転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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101話 地上最大の攻防

ダイとバランの闘いは、激化の一途を辿っていた。その両者の戦いにクロコダインとヒュンケルが参戦するも、その戦いの帰趨にほとんど影響を与えることが出来なかった。

 

それほど、(ドラゴン)の騎士同士の戦いは、他者の介入を許さない戦いだった。

 

ダイは(ドラゴン)の紋章の力を右手に集める事で、一点の攻撃力においてはバランをも上回っていた。しかしだからこそ、その力に耐えうる武器が無く、レオナから貰っていたパプニカのナイフも全力を出したダイの力には耐えられず既に砕け散っていた。

 

そんなダイに、ヒュンケルが決死の覚悟で自身の鎧の魔剣を投げ渡す。しかし魔界の名工の手による鎧の魔剣を持ってしても、ダイの力にはおそらく一撃しか耐えられず、また、バランの真魔剛竜剣の強度にも劣っている事は確実だった。

 

そのためダイは一撃でバランを倒すため、ただひたすらバランに生じる隙を狙っていた。

 

 

 

 

 

仰向けに横たわるポップの身体の上を、清浄な光の粒子が十字の形を形成し覆っている。それは、レオナの唱えた蘇生呪文(ザオラル)による光だった。

 

しかし、レオナは焦燥の念に捕らわれていた。それは、先ほどよりポップに対して蘇生呪文(ザオラル)を唱えているが、一向にポップからの反応が感じられなかったからだった。

 

駄目なのか……。レオナの胸中を、絶望的な想いが占めていく。元々一度も成功した事の無い、極めて成功率の低い呪文だった。しかし、それでもポップほどの高位の賢者なら、きっと奇跡が起きると彼女は考え、ひたすらその呪文を唱えていた。

 

お願い、ポップ君! 戻って来てよ! あなたがダイ君達を引っ張らなくて、誰が引っ張っていくのよ!

 

レオナは、蘇生呪文(ザオラル)を唱え続けながら、ポップの取った行動の意味について考えていた。ダイの記憶が戻った今なら、彼が自己犠牲呪文(メガンテ)を唱えた意図が理解できる。勇者アバンは、ダイの目の前で自己犠牲呪文(メガンテ)を唱えて命を落とした。その光景は、ダイの心の奥底に根を張る様に忘れがたい記憶となって残っていたのだろう。

 

おそらく彼は、そのダイの忘れがたい記憶を契機として全ての記憶を呼び起こさせようと、勇者アバンと同じく自己犠牲呪文(メガンテ)の魔法を唱えたのだ。

 

だから、彼の行った事に対して一定の理解はできる。実際、確かにダイは全ての記憶を取り戻している。おそらく彼の取ったやり方以外で、ダイの記憶を取り戻す事は不可能だっただろう。それは分かる。

 

しかし、そこから先に彼はいったいどんな展望を持っていたのか……。勇者だけで、魔王軍との戦いを戦い抜いていけるはずもない。戦士であるヒュンケルやクロコダイン。武闘家であるマァム。そして、賢者なら彼には遥かに及ばないまでも、私も数えられるかもしれない。

 

だけど、それだけだ……。役割分担の話ではない。勇者一行(パーティー)が勇者一行(パーティー)として機能するためには、皆を強固に結び付け、かつそれを同じ方向に向かわせる強力な求心力が必要となる。そう、15年前の魔王軍との戦いにおいて、勇者アバンが自然とその役を担っていたように。

 

レオナの見た所、それが出来るのは彼しかいなかった。勇者アバンと1年以上にわたって刻を共に過ごし、その死の直前に至るまで勇者アバンの息吹を最も間近に受けていた人物。

 

彼しかいない。

 

先を見通す能力に長けた彼のことだ。彼は、自分が死んでもアバンの使徒の誰かが中心となって皆を引っ張っていくだろうと考えていたに違いない。しかし、彼の計算はたった一つの点において大きな間違いを犯している。それは、彼自身に対する自己評価の低さだ。

 

誰も彼の代わりはできない。……できないのだ。

レオナは、以前より彼のそうした自己評価の低さに気がついていた。気がついていながら、それを謙虚と言う名の美徳の1つと捉え特に指摘はしてこなかったが、事ここに至ってそれが誤りであったと痛感していた。

 

お願いよ、ポップ君。生き返って来てよ! それに、あなた、あんな言葉を2人に投げかけておいて、1人でさっさっと逝ってしまうなんて事、許されるわけないでしょう!

