オフサイドトラップが入部した次の日。俺はメンバーを部室兼トレーナー室に集めることにした。全員を放課後に呼び出す。
そして全員が集まったトレーナー室で、俺はまずオフトラをみんなに紹介することにした。
「紹介しよう。昨日付でウチに入ることになったオフサイドトラップだ」
オフトラは緊張した様子で自己紹介を始めた。
「お、オフサイドトラップと申します!趣味はサッカー観戦で、見るのもやるのも好きです!好きなものはサッカーです!よ、よろしくお願いします!」
そう告げて頭を勢い良く下げた。他のメンバーもそれぞれの反応を見せる。
「これからよろしくね~オフトラ」
「よろしく、トラップ。一緒に頑張ろう」
「……よろしくだし」
気楽に挨拶するシービー、丁寧にあいさつをするミラクル、警戒心むき出しにしているキングス。それぞれの個性が出ている。
最後にテンポイントが前に出て挨拶を始めた。
「よろしゅうなオフサイド。これから一緒に頑張ろか」
テンポイントがそう言うと、オフトラは目を輝かせていた。まぁ、テンポイントの大ファンだし当たり前といえば当たり前の反応だが。微笑ましさを感じる。
「わ、わぁ……ッ!ほ、本物のテンポイント先輩だぁ!あ、あの!私、テンポイント先輩にすごく憧れてて!だ、だから……ッ!あ、握手していただけませんか!?」
「へ?ま、まぁええけど……」
そう言ってテンポイントはオフトラに手を差し出した。オフトラはその手を強く握る。
「私!このチームでテンポイント先輩のような、みんなに勇気を与えられるようなウマ娘になってみせます!みなさんよろしくお願いします!」
オフトラはそう力強く宣言した。ちなみに、テンポイントを尊敬しているということでキングスは警戒心を解いた。
「お姉を尊敬してるなんて分かってるし。いいやつだし」
「チョロいねぇキングスは」
「なんか言ったし?シービー」
「ん~?何も~」
そんな会話をしていた。
そして、ここからが本題である。
「さて、オフトラが加入したことで……ついにチーム設立の人数が揃ったぞ!」
「おぉ~!最初はどうなると思うたけど、意外と何とかなるもんやな!」
「ついにも何も、2か月も経ってないけどね」
「ふ~ん」
「ここから、おれたちの物語が始まるんですね」
「頑張りましょう!えい、えい、おー!」
というわけで、後はチームの名前なのだが……。これに関しては決めてある。
「チームの名前だが……〈プロキオン〉でいこうと思う」
「へぇ。そりゃなんで?」
シービーが素朴な疑問を投げかけてくる。俺はシービーの疑問に答える。
「別に意味はない。ただ、他のチームは星の名前だしだったら俺達も星の名前にしようと思っただけだ」
「なんも意味ないんかい!」
「まぁ強いていうならプロキオンはギリシャ語で犬の前、という意味らしい。それらしくチームの命名理由をつけるなら、誰よりも前を走ることを込めて……とかか?」
「最初に言ってた方がそれらしかったんじゃ……」
ミラクルからそうツッコまれるが、今考えついたのだからしょうがない。我ながらどうかと思うが。
俺は咳払いを1つして全員に告げる。
「とりあえずは、この日がチーム・プロキオン始まりの日だ!これから全員で頑張っていくぞー!」
「「「おー!」」」
全員いい返事である。思わず笑みが零れた。
チームの人数も揃って、チーム名も決まったということで今後の方針を決めることにした。ひとまず決まっているのはキングスである。
俺はキングスに告げる。
「さて、まず最初にデビューを考えているのは……キングス。お前だ」
「あたし?」
キングスはまさか呼ばれると思ってなかったのか間の抜けた表情をしている。俺はそんな彼女に続けて言った。
「そうだ。お前は身体も出来上がっているし、トゥインクル・シリーズを走っても問題ないだろう。デビュー戦に関してはおいおい決めていくが、最初のデビューはお前だ」
「ふ~ん……まぁいいし。手続きとかは全部任せるし」
「あぁ。任せておけ」
「ミスター。アタシは?」
シービーが挙手して尋ねてくる。シービーに関してもほぼ問題ないが、同時期にデビューさせるのはなるべく避けたいと考えているのでそのことを伝える。
「お前のデビューはキングスの後だ。同時期デビューはできるだけ避けたいからな」
「ふ~ん。まぁいいや。ミスターがここだって思ったタイミングでお願いね」
「できる限り遅くはならないようにするつもりだ。そのことだけ頭に入れておいてくれ」
「りょうか~い」
シービーは軽い調子で答える。彼女らしいと言えば彼女らしいだろう。
