ギルドメイン大陸 ベンガーナ王国の東部に位置するランカークス村。人口は1,000人程度で、そのうち冒険者が2割程度を占めている。近傍に広がるギルドメインの森からは豊富な資源が採れ、村というより小規模の町と言っていい大きさを誇っていた。
「……ああ、帰ってきたな、ランカークス村へ」
俺は目の前に見えるランカークス村、とりわけ、立ち並ぶ家々の屋根から1本空に高く突き出した煙突に目をやりながらそう呟いていた。その煙突からは、白い煙が青い空に向かって真っ直ぐに立ち上っている。ふふ、父さん、今日も打っているな。俺はその光景を目にし、安堵の息をかすかに吐いた。
「ここがポップの故郷かー。田舎だって言っていたけど、ずいぶん大きな村だね」
「そうね。同じ村でも、ネイル村よりずっと大きいわ」
「そうだな。向こうに広がるギルドメインの森目当てに冒険者がひっきりなしにやってくるし、そこから十分な資源も取れているから、辺境にある割には大きな村と言えるかな。それにここからは村を挟んで反対側になるけど、セーヌ川って言う大きな川がすぐ傍を流れていて、水にも不自由していないからね」
俺は、ランカークス村を初めて見るダイとマァムに簡単に説明をした。ギルドメインの森。その遙か向こうには霊峰ギルドメインの山脈がそびえ立っている。エウレカの皆は、元気にしているだろうか? 時間があったら一度顔を出したいが、さてどうだろう?
俺がメルルに目をやると、メルルは目を細めて静かにランカークス村を見つめていた。
「懐かしいです。5年前と少しも変わっていません。教会も、ライカちゃんの家の宿屋も変わりないでしょうか?」
「俺も1年ぶりの帰省になるけど、多分変わっていないと思うよ。後で行ってみようよ、メルル」
「はい!」
「じゃあ、村に着いたらまずはあの1番高い煙突の家を目指そう。あの家が俺の実家だから」
「「分かった(わ)!」」
ダイ達の返事を聞きながら、俺達は村に向かって足を進めた。
俺達は、俺を先頭に、狭い路地を実家に向かってゆっくりと進んだ。時折見知った近所のおばさん達が、俺の顔を見て驚いたような表情をするので、軽く手を振っておいた。
ああ、見えてきた。外観も記憶の中の景色と全く変わらない。父さんが発していると思われる、「カン、カン」という鉄を叩く規則正しい音が、俺の耳に懐かしい。
今は、もうすぐ朝の9時になろうかという時刻だった。ちょうど1人の女性が店の扉から出てきて、手に持った武器屋の看板を軒下に吊るして開店を知らせようとしていた。
しかし、足を置いた土台の上で、その女性は突然ふらっとバランスを崩して、地面に倒れかける。
「――きゃっ!」
俺はその光景を目にし、とっさに
「あ、す、すいません、私ったら……。 ――!」
その女性は、後ろを振り返って口を開いたが、俺の顔を見た途端固まってしまった。だから俺は、ニコッと微笑みかけた。
「大丈夫、母さん?」
約1ヶ月ぶりに会った母さんは、俺の記憶より少し背が小さくなったように感じた。ロモスでも会っていたが、ここが生まれ故郷だからだろうか。不意に、幼い頃に母さんと手を繋いで路地を歩いた時の記憶が思い起こされ、いつの間にか俺より小さくなっていたその背中に、言いようのない寂寥を感じた。
「……ポップ?」
母さんが、信じられない者を見たかのように、恐る恐る俺の頬に手を伸ばす。俺は頬に添えられたその母さんの手を握って、「ただいま、母さん」と声をかけた。
途端に母さんは俺の身体をギュッと抱きしめて、嗚咽を漏らし始めた。
「……ポップ、ポップ、ポップ。……良かった。う、うう……」
「ちょ、ちょっと、母さん!? どうしたのさ、いきなり……!?」
俺は急に泣き出した母さんに驚いて、声を上げた。俺の身体は、ガッシリと母さんに抱きしめられている。それはまるで、離すと俺が消えてしまうのを恐れているかのようだった。
しかし、そんなに泣かなくても……。1ヶ月前にロモスで会ったんだから、俺が元気でいる事は知っていただろうに。
俺のそんな思いとは裏腹に、母さんは俺を抱きしめる力を更に強めて、嗚咽交じりの言葉を発した。
「……夢を、夢を見たのよ。ポップが、暗くて深い場所を一人で彷徨っている夢を見て。わ、私、心配で心配で、ずっとポップの事を……。う、うう……」
暗くて深い場所……。
「……母さん。それって、いつの事?」
「……5、5日前よ。私、ポップに何かあったんじゃないかって心配で……。でも、ああ、良かった。ポップが無事で……本当に良かったわ……。ぐすっ」
5日前か……。俺があれしてああなった時と、ピタリ一致するな。凄いな、母さん。メルルのような神代の力は無いだろうに、俺に起こった事をそこまで把握していたなんて。これが、子を思う母の愛情なんだろうか。
「……大丈夫だよ、母さん。ご覧の通り、俺はピンピンしているから。だからもう泣き止んで。ほら、俺の仲間もびっくりしているよ」
俺の言葉に、ようやく母さんは俺の胸からその顔を上げて、俺の背後に目をやった。そこには、突然の母さんの行動にびっくりした様子のダイ達がいた。
