転生大賢者の冒険   作:怪盗218

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お待たせしました。転生大賢者の冒険 『第7章 ダイの剣』をスタートします。前章同様に毎週末の投稿を予定していますが、あくまで目安と考えて頂ければ。ちょっと年度末に向けて仕事がかなり忙しくなってきたので、趣味にかけられる時間の確保が難しくなっています。ようするにマイペースで投稿しますので、それでよろしければお付き合いください。


7章 ダイの剣
110話 いざ、故郷へ


7の月のホルキア大陸は、この世界で最も南部に位置する大陸らしく、汗ばむような日差しが差し込んでいた。

 

そのホルキア大陸 パプニカ王国王城の別館にあたる来客者用の部屋で俺は目を覚ました。この部屋は、ベンガーナに行く前から、姫さんが俺達に提供してくれていた部屋だった。

部屋の南側にある大きな窓からは、高台にある王城だからなのか、時折穏やかな風が吹き抜け、レースのカーテンをふわりと撫でていた。

 

俺は、昨日まで気が付かなかった違和感の正体に気が付いた。そうだ、カーテンなんて、ベンガーナに行く前はついていなかったんだ。それが、3日前パプニカに戻ってくると普通に設置されていた。

 

こざっぱりとした清潔な部屋には、ベッドが2台づつ左右の壁際に備え付けられており、隣のベッドに目を向ければ、何処に行ったのか、そこで寝ていたはずのダイの姿は既になかった。

 

ヒュンケルがいないのは最初からだから、今更気にはしない。

 

あいつは3日前パプニカの城門前に瞬間移動呪文(ルーラ)で到着後、直ぐに修行に行くと言って、鋼の剣だけを携えて山ごもりに入った。

 

エイミさんが瞬間移動呪文(ルーラ)の着地音に気がついて駆けつけて来た時には、既にその場を離れていたのだから徹底している。顔も見せずに行くなんて、とずいぶんエイミさんが憤慨していたが、修行を終えて戻ってきてから、こってり絞られると良い。

 

ちなみにクロコダインのおっさんは、堅苦しい文官のいる城を嫌ってか、町の郊外にあるバダックさんの自宅に寝泊まりさせてもらっている。本当の事を言えば、俺達も復興が始まったばかりのパプニカに負担をかけたくはなかったので、おっさんと同じようにバダックさんの家か、城下町にある再開された宿屋に移ろうと思っていたんだ。それぐらいのお金は、アバン先生の鞄の中にあったし。

 

だけど、その考えを出迎えてくれたアポロさん達に伝えると、全力で反対されてしまった。曰く、姫の精神の安寧のためにぜひ王城に滞在して欲しい、との事だった。まあ、俺も姫さんが俺達に対して気の置けない仲間的な心情を抱いてくれているのは分かっていたし、近くにいた方が情報共有が図りやすい利点もあったので、引き続き本城と隣接している別館の同じ部屋で寝泊まりさせてもらう運びとなった。

 

俺はベッドの上で上半身を起こし、大きく伸びをした。春眠暁を覚えず、といった季節ではないが、これまでの疲労の蓄積がたたったのか、ついぐっすりと眠ってしまったようだ。ベッドサイドに置いてあったアバン先生から受け継いだ懐中時計を手に取ると、すでに時刻は午前8時に差し掛かろうとしていた。

 

しまったな。今日こそは日課にしていた棍の訓練をやろうと思っていたのに、サボっちまった。これで3日連続だ。そう考えた俺は、せめて食事だけは遅れないようにしようと、寝着を脱ぎ捨て、壁に吊るしていたドラゴンローブに袖を通した。

 

このローブ、本当に軽くて肌触りが良い。『みかわしの服』もシルクのような肌触りだったけど、このローブは明らかにそれ以上だった。竜の皮を魔法の糸で編み込んでいるって言っていたけど、一体何なんだろうね。

 

竜の皮とは思えないベルベットのような薄緑色の生地が艶めかしく、肌触りも最高だ。その上、体温調節機能のようなものがついているのか、羽織った途端暑くも寒くもない快適な空気が俺の身体を覆ってくれる。

また、羽毛のようにふわふわした裾から時折魔法の粒子がキラキラとこぼれ落ちている所が、中二病の俺にとって特にお気に入りポイントだ。ついでに言えば、胸にはまるで竜が睨んでいるかのような意匠が施されていて、これまたかっこいい。

 

ちょっと丈が合わなかった所もあったんだけど、その事をメルルに言ったら早速メルルが丈を調整してくれたから、それも解決した。

 

いや、メルル、マジで良妻賢母になるよ。この戦いが終わったら、俺本当にメルルと付き合えるんだろうか。ちょっと幸せすぎるんだけど。

 

唯一心配なのは、“この戦いが終わったら俺○○するんだ”なんていうものは、とんでもないほどの死亡フラグだという点だ。さすがに定番の結婚は避けたが、付き合うんだ、というのもかなりまずいフラグだと思うんだよね。

 

これについては少しだけ、いや、実際の所かなり不安を感じているんだが、既に俺は一度死んでいるんだからもう俺に効力は現れないはず、と思う事でどうにか俺は心の平穏を保っていた。

 

空腹を覚えた俺は、部屋を出ていつも食事をいただいている食堂に向かった。もう勝手知ったるって奴だ。途中、マァムとメルルが割り当てられている隣の部屋を覗いてみたんだが、やはりもぬけの殻だった。

 

別館と本城を繋ぐ回廊を渡って、本城の通路を歩く事しばし、良い匂いが前方から漂ってきた。同時にガヤガヤという賑やかな声と、食器のぶつかる音も聞こえる。良かった、まだやっているようだ。

 

俺が食堂となっているその大部屋に入ると、大勢のパプニカ文官や兵士の皆さんがテーブルに着いて食事を取っていた。つい先日までここは俺達の貸し切りのような有様だったのに、ずいぶんと人が増えたものだ。まあ、それもパプニカ王国の復興が徐々に進んでいるという事の証なんだろう。

 

俺が首を振って周囲を見渡すと、……いた。

 

思っていたとおり、奥にある6人掛けのテーブルの周囲でダイ、マァム、メルルが椅子に腰かけ、お茶を飲んでいた。

 

「あっ! おはよう、ポップ!」

 

「おはようございます、ポップさん。朝ご飯、ポップさんの分取っておきましたよ」

 

「遅いわよ、ポップ。ちょっと、気を抜き過ぎなんじゃない?」

 

「ピ、ピィー♪」

 

「おはよう、皆。朝ご飯、ありがとうメルル。お腹ペコペコだったんだよ」

 

俺はマァムの隣の椅子に腰を下ろし、メルルが確保してくれていた朝食に手を伸ばした。どうやら皆は既に朝食を食べ終えており、食後のお茶を頂きつつ俺を待ってくれていたようだった。ゴメはいつものように、テーブルの上でぷるぷると体を振るわせて俺を見上げている。俺は挨拶がてら、そんなゴメの体をツンとつついた。

 

 

 

トレイに乗せられた料理を口に運ぶ。うーん、美味しい。朝食のメニューを見るだけで、パプニカ王国の復興状況が分かるというものだな。テランに旅立つ前の朝食はパンが数個とスープだけだったんだが、今日の朝食は柔らかいパンと暖かいスープに加えて、白身魚のフライにスクランブルエッグまで付いている。周囲を見渡すと、他のテーブルで食事を取っている人達も、皆笑顔でガツガツと朝食を取っていた。

 

俺が朝食を頂いていると、マァムが「ちょっと、ポップ。髪の毛がボサボサじゃない。いくら立派なローブを纏っていても、それじゃあ台無しよ?」と言いながら俺の髪に手を伸ばし、ぴょこんと跳ねていたらしい俺の髪を撫でつけてくれた。

 

