 

 

 なぜか、柔道をやらされていた。

 

 

「……いや、本当になんでだし?」

 

 

「これも重要なことだぞ、キングス」

 

 

 トレーナーが倒れているあたしを起こしながら疑問に答えてくれた。

 

 

「障害レースってのは、常に危険と隣り合わせだ。どんだけ差をつけて勝っていても、障害の飛越に失敗して大怪我をするなてザラだからな」

 

 

「……それと柔道に何の関係があるし?しかもスピカのグリーングラスまで巻き込んで」

 

 

「柔道で受け身の取り方を学ぼうってことだ。常に最悪を想定して、飛越に失敗しそうになっても最低限受け身は取れるようになっておいて損はない。身体に沁み込ませるんだ。後グラスを呼んだのは体格がお前に一番近いからだな。ありがとうな、グラス。急な呼びかけに応じてくれて」

 

 

「なんのなんの~。これぐらいお安い御用ですよ~神藤さ~ん」

 

 

 お姉の友達……グリーングラスは朗らかにそう答えた。スピカの練習は良いんだろうか?

 

 

「スピカの練習は~おきのんが見てるから大丈夫だよ~キングスちゃ~ん。私も~ドリームトロフィーの練習は~休みだしね~」

 

 

「人の心読むなし!」

 

 

「だって~キングスちゃん分かりやすいし~」

 

 

 グリーングラスはけらけらと笑っている。……でも、練習に付き合ってくれるのは素直にありがたい。心の中で感謝しておく。

 トレーナーから言われたことで再認識する。あたしがこれから走るレースは……一歩間違えれば大怪我に繋がる世界。それが、障害レースなんだと。そう認識する。

 

 

(一応、頭の中では分かっているつもりだけど……)

 

 

 それでも、用心しておくに越したことはない、ということだろう。練習に真面目に取り組む。

 

 

「やぁっ!」

 

 

「ぎゃふん!?」

 

 

 受け身を取れずに叩きつけられる。滅茶苦茶痛いし……。

 

 

「しっかりと受け身を取れキングス!身体に沁み込ませろ!」

 

 

「簡単に言うなしトレーナー!というか、グリーングラスも少しは手加減しろし!」

 

 

「え~?無理~」

 

 

「笑顔で言うことじゃないし!?」

 

 

 手加減してくれと頼んだら、グリーングラスからは笑顔で拒否された。見た目に反してそういう趣味でもあるのだろうかと勘繰ってしまうけど……多分、あたしのためにならないって考えてるんだ。うん、そう考えよう。そう考えることにした。

 それから何度も何度も投げられて……体のあちこちが痛くなって。陽が沈みかけた頃に終了となった。し、死ぬかと思った……。

 

 

「よし、今日はこれで終わりだな。改めて助かったぞ、グリーングラス。沖野さんにもよろしく言っといてくれ」

 

 

「はいは~い。おきのんにも伝えとくね~。それじゃあキングスちゃ~ん、またね~」

 

 

「あ、ありがとうございました……」

 

 

 息も絶え絶えになりながらそう答える。グリーングラスは手をひらひらさせながら同情を去っていった。

 身体のあちこちが痛いせいで1人で起き上がれない……と思っていたら。

 

 

「ほら、掴まれキングス」

 

 

 トレーナーが、手を差し伸べてきた。あたしは……その手を取る。

 

 

「……ありがと」

 

 

「気にすんな。立ち上がれなくなるくらいトレーニングさせたのは俺だからな。さすがに反省している……」

 

 

「……トレーナーが、あたしを心配しているからこそ、このトレーニングをさせてるのは分かってる。だから、気にしなくていい」

 

 

 少し顔を俯かせながらそう言う。するとトレーナーは……楽しそうな声で答えた。

 

 

「お?お前が素直にお礼を言うなんてな。ついに俺もトレーナーとして……」

 

 

「フンッ!」

 

 

「ちょ、おま!?」

 

 

 滅茶苦茶苛ついたから一本背負いを決める……アイツは何故か綺麗に受け身を取ったけど。腹立たしい。

 

 

「しゃ、洒落になんねぇだろ!?ここで一本背負いして受け身失敗したらどうすんだ!?」

 

 

「うっさいし!調子乗んなし!……ギャアァァァァァァ!?身体が痛いし!」

 

 

「分かった分かった!俺が悪かったからそれ以上身体を刺激するな!」

 

 

 トレーナーに止められて暴れまわるのを止める。ほ、本当に痛かったし……。

 帰り道。トレーナーに尋ねる。あたしが、一番心配していること。

 

 

「……ねぇ。あたしは本当に、障害レースで勝てるかな?」

 

 

「どうした?藪から棒に」

 

 

「決心したは良いけどさ、やっぱり……平地で勝てなかった記憶がチラついて。未勝利戦を勝ったのも、まぐれなんじゃないかって……」

 

 

 言ってて悲しくなるけど……そう思わずにはいられなかった。

 トレーナーは少し無言になって、答えた。

 

 

「そんな調子じゃ、無理かもな」

 

 

 ……やっぱり「だから」?

 

 

「まずは自信をつけるとこから始めろ。お前がお前のことを信じられなくてどうする?」

 

 

「自信……」

 

 

「何をするにしても、まずは自分に自信を持てキングス!この前の未勝利戦はまぐれなんかじゃねぇ、間違いなく、お前の実力で掴んだ勝利だ!」

 

 

「……」

 

 

  トレーナーは笑顔で、確信を持っているかのように。自身に満ち溢れた様子で答える。あたしも……つられて笑顔になった。

 

 

「……フン。言われなくてもそうするし。これからも勝ってやるし!」

 

 

「その意気だキングス!まずは年明けの障害オープン、頑張るぞ!」

 

 

「当然だし!」

 

 

 2人で帰路につく。晴れやかな気持ちだった。




本当にお待たせしてしまって申し訳ないです……。
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