「――! ま、まあ。私ったら。ごめんなさいね、皆さん。お見苦しい所を見せてしまって……」
「い、いえいえ。良いんです、おば様。……お久しぶりです。ロモスでお会いしたマァムです。覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、もちろんよ。よくいらしてくれたわね、マァムさん。そちらは、ダイさんだったわよね。2人共、元気そうで良かったわ」
母さんは目元を袖で拭いながら、ダイにそう声をかけた。そのダイは、照れくさそうに微笑んで頭をかいていた。そして母さんは、そのままダイの隣にいる少女に目をやった途端、目を大きく見開き、動きを止めた。
「――! あ、あなた、もしかして、メルルちゃん!?」
母さんに声をかけられたメルルは、にこっと笑みを浮かべた。
「はい。メルルです。おば様、お久しぶりです。5年前はお世話になりました。お元気そうでよかったです」
そう返事を返したメルルを、母さんはふわりと抱きしめてまた涙ぐんだ。
「ああ、良かったわ。ずっと……、ずっと心配していたのよ、メルルちゃん。あんなに小さかったのに、こんなに大きく綺麗になって。旅は大変だったでしょう? 本当に嬉しいわ。よく来てくれたわね、メルルちゃん……」
「おば様……。ありがとうございます……」
メルルも涙ぐんで、母さんを抱き留めていた。ふふ、いい光景だな。
「……おい、スティーヌ。いつまで店の前で、そうやっているんだ。せっかく来てくれているんだ。家に入ってもらえよ」
いつからそこいたのか、店のドアから顔を出した父さんが、母さんと俺達を見てそう声をかけた。
「……父さん。……ただいま」
「おう! よく帰ってきたな、ポップ。まあ、積もる話もあるだろう。皆、中に入りな。ほら、スティーヌ。いい加減、泣き止めよ」
父さんは母さんにそう声をかけながら、店の看板を取り外し「今日は臨時休業だ」と俺達に笑みを浮かべた。
「そ、そうね。私ったら……ごめんなさいね、皆さん。さあ、疲れているでしょう。皆、中に入って頂戴」
その言葉に、俺は1年ぶりに懐かしき我が家の敷居を跨いだ。
「そう、メルルちゃんとは、ベンガーナの町で出会えたのね。良かったわね、ポップ。ずっとメルルちゃんに会いたがっていたものね」
母さんは、リビングに備え付けられているテーブルを囲むように腰を落ち着けた俺達の前にお茶を置いた後、父さんの横の椅子に腰をかけながらそう口を開いた。
「ほら見ろ、スティーヌ。お前が見たっていう夢は、ただの夢だったんだよ。メルルちゃんにも会えて元気にしていたようじゃないか、ポップは」
「そう……ね。とても生々しい夢だったから、私ったらポップに何かあったんじゃないかと思っちゃったわ。……嫌ね、もう」
そう母さんは、恥ずかしそうに言うが、俺は引きつった笑いを堪えるので精一杯だった。いや、母さんのその夢はまさしく正夢だったよ、と。見ると、ダイ達も俺と同様引きつった笑みを浮かべていた。……頼むぞ。事前に、両親には俺が
「……それでポップ。今日はいったいどうして村に戻ってきたんだ? まだ旅は終わっていないんだろう? もしかして、マァムちゃんか、メルルちゃんのどちらかと結婚するっていう報告か?」
父さんのその揶揄するような言葉に、母さんが「えっ!?」と言葉を発して俺の顔を見つめた後、マァムとメルルに順に視線を移した。
「い、いやいや、そんな訳ないじゃないか。俺達が今日来たのは――」
「そうそう、ポップが結婚するのはどちらかじゃ無いよ! 2人共と結婚するんだよね?」
そんな爆弾発言をして俺の言葉を遮ったのは、悪魔の子ダイだった。
「「ちょっ、ダイ!?/ダ、ダイさん!?」」
俺の左右の椅子に腰を下ろしていたマァムとメルルが、ダイの突然の言葉に泡を食ったように慌てる。もちろん、それは俺も同様だった。
「ば、馬鹿、ダイ! それを今言う必要は無いだろうがッ!」
「えー、でも本当の事じゃないか。マァムもメルルも、ポップの恋人って事になったんだろう?」
「だ、だから、それはこの戦いが終わってからの話で、今じゃ無いんだよ! だいたい、今は――「ポップ……」」
俺の言葉を遮るように放たれた母さんの声に、思わず俺は「うひっ!?」と情けない声を発した。
その声は、今まで母さんの口から聞いた事がない、まるで地獄の底から発せられたのではと錯覚するほどの超低温の言葉だった。いや、そういえば昔一度あったかもしれない。あれは、初めて父さんを連れてエウレカの里に行って、朝帰りした日の朝だったか。
「は、はい……。な、何でしょうか……?」
俺は思わず、俺の左右に座るメルルとマァムに助けを求めるかのように、椅子を後ろに引いて後ずさった。
「……ちょっと話があるわ。ポップの部屋に行きましょう……?」
その言葉に従う以外の選択肢は、俺にはなかった。俺はそのまま、2階にあった俺の部屋に母さんに連行されていった。
「ポップさん、大丈夫でしょうか?」
「そう……ね。あまり遅いようなら、後で様子を見に行ってあげましょう」