「あ、ど、どうも……」

不意にマァムからされたその親密な所作に、俺は思わず自分の顔が赤面した事を自覚した。

 

「な、何で赤くなるのよ。だ、だいたい、あなたが笑われたら、私だって恥ずかしいんだからね。だからちゃんとしなさいって言っているの! ……分かった!?」

 

照れ隠しなのか、マァムも赤くなりながら俺にそう詰め寄った。俺はそれに対して口に物をつめたまま、コクコクと頷きを返した。知らなかった……。マァムって、ツンデレの気があったんだな。これは新しい発見だ。

 

しかし、やっぱりテランに向かう前と今では、マァムとの距離感が違う気がする。今も、マァムは俺と肩と肩が触れそうな距離まで近づいている。そのマァムの左右の耳には、緑色に輝く菱形(正八面体)をした親指サイズのピアスが揺れていた。もっとも、耳たぶに穴を開けているわけではないから、正確にはイヤリングという事になるが。

 

そのピアスの名前は、『キラーピアス』。何を隠そう、パプニカに戻ってから俺が作ってマァムにプレゼントしたアイテムだ。マァムは俺が死んでしまっている間に、ラーハルトとの戦いで以前俺が贈ったメタルフィストを失ってしまったらしい。メルルから、マァムがそれを失った事を残念がっているとそれとなく聞かされた俺は、残っていた魔結晶をかき集めて新しいアイテムをプレゼントしていた。

 

その魔結晶は、姫さんが私物から提供してくれたエメラルドの内部をくり抜いて、はめ込んである。メルルのネックレスと同様(メルルのは、サーラさんがくれたダークサファイアの内部に魔結晶をはめ込んでいる)に、一見魔道具とは見えないように加工してある点が俺の拘りポイントだ。

 

そしてもちろん、魔結晶には呪文を刻み込んである。それは、マァムが今つけている右耳のピアスは、敏捷力変動呪文(ピオリム)を、左耳は防御力変動呪文(スクルト)だった。このあたりはマァムの意見も事前に聞いてみたのだが、どうやらマァムはもう、拳に炎を纏わせたり、氷を纏わせたりする段階を卒業しているようだ。

それなら体重倍加の重圧呪文(ベタン)なら有りではと思ったのだが、それも『もう体重を増やすのはこりごり。それならスピードを増して威力を上げた方が良いわ』という言葉で却下された。

 

かくして、片方には敏捷力を増す呪文を、もう片方には防御力を増す呪文と、ある意味王道のステータスアップ系の呪文が刻まれた魔道具が誕生した。個人的には、あの足跡を大地に残しながらドスドスと突き進む重量感のある『進撃のマァム』をもう一度見たかったので残念でならない。

 

「……何よ、ポップ?」

 

俺がマァムの両耳に付けられているピアスに視線を投げかけていると、マァムが不審げに問いかけてきた。

 

「いや、『進撃のマァム』を……じゃなかった、さっそくピアスを付けてくれているんだなって思ってね。マァムの薄紅色の髪に、緑色のピアスがよく似合っていると思うよ」

 

俺の言葉に、メルルも相づちを打つ。

 

「私もそう思います。緑色のピアスがまるで新緑の芽のようでとっても似合っていますよ、マァムさん!」

 

俺達の言葉に、マァムは照れたように頬を赤らめ視線を泳がせた。

 

「そ、そう……? あ、ありがとう……」

 

その初々しい反応に、俺はマァムともこの戦いが終わったらお付き合いをする事になっているんだけど、本当に良いのかなと今更ながらに考えていた。めちゃくちゃ嬉しいんだけど、メルルと言いマァムと言い、いきなり2人に対して二股しますって宣言しているのと同じ状況なんだけど……。

 

こんなリア充、経験した事が無いから、いつか爆発しそうで恐ろしい。

 

 

 

「どうぞ、ポップさん」

 

メルルが俺に食後のお茶を入れてくれたので、「ありがとう」と答えつつそれを手に取った。

 

「ははは。何かポップの側にマァムとメルルがいると安心するな。俺だけじゃ自信無いけど、2人がいればポップの無茶を止めてくれそうだし」

 

俺がメルルの入れてくれたお茶を飲んでいると、そうダイがあっけらかんと笑った。

 

むう……、まだお子ちゃまのくせに、お前まで俺の保護者のように振る舞うとは生意気な……。

 

「無茶ならダイだって負けてないじゃないか。なんだったら、ダイも姫さんだけじゃなくて誰か別の女の子をナンパしてみろよ。お前だったら、その魔性の瞳でちょっと見つめるだけで誰でも付いてくるさ」

 

「な、何言っているんだよ、ポップ! 俺とレオナはそんなんじゃないんだから! だ、だいたいナンパって何だよ!?」

 

「ナンパってのは――。 い、痛たたっ!」

 

俺がダイにナンパを説明しようとすると、突然背後から誰かが俺の頭を鷲づかみして、ギリギリと締め上げてきた。

 

「ポップくーん! ダイ君に、余計な事を吹き込まないの! ――分かった!?」

 

それはもちろん姫さんだった。

 

「はいはい……」

 

俺が苦笑いしながら謝罪すると、姫さんは「全くもう……!」とプリプリしながら俺達のテーブル席に腰を下ろした。

 

ダイが、「お早う、レオナ。朝ご飯を食べに来たの?」と聞くと、姫さんはそんなわけないでしょ、と言わんばかりに手をパタパタと振った。

 

「食堂で悠長に朝ご飯なんて食べてる暇ないわよ。こっちに帰ってきてからずっと、働き詰めよ。全く、寝不足はお肌に大敵だっていうのに……!」

 

働き詰め? 徹夜だったのかな?

 

メルルが、「どうぞ」と姫さんにお茶を煎れてあげる。

 

「ああ、ありがとうー、メルル! ああー、落ち着くわ!」

 

「でもレオナ。忙しいのは分かるけど、ちゃんと休みも取らないと倒れちゃうわよ?」

 

「そうだよ、レオナ。ご飯だって食べないと駄目だよ!」

 

マァムとダイがそう姫さんを気遣った。

 

「そうなんだけどねー、ちょっとやらなきゃいけない事ができたから、仕方ないのよね。ダイ君達は、今日はどうするの? パプニカの城下町も、だいぶ人が戻ってきているから、軽い食事を提供してくれる店なんかも再開しているわよ?」

 

「そうなんですか。私、パプニカに来たのは初めてですので、楽しみです」

 

「じゃあ、メルル。私も前はゆっくり城下町を見れなかったから、一緒に見てみない? ポップもダイも来るでしょう?」

 

そうだな。3日前にパプニカに戻ってからこれまで、マァムにプレゼントする魔道具を作ったり、たこ焼きのレシピを王宮のコックに伝えたりで、ずっと王城内で過ごしていたから、城下町の復興具合は見れていないな。一度行ってみるのも良いかもしれない。

 

「ああ、良いね、それ。今日ぐらいはゆっくり過ごさせてもらおうか」

 

「うん、行こう、行こう!」

 

「ピ、ピィ!」

 

ダイもゴメも賛成のようだ。じゃあ、今日の予定はそれで決定と……。

 

「あ、待って待って! ごめんなさい、ポップ君にはちょっと相談したい事があるのよ。だからポップ君は、お留守番って事でお願い!」

 

えー、マジかよ、と思ったが、俺に両手を合わせてお願いしてくる姫さんを見たら、衣食住を世話になっている身空の俺としては、断る事など出来なかった。

 

「はいはい。良いよ、仕方ないな」

 

「ありがとう、ポップ君! じゃあ、後でマリンを部屋によこすから、よろしくね!」

 

それだけを言い残すと、姫さんは食堂から出て行った。朝ご飯もゆっくり食べる暇がないなんて、本当に忙しいんだな。

 

