ミラクルをスカウトしてから1ヶ月が経過した。チーム設立には残り1人である。残り1人なのだが……。
「その1人が中々見つからねぇなぁ……」
誰もいないトレーナー室で俺は1人愚痴る。テンポイント達は今授業中なのでいない。
ウマ娘のスカウト、そんなに日数を掛けずにキングス、シービー、ミラクルと立て続けにスカウトできたから多少浮かれていたところはある。もしかしたらこのままの調子で5人目も見つかって、チームを設立できるんじゃないか?そんなことを思っていた。
だが、現実はそんなに甘くはなく。残り1人となったところで盛大につまずいていた。一応、理事長とたづなさんからは焦る必要はないと言われているが、今までが順調だっただけにどうしても焦る気持ちが生まれてしまう。
「あてもねぇし、選抜レースも結局シービースカウトするだけで終わったし。その選抜レースもしばらくはねぇからなぁ……。足で稼ぐしかねぇのか……?」
だが、闇雲に探したところで見つかるはずもないだろう。溜息を吐いてしまう。
時計を確認する。時間的に、そろそろお昼だろう。
「このまま悩んでも仕方ねぇし、飯でも食べに行くか」
そう思い、俺はトレーナー室を出て行った。
お昼を食べに食堂へと向かうと、いつものトレーナー連中と鉢合わせた。向こうも俺に気づいてか手を上げながら挨拶してくる。
「よう神藤。メンバー集めはどうよ?」
そいつの質問に俺は答える。
「よう。残念ながら後1人がなかなか見つからねぇ状況だ」
「そうなのか。つっても、今までが順調だっただけで普通は見つからねぇもんだからな」
「ま、確かにそうだな。お前らもこれから飯か?」
「そうだな。一緒に食うか?聞きたいこともあるし……な」
「賛成で」
なんか嫌な予感がするが、俺はその意見に賛同する。
全員でご飯を食べることが決まったので、俺達は席を取ってそれぞれ思い思いの注文を取りに行った。そして席に着いた瞬間、全員からすごい勢いで詰められた。思わずたじろぐ。
「な、なんだよ。なんかあったのか?」
俺がそう尋ねると、1人が凄い剣幕でまくし立ててきた。
「なんかあったのか?じゃ、ねぇよ!テメェあん時の言葉は嘘だったのか!」
あの時の言葉?嘘?さっぱり意味が分からない。
「お、落ち着け。何の話だ?」
「何の話も何も!お前がシービーをスカウトした件だよ!シービー狙いじゃねぇとか言っておいて!騙しやがったな!」
「騙した覚えはねぇよ!?人聞きの悪い!」
だが、彼らは止まらない。その言葉を皮切りに、他の奴らもまくし立ててくる。
「そうだそうだ!羨ましいぞこんちくしょう!」
「その運俺にも分けろ!」
「1ヶ月も経って今更感半端ねぇけどな!」
「本当ですよ……。なんで1ヶ月も前のこと蒸し返してるんですか……」
その言葉には激しく同意する。俺は溜息を吐きながら応対する。
「大体、俺だって驚いてんだよ。シービーをスカウトできた件は」
「本当か?裏でなんか取引してたんじゃねぇだろうな?」
「誰がそんなことするか!」
俺は続ける。
「第一、俺はアイツが出走すること自体知らなかったの知ってるだろ?スカウトできたのだってたまたまだし」
「そのたまたまを引き寄せるのもすごいけどな」
「そうだな。ま、これもひとえに神藤の人徳かもしれねぇな」
先程の糾弾していた態度とは打って変わって今度は普通に褒め始めた。もしかしたら、こっちの方が本音かもしれない。少し照れくさくなる。
ご飯を食べているうちの1人が俺に質問をしてくる。
「にしても、最後の1人あてはあんのか……ってあてがあったら苦労してねぇか」
「その通りだ。本当にどうするかねぇ……」
「期限はないにしても、今までが順調だっただけに焦るよなぁ。分かる分かる」
「後1人、どうするつもりだ?」
俺は少し考えた後、答える。
「地道に足で稼ぐしかねぇよなやっぱ。手当たり次第に声を掛ける……ってのは怪しまれるからさすがにやんねぇけど」
「だな。下手すりゃ通報もんだ」
「スカウトも節度を持って。無理矢理迫るなんて言語道断、トレーナー失格だからな」
「難しい塩梅ですよね」
俺は頷く。
そのまま彼らの知恵を借りながらあぁでもない、こうでもないと話し合いを続けていくうちにいつの間にか食べ終わっていた。
俺は彼らに相談に乗ってくれたお礼を言う。
「ありがとよ。おかげでどうするかは決まりそうだわ」
「いいってことよ。また困ったことがあれば相談しに来い」
「いつでも歓迎してるぜ。レースのこと以外は」
その言葉に苦笑いを浮かべながら俺は食器を片付けてトレーナー室へと歩を進める。しばらく歩いてもうすぐ練習場に着く、そんな時。
「あ、あの!」
後ろから声を掛けられた。思わず辺りを見渡すが、俺以外には近くにいないので多分俺だろう。後ろを振り向いて反応する。
「もしかして、俺か?」
「は、はい!その通りです!神藤トレーナー!」
そこに立っていたのは、テンポイントと同じぐらいの背丈に赤茶色の髪を肩まで伸ばしたウルフカットのウマ娘だ。ただ、少なくとも俺は見たことないウマ娘である。