「ほっとけ、ほっとけ。あいつも、ポップが本当に2人も養っていく覚悟があるかどうか、確認しているんだろう。そのうち降りてくるさ。それより、あんたらこそあいつで良いのかい? 反対という訳じゃないが、わざわざ面倒な男を選ぶ事も無いだろうと俺は思うんだがな……」
ジャンクは苦笑しながら、メルルとマァムに問いかける。
「はい……。私は、ポップさんが良いんです。あまりその……、奥さんが多いのもちょっと困りますが、ポップさんの選ぶ女性となら一緒に将来を歩んでいけるかなって思っています。それがマァムさんなら、なおの事です」
「メルル……。えっと、私もメルルと同じです。ポップには普段から色々と言いたい事があるんですけど、悔しいけど好きになっちゃったんですよね。だから私も、ポップの側で一緒に年をとっていきたいかなって……」
顔を真っ赤にしながらそう告白するメルルとマァムを見て、ジャンクは胸が熱くなった。俺の息子が、これほど女性に好かれるような魅力のある男に育ったかと思うと、ジャンクは誇らしい気持ちがその胸中を占めていった。
「そうか……。それじゃあ、これからもあいつの事を頼むよ。色々至らないところのある息子だが、2人が側で支えてくれるなら俺も安心だ。この通りだ。よろしく頼む」
そう言って、ジャンクは2人に対して深く頭を下げた。
メルルとマァムもそんなジャンクに対して、慌てて頭を下げていた。
~~~~一方その頃~~~~
俺は、すさまじい圧を放って仁王立ちしている母さんの前で正座を強いられていた。
「……ポップ」
「……はい」
「本気なの? 本気で2人とお付き合いするつもりなの?」
うーん、もういっそのこと「冗談です」って言ってしまいたい。だけど、それじゃあ何の解決にもなっていないしな。マァムとメルルにも失礼だ。ここは正直に打ち明けよう。しかしダイめ。あいつ、本当に覚えてろよ。
「本気……だよ。どちらか一方と、とは考えられない。いずれは、2人と結婚するか、一生を独身で過ごすかのどちらかだとすら思ってる」
実際、それは俺の本心だった。あの暗い常闇の中、俺を再び生きたいと思わせてくれたのはあの2人だったんだ。どちらかを選ぶとかそんな事は、もう俺の魂が拒絶してしまっている。
「母さん……。俺、うまく言えないんだけど、あの2人と一緒に生きたいという思いが、俺をこれまで生かしてくれたんだ。だからその……母さんに認めて欲しいんだけど、認めてくれなくても、俺はあの2人と一緒になりたい。それは、……絶対なんだ」
俺の言葉に、母さんからの圧が更に強くなった気がする。……胃が痛い。と思っていたら、母さんが大きく息を吐いて、突然その圧が弱まった。
「そう……。分かったわ。ポップがそう決めて、あの子達がそれで良いと言うのなら、母さんがでしゃばる事では無いわね。でもね、ポップ。2人とお付き合いするつもりでいるのなら、ちゃんと2人共を見てあげなきゃ駄目よ? 不誠実は駄目よ。母さんとの約束。良いわね?」
半ばあきれ顔で母さんがそう言ったので、俺は「分かった。約束する」と返事を返した。
「さあ、そうと決まれば、マァムさんとメルルちゃんにポップがいつまでおねしょしていたのかとか、いっぱい伝えないといけない事があるわね。皆の所に戻りましょう」
「い、いや、だから母さん。俺と親しくなった女の子に、俺がいつまでおねしょしていたかと言う話題から入るの、いい加減やめてくれない? ちょっ、聞いてる、母さん!?」
俺の話など聞く耳を持たないとばかりに階下に向かう母さんを、俺は慌てて追いかけた。
「で、お前達はいずれ恋人関係になると言う事を伝えるために村に戻って来た、って事で良いのか?」
「そうそう……って、違うから! 俺達がここに来たのは、ダイの力に耐えられる剣を探すためなんだ」
「剣を探しに……? 剣なんぞこんな田舎にわざわざ来なくても、どこの町でも見つかるだろう……?」
そう不思議そうな顔をする父さんに、俺はダイの力が尋常では無く、通常の剣ではその力に耐えられない事を説明する。
「なるほど……。まあ、お眼鏡に叶うかどうか分からんが、今店頭に並べている武器を――「カリカリ……」」
ん? 何だろう? 自宅の裏庭につながっている扉の向こうから、猫が扉を爪でひっかいているような音が聞こえてきた。
「父さん、母さん。猫か何かを飼いだしたの?」
「いや、猫じゃねえけど、まぁ似たようなものかな。ポップ、開けてやってくれないか?」
父さんと母さんは、何やら見つめ合ってほくそ笑みながら俺にそう言った。
その言葉に、席を立った俺は首をかしげながらその扉を開く。そして、そのまま裏庭を見渡すが、先ほど爪で引っ搔いていたと思われる猫が見当たらない。おかしいなと思い、そのまま裏庭に出て周囲を見渡す俺。
……やっぱりいない。何だったんだ? ……と、思った時だった。日が陰ったなと思った瞬間、突然上から何かが覆い被さってきたために、俺はその重みで地面に仰向けに倒れてしまった。
「――!? ちょっ、だ、誰……だよ。わっ! ま、待って、やめてってば。――舐めないで!」
俺に馬乗りになった何かは、俺の顔をしきりに舐めてくる。あまりにベロベロと舐められるものだから、口も開けないし、目も満足に開けなかった。いったい、何が俺の顔を舐めているんだ?