「ポップはお留守番みたいだけど、私達は行ってみましょうか。ひょっとしたら、ダイの使える剣も入荷されているかもしれないし」

 

「そうですね。ポップさん、何か良い品があったら買ってきますね」

 

「ああ、面白そうなのがあったら教えてくれよ。あ、それとメルル。だいぶ復興が進んだといっても、まだ治安はあまりよくないんだ。ダイとマァムからは離れないように。良いね?」

 

「ふふふ。心配しすぎですよ、ポップさん。これでも私、旅慣れているんですよ? それに、ポップさんの作ってくれたネックレスもあるから大丈夫ですよ」

 

そう言ってメルルは首にかけているネックレスを手に持って朗らかに笑うが、心配なものは心配だ。俺は、念入りにメルルに注意を促しておいた。そんな事をしていると、腕組みをしたマァムが、不意にずずいっと俺の前に立った。

 

「何よ、ポップ。私には心配してくれないわけ?」

 

「ん……。マァムは、やり過ぎないようにな」

 

「――何の心配よ、それは!」

 

……いや、何の心配って、ねえ……。霊長類最強の女に、いったい誰が手を出すんだよ……。

 

その後俺は、楽しげに城下町に向かう3人とゴメを見送って部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

「姫、ポップ君を連れて参りました。入りますね」

 

そうマリンさんは部屋の中の人間に声をかけ、中に入った。マリンさんによるとこの部屋は、重要な案件を相談する際に使用している部屋だそうで、俺も入るのは初めてだった。マリンさんに続いて部屋に入ると、それほど広くも無い部屋には姫さん、アポロさん、それに見知らぬ人物がテーブルを囲んで席についていた。

 

俺の視線に気が付いたのか、姫さんがその見知らぬ人物を紹介してくれた。

 

「ああ、ポップ君は初めて会うわね。彼は、つい先日パプニカ王国の内務大臣に就任してもらったテムジンよ。まあ大臣と言っても、まだ城内で内向きの仕事しか与えれてないんだけどね。テムジン、挨拶を」

 

姫さんに促されたテムジンという人物は、椅子から立ち上がり俺に丁寧に腰を折って挨拶をした。

 

「お初にお目にかかります、ポップ殿。私は、テムジンと申します。パプニカの奪還に多大なご助力をいただいたと聞きおよんでおります。心より感謝いたします。以後、よしなに……」

 

「これはご丁寧に。私は、アバンの弟子ポップと申します。こちらこそ、パプニカ王国には過分な援助をいつもいただいています。心より感謝を……」

 

俺はそう返答しつつ、このテムジンと名乗った人物について考えていた。高齢で、御髪の薄くなっている容貌。妙に目力はあるな。テムジン……。何か聞き覚えのある名前だな……。

 

――! 

 

あっ、もしかして初めてダイと姫さんがデルムリン島で出会った時の、あの姫さんを暗殺しようとしていた大臣じゃ無かったか? そうだ、間違いない。確かもう一人、キラーマシーンに乗って暴れたバロンという若い男もいたような……。

 

原作開始後、俺の知っている範囲では彼らについての描写は無かったが、生きてたのか……。しかし、自分自身への暗殺計画を企てた人間を、どうして姫さんは今またパプニカの要職になんか据えたんだろうか? ちょっとその意図が分からないな。

 

「じゃあ、ポップ君も来てくれた事だし、早速本題に――「お待ちください」」

 

そう言って姫さんの発言を止めたのは、テムジンその人だった。

 

「な、何かしら、テムジン?」

 

姫さんの問いかけに、テムジンは俺に顔を向けて「本題に入る前に、ポップ殿からの謝罪をいただきたく思います」と、告げた。

 

え……、「以後よしなに」、って言っていたはなから、謝罪を求めるの? いったい何の謝罪だ? 俺、いきなり何かやらかしたか? 身だしなみ……か? 俺は後頭部に手をやって、寝癖が残っていないかどうかを確認した。大丈夫、マァムが整えてくれたからおかしくはないはず。

 

「テムジン様、一体何を……」

 

アポロさんが困惑した様子でテムジンを見る。

 

「ポップ殿だけに言う話ではありませんが、彼らアバンの使徒の皆さんは、先日のベンガーナ国及びテラン国での魔王軍との戦いにおいて、レオナ姫を危険な目に晒しております。既に申し上げるまでもない事と思いますが、レオナ姫は現在パプニカ王家に残されたたった一人の尊きお方でございます。その命を危険に晒した事の自覚はございますかな、氷の賢者殿?」

 

おっとー。これは正論だ。普段の姫さんがあまりに気さくな態度をとっているから、意識しないと忘れがちだが、確かに姫さんはパプニカにとって、やんごとないお人だ。

 

「ちょ、ちょっとテムジン……! 言ったでしょう! 彼らには私の方からベンガーナに行こうって、誘ったんだって……!」

 

「いえ、たとえ姫から誘ったのだとしても、テラン国における竜騎将との戦いにまで巻き込む必要は無かったと私は考えますが、違いますかな? 切れ者と名高い噂の氷の賢者殿は、その程度の知恵も働かなかったか、あるいは、自身がいれば危険は及ばないと自惚れておられたか……」

 

テムジンは、レオナ姫の言葉を否定し、俺に眼光鋭くそう問いかける。その場の空気が、ピリッと一気に引き締まった。

 

「テムジン様、言い過ぎです! ポップ君達は――」

 

俺は、フォローしようとしてくれたマリンさんを制する様に手を伸ばした。テムジンの言うとおりだ。ベンガーナ国のドラゴン襲撃はともかく、テラン国でのバランとの戦いでは姫さんまでも俺は戦力として組み込んでいた。そこに弁解の余地は無い。

 

それは、それを姫さん自身が望んでいたという事情もあるが、王家の血が途絶える事を憂慮するこの人にとっては、許しがたい暴挙なのだろう。

 

テムジンの言葉に理があると思った俺は椅子から立ち上がり、テムジンはもちろん、この場にいる全員に対して慇懃に頭を下げた。

 

「テムジン殿の仰るとおりです。パプニカ王国第1王女に対する安全への配慮が全く足りておりませんでした。アバンの使徒を代表して、私、ポップが謝罪いたします。申し訳ありませんでした。どうか、お許しを……」

 

その俺の謝罪の言葉に、ようやく溜飲が下がったのか、テムジンが鷹揚な態度で頷いた。

 

「ほ、ほら、もう良いでしょう。ポップ君も早く座って……!」

 

姫さんが、場を取りなそうとするかのようにことさら明るく振る舞い、俺に席に着くように進めた。

 

こうして、ややギクシャクとした雰囲気で会議は始まった。

 

 

 

「……という訳で、魔王軍に対抗するためには国と国が手を取り合って一致団結しないといけないと思ったのよ」

 

結局のところ姫さんの話は、現存する国家が一致団結して魔王軍と対抗しようというという話だった。なるほどね、こういう国家規模での動きとなると、俺達アバンの使徒の出る幕はない。これはまさに、パプニカ王国第1王女という立場である姫さんにしかできない事だと思う。

 

テムジンもアポロさん達も、既に姫さんからおおよその話は聞いていたのか、特に表情を変えずにその話を聞いていた。そういえば、エイミさんが今日の朝、気球でベンガーナ国に向かったとマリンさんに聞いていたが、それもこの話に関係しているのかもしれないな。

 

「それで、まずは団結をするための世界会議をこのパプニカで開催しようと思うの。そこでポップ君にこの場に来てもらったのは、オーザム国の状況について意見を聞きたかったからよ」

 

「オーザム国……ですか」

 

「ええ。残念な事だけど、魔王軍によって、カール王国、リンガイア王国は既に滅ぼされてしまったわ。幸い、リンガイア王国の宿将であるバウスン将軍とは連絡がついたから、世界会議への出席をお願いするつもりだけど、カール王国は……」

 