 

そんなレオナが必死で願う傍らで、気絶していたゴメが僅かに発光していた事に、誰も気が付いた者はいなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

俺は今、ふわふわとした雲の上のような場所を歩いていた。いや、歩いていたという表現は違った。足が勝手に進むのだ。

 

なるほど、これがあの世へ続く道か……。そういえば、原作でもこんな描写だったような気がするな。すると、この先は三途の川になっていて、俺はそこを渡ってあの世にいくのかな……。

 

自己犠牲呪文(メガンテ)は、うまく決まっただろうか? まさかやり過ぎて、バランが死んだりはしていないよな……。俺は周囲をキョロキョロと見渡した。白い雲の絨毯が延々と続いているだけで、俺の他に人影は見当たらない。うん、大丈夫そうだ、ここには俺しかいないみたいだ。あいつは間違いなく、これからの対大魔王戦におけるキーパーソンだからな。絶対に死なれてはいけない。まあ、それが無くてもダイの唯一の肉親なんだ。生きていてほしいな。

 

「ポップー!」

 

「うわ!? あー、びっくりした! はは、来たな、ゴメ。そろそろ来る頃だろうと思っていたぜ?」

 

いったいどこから現れたのか、俺の顔の前に突然ゴメが現れた。はは、本当にゴメがしゃべってるよ。想像していた以上に、かわいい声をしているな。

 

「そろそろ来る頃? そ、そんな事より、そっちへ行っちゃダメだよ! それ以上進んだら、本当の死の世界に行って帰れなくなっちゃうよ!!」 

 

「うーん、そんな事言っても、足が勝手に進んでしまうんだよ」

 

「しっかりしてよ、ポップ! キミはこんな所で死んじゃダメだよ! 今までずーっといっしょにがんばってきたんじゃないか。ポップが死んじゃったりしたらボク……ボク……」

 

ゴメはポロポロと涙を零して俺を見つめる。ああ、初めてゴメと会話ができたというのに、こんな場面でごめんな、ゴメ。

 

「うん……、ごめんな、ゴメ。本当にごめん。それで、俺の事よりダイはどうなった? 記憶は戻ったのか?」

 

ゴメの話によると、どうやらダイの記憶は戻っている事、そしてバランはピンピンしていてまだ大暴れしているという事だった。そうか……、ダイの記憶は戻ったか。良かった、原作ポップの時は記憶が戻って、俺の時は戻らないと言う事だったら、いつかダイの所に化けて出てやろうと思っていた所だ。

 

しかし、バランはピンピンしているだって? 何故だ……? 原作ポップの二の舞はすまいと、ガチガチにあいつのこめかみに指を突っ込んでいたというのに……。

 

「ちっ。バランはノーダメージか。情けないな。あれだけ皆に協力してもらっておいて失敗しただなんて……!」

 

「そうだよ! だから、ダイ達が大変なんだ! ポップがいないと、みんな……!」

 

そうだな。ゴメの言う通りバランへの対応を急がないといけないな。ぐずぐずしていると、この雲の絨毯の上にヒュンケルやおっさん達まで浮かんできかねない。

 

「……分かった。じゃあ、ここからダイに対して援護をしてやるよ。ゴメ、どうやったか知らないけれど、あの時はお前が奇跡を起こしたんだろう?」

 

「あの時……? 何を言っているの、ポップ? ボクは何も……」

 

「良いから良いから。俺がダイにしてやれる最後の援護にして、大賢者最後の呪文になるんだ。……さて、となると、やっぱりこれが良いかな?」

 

俺は左右の手に火炎呪文(メラ)系と氷系呪文《ヒャド》系呪文を思い浮かべ、そのまま両手を組み合わせた。ふふふ、これでバランを消し去ってやるぜ。ん……? 消し去る……?

 

――!? いやいやいや、消し去ったらまずいだろう……! ついさっき、俺はバランが今後のキーパーソンになるって言ったばかりじゃないか。駄目だ駄目だ、さすがに極大消滅呪文(メドローア)は駄目だ。やり過ぎだ。

 

……危なかった。しかし、となると何が良いだろう? あんまりしょぼい呪文だったら、大賢者としての沽券に係わるよな。何と言っても、大賢者の今生における最後の呪文なんだぜ? 

 

ふーむ、と俺は顎に手を当てて考えた。ゴメは俺のそんな様子を不思議そうな顔をして見つめている。

 

最後ぐらいはでっかい花火をパーッと……。花火……。ドカーン……。

 

――! そうだ、あれでいこう! 師匠から教わったというのに、まだ一度も実戦で使った事が無かったし、あれが良い!