「わぷっ! わ、分かった、分かったから。いったん落ち着いて! あーもう、ちょっと離れてってば!」
いい加減にしろっと、俺は身体の上に覆い被さっていた何かの両脇に手を差し込んで、どうにか俺の顔からその何かを引き離した。そして、ようやくまともに目を開ける事ができた。
――!?
てっきり犬か猫かとばかり思っていた俺は驚いた。なんとそこにいたのは、10歳ぐらいの褐色の肌をした女の子だった。髪は、燃えるような赤毛で、男の子と間違えそうなほどのショートカットだ。
そんな女の子が、豹柄の露出の多い衣服(いや、これはもうビキニだな)をその絶壁の胸と腰回りに巻いているだけの不埒な格好をして、俺に向かってにまっと無邪気に微笑んでいた。その笑みに、俺はどこか懐かしいものを一瞬感じたような気がしたが、やはりこんな女の子と出会った記憶は俺には無かった。
「き、君、誰だよ? いったい、どこの子?」
特に危険な存在では無さそうだと判断した俺は、改めて女の子をまじまじと観察した。やはり見た事の無い女の子だ。まさに自然児といった風体のその顔は、今は幼いが、将来はきっと元気はつらつといった言葉が似合う美人になるだろうと思わせるほど、整った顔立ちをしている。
……いや、待て。この子の特徴はそれだけでは済まないぞ……。あまりに強烈な個性過ぎて、思わず見落としていた。
俺がこの子のショートカットの頭に目をやると、なんとこの子、頭に獣耳が生えていた。それだけではない。ビキニのようにしか見えないお尻を覆っている布からは、獣の尻尾が見えている。それらが玩具でない事は、その獣耳がピクピクと動き、尻尾も先ほどからパタパタと激しく左右に振られている事から明らかだった。
……意味が分からない。この世界にワニ男やトド男、トリ男はいても、獣耳娘っていたか? 少なくとも俺は知らないぞ。
「ポップ、どうしたの、大丈夫!? ……え? あ、あなた誰?」
「ポップさん、何かありましたか? ……あら、その子は?」
俺の悲鳴が聞こえたのだろう。マァムとメルルも裏庭に出てきて、俺の身体の上に馬乗りになっている女の子を見て目を丸くしている。
「あ、ああ。大丈夫だけど―― わぷっ! だ、だから、もう舐めるのはやめてってば! こ、こら!」
俺が一瞬マァムとメルルに気をとられた隙に、その謎の女の子は俺の手からするっと逃れ、再び俺の顔をペロペロと舐め始めた。
「ポップ……」
「ポップさん……」
あっ、やばい。これまずい展開だ。マァムとメルルの背後からゆらりと蒸気のようなものが立ち上がり始めた気配を感じる。一刻も早くこれを止めねば。
「こ、こら、だからそれはもうやめ――」
「ポップ、あいたかった。あそぶ、ポップ」
会いたかった? 遊ぶ? 本当に誰だ、この子? ロリから始まり、獣耳、獣尻尾と設定盛りだくさんの子を忘れるはずないんだけど……。そんな時、俺は不意にこの子に違和感を覚えた。
……? あれ? なんかこの子、妙にぼやけて見えるな。ていうか魔法の残滓がうっすらと……。俺の胸に顔を押し当ててスリスリし始めたこの女の子を、俺は意識的に魔法的なものを排除する意思を持って凝視すると、今までとは違った姿が俺の目に映った。
それは、大きめの猫と言ってもまだ通じるサイズのベビーパンサーだった。も、もしかしてこの子って……。
「お、お前、もしかして……パンか?」
俺のその言葉を捉えたのか、獣耳がピクピクと動いた。直後、俺の胸に飛び込んできていたその女の子の体が白煙に包まれ、その一瞬後には俺のよく知っている友達の姿に変貌していた。
それは、6歳の頃より毎日のように会っていた、エウレカの里のベビーパンサー、パンだった。
「ズズズ……。おいしい」
今、パンは再び先ほどの女の子の姿に変貌し、マァムとメルルの間に置かれた椅子の上で、静かにグラスに満たされた果汁を飲んでいた。
その様子を見ながら俺は、父さん、母さんに文句を言う。
「もう、父さんも母さんもパンがいる事を知っていたんだろう? もっと早く言ってよ。びっくりしたじゃないか」
「ははは。すまん、すまん。お前を驚かせてやろうと思ってな」