カール王国……。アバン先生の母国。以前瞬間移動呪文(ルーラ)で行こうとしたが行けなかった。師匠が言うには、俺の知っている記憶と現状があまりに異なっているから、という事らしいから、そういう事なのだろう。

 

フローラ女王が心配だ。もう、俺が単独で飛翔呪文(トベルーラ)でカールまで飛んで、フローラ女王を探し出したい気分だ。行かせてくれるだろうか? いや、最近マァム達は俺が単独行動をとることに過敏に反応するから、行かせてくれない気がする。それに俺もダイ達を置いていくのは、心配だし……。その上、俺個人の思いは別として、それが勇者一行(パーティー)としての最優先事項かと問われると、違う気がするし。悩ましいな。

 

「……ポップ君? 聞いてる?」

 

「ああ、すいません、レオナ姫。それで、オーザム国、でしたか?」

 

カールの事に思いめぐらせていた俺は、姫さんの言葉に現実に引き戻された。ちなみに、この場では俺は、姫さんに対して公的な場としての態度を崩していない。それはもちろん、初対面のテムジンを含めた会議だったからだ。姫さんが俺に砕けた態度を取るのは立場的に問題ないが、俺が取るのはまずいだろう。

 

「そうなのよ。うちの使者がマルノーラ大陸に渡ってオーザムの町を遠くから確認したんだけど、もう町は完全に焼け落ちて魔王軍が駐留していたそうよ。それだけ聞いたら、オーザム国ももう魔王軍に滅ぼされたと考えざるを得ないんだけど、ポップ君はアバン先生との修行の間にオーザム国にも立ち寄ったって言っていたじゃない? ポップ君なら、何か違う見解があるかしら?」

 

……そうか、オーザムの町は焼け落ちたか。ライオネルさんから借り受けて約3ヶ月過ごしたあの屋敷も、ライオネルさんの屋敷も、アバン先生の携わった城壁も全て……。

 

だけど、ライオネルさんがうまくやっていたら、それでも人的被害は最小限で済んでいるはずだ。俺達の構築した戦略では、オーザムの町が焼け落ちるのは、織り込み済みだったんだから。

 

ただ、その戦略の詳細をつまびらかにこの場で明かして良いものだろうか? この戦略には、オーザムの国民5千人の命がかかっているんだ。この場にいるのが、姫さんや3賢者、バダックさんだけだったら、俺は無条件に明かした。彼ら彼女らとの間には、それだけの信頼関係が既に醸成されている。

 

しかし、この男。……テムジンだ。こいつが分からない。原作知識が無いのが、本当に悔やまれるな。知ってさえいれば、この男を信用していいかどうかすぐに分かっただろうに。もう俺は自分の観察眼だけで、この男が信用できる男かどうかを見極めなければならない。

 

だから俺は、姫さんに告げた。

 

「オーザム国の戦略の基幹について、自分は承知しています。ですが、それは絶対に魔王軍に知られてはならない秘中の策です。大変失礼ですが、私はテムジン殿の事を深く存じません。彼は信用に足るお方でしょうか? 可能なら、レオナ姫にだけ直接伝えたいのですが?」

 

この発言は、会議冒頭での彼とのやり取りが尾を引いていた訳ではないと思いたいが、もしかすると俺の意識の水面下で影響していたのだろうか……。だけど、彼が魔王軍と裏で繋がっていないと誰が言える。しかもこの男は、過去に明確な反逆行為を犯しているんだ。

 

俺の言葉に、部屋の空気が再びひりついたのを感じた。俺の視線とテムジンの視線が一瞬交錯するが、直ぐにテムジンは俺から視線を外して、姫さんに顔を向けた。

 

「ふむ……。ポップ殿は私を信用できない様子。良いでしょう。そういう事でしたら、私は席を外しましょう」

 

そうテムジンに告げられた姫さんは、ほんのわずか目を伏せ、そして直ぐに目を開いた。

 

「いえ、その必要には及ばないわ。ポップ君、私はテムジンを信用しています。君が危惧しているような事は、絶対に起こらないと断言するわ。どうか、そのオーザムの秘策を教えていただけないかしら?」

 

姫さんと俺の視線が、火花を散らしながら交錯した。前にも思った事だが、姫さんの目はどこかダイの目を彷彿とさせる。ダイの目が、純粋な気持ちを揺り起こされるような目だとすれば、姫さんの目は正義は我にあり、と訴えかけるような目に俺には思えた。

 

……どうする? 姫さんの言う通りテムジンを信用していいのか? この男の口から魔王軍にオーザムの戦略が漏れて、5千人の人間の命が失われるような事になれば、俺は悔やんでも悔やみきれないぞ。

 

返す返すも、原作知識がない事が悔やまれる。……誰を信じていいのかが分からないので、不安で仕方がない。これが五里霧中の中を行くと言う事か……。いや、俺以外の人間にとってはこれが普通なんだ。皆、自分のこれまでに培った能力や経験に基づいた直感で、相手を見定めているんだ。俺もこれからは、そのやり方に慣れなければいけない。

 

俺はじっと姫さんの目を見つめる。同時に、その隣に座るテムジンも。そのテムジンの目を見た時、先ほどの姫さんの言葉と朝の情景が俺の脳裏に思い起こされた。

 

 

 

ああ、俺はいったい何を見ていたんだ。木を見て森を見ないといけないのに……。

 

はー……。俺は心の中で自己嫌悪の溜息を着いた後、椅子をゆっくりと引いて席を立った。

 

「……テムジン殿、自分が間違っていたようです。大変失礼しました。どうか、お許しください」

 

テムジンは、再び席を立って頭を下げた俺に、いやいや、と手を振った。

 

「いえいえ。事は一国の命運がかかっているのです。魔王軍の脅威に直接接しているポップ殿が、私に信を置けないと思った心情も理解できます」

 

俺が姫さんの言葉を信じて、テムジンに謝罪した事でようやくひりついた空気が、弛緩したような気がする。姫さんとアポロさん、マリンさんがほっと息を吐く様子を横目で見ながら、俺は再び席に着いた。

 

そして俺は、この場にいる皆に、オーザムの戦略について語った。

 

 

 

「避難施設……。まさか魔王軍の侵略が始まる前から、独自にそのような備えを取っていたとは……。ライオネル王、武勇に優れる果断な王と聞いておりましたが、どうやらそれだけにはとどまらない方のようですね」

 

アポロさんが、オーザムが構築した戦略の詳細を知って、そう感嘆の声を上げる。そうだ。俺は、ライオネルさんの最も優れた資質は、その柔軟な思考と身分に関わりなく良いと思った策は迷い無く採用する度量だと思っている。そうでなければ、あの時いくらアバン先生が太鼓判を押したと言っても、何の実績も無い若造の荒唐無稽な提案に、国の命運をかけたりはしなかったはずだ。

 

「ふむ……。問題は、オーザムの町が、その戦略を取るための必然として焼け落ちたのか、ただ全滅の憂き目にあったために焼け落ちたのか、いずれであるかという点ですな」

 

「テムジンの言う通りね。ポップ君は、どちらだと思っているのかしら?」と、姫さんが俺に水を向けたので、俺は居住まいを正して俺の考えを述べた。

 

「そうですね。感情論で言って良いなら、私はライオネル王ならきっと国民の命を守っていると思っていますよ。あの方は、信頼に値する優れた王だと個人的に思っているので。根拠を必要とするなら、焼け落ちたオーザムの町に残された死体の数を数える事で、ある程度判別はつくのではと思いますが、魔王軍がいるようではそれは難しいでしょうね」

 

「そう……。分かりました。では、ライオネル王のお人柄をよく知っているポップ君の判断を信じる事にします。オーザム国との連絡手段を構築したいんだけど、誰か知っているかしら?」

 

その姫さんの問いに答えたのは、テムジンだった。

 