一体どうしたのだろうか?そう思い俺は彼女に尋ねることにした。
「俺に何の用かな?何か相談事?」
「相談事……なの、かもしれません」
ということは、彼女は悩みを抱えているのだろうか?なら、少しだけ相談に乗ってあげよう。そう思っていると、彼女がそのまま言葉を続けた。
「し、神藤トレーナーはあのテンポイント先輩のトレーナーさんですよね!?」
「ま、まあそうだね。俺はテンポイントのトレーナーだよ」
あまりの剣幕に思わずたじろぐ。俺がそう答えると彼女は目を輝かせて俺を見ていた。それも一瞬のことで、すぐに俺を真っ直ぐに見据える。そのまま言葉を紡いだ。
「お、お願いします!私の、トレーナーさんになってください!」
「……は?」
もう何度目か分からない、間の抜けた声を出した。
「……で、落ち着いたかい?」
「は、はいぃ……」
その後もすごい剣幕で担当になってくれないかと言ってきた赤茶色の髪の子。その子を何とか落ち着かせることに成功した。
ひとまず俺は情報を整理する。
「えぇっと……まず、君はテンポイントに憧れているんだったね?」
「は、はい!そうです!」
「それで、君は俺のチームに入部したいと?」
「はい!だ、ダメでしょうか?」
別にダメというわけではない。ただ、これだけは聞いておかないといけない。
「どうして俺のチームに入りたいんだ?やっぱり、テンポイントがいるからか?」
正直テンポイント目当てで来る子は今まで沢山いた。もしこの子がその子達と一緒ならば、入部の件は断らざるを得ない。理由は単純で、テンポイントがいるからという理由で入部させるのは動機として不純だと思っているからだ。
別に悪いことだとは思わない。けど、こればっかりは俺の考え方の問題だ。そういう子の面倒を見る気はない。そう考えている。
ただ、その子は俯いた後俺を真っ直ぐに見据えていった。
「も、勿論テンポイント先輩がいるからというのもあります!けど、それ以上に!私は神藤トレーナーに指導してもらいたいと思うだけの理由があるんです!」
「それは何だい?」
一拍おいて彼女は答える。
「私、テンポイント先輩のレースですごく勇気づけられて!テンポイント先輩みたいになりたいと思って!テンポイント先輩みたいに、みんなに勇気を与えられるようなウマ娘になりたくて!それからえっとえっと……あれ?結局テンポイント先輩の話しかしてない!?ち、違うんです!ちゃ、ちゃんと理由もあって!」
すごく慌てている。なんだか微笑ましくなってきた。この子は、余程テンポイントのことを尊敬しているのだろう。
「落ち着いて。ゆっくりでいいから」
「は、はい……ッ」
彼女は1つ深呼吸をして、続ける。
「だから、テンポイント先輩を育てた神藤トレーナーに指導してもらえれば私も、みんなに勇気を与えられるようなウマ娘になれるんじゃないかなって。そう思ったんです」
「成程ね……」
「だ、ダメ、でしょうか?」
彼女は心配そうな目で俺を見ている。
ただ、俺の答えはほぼ決まっている。最後に、俺から聞きたいことを彼女に聞こう。彼女を真っ直ぐに見据えて、俺は尋ねる。
「君の目標、俺のチームに入ってやりたいことを聞かせてくれないか?」
彼女は、毅然とした態度で答える。そして、その目には強い意志がこもっていた。
「わ、私は!テンポイント先輩みたいに、みんなに勇気を与えられるようなウマ娘になりたいです!そのために、私をあなたのチームに入れてくれませんか!?」
彼女は勢いよく頭を下げる。……これならば、問題ないだろう。
「頭を上げてくれ。君の気持ちは伝わったから」
「へ?」
彼女には、テンポイントがいるからではない。しっかりと、自分のやりたいことや目標があって俺のチームに入りたいと言ってくれた。ならば、断る理由はないだろう。
「俺のチームでよければ、歓迎するよ」
俺は右手を差し出す。彼女は呆けたような表情をした後、飛び跳ねて喜んでいた。
「や、やったぁ!ありがとうございます!これからよろしくお願いしますね、神藤トレーナー!」
その反応に思わず苦笑いを浮かべる。余程嬉しいのか小躍りしそうなほどだった。ただ、聞きたいことがあるので俺は彼女に尋ねる。
「嬉しいのは分かるけど、少しいいかい?君の名前を教えてくれるかな?そういえば、自己紹介がまだだったし」
「そ、そういえばそうでした!?私ってば嬉しくてつい……」
俺の言葉に彼女はハッとしたような表情を浮かべる。そして、自分の名前を俺に告げる。
「私、オフサイドトラップって言います!これからご指導ご鞭撻、よろしくお願いします!神藤トレーナー!」
「あぁ。よろしくなオフサイドトラップ」
「気軽にオフトラって呼んでください!神藤トレーナー!」
こうして、俺のチームに5人目のメンバー、オフサイドトラップが加わった。チーム設立に、必要な人数が揃った瞬間である。
5人そろったよ。やったね。次でプロローグが終わると思います。