「くすくすくす。パンちゃんが言っていたのよ、今度ポップと会ったら、この姿でポップを驚かせてやりたいって。ねえ、パンちゃん?」
そのパンは、母さんの言葉に満足そうに刻々と頷いている。
全く、まさかパンがこの家にいるとは思いもしなかったよ。父さんに聞いた話では、ザボエラに誘拐された事を知ったサーラさんが、護衛のためにパンを家に寄こしたらしい。寄こしたって言っても、どうして魔王の波動が強まっている今、エウレカの洞穴を出て行動できているんだろうと思ったが、チウやゴメのような例もある。どうやらパンは、その幼い見た目に反して魔王の波動を跳ね返すほどの意思の強さがあるようだ。
そしてパンは両親と一緒に暮らすうちに、人語を覚えたくなったらしい。しかし、ベビーパンサーの姿では体の構造上言葉を発せられないらしく、それならばとサーラさんから
「ふふふ。君がポップの友達のパンなんだね。俺はダイ。ポップから君のことはよく聞いていたよ。仲良くしてね。あ、こっちはゴメちゃんだよ」
「ピィ、ピィ、ピィ」
物怖じしないダイとゴメが、パンにそう話しかけている。ふふ。さっそくゴメはパンと仲良くなったみたいだ。女の子の姿に変貌したパンの膝の上で、ゴメが「ピィ、ピィ」と盛んにパンに話しかけている。
そしてパンの左右の椅子に座っているマァムとメルルも、パンに微笑みかけている。
「パンちゃんって言うのね。私はマァムよ。よろしくね」
「私はメルルと言います。ふふ、パンちゃんの事はポップさんから聞いていたけど、こんなところで会えるなんて、うれしいです。私とも仲良くして下さいね、パンちゃん」
果汁を飲むのに忙しいパンは、ただこくこくと2人に対して頷きを返している。
「あ、パンちゃん。さっきみたいにポップの顔を舐め回すのは、もうしちゃ駄目よ。舐めるのなら、ちゃんとベビーパンサーの姿に戻ってからにする事。分かった?」
マァムが、そうパンに指を立てて説明している。メルルもその横でうんうんと頷いている。そのマァムの言葉に、パンが不思議そうに首を傾げる。
「このかたち、だめ?」
「そう。その姿は駄目よ」
「これも、だめ? ……
パンが舌足らずながらもどうにか
「このかたち、なめていい?」
「……そ、そう……ね。それなら、まあ……」
「……は、はい。それなら、抵抗は薄れますね。い、良いのではないかと……」
「――良いわけあるかぁッ! こんなおっさんにベロベロと顔をなめられたら、俺が精神的に死ぬわ!!」
思わず俺は、2人に対して全力で突っ込みを入れていた。俺を殺すつもりか!
結局その後、俺の顔を舐める際には
これは俺の獣娘萌えからの言葉ではなく、落ち込んだパンを慰めるためだ。決して、邪な気持ちからではないと、誰に言うともなく俺は心の中で言い訳していた。
「懐かしいな。前に店番していた時と変わっていないね」
俺の言葉に父さんが、「それはそうさ」と苦笑している。
今俺達は、実家の武器屋の店内でダイの新しい剣の手がかりを探していた。二股騒動や、パンの件があってドタバタしていたが、ようやく本来の目的を果たしているところだった。
しかし、父さんの腕は確かだけど、いくらなんでも鎧の魔剣でも耐えられなかったダイの力に耐えうる剣がここにあるとは思えないんだが……。
そんな事を考えていると、ダイが1本の剣を手に取り首を傾げていた。
「どうした、ダイ? その剣に何か感じるところがあるのか?」
「うーん、ちょっと不思議な感じがしたから抜いてみたんだけど、どうかな……? 良い剣だとは思うけど、さすがに
ダイがそう言って、抜き身の剣を俺に見えやすいように掲げた。……なるほど。確かに
「父さん。この剣、父さんの打った剣じゃないよね? 誰の打った剣なの?」
俺のその問いに、父さんはさすがだな、と言わんばかりに頷いて答えを返してくれた。
「ああ、そいつは最近知り合いになった魔族の男が打った剣さ。ほら、前にお前に言っただろう。ロンという名の友達が出来たって」
ロン……。前に言ったというのは、俺がロモスから両親をこの村に送って来た時の事か。確かにそんな事を言っていたな。
しかし、ロンという名前……。最近どこかで聞いたような……。
――!?