「オーザム国は、ハクハヤという名の伝書鳥を情報伝達手段として用いていたはず。であれば、ギルドメイン大陸で最もオーザムと近い町、ランツェの町にその伝達手段が構築されているのでは無いでしょうか?」

 

「テムジン殿のおっしゃる通りだと思いますね。滞在中に、時折ランツェの町と伝書鳥のやり取りをしている光景を目にした事があります」

 

俺の言葉に姫さんが頷いた。ランツェ……。一瞬何かあの町でやるべき事があったような気がしたが、姫さんの言葉でそれはかき消されてしまった。

 

「決まりね。それでは、最小限の人間をランツェの町に残して、できるだけ早期にライオネル王とコンタクトが取れるよう待機させましょう」

 

判断が早い。こういう所はさすがだな、姫さん。俺が内心で姫さんをそう評していると、その姫さんが突然ジトッとした目で俺をねめつけた。

 

「それと、ポップ君! もうそんなあらたまった話し方は、やめてくれない? テムジンとももう打ち解けたでしょう? そんな話し方は、うるさ型の文官達だけで十分よ!」

 

「……まあ、レオナ姫が、いや、姫さんがそれで良いなら良いけどね。じゃあ、俺も肩がこるからいつも通りでやらせてもらうよ。テムジンさんも、それで良いですか?」

 

「私の事はお気になさらず。レオナ姫がご自身の心の安寧のためにそれを望まれているのでしたら、臣である私から申し上げる事はございません」

 

良いんだ。うーむ、この人が過去にやった事を知らなかったら、忠誠心の厚い出来る文官としか思えないな。まあ、俺もいずれどこかの国に仕官するかもしれない事を考えると、この程度のことで肩がこるなんて言っていたらいけないんだろうが……。

 

 

 

「それで、会場は港からの動線が比較的短い大礼拝堂が良いと思うのよ。ダイ君は午後には戻ってくるんだっけ、ポップ君?」

 

「うん? ああ、そんな事を言っていたよ。ダイがどうかした?」

 

「ほら、世界会議の時には各国の要人が集まるでしょ? いざという時は君達にも護衛についてもらいたいし、大礼拝堂の構造を君達にも見ておいてもらった方が良いんじゃ無いかしら。私も午後からそこに視察に行く予定だから、アバンの使徒を代表してダイ君に同行してもらおうと思って」

 

ふむふむ。姫さんの発言は理にかなっている。しかし俺は、姫さんの発言の裏にある真意を正確に見抜いていた。

 

それって姫さん、ただ単純にダイとデートがしたいだけだろう、と。

 

大礼拝堂、聞いた事がある。奇跡的に不死騎団による破壊からまぬがれた建物で(多分、礼拝堂だけにアンデッドが近寄るのを嫌がったんだろう)、大勢の人が集まってミサが出来るほど広い1階は、色とりどりのステンドグラスが壁一面にはめ込まれていて、一見の価値があるという話だ。加えて最上階からの眺めも格別で、パプニカの風光明媚な街並みを俯瞰できる絶景スポットらしい。

 

なるほどね。ダイとデートね……。俺の方は、本来ならマァムとメルルと一緒に再開された軽食屋に行って、今頃は1つのグラスに注がれた果汁を3人でストローを使って飲むと言った、彼女が出来たらやってみたい事№1のイベントを堪能できているはずだったのに、この会議に呼ばれた事で出来なくなっているんだよね。おまけに、いきなり謝罪までする羽目になっているし……。

 

俺の方のデートを潰しておいて、自分だけがダイとデートをする。これが許されるのか? いや、許されまい!

 

「レオナ姫。その大礼拝堂の視察は、別に姫と一緒にダイ殿が行く必要はありますまい?」

 

おっ、良いぞ、テムジン。テムジンも、その視察に姫さんの公私混同が含まれている事に気が付いたと見える。

 

「あら、別に良いじゃない、テムジン。当日の動きを、私の口から説明した方がダイ君も理解しやすいと思うわよ」

 

……と、姫さんがのたまうものだから、俺はテムジンに援護射撃をする。

 

「ああ、だったら姫さん。ダイじゃなくて俺が同行するよ。当日の動きなんて、ダイに説明しても明日になったら忘れているよ」

 

「うぐっ……! で、でもダイ君が――」

 

「ふむ、それが良いですな、姫。ダイ殿には、後程ポップ殿の口から説明していただければ問題ないでしょう」

 

テムジンが俺の言葉を後押しし、姫さんが悔しげに言葉を詰まらせた。

 

「それと姫。昨日言われておりましたアシムの港町の視察にダイ殿を同行させたいと言われていた件ですが、その理由が私にはよく分からなかったので、もう一度説明していただけますかな?」

 

「そ、それは、ダイ君にもあの町の様子を把握しておいてもらって、いざという時に――」

 

「大丈夫だよ、姫さん。ダイならこの間キャンプに行った時にあの町に行っているから、町の様子は把握しているよ。今更ダイを連れて行く必要は無いんじゃないかな」

 

「おお、それは誠ですかな、ポップ殿? それでは、アシムの視察にダイ殿を同行させる件は無かった事にいたしましょう。よろしいですな、姫?」

 

(そ、そんな……。アシムは恋人達の聖地なのに……)

 

「ん? 何か言った、姫さん?」

 

「何ぞ申されましたかな、姫?」

 

その後も俺は、テムジンと一緒になって姫さんの公私混同と思われる提案を次々と潰していったが、やり過ぎてしまったのか、最後には姫さんがぶち切れてしまった。

 

「あなた達、いくら何でも打ち解け過ぎよ! いい加減にしなさい!」

 

 

 

 

 

「……姫、気のせいかもしれませんが、テランから戻ったポップ君は、以前と少し様子が変わったのでは?」

 

アポロが、会議が終わりポップとテムジンが退出して行った扉を見つめながら、口を開いた。

 

「あら、アポロ。ポップ君は前から、臨機にああいう態度が取れる子だったわよ?」

 

マリンのその言葉に、アポロが「いや、そうではなく」と答える。

 

「ポップ君が場に応じて、ああいう所作が取れる人間だったのは私も知っているさ。私が言っているのは、内面的な話だよ。何て言ったらいいか、深い部分で落ち着きというか、余裕が出てきたような……」

 

「ふふふ。それはもしかすると、相思相愛の彼女が2人も出来たからじゃないかしら?」

 

「2人って……。では、あの噂は本当だったんですか、姫?」

 

マリンが口に手を当てて、驚きの声を上げた。

 

「そうよ。どこか生き急いでいた所が見え隠れしていたポップ君を、その2人が変えたんだと思うわよ。私は応援するわよ。だいたい彼の立場を考えたら、1人の女性だけと添い遂げるなんて、どだい無理な話だったと思うわよ。彼が何処の国に仕官したって、その国の貴族が女性をあてがって、彼を取り込もうとするに決まっているんだから」

 

「……なるほど。むしろポップ君には、2人の女性を娶り、そういう有象無象の誘いを断る理由とした方が良いというわけですか」

 

「そういう事ね。……? マリン、どうしたの?」

 

レオナが、マリンの様子が気になり声をかけた。そのマリンは、一人でブツブツと言葉を発していた。

 

「……2人? 2人娶ると言うことは、3人でも同じ事かしら? ポップ君って、年上の女性はタイプだったかしら?」

 

思わずレオナは、アポロと顔を見合わせていた。

 

「……ねえ、アポロ。マリンってショタの気があったかしら?」

 

「いえ、存じませんでした。よっぽど、先日の氷漬けになった時のポップ君の言葉が忘れられないのだと思います。まあ、麻疹のようなものだと思いますので、しばらくしたら落ち着くのではないでしょうか」

 