さて、次はミラクルとオフトラである。俺は2人を見据えて今後の予定を伝える。
「次にミラクルだが……。お前はしばらく身体作りだな。今のままだと、とてもじゃないが出走は厳しいと言わざるを得ない」
「やっぱり、そうですよね……」
ミラクルは落ち込んだような様子を見せた。俺は慌ててフォローする。
「あくまで現段階では、ってことだ。これから鍛えていって、問題ないと判断したタイミングでデビューだ。焦らずじっくり行くぞ」
「……はい。おれ、頑張りますから。お願いしますトレーナー」
「あぁ。頑張っていこう」
そして最後にオフトラだ。オフトラは緊張しているような面もちをしている。
「最後にオフトラだが……さすがに昨日スカウトしたばかりだからな。まずは今後の練習を見ていくことになる。ただ、見た感じまだ身体が出来上がってないからミラクルと同じく身体作りだな」
「は、はい!私、頑張ります!」
「いい気合だ。その調子で頑張ってくれ」
俺の言葉にオフトラは握りこぶしを掲げて答える。
「目指せ!テンポイント先輩のようなウマ娘、です!おー!」
微笑ましい姿だ。思わず笑みが零れる。
今後の方針が決まったということで親睦会でも開くことにした。軽い料理を作って、飲み物を用意して思い思いの会話をしている。
……しかし、俺がチームか。おハナさんや沖野さん達と同じ、チームを持つトレーナーになるなんて。トレーナーになった当初はチームを作ることになるなんて思いもしなかった。本当に何が起こるか分からないものである。
「ほら、キングスも隅の方におらんと、こっちきてみんなと話そうや」
「え?でも……話すことなんもないし……」
「別にこういうのは雰囲気でいいでしょ。適当に会話すれば」
「ここから、おれのトゥインクル・シリーズが始まる……。みんなのために、頑張らないと……!」
「私も、頑張ります!だから一緒に頑張りましょうね、ミラクルさん!」
「うん。一緒に頑張っていこう」
彼女達の会話を遠くから眺める。悪くない景色だ。
(これから先、どうなるかは分からない。けど、ワクワクするようなことが起こるのは間違いない)
これから先のことが、楽しみになる日だった。
明けた次の日。俺は理事長室を訪れていた。チーム申請の書類を提出するためである。
「〈チーム・プロキオン〉……成程ッ!では、このチーム名でいいのだな?」
「はい。問題ありません」
俺の言葉に理事長はとてもいい笑顔で答える。
「受理ッ!ここから君の、チームのトレーナーとしての仕事が始まる!これからの活躍、大いに期待しているぞ!」
「はい。誠心誠意務めさせていただきます」
俺の言葉に理事長は満足そうに頷く。隣に立っている秘書のたづなさんも笑顔だ。
用件も終わったので俺は理事長室を退出する。外に出ると、テンポイントが立っていた。
「よっ、誠司。お疲れさん」
「おう。……なんでここにいるんだ?」
俺の言葉にテンポイントはあっけらかんと答える。
「誠司が理事長室入るんが見えたからな。こうして待っとったんや」
「なんか用事でもあったか?」
「ん~?別にないで。ただゆっくり話そう思うただけや」
「そうか。じゃあ歩きながら適当に話すか」
そう言って俺達は並んで歩きだす。
「にしても、誠司もチームのトレーナーかぁ。最初ん頃からは想像つかへんな」
「お前が初の担当だからな。ド新人もいい頃だ」
「ボクとしては、誠司の実績が認められたみたいで嬉しいけどな」
「はいよ。ありがとさん」
他愛もない会話をする。なんというか、こうした時間は久しぶりだ。1人しか担当してない時はトレーナー室でしょっちゅう2人で会話をしていたが、今はキングス達がいるからそれも少なくなった。新鮮な感じがする。
「誠司」
「どうした?」
テンポイントが、俺に向き直って告げる。
「これから何があるかは分からんけど……1つだけ言えることがあるわ」
「……そうだな。俺も多分、同じことを考えてる」
「ホンマ?やったら、せーので言おうやないか。思っとること」
テンポイントの合図のもと、俺達は思っていることを口に出す。
「絶対に退屈しない日が続くな」「絶対に退屈せぇへん日が続くやろうな」
やっぱり、同じことを思っていたらしい。お互いに顔を見合わせて笑いあう。
「よっしゃ!ボクもチームの先輩として、頑張っていくでー!」
「おう。頼りにしているぞ、チームリーダーさん」
「任しとき!目指すは学園最強チームや!」
俺達は拳を突き合わせる。窓の外に目を向けると、雲一つない晴れ空が広がっていた。
俺の、俺達のチームの物語は、ここから始まる。
次回からは第1章が始まります。章ごとに主人公が変わっていく感じで。