「と、父さん! そのロンって名前の魔族、ロン・ベルクって言う名前じゃない!?」
「お、おう……。確かにあいつはそんな名前だが、お前知っていたのか?」
突然の俺の剣幕に驚いたのか、父さんがそう引き気味に答えた。でも、今の俺はそれどころではないほど、興奮していた。
やっぱりだ、間違いない……!
「ポップ、急にどうしたの?」
「マァム……! 覚えていないか? ほら、ラーハルトが言っていたじゃないか。あいつが装備していた鎧の魔槍の製作者の名前。確かその名前が、ロン・ベルクだっただろう?」
「――! そう言えば、そんな事を言っていたわね。確かヒュンケルの鎧の魔剣もその人が作った物だって。それじゃあ、もしかして……!?」
「ああ、間違いないよ。魔界の名工ロン・ベルクその人が、メルルが指し示したランカークス村で見つかる手がかりだったんだよ!」
ようやくダイの剣に繋がる手がかりを得られて、俺達は興奮した。早速その人のところに案内してもらおうと思ったんだけど……。
「あー、喜んでいるところ悪いが、今日はロンは家にはいないはずだ。あいつは騒々しいのを嫌うからな。今日はセーヌ川で『手紙送り』をやっているんだよ。多分あいつは今頃、喧噪を嫌って森の奥地で素材集めでもしているだろうさ。あいつの所に行く気なら、明日案内してやるよ」
父さんのその言葉に、俺達はがっくりと肩を落とす。だけど、仕方ないな。なーに、明日になったら会いに行けるんだ。ちょっとの我慢だ。
「そっか。それなら仕方ないね。でも、父さん。『手紙送り』って、10の月にやってなかったっけ? いつから8の月にやるようになったの?」
「ん? ああ、お前は知らなかったか。去年からだよ。元々『手紙送り』ってのは、俺の小さい頃は8の月にやってたんだよ。それが気候の安定した10の月にした方が遠方から出し物が呼べるって話になって、いつからか10の月にやるようになったんだ。
だが、去年あたりから、世界が少しずつ物騒になって行っただろう? そのせいで10の月にやっても、どのみち出し物が村に来ないだろうから、それなら元の通り8の月にやろうって事になったんだよ」
そうだったのか……。俺が知っている限り『手紙送り』のイベントは10の月にやっていたけど、昔は違ったのか。8の月ね。前世でもお盆といえば8月だったけど、ご先祖様とコンタクトが取りやすいという共通点があるのかね。
「そうだ。お前ら、せっかく来たんだから『手紙送り』に参加していったらどうだ? どのみち明日にならないとロンには会えないんだ。今日は家に泊まっていけばいいし、参加がてら村を見て回るのも良いんじゃないか?」
「そう……だね。皆、どうする? 小さなお祭りだけど、ちょうど今日村でやっているみたいだから、行ってみないか?」
俺の言葉に、全員一致で賛同してくれた。
「これがセーヌ川なのね。近くで見ると、透き通るほど綺麗な川ね」
「この川の水源は、ギルドメイン山脈の清廉な雪解け水だから綺麗なんだよ。例年なら楽団やサーカスなんかも遠方から来ていて賑やかなんだけど、父さんの言うとおり今年は来ていないみたいだね。メルルも、祭りを見るのは初めてだよね?」
俺達はゆっくりとセーヌ川に向けて歩きながら、そんな会話を交わしていた。
「はい。セーヌ川は以前滞在した時に見ていましたが、10の月では無かったのでお祭り自体を見るのは初めてです。でも、大きなテントは無いように見えますが、小さな出店はいくつかありますよ、ポップさん?」
そう言って、メルルは遠くに見えるいくつかのテントを指さす。
「ああ、あれは村の有志が出している出店だろうね。もうすぐ昼時だし、後で顔を出して何か食べようか」
「あれって、食べ物屋さんなの? うん、食べよう、食べよう」
ははは。育ち盛りのダイが、食べ物と聞いて急にテンションを上げてきた。あ、お前もか……。
「おい、パン。俺の肩の上に乗るのは良いが、そこでよだれを垂らすなよ。このローブ、プライスレスな稀少品なんだからな」
「ニャァーーン」
ニャァーーン、じゃないんだよ。ったく、都合の良い時だけ猫のふりして。パンは今、かつての定位置であった俺の肩の上で寛いでいた。
「でもポップさん。手紙は用意しましたけど、船はどうするんですか?」
メルルはその手に、ご両親に宛てた手紙を持って俺に問いかけた。『手紙送り』とは、故人に宛てた手紙を小さな小舟に乗せてセーヌ川に流す、前世で言う所の『精霊流し』に似た祭事だ。
「ああ、それなら俺が川に着いたら人数分の船を氷の魔法で作るよ」
俺の言葉に、マァムもダイも納得した表情をする。マァムはその手にお父さんに宛てた手紙を、ダイはお母さんに宛てた手紙を持っていた。
「そう言えば、ポップが書いた手紙は誰に宛てた手紙なの?」
マァムが、俺の手にある手紙を見て不思議そうな顔をする。
「……ああ、これはマトリフ師匠に宛てた手紙だよ。師匠には、生前ずいぶんお世話になったからね」