……ああ、あの『必ず助けに来ます。どうかそれまで諦めないで』という言葉か。確かにあの言葉は、マリンにとってインパクトが強すぎたのかもしれない、とレオナは思った。たとえあの言葉が、フレイザードに対して人質を害さないよう牽制する意味合いもあった言葉だとしてもだ。

 

レオナは、マァムとメルルに言った事だが、冗談抜きでこの戦いが終わる頃には、ポップの恋人候補は片手の指で聞かない数になっているのではないかと、密かに戦慄を覚えた。

 

 

 

 

 

「もし、ポップ殿。少しだけよろしいですかな?」

 

「ああ、もちろんです。何ですか、テムジンさん」

 

俺は会議室を出て、王城内の回廊を歩いていた所で、背後からテムジンに声を掛けられていた。

 

2階にあるこの回廊の広い窓からは、ちょうど王城から城下町に繋がっている道が見下ろせた。テムジンは静かにその道を見下ろしながら、口を開いた。

 

「ポップ殿は、私が過去に犯した罪をご存知ですかな?」

 

罪……。それは、いつの頃か忘れたが、デルムリン島で姫さんを亡き者にしようと企てた時の事かな。

 

「……ええ。詳細は存じ上げませんが、多少は知っているつもりです」

 

「さようですか。それでは先ほどの会議において、私を信用してオーザムの戦略を話していただいた理由をお聞きしてもよろしいですかな?」

 

理由……か。俺としては、自身の観察眼の欠如に恥じ入ったんだから、あんまり思い出したくないんだけどな。

 

「そう……、ですね。上手く言えませんが、理由は3つあった気がします。まず1つは、あなたを信じた姫さんに対する信頼、でしょうか。そして2つ目は、部屋に気持ちのいいカーテンが掛けられていたから、ですかね」

 

「カーテン……ですか?」と、目をぱちくりさせて呆けたような顔をするテムジン。

 

「ええ、カーテンです。もちろんそれだけではありません。ベッドには清潔なシーツが、食堂ではとても美味しい食事が提供されました。テランに行く前とは、それはもう雲泥の差です。姫さんの紹介では、あなたは今、王城の内向きの仕事をしているとか。あれらは、あなたの差配だったのでは?」

 

「……ええ。アバンの使徒の皆様には少しでも快適にこの城でお過ごしいただきたかったので最優先で整えさせていただきました。食事も同様です。ですが、それが私に対する信用にどうして繋がるのですか?」

 

「ふふふ。何を言っているんですか。快適な衣食住を提供してくださっているんですよ? あなたを信用するのは、当然の事じゃないですか。むしろ、それに気づくのに遅れた俺の方が、恥じ入るばかりですよ。それに、かつては権勢を誇られたであろうあなたが、雑事と言っては失礼ですが、そのような仕事に誠意をもって取り組んでおられる。これだけでももう、あなたを信用するに足ると思いますけどね」

 

そう言いながら同時に俺は、正直、この人を本来の大臣の仕事ではなく、内向きの仕事でしか使えない所に姫さんの苦悩があるのではと思っていた。かつて姫さんの命を狙った大罪人。姫さんがいくらこの人の事を信用していても、周りの人間が要職につける事を拒むのだろう。

 

でも、俺は大丈夫だと思っていた。どんな小さな事でも与えられた仕事を、愚痴をこぼす事なく誠実にこなす。そんな人間はいつか絶対に認められる。俺はそう確信を持っていた。

 

ああ、だから姫さんはあの時テムジンに席を外される事を拒んだのかもしれないな。あの場面でこの人が席を外したら、それは俺がこの人を信じられないと言っているのが城中に広まる事になる。俺の発言力の大きさ(自覚はあまり無いが、どうやら大きいようだ)を考えると、それは文官テムジンに対する死刑宣告に等しい。……良かった、あの時俺の方から引いておいて。

 

俺のそんな胸の内を読んだのか分からないが、テムジンはふっと笑みをこぼした。

 

「そう言っていただける事、心より感謝いたします、ポップ殿。……おや、ダイ殿たちが戻ってこられたようですぞ」

 

テムジンの言葉で眼下を見ると、確かにダイ達が城下町から続く道をこちらに向かって歩いて来ていた。どうしてなのか、3人とも果物がたくさん詰まったバスケットをその手に持っていた。

 

俺は、回廊からそのままダイ達を見下ろして声を掛けた。

 

「おーい、ダイ。お帰り。町は楽しかったか?」

 

「あ、ポップ! ほら、見てよ! ポップの好物のロウの実をいっぱい貰ったよ!」

 

ダイはこちらを見上げながら、バスケットに入ったロウの実を俺によく見えるように持ち上げた。マァムとメルルがその後ろで、くすくすと笑みを浮かべていた。

 

「そうか。後でいただくよ、ありがとうな。ああ、ダイ。姫さんが、午後から大礼拝堂の視察に付き合って欲しいそうなんだ。俺の代わりに行ってくれないか?」

 

「レオナが? うん、分かった!」

 

ダイはそう声を張り上げて城内に入って行った。その様子を見ていたテムジンが口を開く。

 

「ほっほっほ。ポップ殿は、レオナ姫にお優しい事で」

 

「くすくす。まあ、何だかんだ言って、俺達の一番のスポンサーは姫さんなんで。こんな事で姫さんのご機嫌が取れるのなら、いくらでも」

 

そう言って、俺とテムジンは顔を見合わせて笑った。

 

「ところでポップ殿。先ほどの話ですが、3つ目の理由をお聞かせ願っても?」

 

3つ目? ああ、そうか。まだ言っていなかったか。

 

「……俺達の仲間にも、過去に犯した罪を悔やみ、それでも前を向いていこうとしている奴がいます。あなたを、過去に犯した罪を取り上げて信用しないのは、俺の仲間も信用しないと言う事に等しい気がしたので……」

 

俺の言葉に、テムジンは回廊の窓から見える澄み切った空を静かに見つめた。そして、ほう……、と息を吐いて空を見上げたまま、静かに口を開いた。

 

「そう、ですか。……私は、愚かでした。富と名声を得る誘惑にかられ、あろうことか仕えるべき主の暗殺を企ててしまった。この世に生きとし生けるもの全ての命運がかかっているという時に、私は何と了見の狭い妄執に囚われてしまったのか。パプニカが不死騎士団の攻撃に晒された時、私は牢獄の中で死を覚悟しました。生きていても、害悪しか生まない私はそこで死するつもりでした。ですが、バロンという同じく牢獄に囚われていた者が、自身の命を捨ててまで私を助けてくれたのです……」

 

「そのバロンさんは……?」

 

ああ、そうだ。キラーマシンに乗って暴れた、テムジンより年若い賢者の名前が確かバロンだった。

 

「……死にました。私をかばってアンデッドの剣をその身に受けて。バロンは今際の際に、私に自分に代わって姫をお助けしてほしいと、それだけを口にして逝きました。ですからポップ殿。私の事は良いのです。どうか、バロンという男がいて、その男も過去に犯した罪を悔やみ前を向こうとしていた、という事を信じてあげていただけませんか?」

 

「……分かりました。バロン殿のその決意、信じます」

 

「ありがたい。氷の賢者と名高いポップ殿に信じてもらえるなら、彼も本望でしょう」

 

テムジンは、まるで胸のつかえがとれたかのように、心底安堵した表情をその顔に浮かべた。

 

「……パプニカの未来は明るいですね。あなたのような人材を登用するレオナ姫の下、ますます発展していくのだろうと思いますよ」

 

俺の言葉にテムジンは思い出したかのように、問いかけた。

 

「……そう言えば、ポップ殿は姫からの我が国への仕官の誘いを断り続けているとか? それはもしかして、戦後の国家間のバランスの事を考えて、ですかな?」

 

「……」

 

俺は、テムジンのその問いには無言で答えた。決してそれだけではないが、確かにそれも理由の一つだった。

 