 

「よしっ、派手な花火を打ち上げてやるぜ……! ゴメ、しっかりダイに届けてくれよな!」

 

そして俺は、何も見えない灰色の空に向かって両手を突き出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ぐあっ!」

 

ダイは、バランに生じた隙を狙って突進を仕掛けたが、その隙はバランが故意に作り出したものだった。バランの放った紋章閃がダイの左肩を射貫く。

 

「……かかりおった! しょせんはガキ。私とは戦いの年季が違うわ! さあ、これで最後だ! ギガブレイクで散れッ!!」

 

隙の生じたダイに対して、バランが(ドラゴン)の騎士最強の必殺剣の構えを取り加速する。既にバランは、自身が今手にかけようとしている存在が己の最愛の息子であるという事を、結びつけて考える事が出来ないでいた。それは、竜と魔族の力が突出し、人としての心が衰退した竜魔人という戦闘形態の悲しき性といえた。

 

「「「ダイ!」」」

 

ダイの危機的状況に、地上から(ドラゴン)の騎士同士の戦いの趨勢を見つめていたクロコダイン、ヒュンケル、そしてマァムが声を上げた。

 

しかし、そんなバランに向かって、突如地上より凄まじい程の爆発力を収束した爆球が放たれた。

 

ズガァァーン!!

 

ダイに向かって加速していたバランの背にその巨大な爆球が直撃した瞬間、極限まで圧縮されていた爆発力が瞬時にバランを包み込むかのように爆裂した。爆裂に伴い発生した凄まじい衝撃波は地表にまで達し、地上の木々は爆風で左右に激しく揺れた。空には、突如として巨大なキノコ雲が出現していた。

 

「――ガァアッ!! こ、これは極大爆裂呪文(イオナズン)!? 一体誰が、こんな大呪文を――!」

 

キノコ雲の発生源、つまり爆心地でその凄まじい爆発の直撃を受けたバランが、驚愕の声を上げた。

 

バランの言葉通り、それは極大爆裂呪文(イオナズン)による爆発だった。その爆発により、バランの背に生えた翼の両翼は完全に粉砕されていた。そして、その並ぶ物無き爆発力は鋼鉄の(ドラゴン)の皮膚に覆われた外皮をも貫き、その衝撃は内骨格にまで達していた。

 

竜闘気(ドラゴニックオーラ)は、背面にも展開していた。しかし、もはや強敵は眼前にしか存在せず、しかも攻撃を仕掛けようとしていたタイミングだった。そのため、極大爆裂呪文(イオナズン)自体の威力に加えて、背面に展開された防御膜が十分な強度を有していなかった点も、この甚大なダメージを受けた事の理由の一つに挙げられるだろう。

 

「バ、バカなぁッ!!? 死人が極大爆裂呪文(イオナズン)を唱えただとぉッ!!?」

 

極大爆裂呪文(イオナズン)による激甚な爆風が吹き荒れる中、かろうじて地上に顔を向けてみれば、死んだはずの賢者がその両手を自身に向けていた。微かに感じる魔法の残滓から、その賢者がこれを放った事は明白だった。

 

人間の執念……! バランはこの時、初めて人間に恐怖を覚えた。

 

その極大爆裂呪文(イオナズン)は、竜魔人バランには恐怖を、……そして、勇者ダイには希望を与えた。

 

極大爆裂呪文(イオナズン)を唱えられる仲間など、あいつしかいない。ダイには地上を振り返る余裕などなかったが、大好きなポップが生き返った事を確信していた。早く目の前の父を名乗る憎い敵を倒して、ポップに会いたい。会って、忘れてしまっていた事を詫びて、自己犠牲呪文(メガンテ)を使った事を強く叱って、そして……大好きなポップにいつもの優しい笑みを浮かべてもらいたい。

 

そのためにダイは、動揺しているバランに向かって加速した。その手には鎧の魔剣が逆手に握られていた。既にダイの身体は、先ほど地上から放たれた、おそらく魔弾によるものと思われる回復呪文(ベホイミ)によって、一定程度の回復がなされていた。

 

 

「――アバンストラッシュ!!」

 

「――!?」

 

極大爆裂呪文(イオナズン)による物理的なダメージと精神的な動揺によって、バランの迎撃が一瞬遅れた。

 

交錯する2人。

 