「……そっか。マトリフおじさんも、ポップから手紙を貰って喜ぶでしょうね……」
「きっとマトリフさん、今でもポップの事を空の上で見ているよ!」
「マトリフ様、厳しそうでありながら、その実、愛情豊かなお方でしたね。私、あの方の事忘れません……」
3人が寂しげにそう呟くから、俺はくっと顔を俯いた。
「……あ、ああ。き、きっと師匠も草葉の陰で見守ってくれている……と思うよ」
「「「……」」」
俺達の間を、何とも言えない静寂が支配した。しかし、その直後……。
「――って、おじさんまだ死んでないでしょ!? な、何言っているのよ、ポップ!?」
「そ、そうだよ! 何勝手に死んだ事にしているんだよ!?」
「ポップさん!?」
途端に3人が泡を食ったみたいに、わたわたし始めた。だ、駄目だ……。限界だ。俺は押さえていた口から手を離して、大笑いをした。
「ぷっ、くっくっく。あははは。いやー、ごめん、ごめん。つい冗談で言っただけなのに、皆が同調するものだから、可笑しくて……!」
くっくっく。あー、笑いすぎて、腹が痛いや。涙を浮かべるほど俺に爆笑されて、3人が顔を真っ赤にしている。
「も、もう、ポップったら! おじさんに知られたら、破門にされちゃうわよ!」
「そ、そうですよ、ポップさん! 不謹慎ですよ!」
「本当にもう! ポップは、すぐにそうやって俺達をからかうんだから!」
ひとしきりそうやって笑い合いながら歩くことしばし、ようやく俺達は川に突き出た桟橋にたどり着いた。確かにいつもより人出は少ないが、それでも近隣の村からも人が来ているようで、それなりに桟橋は混雑していた。
「じゃあ、船を作るから、ちょっと待っていてくれよ」
そう言って俺は、自分の分も含めて4つの氷の小舟を手早く作り出した。
ダイが、俺から手渡された氷舟を受け取りながら首をかしげる。
「結局ポップが持っている手紙って、誰宛のものなの?」
「ん……? ああ、これはアバン先生に宛てた手紙だよ。まあ、内容は勝手に逝ってしまった先生に対する愚痴がほとんどだけどね……」
実を言うと、そのアバン先生に宛てた手紙の裏には、両親にあてた言葉も書いている。もちろん、この世界の両親ではなく前世の両親だ。別れの言葉を残す事無く逝っちゃったからな……。
「アバン先生……。そっか。俺もアバン先生宛ての手紙を書きたかったな……。気がつかなかったよ」
「私もよ。お父さんだけじゃなくて、先生にも手紙出したかったな」
ダイとマァムがそう寂しげに呟いていたから、俺は懐から紙と鉛筆を取り出して、2人に渡した。
「そう言い出すかもと思って、用意しておいたよ。今ここで、先生宛の手紙を書いたらいいじゃないか」
「ありがとう、ポップ。使わせてもらうわね」
「さすがポップ、用意がいいや! ……あ、メルル、……また手伝ってもらっていい?」
ダイが俺から紙と鉛筆を受け取った後、メルルに恥ずかしそうに問いかけた。
やれやれ。ダイはこの戦いが終わったら、本格的に勉学に勤しむ必要がありそうだな。メルルと相談しながら書き始めたダイの様子(書くのはメルルだ。ダイは内容を伝えているだけである)を、俺は呆れ顔で見つめた。
俺が、桟橋で追加の手紙を書き始めた3人から目を離し周囲を眺めていると、不意に肩を叩かれた。
おや? 振り返るとそこには、懐かしいあの人が立っていた。
「ライナー隊長……。久しぶりですね。お元気でしたか?」
そう声をかけながら、まさかパンの変身した姿じゃないだろうな、とパンの姿を探したが、よく考えるとそのパンは俺の首にマフラーのように巻き付いてうつらうつらしていたので、どうやら本物のようだ。
「ああ、お前こそ元気だったか? 噂は聞いているぜ。氷の賢者だったか? 派手にやっているようで、何よりだよ」
相変わらず無精ひげを生やした生え抜きの冒険家風の身なりをしている。俺の記憶より幾分日焼けしているようだが、それ以外は特に変わりはない様子で、にやっと笑みを浮かべている。
「あまり目立ちたくは無いんですけどね。今日は、……ああ、『手紙送り』の会場の警護ですね。お疲れ様です」
「なんの。魔物は凶暴になったが、この辺りはそれほど以前と変わってはいないよ。森からの魔物の襲撃も、こいつらが頑張ってくれているからか、ほとんど無いしな」
そう言ってライナー隊長は、俺の首に巻き付いて眠たそうな目をしているパンを優しく撫でた。おや、パンと随分馴染んでいるな。そういえばパンも、ライナー隊長の姿を
「ふふ。パンの事、知ったんですね? もしかして、エウレカの里の事も?」
「ああ、ジャンクから聞いたよ。全員は知らんが、よく村に出入りするこいつと、こいつの母さんになるのかな、でっかいキラーパンサーなら面識はあるさ」
ああ、そうか。父さんが話したのか。しかし、キラーパンサーというのはセリーヌの事だよな?パンならともかく、セリーヌを見てびっくりしなかったのかな?