俺の表情を見て、テムジンは察したようだ。いかんな、やはり俺にはまだ腹芸は出来ないようだ。

 

「ふむ……。賢き者、というのも考えものですな。若い身空で、そのような事にまで気を回されるとは。あなたなら、姫をその手の平の上で踊らせる事ができただろうと思いますのに、残念な事だ……」

 

そのテムジンの言いように、俺は思わず吹き出してしまった。

 

「くっくっく。それは無理でしょう。あの姫さんが、俺の手の平の上だけで満足されるわけがない。早晩俺の手から飛び出して、独自のステップで踊り始めるでしょうよ」

 

困惑するあいつの手を取ってな。

 

「ほっほっほ。それもそうかもしれませんな。……それでは、ポップ殿。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」

 

そう言って、テムジンは俺に背を向け去って行った。

 

 

 

 

 

「そうか……。やっぱりダイの力に耐えられそうな剣は無かったか。まあ、鎧の魔剣でも耐えられなかったんだ。そうそうは、あれ以上の剣が出回るわけがないよな……」

 

「そうね。でも、ようやくダイが竜闘気(ドラゴニックオーラ)を意識して使えるようになったというのに、その力が強すぎて耐えられる剣が無いというのも皮肉な話ね……」

 

俺とマァムは顔をつきあわせて、互いに溜息をついた。そう、これが目下俺達勇者一行(パーティー)の最大の懸念『ダイの竜闘気(ドラゴニックオーラ)に耐えられる剣が無い』という悩みだった。

 

今、ダイは俺の代わりに姫さんと一緒に大礼拝堂に視察に行っているため、俺はマァムと部屋で、これからの行動指針を相談していた。

 

「バランが手にしていた真魔剛竜剣は、素材がオリハルコンという話だったよな。やはりダイの力に耐えられる剣となると、同じオリハルコン製でないと駄目なんだろうな……」

 

俺がそう独白していると、部屋の扉が開いてメルルが入ってきた。その手には、薄く切ったロウの果実を乗せたお皿を持っていた。

 

「ポップさん、マァムさん。甘い物でも食べて休憩されてはいかがですか?」

 

甘い香りに誘われた俺は、一も二もなくメルルの提案に乗る事にした。

 

「ありがとう、メルル。うん、美味しい」

 

「本当、とっても美味しいわ。ありがとう、メルル」

 

俺とマァムの言葉にメルルは「どういたしまして」と笑顔で答えた。

 

 

 

「そういえば、ずいぶんとたくさんのロウの実を買ったみたいだけど、安売りでもしていた?」

 

3つのバケットに山盛りのロウの実を詰めて帰ってきていた光景を思い出し、俺は2人にそう尋ねた。すると、マァムとメルルは顔を見合わせて苦笑した後、メルルが「いえ、これは買ったんではなくて、当たったんです」と照れくさそうに笑った。

 

「当たった? それってどういう……」

 

俺のその質問に対する回答はこうだった。ある果物屋さんの軒先で、1Gで1回引かせてもらえるくじ引きをしていたそうだ。そのくじ引きの景品として3等がロウの実の詰め合わせだったらしい。

そしてロウの実が俺の好物と知っていたメルルが、1等でも2等でもなくその3等を狙ってくじを引いたところ、見事に的中したとの事だ。更にそれに気をよくしたメルルが続けて2回くじを引いて、やはり2回とも3等を当てた、と。

 

さすがに3等くじを連続して3回引かれた果物屋さんから、これ以上のくじ引きを遠慮してほしいと拝むように頼まれて、ようやくメルルはくじを引く事をやめたそうだ。

 

……何それ。予言者もしくは占い師としてナバラさんのお墨付きをいただいたメルルにくじを引かれるなんて、いくら何でもその果物屋が気の毒すぎるだろう。もうメルルは、その果物屋に出禁になっちゃっているんじゃないのか……?

 

あれ……? その時俺の脳裏に、一つの考えが思い浮かんだ。

 

――! 

 

そうだ! 何で俺はこんな簡単な事に気がつかなかったんだ!

 

「メルル!」

 

突然大声を上げた俺に、ロウの実を口に含んだところだったメルルが、「――は、はい!?」と目をパチクリさせて驚きの声を上げた。俺はそんなメルルの肩に両手を置いて叫んだ。

 

「占いだよ! メルルに、ダイの力に耐えうる剣の在処を、占ってもらったら良いじゃないか!」

 

俺の言葉に、メルルの隣で同じくロウの実を頬張っていたマァムが、なるほど、と手を打った。

 

「そうよ! ポップの言うとおりだわ! メルルの占いならきっと手がかりを得られるわ!」

 

そうして、俺達はダイが大礼拝堂から戻ってきたらメルルに占いをしてもらう事になった。

 

 

 

 

 

「よっと」

 

「これで良いかしら、メルル?」

 

俺とマァムがメルルの指示で、小さな丸テーブルの上に白い布を広げた。

 

「はい、ありがとうございます。それで十分です。それじゃあ、ダイさん、こちらを」

 

そう言ってメルルは、小さな炎の入ったグラスをダイに手渡す。

 

「これは、古代占布術といって探し物の場所を具体的な言葉で現す占いなんです。手を出して目的の物を思い浮かべてください。そして合図をしたら、その炎を布の上に落として下さい」

 

「うん、分かったよ」と、神妙な顔をして頷くダイ。

 

メルルはテーブルに手を突き瞑目する。皆、メルルの集中を妨げない様にその様子を固唾を呑んで見守っていた。それほどの時間をかけず、メルルが「どうぞ……!」とダイに声を投げかける。

 

ダイは両手で握っていたグラスを傾け、グラスの中の炎を布の上に落とした。すると、炎はまるで意思を持っているかのように布の上をジグザグに走っていき、布に焦げ目を作っていく。俺などが見ていてもこれがいったい何を意味しているのかさっぱり分からなかったが、メルルは違ったようだ。

 

ジッと炎の動きを見つめていたメルルが、ゆっくりと口を開いた。

 

「……ロ……モ……ス……。ロモス、という結果が出ました」

 

「ロモス! そこに俺の剣の手がかりが!?」

 

ダイが、ようやく見つかった手がかりに喜びの声を上げる……と同時に、俺は思わず「げっ!?」という言葉を発していた。おいおい、つい先日ロモスに行く用事はもう無いだろうと思っていたばかりじゃないか。

 

「げ? ポップ、ロモスに行ったら何か都合が悪いのかしら?」

 

俺の言葉に、腕組みをしたマァムが目ざとく突っ込みを入れる。

 

「あ、いや、な、何もないよ。やだなあ、都合が悪いなんて、そんな事あるわけないじゃないか」

俺はしどろもどろになりながら、マァムのジト目から目を逸らす。

 

「ロモスなら、ポップの瞬間移動呪文(ルーラ)で直ぐに行けるね!」

 

「待ってください! ……まだ、まだ占いの結果は全て出ていません……」

 

先走るダイを留めるようなメルルの言葉に、俺達全員が再びメルルに注目した。まだ全部出ていない? 占いに、続きがあるのか?