バランは自身の持つ真魔剛竜剣が根元からへし折られ、胸に真一文字の斬撃が浴びせられたのを知覚しながら地上に墜ちていった。そしてダイも同じく、全ての力を出し切った上に真魔剛竜剣から解放された電撃に全身を撃たれ、地上に墜ちていく。

 

「ダイ!」

 

地上に叩きつけられる寸前、マァムがダイの身体を受け止めその衝撃を和らげる。レオナを除く全員がそのマァムとダイの元に集まる。ダイは皆に力ない表情で、しかし、確かに彼らとの間に絆の感じられる表情を浮かべ彼らに礼を述べた。

 

「……皆、ごめんね。俺が不甲斐なかったせいで、皆にそんな酷い怪我をさせちゃって」

 

「ふふ。良いのよ、ダイ。本当に良かった……。お帰りなさい、ダイ」

 

マァムの言葉に、ダイは微かに頷きながら「うん、……ただいま、皆」と力なく笑顔を向けた。

 

そして、ダイがよろめきながらも立ち上がった時、その手に握ったままだった鎧の魔剣に異変が生じた。

 

「剣が……」

 

ダイの手にあった鎧の魔剣の刀身が、ボロボロと崩れていったのだ。ヒュンケルの言葉通り、右手に集約された(ドラゴン)の紋章の力には鎧の魔剣と言えど、一撃しか耐えられなかったのだろう。

 

「ごめん、ヒュンケル……」

 

「気にするな、ダイ。お前の役に立ったのだ。これ以上の事は無いさ」

 

そう言って、ヒュンケルはダイの肩に手を置き微笑みかける。そのヒュンケルを見上げ、ダイはうん、と大きく頷いた。

 

「そうだ……! ポップ! ポップにもお礼と、いっぱい言ってやらないといけない事が!」

 

ダイは、自己犠牲呪文(メガンテ)を使ったポップに文句を言ってやりたい事がたくさんあった。笑顔の中に多分に怒気を含ませて、ポップの方に顔を向けた。

 

しかし、ダイの目に映った光景は、横たわるポップの傍でがっくりと肩を落とし涙を零しているレオナの姿だった。その姿を見た瞬間、ダイは自身の視界に映る全てが、一瞬で無彩色の世界へと変貌したかのように錯覚した。

 

いや、そう感じたのはダイだけではなかった。ダイの周囲に集まっていたクロコダイン、ヒュンケル、マァム、メルルまでも言葉を飲み込み、一瞬で顔色(がんしょく)を失った。

 

「ポ、ポップ……? レ、レオナ……。ど、どうしてそんなに涙を……? う、嘘だよね。嘘だと言ってよ、レオナ?」

 

よろよろとよろめきながら、そう言葉を絞り出すダイ。

 

「そ、そうよ。う、嘘よね、レオナ? だって、さっき……」

 

「ひ、姫様。……違います、間違いです。きっとポップさんは生き返って……」

 

レオナに、間違っていると言って欲しいという願いを込めて、首をかすかに振りながら呻くように声を発するマァムとメルル。

 

そんな彼らに対して、レオナはただ自分の力不足を詫びた。

 

「……ごめん、ごめんなさい、ダイ君、マァム、メルル。私の蘇生呪文(ザオラル)では、ポップ君を生き返らせる事ができなかったわ……。ごめんなさい、皆……」

 

「そ、そんな……」

 

フラフラとよろめきながら、ゆっくりとポップの下に近づくダイ……。その足取りは、先ほどまでのバランとの戦いの時とは打って変わって、力の感じられない歩みだった。それは、知りたくない、受け入れたくない、というダイの心情が行動に表れた結果なのだろう。

 

ヒュンケルとクロコダインは、言葉を発することなく、悔しげに下を向いた。元々低い成功率の蘇生魔法だ。たとえ失敗しても、レオナを責められるもので無い事は、2人も十分に理解していた。

 

「だ、だけど……さっきの極大爆裂呪文(イオナズン)は!? さっきの極大爆裂呪文(イオナズン)はポップが放ったんだろう!?」

 

ポップの傍にたどり着いたダイは、レオナの肩に両手を置きそう声を投げかける。極大爆裂呪文(イオナズン)を放ったじゃないか……。それだけが、ダイの拠って立つ寄る辺だった。しかし、そんなダイに、レオナは肩を落としたまま答える。

 

「え、ええ……。さっきの極大爆裂呪文(イオナズン)は、確かにポップ君が放ったものよ。でも、どうしてあんな奇跡が起こったのか、……分からないの。確かに言える事は、私の蘇生呪文は成功しなかったという事だけ……。ごめんなさい……ダイ君」