「そうなんですね。セリーヌを見て、驚きませんでしたか?」
「まあ、最初は驚いたがな。だが、俺達が魔物の襲撃を受けた時に助けてくれたからな。今では自警団であいつを危険視している奴はいねえよ。……それより、悪かったな、ポップ」
突然神妙な表情で俺に頭を下げたライナー隊長に、「……? 何の事ですか?」と俺は返す。
「ジャンクと、スティーヌさんの事だよ。故郷は任せておけ、なんて言っておいて魔王軍に攫われてしまうなんて。無事に戻ってきてくれたから良かったものの、あの時は生きた心地がしなかったぜ」
ああ、ザボエラが両親を誘拐した件か。でも、いくら自警団でも相手が魔王軍の軍団長だったんだし、そりゃー相手が悪いだろう。誰も人死にが出なくて良かったよ。
「それなら、気にしないでください。どんなに気を配っていてもどうにもならない事だってありますから。それに今は、こいつもいてくれているし、巡回も増やしてくれているんでしょう?」
俺は、内心役に立っているのかなと疑問に思うほど無防備に俺の首に巻き付いて寝息を立て始めたパンの毛並みを、そっと撫でた。
「ああ。実はあの後も何度かお前の両親を狙ったと思われる魔物の襲撃があったんだが、ここ最近は落ち着いているようだ。お前の友達の魔物達も協力してくれているようだぜ。ていうか、お前、あれほど森の奥地に行くなと行っていたのに、ガキの頃から俺達の目を盗んで毎日のように行っていたんだってな?」
「おっと。ライナー隊長、それはもう時効というやつですよ。今更昔の事を蒸し返すのはやめましょう」
俺のそのふてぶてしい言葉に、「こいつめ……!」と、俺の頭を軽く小突くライナー隊長。ふふ。懐かしいな。初めて隊長にげんこつを落とされたのは、ジーンを子供達だけで森の中に捜索に行った時だった。
「そんな事より、俺からも隊長にお礼を。村を出る時に隊長から貰った『迷い草』。アバン先生との旅で、とても役に立ちました。先生もその効果に驚いていましたよ。あれ、どうやって作ってるんですか?」
「ああ、あれは調合のベースに生育地の限られた特別な植物を使っているのさ。だから、たいていの魔物はあの迷い草に耐性がついていなくて、よく効いてくれるのよ。補充したいのなら、いくらでもやるから持って行けよ」
「ポップ、お待たせ。ようやく書けたよ。」
「お待たせ。あら、ポップ。お知り合い?」
俺がライナー隊長とそんな会話を交わしていると、アバン先生への手紙を書き終えたらしいダイ達が声をかけてきた。
「まあ、ライナー隊長! お久しぶりです。その節は、大変お世話になりました」
そして、ライナー隊長の事を覚えていたメルルが、そう言って深々と頭を下げる。
「へっ!? え、あのネックレスを持っているって事は、もしかして嬢ちゃん、メルルちゃんかい?」
ライナー隊長は、大きく育ったメルルを見て、目を見開いた。
「はい、メルルです。お元気そうで良かったです」
「あ、ああ。そちらこそ。いやー、驚いたな。あんなに小さかったメルルちゃんがこんなに大きく綺麗になるとは。俺も年を取るわけだ。あ、婆さんは? ナバラさんは元気にしているかい?」
「はい、元気ですよ。今は一緒に行動していませんが、お婆様は今テランでお世話になっています」
「そうか! それなら良かった。妻が、ナバラの婆さんには随分とお世話になってね。いや、もちろん俺もだが。俺達が感謝していたって、今度婆さんにあったら伝えてくれよ」
メルルは、そのライナー隊長の言葉に、「はい、必ず」と返事を返す。
そうしてひとしきりライナー隊長と旧交を温めた後、皆で船に手紙を載せて川に流した。
「ポップ、詰所にスティーブ達がいる。時間があったら顔を出してやってくれ」
「はい、後で必ず寄らせていただきます」
ライナー隊長は、「また後でゆっくり話そう」と俺に声をかけて、警護の仕事に戻って行った。
さあ、お腹も空いたし、あっちにある出店で何か買って食べるとするかね。食事と聞いて現金にも目を覚ましたパンと一緒に、俺達は良い匂いの漂ってくる方へと足を運んだ。
そして俺は、そこで懐かしい親友達と再会するのだった。
里帰り、長くなりすぎたので分割します。でも、どの人との再会もしっかり書きたかったので仕方ない。話が進まず申し訳ありませんが、お付き合い下さい。