 

俺達がメルルに注目していると、メルルは「……ラ……ン……カー……ク……ス……」と呟いた。

 

「「「ランカークス!?」」」

 

「……はい、ランカークスです。ロモスとランカークス。その2箇所にダイさんの剣についての手がかりがあるという予言が出ました。あ、で、でも、もしかすると間違っているかも……」

 

俺達の驚きの声に、メルルは最後に少し自信なさげにつぶやいた。しかし俺は、メルルが間違っているとは微塵も思っていなかった。これほど具体的な地名が出たんだ。きっと、その2カ所に何か手がかりがあるはずだ。

 

「ランカークスって、ポップの……」

 

ダイが俺の顔を見てそう呟いた。そうだ、言われるまでもなくランカークスは俺の故郷だ。まさかここで、その名前が出るとは思わなかった。

 

「ポップのお父さんは武器屋だったわよね? もしかして、ポップのお父さんがダイの力に耐えられる剣を持っていたりするのかしら?」

 

「いや、いくら父さんでも竜闘気(ドラゴニックオーラ)に耐えられる剣を打ったり、保有したりという事は無いと思うんだけどな。でも、剣を探してランカークス村という占いの結果が出たんだ。村で唯一の武器屋である俺の実家に、何かの手がかりがあるのは間違いないんじゃないかな……」

 

「うん、そうだね。きっと何かの手がかりがあるよ! あ、でも、ロモスっていう結果も出ているし、どっちから確かめに行こうか?」

 

そのダイの言葉に、俺は少し考え込んだ。そうだ。どちらから行こうか。どちらも、剣を探すためのツテはある。ただ、俺の実家の方がより情報を得られやすそうな気がする。

 

「……そうだな。正直どちらからでも良さそうな気はするけど、ロモスとなると広すぎるし、田舎の俺の実家の方がより情報を得やすい気がするな。ランカークス村から行ってみないか?」

 

……決して、例の件が露呈するのを恐れて、ロモスに行くのを後回しにしたわけでは無い。無いったら、無い。

 

「うん、俺も賛成! 俺、前からポップの故郷に行ってみたかったんだ! ね、ゴメちゃん!」

 

「ピピピィー♪」

 

「ふふふ。そうね、私もポップのご両親にもう一度お会いしたいし、それで良いわよ」

 

ダイもゴメもマァムも賛成のようだ。後はメルルだな。

 

「メルルはどう? メルルもランカークス村からで良い?」

 

「え!? わ、私もポップさんのご実家に一緒に行って良いんですか!?」

 

「良いんですかって、良いに決まっているじゃないか。メルルのおかげで、手がかりが見つかったんだ。是非メルルにも来てほしいよ。メルルだってランカークス村が懐かしいだろう?」

 

「はい! 私もマリーさんやライカちゃん、ポップさんのご両親に久しぶりにお会いしたいです」

 

「決まりだな。じゃあ、今日はもうすぐ日も落ちるし、明日朝からランカークス村に行く事にしよう。あ、ダイ。姫さんに明日からしばらく留守にするって言っておいてくれるか。黙って行って、またへそを曲げられると困るからな。俺はちょっと買い物がしたいから、今から城下町に行ってくるよ」

 

「うん、分かった!」

 

俺はダイのその返事を聞き、鞄を背負って早速部屋から出ようとした。急がないと店が閉まってしまう。

 

「あ、――ポップさん!」

 

「ん? どうかした、メルル?」

 

部屋から出ようとした俺をメルルが呼び止めたので、俺は後ろを振り返った。しかしメルルは、俺の顔をじっと見た後、首を振った。

 

「……いえ、ごめんなさい。勘違いだったみたいです。城下町に行くんですね。気をつけてくださいね」

 

「……? ああ、ありがとう。買い物に行くだけだから、夕飯の時間までには戻るよ」

 

「ポップ……。変な店に行ったりしたら、分かっているでしょうね……」

 

マァムが、俺をねめつけてそう凄んだ。

 

「買い物に行くだけだと言っただろうが! どんだけ信用ないんだよ!」

 

「前科があるからに決まっているでしょう!」

 

「前科言うな!」

 

 

 

マァムとそんなやりとりをしながら慌ただしく部屋から出て行ったポップの後ろ姿を、メルルは不安そうに見つめていた。

 

メルルは先ほどの占いの際、無意識にポップについての占いも、ほんの少しだけ行ってしまっていた。

 

先ほどポップに言いそびれた、ランカークス村そしてロモスに共通する占いの結果――。

 

 

 

……それは、女難の相だった。

 

 

 

 

※現時点のポップ達の習得魔法と装備品

 

●ポップ(大賢者)

攻撃魔法:火炎呪文(メラ、メラミ、メラゾーマ(フェニックス))

     氷系呪文(ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン、マヒャド)

     閃熱呪文(ギラ、ベギラマ、ベギラゴン)

     爆裂呪文(イオ、イオラ、イオナズン)

     真空呪文(バギ、バギマ、バギクロス)

     混乱呪文(メダパニ)

     即死呪文(ザキ)

     極大消滅呪文(メドローア 合成魔法)

     重圧呪文(ベタン)

     自己犠牲呪文(メガンテ ※強制封印中)

回復魔法:ホイミ、ベホイミ、ベホマ、ベホマラー、キアリー、キアリク

補助魔法:スカラ、スクルト、ピオリム、ルカニ、ラリホー、ラリホーマ、

     トヘロス、インパス、マヌーサ、マホトーン、ザメハ、レミーラ、

     バシルーラ、フバーハ、モシャス、ルーラ、トベルーラ、リレミト、

     トラマナ、アストロン、マホカトール(補助品必要)、ラナリオン

オリジナル魔法:ウォーター(水を発生させる)

        メラータ(合成魔法。熱湯を発生させる。温度は調節可能)

        メラパ(合成魔法 熱風を発生させる。温度は調節可能)

        ラリホーボール(合成魔法 ラリホー成分入りの水球)

        マヌーサボール(合成魔法 マヌーサ成分入りの水球)

        パキ(神風魔法 突風を発生させる)※強制封印執行猶予中

        ゴッドハンド(神速かつ眩惑の指使いが可能に)※強制封印中

        ファイヤーウォール(炎の壁を発生させる)

        アイスウォール(氷の壁を発生させる)

        メラゾロス(合成魔法 火炎竜巻 炎の竜巻を発生させる)

        マヒアロス(合成魔法 氷刃嵐舞 無数の氷の刃を発生させる)

        ドロヌーバ(地面を泥の沼に変化させる)

        トンネラー(地中内に存在する特定の鉱石を探し出し抽出する)

        インパディ(医療魔法 体に潜む病気の原因を把握できる)

        ベホマメント(医療魔法 病気の回復に特化した回復魔法)

        バクチク(爆竹魔法 爆裂呪文から爆発力だけを除いたもの)

特殊技能:魔力圧縮、二重魔法詠唱、アバン流棍殺法『初伝(地竜閃)』

装備品 :ドラゴンローブ、祈りの指輪、アバンのしるし、マトリフのしるし、

     ミサンガ

 

 

●ダイ(勇者)

攻撃魔法:火炎呪文(メラ、メラミ)、真空呪文(バギ、バギマ)、雷撃呪文(ライデイン)

回復魔法:-

補助魔法:トベルーラ ※紋章発動中

特殊技能:アバン流刀殺法『初伝(大地斬)』、『中伝(海波斬)』、『上伝(空裂斬)』、

     アバンストラッシュ、ライデインストラッシュ、竜闘気(ドラゴニックオーラ)

装備品 :魔法の闘衣、騎士のマント、パプニカのナイフ(風)、アバンのしるし

 

●マァム(僧侶戦士→武闘家)

攻撃魔法:-

回復魔法:ホイミ、ベホイミ、キアリー、キアリク

補助魔法:マヌーサ、ザメハ

特殊技能:豪破一闘、閃華裂光拳、土竜昇破拳

装備品 :武闘着、魔弾銃(魔弾×7)、キラーピアス、アバンのしるし

 

●ヒュンケル(戦士)

攻撃魔法:-

回復魔法:-

補助魔法:-

特殊技能:アバン流刀殺法『初伝(大地斬)』、『中伝(海波斬)』、

      ブラッディ-スクライド、グランドクルス

装備品 :鋼の剣、旅人の服、アバンのしるし

 

●クロコダイン(獣王)

攻撃魔法:-

回復魔法:-

補助魔法:-

特殊技能:獣王会心撃、焼けつく息(ヒートブレス)

装備品 :ひのきの棒、獣王の鎧

 

 

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