 

「う、うう……」

 

「ポップさん、ポップさん……」

 

ダイと同じようによろよろと崩れ落ちる様にポップの下に来たマァムとメルルは、そのポップの左右の手を胸に押し抱いて涙を流していた。それは、既に冷たくなっているポップの手に、温もりを取り戻そうとするかのような行いだった。

 

「う、嘘だ……。嘘だよ、そんなの……。ポップ……。目を開けてよ。俺から離れないって言ってくれたじゃないか。ポップの嘘つき……。う、うわぁぁぁ……」

 

ダイも、ポップの遺体にすがりつき大粒の涙を流す。ダイには、ポップが自己犠牲呪文(メガンテ)を唱える直前に、自身にかけてくれた言葉の記憶があった。

 

『お前が何者であろうと気にしない奴は、俺だけじゃない。ここにいる全員がそうだ。お前は決して一人じゃない』

 

そうだと思う。レオナも、マァムも、ヒュンケルも、俺を人間じゃないからといって迫害したりしないと思う。だけど、……だけど、俺はポップに一番傍にいて欲しかったんだ。これからもポップと一緒に過ごしたかった。あの包み込むような笑顔を、これから先も向けていて欲しかった。

 

 

 

「――ダイ!」

ポップの遺体にすがりついて涙を流すダイに、突如ヒュンケルが緊張した声を発した。

 

その声に、皆がヒュンケルの視線の先を追う。

 

そこには、ラーハルトに肩を借りた満身創痍のバランが立っていた。その手に握られた真魔剛竜剣は鍔元より折れており、その全身は血だらけで立っているのが不思議なほど疲弊している様子だった。

 

「ま、まだやるのか!」

 

ダイは、涙を拭ってバランを睨み付ける。もう仲間は誰も傷つけさせない。ダイはそう決心していた。

 

「……虚勢をはるのは、よせ。もはや戦う力など一握りも残っていまい……。お互いにな……」

 

バランは、自身を睨み付けるダイに対しそう静かに言葉を返し、ラーハルトに肩を借りたままゆっくりとポップの遺体に近づいた。

 

確かに心臓が停止してる……。では、先ほどは何故……。バランの胸中を理解不能な感情が支配した。この男は、ディーノが最も大切に思っている男だったな。男の方も、ディーノとしきりに対話をすべきだ、と私に説いていた。その手を拒んだのは、私だ……。そして、私はディーノから、ディーノが最も大切に思っている男の命を奪ってしまった。

 

バランは、ポップの顔の上に自身の手を差し出した。そして、握りしめた掌から一筋の血をポップの口に垂らした。

 

皆が言葉もなくその様子を見つめている。マァムもメルルも、ポップの手を握りしめたまま、神聖な儀式のようにも見えるバランのその行為を見つめていた。

 

(ドラゴン)の血には、強き者を蘇らせる力がある。この男に、強い精神力が備わっていれば、息を吹き返すかもしれん……」

 

「「「!」」」

そのバランの言葉に驚愕するダイ達。

 

それだけを言って、バランは彼らに背を向けた。

 

「ディーノよ……。もはや何も言わん。お前は、お前の信じた道を進むがいい。そして次に会った時こそ雌雄を決してやる……! お前が私に勝てたら人間のために魔王軍を滅ぼすがいい! しかし、私が勝てば……私は人間を滅ぼす……!!」

 

「ま、まだそんな事を言うのか!?」

 

「……今更……生き方を変えられん。……大人とはそういうものだ……」

 

バランのその言葉に、ダイの「分からずやーーっ!!」という言葉が木霊した。

 

 

彼らが見つめる先で、徐々に小さくなっていくバランとラーハルトの背中。そんな時、バランに肩を貸していたラーハルトが、一度だけ背後のマァムを振り返り口を開いた。

 

「……マァム。その男が息を吹き返すかどうかは、俺には分からん。だが、その男がお前にとって大切な者なら、呼びかけてやるといい。俺もその男には貸しがある。あの時の雪辱を果たすためにも、その男には生き返ってもらわねば困る」

 

「ラーハルト……」

敵から送られた思わぬ言葉に、マァムは呆然とラーハルトを見つめた。

 

 

 

そしてラーハルトは、その後は一度も背後を振り返る事なく、バランと共に去って行った。

 




今週はここまでです。後2週で本章を完結予定です。次話は、『試される精神力』です。
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